「53話 よわよわドッグ 」
船の生活も24日目になったころ、一向に目的地に着かない船で知らない声が聞こえた私はその声の方へと忍び歩きで近寄って行った。
「おかしい、なんであいつらはまだ生きてるんだ....普通なら食料が尽きてとっくに死んでいるはずなのに....。」
樽の影には二本足で立って顎に手を当てているもこもことしたでかい毛玉....いや、白いポメラニアンがいた。
ええええええええかわいいいいいいいいいいいいい。
「ボクだってつらいのに、全然効果ないじゃないかっ!」
「キミ、どこから来たの?」
あ、つい話しかけちゃった。
でも無理だよねぇこんなかわいいわんちゃん目の前にしてほおっておけないよね?
「ヒッ」
こっちを見て固まるわんちゃん。
怖がってるのかな?可哀そうに。
「ほーら、怖くないよ~。よしよーし」
抱き上げてなでなですると尻尾がパタパタと揺れる。
ヤバいすっごい可愛い。
何でここにとかそういうのは置いといて皆に見せに行こう。
「きゅ~ん」
「ね~~みんな見て!!!船に子犬がいた!!!しかもしゃべるの!めっちゃ可愛くない!?」
わんちゃんの脇に手を入れてぶらーんとさせながら皆に見せる。
流石に皆も何事かと私の方を見てくれた。
「何かの赤ちゃんですかねー、可愛いですね~!」
トルペタ君がはしゃぐ一方、レオとカナちゃんは至近距離でわんちゃんを見つめて唸る。
「ミウシアちゃん、それ魔物っすわ。」
「しかも風系統のマナの操作の痕跡を感じるです。こいつが船を止めていたのかもです。」
「.....くぅん。」
武器を構える二人を全力で止めた。
「いやいやいや待って!こんなに可愛いし悪いことするような顔してないよ!?」
「おそらくその魔物はプラウドベビーウルフ、そう見えても成体です。その種族は強力な風魔法を得意としていて森に住む魔物です。おとなしい魔物ではありますが人間を襲うこともある危険な魔物ですよ。疑うのなら鑑定してみるです。」
危険な魔物?このモフモフわんこが?
うっそだー!
「<鑑定>アナライズ!」
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名前:設定されていません
種族:プラウドベビーウルフ
職業:一族の王
HP:140/300
MP:60/6500
力:E-
防御:E-
魔力:B
早さ:C-
運:-
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「うわつよっ!!!!!」
魔力全特化のステータスにビックリしてわんちゃんを落としてしまった。
というか一族の長?もしかしてデストラから天啓を受けたキングの一匹ってこと?
というかマナほぼ無くない?
私にバレて腹をくくったのかその小さい体と可愛いお顔で私たちに向き直る。
「バレちゃーしょうがない!ボクはプラウドベビーウルフ族の王、デストラ様から天啓を受けてミウシアという娘を捕まえにきたんだ!!くらえ<風の刃>ウィンドエッジ!!」
「させません!<水の壁>ウォーターウォール!」
カナちゃんがとっさに私達とわんちゃんを水の壁で隔離してくれた...けど何も攻撃が来なかった。
「....あれ?<風の刃>ウィンドエッジ!!<風の刃>ウィンドエッジ!!....ふあああああ....」
ぽてん、と倒れこんだわんちゃん。
案の定マナ切れで気絶してしまったみたいだった。
ほどなくして水の壁が消える。
私達はただあっけにとられて立ち尽くすことしかできなかった。
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◇SIDE:プラウドベビーウルフキング
「王様!頑張ってつかまえてきてねーー!!」
「がんばれええええ!」
種族の大ワンたちがボクを見送ってくれた。
子ワンたちも大ワンと一緒になって応援してくれた。
ある日デストラ様から天啓を受けてミウシアというウサヒトを生贄にしろと言われた。
ボクはそんな怖いことしたくないけど神様に言われたからやるしかなかった。
森を出たボクはドワヒトとウサヒトとニャンヒト、ヒトが乗ったウマが引く何かに積まれた荷物として忍び込んだ。
ボクたちはヒトと違って生き物を食べたりしない。食べることもできるけど基本的にはマナを食べて生きている。
じっと荷物として耐えているとすぐ近くにいるウサヒトがボクの探しているウサヒトだとわかった。
それからボクでも倒せそうな機会をうかがっていたんだけどヒトたちのすむ囲いの中に逃げられたらそれ以上追うことができなくなった。
ウサヒトの匂いを覚えてその囲いをぐるぐるずっと回っていたら、ある日ウサヒトの匂いが濃くなって追いかけた。
すぐに見つけて隠れながら追いかけたら大きな水たまりに浮かんだ木の何かに乗ってどこかに出発するところだった。
ボク泳ぐの苦手だったけどがんばった。その水はしょっぱくて目に入ると痛かったけど頑張って追いついて木の何かに乗り込んだ。
でも急に気持ち悪くなって箱?の中で休んでたら話し声が聞こえてきたんだ。
どうやらこの木の何かは船というもので風の力を利用して進むらしい。
風と言ったらボクだ!この船をここで止めてお腹がすいたところを倒すんだ!
風魔法で自然に吹く風を止めて船を動かないようにした。
でもこのヒトたちはずっと何かを食べてる。ズルい。
そんなこと言ってたらバレた。
ウサヒトに抱き上げられて触られるとなんかすごい気持ちよかった。
でもコイツは生贄なんだたおさなきゃ。
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「んん~~わふっ!?」
「あ、気が付いた?」
気絶したわんちゃんが目を覚ました。
わんちゃんが気絶した後、私はカナちゃんとレオを説得してもう襲ってこないようならば私に任せると約束してくれた。
頑張って説得するしかない。
今この部屋には私しかいない、となればデストラに直接話してもらえばいいだけだ。
「あれ...ボク...」
まだうとうとしてるのか、おとなしく私の膝の上で丸くなっている。
頭をなでてあげると気持ちよさそうな表情で尻尾を振ってきた。
「あ、ウサヒト...そっか、ボクやられちゃったんだ...。」
耳をシュン...と下げて落ち込み始めた。
「キミ、もう襲ってこない?それなら話があるんだけど、いいかな?」
私はカナちゃんやレオに話していないことをわんちゃんに話した。
違う星からきたうんぬんは話さず、デストラたちを作り出したことを伝えたけどやっぱり信じてもらえなかった。
「でも、ウサヒトからは神様みたいな気配は感じないよ?」
「ん~、見てもらった方がいいかな、<映像通信>ライブチャット。」
デストラにビデオ通話をかけた。
前回話した時は滅茶苦茶落ち込んでたけどさすがにもう立ち直ってるよね?
私の前に浮かび上がった半透明のウィンドウを不思議そうにわんちゃんが見つめる。
.....つながった。
目の前のウィンドウにはところどころ焦げたデストラが移った。
『ミ、ミウシア教官!!すみませんでした、自身を罰そうとしても罰すことができない私をお許しください!!!』
ウィンドウ越しに土下座をするデストラ。
えぇ...これわんちゃんに見せてよかったの....?膝の上のわんちゃんはプルプル震えてる。
「デストラ、もういいから。これ以上罪の意識にとらわれないで。デストラが傷づいてるところ見たくないよ。」
デストラがしてしまったことで私が魔物に狙われるようになったことはもうしょうがない、過ぎたことだ。
これ以上デストラが自分を責め続けるのは見たくない。
それを伝えると滝のような涙を流しながらウィンドウ一杯にデストラが近寄ってきた。
『なんと....なんと慈悲深きお言葉!!このデストラ、ミウシア教官の旅が無事に済むよう教官の国の安全祈願の千羽鶴...いや、億羽鶴を作って見せましょう!!!....そういえばなぜ膝の上にプラウドベビーウルフキングを?』
いや、千羽鶴も億羽鶴もいらないよ...まぁそれで気が紛れるならいいけど。
「でっ、ででですとらさま!ボクに下さった天啓、ウサヒト...ミウシアさんを生贄に捧げろっていうのは本当に間違いだったんですか!?」
私の膝の上で立ち上がって話すわんちゃんは相変わらずふわもこしていてとてもかわいい。
真面目な話をしているところをお構いなしにわんちゃんの後ろ頭に顔をうずめてすーはーと息をしてふわもこを堪能する。
わんちゃんは自分の神デストラがあんなに崇めていた私に逆らうこと無くされるがまま、デストラに向き合っていた。
『うむ。本当はミウシア教官を守って欲しかったのだ。プラウドベビーウルフよ、これからも様々な種族の魔物の長がミウシア教官を襲おうとするだろう。どうか守ってくれはしないか?』
神らしくなのかわからないけど自分より明らかに格下のものには悪びれず、さらに命を下していた。
プラウドベビーウルフは神から直々に依頼を受けて感極まったのかふわもこな腕で目をぐしぐしとこすっている。
「はい!この命に代えても!!」
『助かる。あとミウシア教官は堅苦しいのが嫌いだ。そう言った自分より上位の存在と話すような態度ではなく、対等な存在として気楽に話すことを望んでいるだろう。では、私は大事な用事があるので失礼する。..ミウシア教官!!道中お気をつけてください!!!旅の安全をお祈りしています!!!』
手を振って通話を終了させた。
にしても部下を怒鳴りつけた後に社長に話しかけられてペコペコしてた部長を思い出すほどの変わり身の早さだなあ。
わんちゃんに納得してもらえたため、私が話したもろもろの話は仲間にも絶対秘密にしてもらうように伝えた。
プラウドベビーウルフはデストラに言われた通り砕けた口調で話してくれたのでとてもうれしかった、あぁ本当に可愛いなぁ。
船室を出てわんちゃんが仲間になったことをみんなに伝える。
「本当に大丈夫なんです?ちゃんとしつけするですよ?最後まで捨てないで育てられるです?」
お母さんか!
「ミウシアちゃんが平気って言うならオレは信じるよ~。」
「ミウシアさん、その子のなまえは決めたんですか?」
名前!名前か~、鑑定した時も名前が設定されていませんってなってたし必要だよね。
白くてふわもこ...うん。わたあめでいこう。可愛いし。
「決めた!今日から君の名前はわたあめ!」
「わふ!!かっこいい!敵のはらわたを編み込んでやるぞ~ってことだよね!?」
何その物騒な理由...。さすが魔物的思想...。
「ミウ、割と物騒な名前つけるですね....。」
「そういう意味なの~?ミウシアちゃんはどういう意味でつけたの~?」
皆もそっち方向で勘違いしてるし!わたあめはこの世界にないのか、子供に人気になりそうだけどお砂糖とか高価だったりするのかな。
「えっと、故郷の白いふわふわとした雲のようなお砂糖の甘いお菓子の名前なんだけど....。」
「「「あぁ....。」」」
確かにといった...視線でわたあめを見つめる皆。
「なんかそれだとかっこよくないよーーーーーーーーーーーーーー!うわーーーおーーーーーーーーん!!!」
わたあめの遠吠えはとてもかっこいいからかけ離れた可愛い高い遠吠えだった。




