「6話 女神様」
・・・・ん?ここは・・・どこだ・・・?
朦朧とする意識の中、体中がなんとも言えない感覚に襲われながらも徐々に目の前が鮮明になっていく。
先ほどまでの夢とも現実ともつかない感覚ではなく、現実味のある感覚。
目の前には白い風船が二つ・・・枕も柔らかくて心地よい・・・・。
「あ、気が付きましたか」
目の前の風船が可愛らしい声で俺に声をかけてくる・・・・。
声を・・・・?
「風船がしゃべった!!!!!」
俺は反射的に横に転がって風船から離れる。
柔らかい枕から落ちた俺は床に頭を打ち付ける。
「痛!・・・くない。」
真っ白い無機質な床、それでいて柔らかく見た目さえ無視すればカーペットのような不思議な感触。
起き上がると先ほど俺がいた場所には優しい表情でこちらを見るぱっちりおめめの美しいプラチナシルバーの髪をした巨乳美女が座っていた。
め、女神様・・・だ。絶対女神様だ・・・。
「おはようございます、後藤武蔵さん。ここがどこだかわかりますか?あと風船って何のことですか??」
目の前の女神様ゆっくりと立ち上がり、俺に話しかけてくる。
どうやら俺は女神様に膝枕をしてもらっていたらしい。
美女の膝枕と認識した上で膝枕を味わいたかった・・・。
内心落ち込みながら、先ほどとっさに出てしまった風船についての発言は適当にごまかす。
「おはようございます、ええ、ここはおそらく神界ですか?風船は・・・。ちょっと風船に追っかけられた挙句いきなり罵声を浴びせられる夢を見まして・・・。」
「はい、神界です。宇宙神様によってここに来られたのですよ。移動する際に武蔵さんの魂を複製して半神の肉体を与えました。なのでまだ体がなじんでないと思います。半神と言っても神界に訪れるための権限のようなものを得ただけなので、人間の時と違いはあまりありませんので安心してくださいね。悪夢も見られたようですのでもう少しお休みになりますか?」
どうやら俺は半神になったらしい。
目が覚めたときに体が妙に落ち着かないというかムズムズするというか、何とも言えない感覚に陥った原因はそれだったのか。
神からチートを与えられた俺が異世界を無双する!みたいな定番のシチュエーションに憧れはあったが、肝心の宇宙神の頼みについてどうしたらいいのか聞かされていない今は今後について聞くことが最優先事項だった。。
「いえ、大丈夫です。半神の下りは気にはなりますがとりあえず宇宙神様の頼みについて詳しくお聞きしたいのですが。」
少年・・宇宙神から頼み事の内容は聞いたものの、方法について何も聞いていない。
というか星を安定させるって俺は形は違えど異世界転移モノの主人公的立場になったわけか、異世界で死んだらどうなるんだ?
「そうですね、ではご案内いたしますね。・・・あっ」
宇宙神のところに案内するために歩き出した女神様はいきなり立ち止まり、何かに焦りながら振り返って俺の方をみる。
「も、申し遅れましたが私は宇宙神様に使える女神のモニティアと申します。ティアと呼んでください。敬語もいらないですよ、宇宙神様に敬語を使わないで私にだけ使ったら宇宙神様に怒られちゃ・・てしまいますし・・・・!」
焦る姿もかわいい。
これが漫画なら女神・・・ティアさんの頭の上に汗が飛んでいる描写がされるだろう。
にしてもそれまでの落ち着いた態度はどこに行ったのか、その焦り顔から優しく美しい女神というキャラを無理して演じているように見えてきた。
「わかった。ティアさん、って呼べばいいかな。よろしく。じゃあ改めて案内してもらってもいいかな?」
はい!と返事をするとティアさんは歩き出す、しまったーーーーという感情が丸わかりの表情をしながら。
ティアさん普段はおっちょこちょいなんだろうな・・・。
俺は歩きながら改めて神界と呼ばれるこの場所を観察する。
無機質な白を基調とした大理石のようなものでできた床や壁。
しかしその感触は石ではなく女の子の部屋にあるようなふわふわのカーペットを彷彿とさせる。
今歩いてる廊下のような空間は等間隔に窓が付いていて外には宇宙が広がっている。
宇宙って本当に綺麗だな。
窓にガラスのようなものが無いため安全面は・・・と思ったところで思考を止めた。
きっとなんか神的なパワーによって宇宙空間から守られてる上に謎の力で重力とかもあるんだろうな・・・。
これ以上考えても人間には理解できないことだと俺は考えることをやめた。
そのままティアさんについていくと壁一面に映像が映し出され、反対側は斜面になっている開けた空間に出た。
斜面の高い位置に丸いフォルムのテーブルと椅子が1セットずつあってそこには宇宙神が座っていた。
その少し低い位置にもう1セット。
いずれもテーブルと椅子が地面から生えてきたようになっていて、つなぎ目が無い。
しいて言うなら映画館のような部屋だ。
2つのテーブルの上空には半透明のウィンドウがいくつも展開されていて、低い位置にあるテーブルの上には・・。
「え、ポップコーンとコーラ?」
この高度な技術の中に違和感のある、映画館セットが置いてあった。
「あっわあわわっわわわ」
俺が映画館セットを発見した次の瞬間ティアさんがバヒューーーンという効果音が聞こえてくるようなものすごい勢いでテーブルの前に飛んでいきポップコーンとコーラをどこかに消した。
「こっここここれはその、地球の研究でして、地球の研究をしてまして、その」
顔を真っ赤にして両手をこちらに向けてブンブンと振りながらティアさんは必死に言い訳をしているが手遅れだと思う。
「僕の勝ちだね、ティア。」
その時俺の後ろから宇宙神の声がして振り返る。
「まけた~~私の仕事がまたふえる~~~~」
先ほどからキャラを作っているとうすうす感じてはいたが、ティアの顔はぱっちり開かれた目からやる気のない眠そうな目、ニコニコとした表情から力の抜けたやる気のなさそうな顔へと変わっていた。
こっちが本当のティアか、正直無気力系美少女のほうが俺の好みなので猶更膝枕を味わえなかったことが悔しくてしょうがない。
「武蔵くん、ようこそ!体の調子はどうだい?いきなりごめんね、こっちのポンコツなほうが普段のティアだよ。」
「こっちのほうが正直俺好みだよ、勝ちとか負けとか一体何のことなんだ?」
つい好みとか言ってしまったけど女神に対してこの発言は軽率か・・・大丈夫そうだ、なんか頬に手を当てて顔を赤くしている。
「ああそれはね、ティアが君に女神の威厳を保ったままここまで案内することができれば僕が君に星の管理の仕方について説明する。途中でポンコツが出たらティアが説明するだけじゃなくそのほかの君の世話を全て受け持つって約束をティアとしてたんだよ。」
「だって~~、続き気になったんですもん・・・。「ちーつえ」の・・・。」
「ちーつえ」が何のことだかわからないけどティアさんは予想以上のポンコツらしい。
「じゃあさっそくだけど約束通りティア、頼んだよ。僕はほかにも仕事があるからね。」
そう言って宇宙神は上段にある椅子に座って目の前の半透明なウィンドウをいじりだした。
「じゃあ説明しますので、ここ座ってください~」
ティアさんが肩を落としながら下段の椅子に座る。その椅子の横の地面からからにゅっと新しい椅子が現れ、そこに座るよう促される。
俺はその指示にしたがって椅子に腰かけるとティアさんの説明が始まった。