「17話 遭遇 」
シーア達とのビデオチャットを逃げるように終えた私はシーア達に伝えた「今日のノルマ」というとっさについた嘘を現実にするため、重い腰を上げて立ち上がる。
この暖かく心地の良い石造りの部屋から出て、凍える寒さの中で食料を探しに行かなければならない。
当初の目的であるサスティニアの各地を巡るには食料を蓄える必要があるので本来であれば最優先事項だった。
しかし私は家を作ってからは達成感を感じ落ち着いてしまった。つまり、もう心がニートになっている。
「は~た~ら~き~た~く~な~い~・・・よっと!」
情けない声を出しながら木の扉を開けたとたん凍えるような冬の風が一気に吹き込んでくる。
「さっぶ!!」
身を縮め、手をこすりながら本拠地(木の家)に向かい、出かける準備を始める。
サスティニアに来てから私の服装は初期と変わっていない。なぜならここには葉っぱ、木、キノコ、虫しか素材が無いからだ。
せっかくこんな見た目になったんだからお洒落をしてみたい気持ちはある。
鏡が無いため自分の姿が見れなかったので光の屈折率を変える<光反射>ミラーを水に使用して自分の姿を確認したところ、RoAの自分のキャラクターであるミウシアと全く一緒だった。
ピンクメッシュの暗い茶髪、ふわもふしたボブヘアー、ちょっとたれ目でおっとり系の顔、エキゾチックな印象の褐色肌。
いくら鏡を見ても自分だと認識できなかったため、毎日鏡で自分を見ながら「私はミウシア、私はミウシア、私はミウシア」と唱えている。はたから見たらちょっと不気味だけどね。
そんなこんなで出かける準備(とはいってもご飯を多めに食べるだけ)も終わり冷たい風が吹く外にでる。
<弱火>プチファイアを小さく唱え、自分の前に固定する。
「雪がふってなくてよかった、もしふってたらこれじゃ足りなかったよね。」
ふよふよと目の前に浮かぶプチファイアを見ながら安堵する。
私がこれから向かうのは家の南側、私が調べた中では唯一人が歩いた痕跡があるポイントだった。
けものみちにしてはちゃんとしているけど人が作った道では無いような道。
地面が足で踏み鳴らされていて、草が生えてないこの道の先には村があるのかな?
以前この道を続く限りまっすぐ歩いたときは1時間くらい歩いても何もなかった。自堕落な生活を送っていた私には1時間歩くので精神的に限界だった。
「今日こそはもっと歩いて頑張ろう、人が通るなら何か食料になるものがある!!はず!」
意気揚々と歩き出した私は手あたり次第<解析>アナライズを使って歩いていく。
前回は人の痕跡に浮かれてただただ歩いていたため、周辺に生えているものを確認していなかった。
「ほーらあった。」
道の片隅に落ちていた明らかに胡桃のような見た目をしている大きな丸い種に向けて手をかざす。
「<解析>アナライズ!」
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名称:クルシュ
品質:E
説明:固い殻に覆われた種子は油分を多く含む。加工して油を取り出すことができる。
そのまま食べても美味であり、カロリーを多く含むため新陳代謝が高い小柄なドワーフ族が好んで食べる。
補足:木から落ちて長時間経過しているため劣化している。
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「名前は違うけどやっぱり胡桃だ!!」
今まで芋虫とキノコと山菜しか食べてこなかった私には目の前の胡桃が回らないお寿司の大トロよりも輝いて見えた。
こうなったら乱獲するしかない、と息を荒げてその周辺の胡桃をかたっぱしからアイテムボックスに収納していく。
たまにつまみ食いをしながら。
ミウシアになってから力が上がったことによってこんなプロレスラーみたいなこともできるようになった。
胡桃をひとつ手に取って・・・。
「ほっ!」
バキィ!
手に力を込めて胡桃を握りしめるといとも簡単に割れて中から胡桃の種子が出てくる。
種子の部分だけ手に取りおもむろに口に投げた。
「あ~懐かしい胡桃の味・・・。味が無いけど・・・。あ、あるじゃん甘味。」
空中に小さなアイテムボックス展開し、メープルウォーターを煮詰めて作ったメープルシロップを少しだけ出す。
手に持った胡桃にかけていくが、受け皿も何もないため指にもかかる。
「誰も見てないからきにしなーい」
手についたメープルシロップごと胡桃を食べる
少しほろ苦い胡桃の独特な味とちょっと作る過程で少し焦がしてしまったほろ苦く、とても甘いメープルシロップが口の中で絡み合う。
端的に言えば
「おいしい!!これもうデザートだよね、芋虫のメープルシロップ和えなんかと比べ物にならないよ~」
久々に食べるまともなメープルシロップを活用した料理に思わず頬が緩む。
しばらく余韻に浸っているとふいに後ろから視線を感じた。
「えっ。」
「.....。」
振り向くとそこには栗色の髪をした130センチくらいの小さい男の子が少し赤らめた顔でこっちをぼーっと見ながら立っていた。
見た感じ服装は木こりスタイルを厚着にした感じで、小さな斧を持っている。くせっけで髪の毛がくりくりしているのも可愛い。
ドワーフ族っぽい見た目だけどドワーフ基準にしても少し小さいため子供かな?
どちらにしろ人がいるということは近くに町があるはずだ。
「キミ、そんなところでどうしたの?迷子?一人?」
ちょっとお姉さんぶった口調で男の子に問いかけてみる。
「えっ、あ、あのおおおおおおれは・・・。」
話しかけられたことに驚いたのか慌てながら後ずさりをする。
しかし少年は木の根に引っかかりそのまま後ろに倒れかける。
「危ない!!!」
『称号:善意の福兎の効果により全能力+50%アップの効果が付与されます。』
私は急いでその子の元へ駆け出す。しかし距離が5m程度離れているため届かないかもしれない・・・と思っていると体から力があふれ出てものすごいスピードで少年の元へ駆け寄る。
少年までたどり着いた私はそのまま少年を抱え込み自分の体を下にして倒れこむ。
「怪我はない?」
腕の中にいる少年に安否を確認するが返事は無い。
どこかにぶつけたのかな?と思い「ちょっとごめんね」と言いつつ頭をなでるように触る。
「あ、あの平気ですのでっ!!ほんとに!!!」
私の手を振り払い立ち上がった少年の顔は真っ赤だった。
何を照れているんだろうと思うが自分の体を見て思い出す。いま、私は私であり武蔵ではない。
つまりナイスバディなゆるふわ美女なのだ。そんな美女に抱きつかれたらそりゃ照れるよね・・・。私でも照れる・・・。
とりあえずこの少年に話を聞いて村に連れて行ってもらおうと考えた。
もし断られたら最悪ちょっと誘惑してみよう。しょうがのないことだよね、世界のためだから!