「56話 ダンジョン 」
トルペタ君たちの合体技によって死にかけとなったムカデに近づくと少しだけ顔を上げてこちらを見つめてきた。
この距離でこのでかさの虫を面と向かって見るのは精神的にきついものがあったため、横から回り込んで首の穴の断面に向かってニカに教わった技を振るう。
「飛雷!」
これは私がつけた名前なんだけど、やっぱり和名のほうがかっこいいししっくりくる。
王都に帰ったら和服作ってもらおうかなぁ。どうにかして機能性を上げて。
雷を纏ったマナの塊がムカデに当たったと同時にムカデがビクンビクンと震えて完全に動かなくなった。
虫は頭を落としてもまだ動くとかいうし、肉をたどって隅々まで攻撃ができる雷系の技が相性いいのかも。
「ミウシアさーん!」
「わんわんわんわん!!」
トルペタ君とわたあめが走ってこっちに向かってくる。
ふふ、わんちゃんが二匹いるみたい。
わたあめがぴょーんと私に飛びついてきたので思いっきり撫でてあげた。
「ボクもどわ...とるてたの援護したんだよー!」
はぁぁぁぁああかわいい。ひとしきりぐりぐりした後頭の上へとぽんとのっけた。
「トルペタ君凄かったね、よく思いついたね皆との連携なんて。」
へへへと頭を掻きながら照れ臭そうなトルペタ君。
「実は母さんが前教えてくれたんです。風が火を強くするんだって。....まぁ油の力でもありますけどね。」
「ミウ!一人で走るから心配したです!!」
「ミウシアちゃん平気?怪我はない?」
カナちゃんが怒りながら私の体に傷が無いか確認する。
レオも私の手を取ってぺたぺた触ってくる。
はい、レオはアウト!ボディタッチはやめようね!
グイッと手を押しのけるとレオは軽く笑った。
「元気そうだね、そういえばあの悲鳴を上げていた人は無事かな?」
「あっ、そうだった。」
振り返るとヒューマン族の男性がこちらに近づき頭を下げてきた。
「危ないところを助けていただいてありがとうございました...。私はタレル・ターメリックと申します。皆さんお強いんですね。」
その男性の第一印象は苦労人のお父さんって感じだった。
眼の下には隈が広がり無精ひげにぼさぼさの髪の毛、年は40代前後かな。
絶対香辛料作ってる農家の人だこれ。
「タレルさんはなんであんな所にいたんですか?」
私が質問するとタレルさんの顔が悲しみに代わり私たちの前で膝をついた。
「私の息子を助けてください....。以前までこの先には洞窟なんてなかったんですがある日突然出現したんです。息子はその洞窟の調査に行ったのですが3日たっても帰ってこなくて....。」
泣き出してしまったタレルさんを見て私には断るという選択肢はなかった。
仲間の方を見るとカナちゃんとレオが難しい表情をしている。
「カナっち、多分オレが悩んでる理由わかるよね?ダンジョン...で会ってるかな?」
「「ダンジョン?」」
ゲーム知識しかないからダンジョンと聞くとお宝が眠っていてモンスターが沢山いるイメージしか湧かない。
でも突然現れるのはおかしいよね、ゲームじゃないんだから。
「ダンジョンミミック、通称ダンジョン...。岩場や地面、建物に寄生する魔物ですが、奴らは数が少なく目撃者も数少ないです。どちらかと言うと魔物よりも精霊側だと聞いたことがあるです...。王都の本に書いてあった情報だと寄生した地形と一体化し、地形を削り歪ませ、一国ほどの大きさの空間を作ってしまうらしいのです。ダンジョンミミック自体に戦闘能力はなく、空間内のコアを破壊すれば消滅するです...ですがその空間...体内に魔物を寄生させ力尽きた魔物を自身の養分へと変えるらしいのです。」
ひええ..ダンジョン自体が魔物ってこと?
魔物が自分を魔物の巣にしてるんだ...。
「しかもですね、ダンジョンはコアを破壊しなくてもいきなり姿を消すのです。これがもし寄生先を移したとなると、いろんな種類の魔物が中に潜んでいるということになります。」
「そう、それにダンジョンミミックにとって人は栄養素がとてつもなく高いらしいんだ。マナをたくさん持っているからね。だから体内には人を誘い込むためにいろんな武器、防具、素材、魔法具が宝箱に隠されているんだ。」
知能も相当に高いってことか、詳細はどうあれ表面的に見るとゲームのダンジョンと何も変わらないなぁ。
「とはいえ、ダンジョンは奥に行くほど敵が強くなるので強くなるチャンスでもありますです、息子さんも低階層に居れば生存率は高いと思われるです。救出を優先にした後はこのダンジョンに潜って強くなっておくのもありだと思うです。」
現状、この周辺の敵なら何とか倒せるけどムカデぐらいの敵が何体も現れたら生き残れないと思う。
それなら息子さんを救出した後は王都に戻って準備をしてからダンジョンに潜って修行するのもいいのかも。
「ミウシアさん、それなら早く救出に行きましょう!弱いモンスターとは言え何があるかわからないですし。」
「うん、そうだね。レオもいいかな?わたあめもサポートお願いね!」
「任せてくれ....はぁ、この喋り方つかれた~。」
「わふ!!」
私達はタレルさんと別れてダンジョンに向かうことにした。
タレルさんをこのまま外に放置しておくのも危ないかと思ったんだけど、タレルさんの持つお香があればこの辺りの魔物は近寄ってこないらしい。さっきのムカデは特殊で違うお香も併用すれば遠ざけることもできるのに息子を探すのに夢中でムカデ用のお香と使うのを忘れていたと言っていた。
そんな便利なものがあるなら息子もそれを使って探索すれば...と思ったけどダンジョンの中のモンスターは多種多様すぎて効果が無い敵が多いとのことだった。
そううまくはいかないかぁ。
洞窟型のダンジョンに入ると中は広く、開けた空間が広がっていた。
5メートル以上の高さにある天井からには発光している花か苔かキノコのようなものが生えていて洞窟内全体を淡く光らせる。
ここにモンスターがいなかったら絶好の観光スポットでイン○タ映えしそうなのに、ダンジョンミミックとかいう謎魔物のお腹の中だなんて信じられない。
私達が入ってきた入り口は洞窟内の最上部に位置し、そこから下り坂や曲がりくねった道、階段などの複雑な構造になっていてたくさんの分岐点があった。
まるでゲーム世界の綺麗なダンジョンのようだ。
「すっごい綺麗ですね...ダンジョンじゃなく安全な場所だったら恋人達の逢引場所の定番になりそうですね...。」
「トッ、トトトトトル君、恋人いるです!?」
逢引?あぁ、デートのことかな。
それにしてもカナちゃん動揺しすぎ!いくらトルペタ君でもそこまでわかりやすかったら気が付いちゃうよ?
横にいるレオが何やらにやにやしながら手を出したり引っ込めたりしているのはどうしたんだろう、もしかして茶化したいのに精霊の機嫌を取るためにチャラチャラしたいつもの態度を我慢してる自分との葛藤なのかな?
精霊使いっていうのも大変だなぁ。
「あ、あの上の方にあるのってマナハーブだ。あれ食べるとマナを回復できるんだよー、それに美味しいし。」
頭の上からわたあめの声がした。わたあめはすっかり私の頭の上が気に入ったみたいでずーっと居座っている。
戦闘の時は邪魔だから流石に降りてほしいんだけど....。
恋人なんていないよーと返すトルペタ君にホッとしているカナちゃん、そんな二人を茶化そうとうずうずしているレオ、頭の上でよだれをたらすわたあめ。
初めてのダンジョンなのにこんなに緩くていいのかな。
そんな時、ダンジョンの奥の方から誰かが鼻歌を歌いながらやってきた。
「ん~♪戦わないで~♪こんなに素材が手に入るなんて~♪思ってもみなかったぁぁあ~♪....あれ?」
その人物は男性のようで私達を見つけると駆け寄ってくる。
「誰です?アレ。もしかしてタレルさんの息子さんです?」
「ん?父さんのこと知ってるの?」
どうやらあれが命懸けで息子を助けにやってきたタレルさんの息子さんらしい。
120%の無事を確認出来て嬉しいような拍子抜けしたような...。
タレルさんがダンジョンの外で心配して待っていることを伝えると一目散に外へと駆け出していった。
え~っと、これで依頼達成?拍子抜けもいいところだ。
「.....王都に帰ってまたここに来ない?」
「...ですね。」
「タレルさんの息子さんが無事でよかったです...ね?」
「じゃあ帰ろうか、オレはもう(取り繕うのが)限界かな。」
「じゃあ...帰ろう....。」
私達はカナちゃんお願いして転移石をダンジョン内に登録してもらい、もう一つの転移石で王都へと変えるのであった....。
なんだかなぁ。
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◇SIDE:????
「....っと、ふぅ」
久々に泳いだとはいえちょっと体がなまったか?南東の島まで1日かかるなんてな。
流石に1日何も食べずに泳げば腹は減る、手ごろになんか食べれそうな生き物はいねぇかなぁ~。
「グルルルルル....」
そう考えながら濡れた体をスキルで乾かしたあたしの前に一匹のウォータイガーが現れた。
「ウォータイガーは固くてあんまりうまくねぇんだけど....まぁいいか。」
私は背負っていた斧を構えてウォータイガーに対峙した。
「腹減ったからさっさとおわらせるぞ」
斧から放出しないよう凝縮させたマナを注ぐ。注いだ分だけ斧が赤く染まりやがて斧の周りの空気がゆらゆらと歪みだした。
ウォータイガーは斧を見て一瞬怖気付いたがそれでもあたしへと飛び掛かってくる。
「よっ」
真っ赤になるまで熱を帯びた斧を飛びついてきたウォータイガーに向けて力いっぱい振り下ろす。
振り下ろした斧はさらに熱を上げて青白く輝きながらウォータイガーの体を真っ二つに叩ききった。
「なー、当たればこんなもんなのによぉ。...」
真っ二つになったウォータイガーの断面はプスプスと音を立てて炭化していた。
あたしは腰にさしてある解体用のナイフを取り出して切断面の焦げた部分を切り落とし食べられる部位を切り出した。
まだ熱が冷めていない斧の上にワータイガーの肉を置くとジュウジュウと音を立てて肉の焼けたいい匂いがしてくる。
「もぐもぐ、ん~やっぱ硬ぇなぁ。...後は食いきれないし燃やしておくか。」
斧を握りもう一度マナを通わせる。
そして今度はマナを斧から放出さるようにマナを垂れ流すと斧は炎を纏って燃えだした。
真っ二つになった斧を振りかざすと大きな炎がワータイガーへと向かっていきゴウゴウと音を立てて燃える。
ここが砂浜で良かった、森の中だと燃えちまうしな。
後処理を終えたあたしは森へと駆け出した。
森の中を進んでいくと少し開けた場所にでた、でもそこの地面は直線状に不自然に焼け焦げていてあたしの目を奪う。
「なんだこりゃ。あたしの炎よりは弱そうだがこんな広範囲まで焦げるってのはどういうことだ?」
誰かが魔物と戦った後だとしたらまだ近くにいるかもしれねぇ、気になる。
他に痕跡がないかと周囲を探索すると洞窟があった。
ゴブリンかなんかの根城かと思いきやぁ中に入ってあたしは絶句した。
「こりゃダンジョンじゃねぇか。まさかこの目で実物が見れるなんて....。」
天井は高く、淡く光る洞窟内がとても幻想的で美しい。
流石のあたしでもこの光景には乙女心がくすぶられる。
こんなところで恋人に婚約を迫られた日には世の女性はコロッとOKしちまうんだろうなぁ。
「...ま、あたしにゃあ縁がない話か...。」
何はともあれ、さっきの戦闘跡をつけた冒険者がこの中にいるかもしれないってんなら奥に進んでもいいかもしれねぇ。
ダンジョンってのは金稼ぎにも修行にも適した場所らしい。
こんな幸運なことはもう二度とないかもしれない。
「っしゃあ!いけるところまで行ってみるか!」
斧を構えてあたしは洞窟の奥へと向かって走り出した。




