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「2話 武蔵の日常」

本日初投稿なので数話分一気に上げます。

「あ~~仕事つかれた。花の金曜日だっていうのになーんでこんな時間に仕事してるんだろうなぁ・・・。」

時計を見ると時刻は午後10時、けだるい顔をしながら俺は自分の机の上の計画書を眺める。


「これ、何とかならんかなぁ・・・。」


俺の名前は後藤(ゴトウ) 武蔵(ムサシ)26歳、独身。

独身だが女性経験は学生時代にそこそこあった。が、就職をしてからはろくに出会いもなく気持ちは童貞のころに戻っている。

出会いが全くないわけじゃない。この会社はオッサンばかりだが、女性もいる。

とはいっても若い女の子は今年入社した新入社員、今井(イマイ) (ユイ)ちゃんくらいだ。

ユイちゃんは保護欲のかられる低身長+おっとり系の女性だが、恋愛対象ではない。

俺の人助け欲求を満たしてくれる貴重な女神様なのだ。


俺は人を助けるのが好きだ。そのため人一倍のお人よしとよく言われるがそうでもない。

人を助けることは自分の快楽のためにやってることだ。


俺は小さなときにばあちゃんから「いいかい、武蔵。困ってる人がいたら後先考えず全力で助けなさい。助けたときに自分に向けられる感謝がとっても癖になるんだよ...誰かから必要とされてる満足感、自分はいいことをしたという達成感、自己承認欲求を満たし人からも好かれる....たまんないねぇ....。」と言われた。


最初はとても難しいことを言ってると思ったんだが、試しに道に迷ってる人を助けた時に瞬時に悟った。

人に感謝される気持ちよさ、自分に自信がついていく感覚、その結果自分の用事が潰れてしまってもその分の達成感がある。


それから俺はとにかく人助けを優先した。優先しまくった結果付き合った女の子にはつまらない人と言われ、後輩には嘗められた。

そして今現在も欲求を満たした結果、こんな時間まで残業をしている。


いつもは家に帰って趣味のゲームをしているような時間だが俺は月曜までにこの計画書を完成させ、会議に間に合わなせなければならない。


この仕事は唯ちゃんの仕事だったが、新入社員に任せる仕事量を超えている。


会議にも数回しか出席したことがなく慣れていない唯ちゃんが、月曜の会議までに5割も終わってない会議資料を作成しなくてはならない。

俺なら会議にも慣れているため残業で何とかなるがそれを新人に、しかも定時前ギリギリに普通任せること自体おかしいのだ。


しかし唯ちゃんは「頑張ります!!」とグループリーダーに伝えた後、それはもう頑張っていた。

いろんな人に質問しにいくも、今日は花の金曜日、「何、質問?月曜でいい?」と断られ続けた。

結果、唯ちゃん自身の力で何とかしなければいけない状態になってしまったのだ。


そんな唯ちゃんを見ていられなくなり、俺は話しかけた。

「唯ちゃん、それ俺がやっとくからもう上がっていいよ。ちょうど俺のグループと同じ製品の会議だし。」


「で、でも後藤さんに悪いです。これは私が受けた仕事なので私がやらなきゃいけないんです。」

唯ちゃんは驚きながら、何とも責任感のある答えを返してきた。


結局、唯ちゃんに「唯ちゃんの机にあるお菓子いっこくれたら頑張れるな~」と冗談を加えつつ報酬をもらい納得してもらった。

「今度ちゃんとしたお返しします!ありがとうございます!お疲れ様です!」と俺に感謝を伝えながら帰っていった。


そして仕事を受け持った俺は今こうして会議資料を何とか形にしているのであった。

「・・・・・っと、あらかた完成したし後は週明けにグループリーダーに確認してもらうことにするか~。タバコすって帰りますかねぇ」

俺は喫煙所で一服をした後、会社の締め作業を行い会社を出た。


家の近くのコンビニでカップ麺とビール、煙草とつまみを買い帰宅した俺は、カップラーメンにお湯を入れPC前の椅子に腰をかけた。

「今日は金曜日だから皆のIN率高そうだな~」


帰ってもご飯を作って待ってくれているかわいい奥さん、彼女がいるわけでもないが、俺の帰りを待ってくれている人はいる。

VRMMOオンラインゲーム「Race Of Ancient Online」のギルドメンバーだ。


(株)ローアから販売されているこのゲームは、タイトルの「古(Ancient)の(Of)種族(Race)」という意味の通り、種族が豊富なことと謎の最新技術によりものすごくリアルなVR体験ができることが売りだ。


ゲームの種類としてはアクションRPGに分類されるがこれといった目的はなく、より強い敵を求めて戦うもよし、家を買ってまったり農業や生産職を行うもよし。という実に自由度が高く、第2の人生を体験するといっても過言ではない世界観である。


そして驚くべきはそのリアルさだ。ただリアルなだけではなく、風が揺らす木の葉の揺らぎや歩くときに舞う地面砂の動きが本物同然の表現をしている。

この技術を実現しているのはローア社の天才プログラマー集団がこのゲームのために、製作期間10数年をかけて独自で作った物理エンジンを搭載したVRヘッドセットで、現在その技術は発表していないらしい。

リアルなところは映像だけではなく、発言をするときはヘッドセットに内蔵されているマイクから音声を取得し、そのキャラクターの声になってゲーム内で声がでる。ログアウトはハウス、宿といった落ち着ける空間でのみ可能。


NPCは本物の人間と何ら変わりない行動や受け答えをする。時間は反転していて、夜にログインするとゲーム世界での昼、昼にログインするとゲーム世界での夜となっている。

ゲーム内でLP(ライフポイント)が0になると自分のキャラクターは消滅し、もう一度キャラクターを作り直すことになる。

が、能力を全てそのまま引き継ぐことができ、新しいキャラクターは消滅したキャラクターの子供として扱われる。


また、種族が豊富なため、キャラクターを作成するのに丸一週間時間を費やす人もいるそうだ。

このゲームでは種族ごとの能力差はさほどないため、プレイヤーは見た目やしぐさで選ぶことが多い。

選べる種族は

体が大きくガタイがいい、男女ともに凛々しい見た目をしたジャイアント。

大人になっても身長も見た目も人間の子供サイズで、手先の器用なドワーフ。

頭の上に猫耳が付いた活発そうな見た目のケットシー。

ケットシーの亜種で猫ではなくウサギ耳のついた色気がありすらっと背の高いモデル体型のバーニア。

特徴はほぼ現実世界の人間と同じヒューマンの計5種族がいる。


この時点ではほかのゲームのと変わりないが、このゲームの目玉システム「両親選択」がある。

「両親選択」とはその名の通り、自分の操作するキャラクターを作成する際に選ぶ両親の種族によって子供(自分のキャラクター)の見た目が変わってくる。

子供が男性の場合は母親の、子供が女性の場合は父親よりの見た目になる。

それにより体の大きさや身体的特徴が決まり、両親の種族の特徴の顔のパーツが選べるようになるというものだ。


例えば母親はジャイアント、父親がドワーフの男性キャラを作ろうとするとガタイがいいが顔のパーツは可愛い人間程度の身長のキャラクターが出来上がる。

そのため極端に言えば5種族×5種族×性別で50種類の種族から選択ができることになる。


ストーリー上の設定では遥か昔に起きた大きな争いを乗り越えた人類は、種族間の絆がより深くなり神々の祝福によって人型の異種族とも子を成せるようになった、というものらしい。


キャラクターの職業は大きく分けて近接職、遠距離職、支援職、魔法職の四つのグループと生産職のクラフターがある。

30以上の職業があるが、全て上記のいずれかのグループに属される。

それぞれの職業で覚えるスキルはその職業でしか使えないため、レベルがMAXの近接職のモンクと全ての職業をレベルMAXにしたモンクの強さに変わりはない。

職業は種類は多いが、最初にどの職業を選んでも後で他の職業に変更でき、一度その職業になればいつでも好きなタイミングで変更可能なのでこのRoAのプレイヤーでサブキャラを作成する人は少ない。


俺もキャラ作成時には丸1日時間をかけた。

そしてできたキャラクターは思ったよりもシンプルになった。

両親ともにバーニア、身長は高めで肌は褐色、胸は設定できる最低値。

髪はチョコレート色でピンク色のメッシュが入ったもふもふなボブ。頭の上には髪の毛と同じ色の長いたれ耳がある。顔はたれ目で下がり眉のおっとりとした見た目で、職業は素早さと手数で勝負する短剣士を選んだ。

ネカマプレイをしようと思っているわけではないが、どうせ動かすなら自分の好みで愛着がわくキャラクターを動かしたい。

さらに言うとそのキャラクターを動かしている時の会話で「俺」という一人称や「~だな、だろ」のような男性的な語尾は使いたくない。


この考え方はネカマなのか・・・?俺の中のネカマは女のフリをして男性プレイヤーに貢がせるようなプレイをするものなんだが・・・。まぁ自分のキャラが可愛ければいいか。中身オッサンだけど。


カップラーメンを食べ終えた俺はおつまみとビールもたいらげ、煙草で一服を終えた俺はフルフェイスのヘルメットを半分に切ったような見た目のVRヘッドセットを被りRoAにログインした。




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