「161話 別れと願い 」
「......シア!!」「ミ...!」「...んな...イヤ...」
「...めだ...治..ない!!」「...無..じゃ...。」
微かに声が聞こえる、皆の声が。
ここはどこだろう?私は死んだの?ディレヴォイズは?
...身体の感覚が無い。手も瞼も動かない。
でも徐々にみんなの声だけは聞こえるようになってきた。
「レオ!!!早く!!早く回復を!!!」
「やってる!!!でも今のオレじゃあこれが限界なんだよ!!!」
「ミウシアさん...!!そんな....!!」
「おい、ミウシア!!目を開けろ!!お前はそんな簡単に死にゃしない奴のはずだろ!!」
「ミウちゃん....ミウちゃん......。」
「...人とは無力じゃな....。」
皆が泣いている。
そうか、私....死ぬのか。
この世界で死んだらどうなるんだろう?
天界に戻れる?いや、ティアが死んだら終わりだって言ってたっけ。
ごめんね皆、ごめんね眷属達。
私はこの星を、守れたのかな?
この星に、神力を補給できたのかな....?
ごめん....皆.....。
『武蔵...いや、ミウシアちゃん、お疲れ様。』
ふとどこかで聞いた声が聞こえる。
これは....宇宙神?
「....今の声は...?」
カナちゃんの声がする。
どうやら宇宙神の声が皆にも聞こえたようだ。
『あ~、その状態じゃあ無理か、ちょっと待ってね。』
「!?!?ミウちゃん!?!?」
「ミウシア!!!!」「ミウ!!!」「ミウシアさん!!!!!!」「ミウシアちゃん!!!」「なんじゃ!?!?」
身体の感覚がだんだんと元に戻り、目が開く。
ここは...空中?
皆が下にいて、横には...綺麗な少年が....宇宙神!?
『えっ!?』
『やあ、久しぶりだね。元気?じゃないか。あははは』
宇宙神が無邪気な子供のように笑う。
したを見ると、皆がポカーンとした顔でこちらを見つめている。
よく見ると普段落ち着いているニカは涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
そんなに悲しんでくれてたんだ。
『君たちも、初めまして。僕は宇宙神。...といってもわからないよね、君たちを創った神を創ったミウシアちゃんを創った存在だよ。』
『そんな自己紹介ある....?』
「え...あ...あ...。」
「嘘...ヤバ....。」
「創....った?ミウシアを....?」
「ミウ...?」
「ハァ?」
「何じゃ、皆には伝えておらんかったのか。」
皆ドン引きしてるけど....。
というかあっさり私の正体明かされた!?
『あ、あ~。.....皆、黙っててごめん。』
今まで一緒に旅してきたのがまさか神を作った存在で、今目の前にいるのが更に私を創った存在...だなんて受け入れられる訳ないよね。
「....ミウちゃん...死んでしまったんですか...?」
ニカが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私に質問してくる。
『....私死んだの?』
ニカの疑問をそのまま宇宙神へと質問する。
宇宙神はうーん、と頭を捻った。
『この世界での君は死んだ...のかな?でも君の存在は消えていない。....君の身体が欠損したことで、その神力が大地から吸収されて、この星に十分な神力が補充された。つまり君に頼んでいた条件が満たされたんだよね。だから君を迎えに来たんだよ。もしそれでも神力が足りなかったら危なかったかな~。あはははは』
ってことは....ギリギリセーフ?
こんな場面でよく笑ってられるなぁ。
「よかった...よかった....。」
ニカが手で顔を覆い、再び泣き始めた。
「....あの、ミウ。ミウは神様の神....創造神....なんですか?」
「神の遣いとかだと思ってたけど...ミウシアちゃんヤバくね?」
カナちゃんが少し怯えた顔で私に質問をする。
レオは相変わらずチャラい口調だけど、その顔は少し引きつっていた。
やっぱり、正体がばれたらそうだよね、引くよね。
『...そうだよ。自然を司る神ルニア、平和を司る神ヒュム、力を司る神ジア、技を司る神ウォルフ、娯楽を司る神シーア、そして争いを司る神デストラは私が創ったんだ。...と言っても、私自身は普通の人間と変わらないんだけどね。神としては所詮、借り物の力だよ。あはは....。』
私がそう告げると、カナちゃん、トルペタ君、レオの三人は私を見て顔をひきつらせた。
わかっていた事とはいえ、いざこんな顔をされると辛いな。
『もしかして、君皆には内緒にしてた?』
『いや、言えるわけないでしょ!!』
どこかで言わなきゃいけないとは思ってたけど...自分の口で伝えられなかったのがちょっと辛いなぁ。
「ん~、わかんねぇんだけどよぉ。」
そんな時にフレアが口を挟んだ。
「何か変わるのか?ミウシアが神の神?だとして。アタシ達と旅してきたのが嘘だったってわけじゃねぇんだろ?それにまだ生きてんだろ?神の世界だかなんだかしらねぇけど、他の場所で生きていられんならよかったじゃねぇか!」
『フレア...。』
フレアのその発言に、思わずうるっと来た。
仲間がよくわからない存在だったとしても、そういうふうに考えてくれることが私は凄い嬉しかった。
「そうですよ!!!!!!!!!!」
ニカが地面を向いたまま、大きな声を上げた。
「トルペタさんも、アルカナさんも、レオさんもなんですか!?ミウちゃんが私達とは違う存在だったから何だって言うんですか!!ミウちゃんはいつも私達のことを助けてくれた!笑いあってくれた!!」
「ルクニカ...。」
「ルクニカさん...。」
「ニカニカ....。」
ニカのまっすぐな気持ちがとてもうれしい。
カナちゃん達も、ニカとフレアの発言を聞いて申し訳なさそうな顔でこちらをちらりと見てくる。
ニカも、多分私の正体のことをうすうす気が付いていたんだろうなぁ。
というか私少し伝えちゃってたし。
「デートもたくさんした!!!」
『えっ』
この状況で出てこなさそうな単語が聞こえる。
「デートの時は私が腕を組まないと寂しそうな顔をするから少し意地悪して腕を組まないでいたらもっと寂しそうな顔になるのが凄い可愛かった!!」
『ちょっと!!ストップストップ!!!』
『あははははは!』
「「「えぇ....。」」」
宇宙神は爆笑し、三人は先ほどとは違う顔の引きつり方をしている。
「なのに夜は強気で攻めてくるくせに、耳を触ると可愛い声をあげる所が堪らなかった!!」
『ちょっと誰かニカを止めて!!!!』
「ルクニカ、落ち着け。仲間のそういう話聞くのはちょっと気まずいんだよ。」
「もがもがもが」
ニカに近付いたフレアが、左手で口を塞ぐ。
ニカはまだ話し足りないのか、口をふさがれても話し続けている。
『あはは、君は面白い仲間を持ったね~。』
『公開処刑でしょこんなの....。』
顔を覆って宇宙神の発言を右から左に受け流す。
「....確かに、ミウシアさんはミウシアさんですよね。いつも俺達を引っ張って行ってくれた大事な仲間です。」
『トルペタ君....。』
そんな私の恥ずかしい暴露話を聞いて、トルペタ君が笑顔でこちらに笑いかけてくれた。
「ごめんミウちゃん。ちょっと想像の遥か上の存在でビビった。....ミウちゃんって耳弱かったんだね。」
『っさい!!!』
男子高校生のノリでよく猥談をしていたレオに言われると背筋がムズムズするからやめて!
「ミウがそんな存在なら、もっと魔法について聞いとけばよかったです...。」
『....カナちゃんはいつもそれだね。』
ここにきてそんなこと言うとは...まさに魔法オタクだなぁ。
「まぁ最初の反応が普通じゃがの~。聖獣の儂でも最初聞いたときは驚いたもんじゃ。」
『オウカには言ってたもんね....あの時は気にしないでくれてありがとう。』
オウカにはオウカ国を去るときにすでに伝えている。
長生きしてるだけあって受け入れてくれて嬉しかったよ。
『あ、あ~それで君にはアレとは別に報酬を上げようかな~って思うんだけど、何がいい?』
アレ....アレ?
アレって、地球に帰るって話か。
流石に地球の話はぼかしてくれるってわけね。
うーん....報酬、報酬かぁ。
この世界に平和をっていう抽象的なものは駄目だろうし、争いがあるからこそ世界は回っていくもんだし。
魔物の中にもいい魔物はいるし、貴重な食糧でもあるし~。
うーん。
....そういえばこの世界の元ネタにしたMMORPGの「Race Of Ancient Online」ではどうだったかなぁ?
たしか...人類に他種族と子を成せるように神が祝福したんだったっけ。
この世界の人間の人口はまだまだ少ないし、それもありだなぁ。
....そういえばカナちゃんとトルペタ君はいい感じなんだっけ、フレアとレオはまだまだって感じだけど、他種族同士が子供作れるようにするのは本当にありかも。
ニカは....この後、私がいなくなった世界でどうするんだろう。
私のことを忘れて誰かと恋に落ちるのかな?
...私のことは忘れないでほしいなぁ。
よし、決めた!
『じゃあ、この世界の人達が、種族や性別を超えて子供ができるようにしてほしい!』
「「えっ?」」
「そんなことできる訳!?!?」
「マジかよ...。」
「そんな............。」
「儂もついに子を成せるのか!!!」
『そう来ると思ったよ。.....はい、これでこの世界の住人は種族性別問わずに子をなせるようになったよ。』
『え、もう?』
『うん。』
早すぎない?
ちょっと目を閉じただけだったけど...。
流石は宇宙神...。
「トル君!!!私達も!!」
「子供ができるのか!!!」
トルペタ君とカナちゃんが抱き合って喜ぶ。
「へ、へぇ。ってこと例えばジャイアント族とドワーフ族でも、ヒュム族でも....ケットシー族でも子供ができるってこと..か。」
「マジか....もう気楽に遊べないってこと....だよな...。」
レオの方をチラチラ見て顔を赤くするフレア。
そんなレオがガッカリしている理由はわからない、うん、全くわからないナー。
「....ミウちゃん、ここでお別れなんですか?」
『あ....。』
使命を終えた私は日本に帰る。
...つまりここで皆と会うのは最後になる。
宇宙神の方を見ると、その意図を理解した宇宙神が頷いた。
『皆とのお別れが住むまで待つよ。』
『ありがとう。』
私が地面に降りたいと思うと、それにこたえるかのように私の身体がふわっと動き出した。
「ミウちゃ...」
「まぁまてよ。ルクニカは最後...だろ?」
私に抱き着こうとしてくるニカを手で制したフレアが私に近付いてきた。
「ミウシア、お前強くなったよなぁ。伸びると思ったけどまさかここまでとはなー。」
『フレアのお陰だよ。フレアが色々指導してくれなかったら、ここまでは強くならなかったよ。』
フレア、ジャイアント族で仲間で一番の年長者。
頼れるお姉さん的存在...ではなかったけど、戦いについては色々教えてもらった。
フレアの指導無くして私達はここまで強くなれなかったと思う。
『フレアはこれからどうするの?』
「あ~、どうすっかなぁ。腕もこんなんなっちまったし、冒険者は引退してまた城の兵士でも指導してやっかなぁ。」
『あはは、フレアらしいね。』
フレアがいれば、今後また魔物が王都を襲撃しても大丈夫なくらいに王都の戦力を増強できるだろう。
「ま、元気でな!」
フレアが左手を握りしめ、前に出してきた。
これって、グーでコツンってする奴?
ちょっと恥ずかしい気もするけど、少し憧れもあった奴だ。
『フレアもね!....そうそう、レオは多分押しに弱いから、押せばいけるよ?』
「なっ、....ああ、覚えとく。」
私はフレアの手に握った手を当てながら、耳元でぼそりとアドバイスをした。
フレアは一瞬で顔を赤くしたけど、照れてはぐらかすようなことはしないで、手で顔を触りながら小さく答えてくれた。
こういう所見せれば絶対男はいちころなのになぁ。
「ミウシアちゃーん」
『レオ。...精霊の事、良かったね。』
レオ、ケットシー族のお調子者精霊術師。
レオとの出会いはほぼナンパに近かったけど、今では男友達。
というより、旅の終盤は男同士の友達みたいな話で盛り上がった。
「ほんとによかったよ。皆はオレの家族みたいなもんだからさ。」
『あーあ、一度でいいから見てみたかったなぁ。精霊。』
『見れるよー!今君は霊体みたいなものだからねー!ほら、そこに来てるよ!』
私がレオと話していると、上の方から宇宙神が割って入ってくる。
その時、レオの頭上に緑色のマナを纏った女の子2人と、童話に出てくるような髭モジャな小人が現れた。
「フュー!フォリア!オベイロン!」
『一時はどうなるかと思ったわい。』
『焦った。戻れて本当によかった。レオと離れ離れになるかと思った。』『また会えて嬉しいの!安心したの!』
蔦でできた髪に草でできた服、肌は透き通るように白かった。
「ミウシアちゃん、紹介するよ。こっちがフュー、こっちがフォリア。二人はもともとドライアドだったんだ。」
『あなたのことはいつも見てた。レオがいつも迷惑かけた。』『ミウシアちゃんとずっと話したかったのー。レオと仲良くしてくれてありがとうなのー。』
『こちらこそ、レオの精霊魔法は君たちの力なんだよね?いつも本当に助かったよ。ありがとう。』
えへへ、とはにかむフューとフォリア。
なんて可愛い生き物なんだ....。
「それでこっちがオベイロン、『元』精霊王。昔はエンシェントドワーフとか言われてたらしいよ~。」
『偉そうじゃのぅ。儂は一方的に知っていたが、こうして挨拶するのは初めてじゃな。レオのアホがいつもすまんなぁ。』
『初めまして。レオはアホだけど、いつも場を和ませてくれて助かりましたよ?オベイロンさんも、力を貸してくれてありがとうございました。』
私がドワーフって聞いて一番真っ先に思い浮かぶような見た目の精霊だなぁ。
エンシェントってことはドワーフの先祖とかなのかな?....皆髭生やしてるとかじゃなくてよかった....。
「じゃあミウシアちゃん、今までありがとう。」
レオが手を差し出して握手を求めてくる。
もっとパリピ的な感じの挨拶かと思ったら案外普通だった。
『こちらこそ。...あ、あとレオ。もう軽率な遊びはできないから気を付けてね?』
「ウッ....。ハイ...。」
握った手を少し強めて忠告すると、レオが気まずそうな顔で頷いた。
レオとフレアは今後どうなるんだろう、フレアにはああいったけどレオは遊び人だからなぁ....。
「ミウ」「ミウシアさん」
『カナちゃん、トルペタ君。』
カナちゃん、ヒュム族の女の子。魔法のことになると目が無くなる。
トルペタ君、ドワーフ族の男の子。最年少なのに一番しっかりしてる、影のまとめ役。
2人は前からいい感じだったけど、王都の襲撃をきっかけに付き合いだした。
元々カナちゃんの方が一目ぼれだったっぽいんだけど、トルペタ君も徐々に惹かれて言ってたっぽい。
『二人とも、これでコソコソ付き合わなくて済むね!』
「そ、そうですね....。そのことに関しても、これまでのことも、本当にありがとうございます。...ミウに出会って、私は魔法の神髄に迫ることができました。」
「俺も、ミウシアさんに会ってなければクルシュ村で今も木こりをしてたでしょうね、あはは。」
『そんな、2人がいなかったら私だってここまでこれなかったよ。本当にありがとうね。』
私達は3人でお礼を言いあう。
その行動がなんだかおかしくなって、ついクスリと笑みがこぼれた。
「あ、一つ気になったんですが、ミウと旅をすれば魔法の神髄に近付けるって夢でヒュム様に言われたんですよ。あれはミウが何か指示を出したのですか?」
「俺もそれは気になりました。俺もウォルフ様に同じことを言われましたから。」
『...ほかの皆も言われたの?』
他の皆に顔を向けると、話を聞いていたレオとフレアは頷いたきたが、ニカとオウカは首を振った。
...以前デストラが魔族に間違った啓示を授けて、魔物達が私を狙ったことがあったけど、あれと同じことを皆もしていたようだ。
デストラと違って、種族全体ではなく、個人的に。
『....どういう意図があったかは知らないけど私はそれに関わって無いかな。』
「成程...どういう意図で私達が選ばれたのかはわかりませんが....まぁ実際魔法について知れた事はたくさんありましたし、よしとしましょうか。」
「俺も、ウォルフ様には感謝しています。確かに辛い旅ではあったけどいろんな経験ができたし、皆とも出会えた。...それにミウシアさんについていったのは俺の意志ですから。...今までありがとうございました、俺、頑張ります!」
トルペタ君が手を握り、ガッツポーズを私に見せてくる。
私はトルペタ君の頭に手をポンと置いて、にこりと微笑んだ。
一方でカナちゃんは....いつもは長い前髪を片方だけ耳にかけているのに、今は前髪がだらんと両目を隠している。
少し俯いているせいで表情が良く見えない。
『カナちゃん。』
私はカナちゃんの服についていた歯車のヘアピンを外して、カナちゃんの前髪を指で優しく分けてあげた。
前髪に隠れていたカナちゃんの表情が見えた。
『やっぱり泣いてんじゃん。』
「泣いて..ませんがっ?」
眼に涙をためて上目遣いで反論するカナちゃん。
大人びた性格をしていてもカナちゃんはまだ子供。
私は思ったよりもカナちゃんに好かれていたようだ。
ヘアピンで前髪を固定し、カナちゃんの身体にゆっくりと手をまわして引き寄せる。
『ごめんね、いきなりいなくなることになって。』
「~~~~ッ!ホントです!!!まだ神力について調べさせてもらって無いですし、よくわかんない新しい属性についても聞いてないです!!....それに、戦い以外も....もっと一緒に遊びたかったです...。この先も、ずっとずっと皆で一緒にいたかったです..。」
『うん、ごめんね。』
私には謝ることしかできない。
カナちゃんをぎゅっと抱きしめながら私は謝罪する。
少し経つとカナちゃんがグイッと私を押してきた。
私の胸周りがしっとりと濡れているのはカナちゃんの涙か鼻水か両方か....。
「....元気でやるですよ、ミウシア神様。」
『その呼び方やだな~~~。二人ともお幸せにね、アロー夫婦!』
トルペタ君のファミリーネームの『アロー』で2人を呼ぶと、2人は顔を赤くして私を軽く小突いてくる。
2人の子供、見たかったなぁ。
「あー、儂はもうミウと別れはすましておるからの、儂の分の時間をあの泣き虫兎に割いてあげてくれ。」
オウカに話しかけようとすると、手で制された。
確かにオウカ国で別れはすませている...とはいえこうして助けに来てくれたお礼くらいは言いたい。
『わかった。でも助けに来てくれてありがとうね、オウカ。』
「....友の窮地におとなしくしていられる程ボケちゃいないわい。」
私の感謝の言葉に対して、手をひらひらさせて軽く応えるオウカ。
本当にありがとう。
「み、ミウちゃん...。本当に、本当にいなくなっちゃうんですか?」
『うん、ごめんね。』
そして最後に...ニカ。私と同じバーニア族の女性。
私の恋人でもある。
普段は凛とした、真面目な女性だけど、今彼女の顔は『凛』という単語とは程遠い。
泣き腫らした目に、鼻水を拭った後、下がった眉毛。
とても弱弱しい彼女の顔に私の胸はキュッと痛んだ。
「ッ!」
『ニカ...。』
耐えきれずに抱き着いてくるニカを、そっと抱き返す。
視界の隅には片方を失った耳が見える。
この傷は王都を魔族から守った時の名誉の負傷、皆の盾となり、王都に迫る脅威から人々を守った証。
でも実際の彼女はこんなにも弱弱しい只の女の子。
『ディレヴォイズを止めるとき、私の意図を読み取ってくれてありがとう。ニカがディレヴォイズを止めてくれたから、結界を展開してくれたから倒せたんだよ。』
「....あの時足場を作らなければ、ミウちゃんは....。」
『ううん、違う方法で倒せたとしても、私はいずれ帰らなきゃいけなかった。....黙っててごめんね。』
「そんな....。」
ぎゅっとニカが抱きしめる力が強まる。
「....ミウちゃんはズルいです。私はもうミウちゃん無しじゃ生きていけません。」
いつも年上のお姉さんとしてふるまっていたニカが、まるで子供の用に甘えてくるのをみて、可愛いと感じる半面、罪悪感がものすごい押し寄せてくる。
何て言うべきなんだろう、私のことは忘れて?いや、忘れてほしくないしニカも忘れられないと思う。
じゃあどう返せばいいのかな....。
私が返答を悩んでいると、ニカが体を話して私の顔を覗いてきた。
「こんなこと言っても困りますよね、でも、これはミウちゃんが悪いんですから困ってください。」
『...う、うん。ごめんね。』
としか言えないよ...この状況って、思わせぶりなこと言っておいていなくなるクソ男だもん。
「あーあ、性別関係なく子供ができるならミウちゃんの子供が欲しかったです。何なら、今からでも。」
『えっ』
『ミウシアちゃんの身体は今実態が無いから無理だよ、ごめんねー。』
突拍子もないことを言うニカに、宇宙神がなぜか答える。
ニカの目は....本気だ、本気の目をしている。
「あはは、大丈夫です。...色々と、もう遅いって言うのは解ってますから。私は大丈夫です。」
『ニカ...。ごめんね、今までありがとう。一緒に過ごした時間全部が幸せだったよ。...それに、最後に一緒に旅ができて良かった。』
私はニカの頭に手を回し、おでこに優しくキスをした。
口にしなかったのは恥ずかしさもあるけど、歯止めが利かなくなるし、離れたくなくなるから。
『え?』
と思ったらニカに頭をガシッと掴まれた。
私はおもわず目を閉じる。
そしてそのまま...。
『...わぷっ...。』
唇に柔らかい感触がする。
触れあった部分から、ニカの震えていることが分かった。
ニカ、本当にごめんね。
「....。最後なんだから、これくらいさせてくださいっ。」
『うん...今までありがとう。』
そう言ってニカに別れを告げた直後、私の身体がふわ~っと宙に浮かんだ。
『じゃあ、そろそろ行こうか。』
『....うん。』
地上を見下ろすと皆が私の方を見ていた。
「うぅぅぅ....。さよならです!!!」
「ミウシアさん!お元気で!!」
あ、カナちゃんもまた泣いてる。
それにトルペタ君に肩抱かれてる。
「じゃーなー!」
「元気で~!」
「達者での~~~~。」
フレアとレオとオウカは手を振って笑顔で私を見送ってくれた。
「ミウちゃん!.....さようなら!!!」
ニカは泣き腫らした目で、涙をこらえながらも手を振ってくれた。
『皆、元気でね!私絶対に忘れないから!!!』
今まで一緒に旅してきた、かけがえのない仲間達に向けて私も手を振り返した。
....皆に見送られながらどんどん空高く、上がっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
SIDE:トルペタ
「....行っちゃいました。ぐす....。」
「そうだな....。」
アルカナを抱き寄せて撫でながら、ミウシアさんが消えて行った空を見上げる。
本当に、凄い人だったなぁ。
最初に会った時は、初恋だと思ったけど...その気持ちが憧れだと気が付いたときは自分でも驚いたなぁ。
「で、よ~。どうすんだ?これから。」
フレアさんがそう発言したのと同時に、ルクニカさんがドスン!と地面に倒れこんだ。
「ルクニカさん!?」「ニカニカ!?」
「....もう私は動きたくありませんので皆さん好きにシテクダサイ....。」
ミウシアさんとの別れが相当答えたのか、ここまでやる気を無くしたルクニカさんは初めて見る。
それを見てルクニカさんに投げる言葉を選んでいると、オウカさんが立ち上がって、大きな鹿へと姿を変えた。
「しょうがないのぅ。ほれ、儂の上に乗るのじゃ。...あー、レオよ。儂の足を精霊術で治してくれんかのぅ。」
「あ、うん。フェアリー・ヒール」
レオさんの放った緑色の光がオウカさんの足を覆うと、一瞬で怪我が完治した。
俺達はニカさんを協力してオウカさんの背に乗せる。
「....我らはこれで..。ディレヴォイズを倒して下さり、本当にありがとうございました。」
突然影からシャドウドラゴン達が現れた。
この人たちの協力無くしてディレヴォイズを倒すことはできなかっただろう。
「こちらこそ。ありがとうございました。」
「よくわかんねぇけど、アタシのこと助けてくれたみたいだな!ホント助かった!」
「ヴァイシェちゃん、色々とありがと~。」
「人間に危害を加えないでくださいね?」
「もちろんです。...ではお達者で。」
シャドウドラゴンの長、ヴァイシェさんを筆頭に、影から続々とシャドウドラゴンが出てきて空へと飛び立つ。
あの人達も、ようやくディレヴォイズから解放されて新しい人生が始まるのだろう。
...できればこれからも対立しませんように。
「...さて、これから大変じゃぞ?種族性別関係なしに子を成せるのじゃから、世界中にその事実を早く伝えねば、いろんな争いが起きるやもしれん。」
異種族同士では子を成せない。というのがつい先ほどまでの世界の規則。
その規則はミウシアさんの願いによって書き換えられた。
その事実を知らない状態で、例えば異種族同士の夫婦が身ごもったとする。
そうすると、間違いなくお互いがお互い浮気を疑うだろう。
そんなことが世界中で起きたらどうなるだろう?
「確かに、良いことだけではありませんね。」
オウカさんの背で風を感じながら俺が答える。
「でもどうやって信じてもらえばいいですかね....。」
「アッハハハハ!簡単じゃねぇか!アルカナが率先して子供を作ればいいだけだろ?」
フレアさんが大声で笑いながら答えた。
その発言に俺とアルカナは顔を赤くする。
こ、こんな時どんな反応をすればいいんだ..?
「ッッ!?!?なに言ってるんですかこの脳筋!!」
「いっ.....!!!」
「あ...すみませんです....。」
アルカナがいつものようにフレアさんを突っ込みを入れると、フレアさんが右腕があった場所を抑えてうずくまった。
外傷は塞がったとはいえまだ痛いんだろう...。
「...ってのは冗談なんだけどよ、本当にどうすればいいんだ?」
「~~~!心配したのが間違いでした!!!」
....多分嘘だ。本当に痛かったんだろう。
フレアさんは気を使わせないようにふざけているように見せたんだと思う。
レオさんもそれに気が付いてか、心配そうな顔をしていた。
...この2人はどうなんだろう。
「ふむ、儂が此度の戦いについて王と民衆に説明しよう。聖獣が言えば説得力があるじゃろ?」
「確かにね~。それに、うちの父上は滅茶苦茶喜びそうだなぁ。」
レオさんの父親...ティスライト王は他種族の王妃を持つ好色家だ。
確かに、一番喜ぶのは彼なのかもしれない。
「そうと決まれば早いに越したことは無い。しっかりとつかまっておれよ!!」
「.......。」ヒュー
「おい!ルクニカが落ちたぞ!!!」
「何してんですかあの人は!!!!」
「<拘束茨>ソーンバインド!!!!...間に合った!!!」
「...にぎやかだなぁ。」
オウカさんの背に揺られながら俺は空を見上げた。
ミウシアさん、俺らはなんとかやって行けそうです。
....この星は、ミウシアさんが守ったこの星は、俺らと俺らの子供たちが必ず良い栄えさせます。
そしたらいつか....見に来てください。
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SIDE:ミウシア
仲間達との別れを終えた私は、そのまま雲を超えても尚上昇し続けた。
そして宇宙と空の狭間でピタリと動きを止める。
『....あれが、君に管理され、守られた星だよ。どうかな?一仕事終えた気分は。』
サスティニアを一望できる場所で止まってくれたのは宇宙神の粋な計らいだったようだ。
『...綺麗。』
宇宙から見るサスティニアは、本当に綺麗だった。
一番大きな大陸は王都とかクルシュ村がある大陸で、あの小さい大陸は魔大陸かな?
そして魔大陸に覆いかぶさるような細長い大陸は、ダンジョンやオウカの国、雪山があった大陸だろうか。
....こうして改めてみると、比べたことは無いけどサスティニアは地球よりも大分小さい星だということがわかった。
それに...やっぱりゲームの、「Race Of Ancient Online」(レイスオブエンシェントオンライン)の世界地図とよく似ている。
ゲームを元に作ったとはいえ、地形までも似るんだろうか?
そんな疑問を持ちながら、私はサスティニアを眺める。
『じゃあ一旦、君が作った疑似神界に戻ろうか?眷属達も首を長くして待っているようだよ?』
『...うん、お願い。』
そんなことを考えながら、宇宙神と一緒に私は疑似神界へと戻った。
これから私はこの身体で地球に帰ることになる。
この耳とかは...まぁ宇宙神が何とか辻褄合わせをしてくれるだろう。
そして、この後眷属達にも別れを告げなければならない。
勝手に作り出して、全部丸投げして、用事が済んだらそのまま自分だけ帰るなんて許されないだろうなぁ。
なんて言い訳しよう....。
『見えてきたよ~』
宇宙にポツンと浮かぶ島、神世界。
私はこの後衝撃の事実をいくつも突き付けられることになる。
眷属達が私と一緒に地球についてくる計画を立てていた事、実は眷属達がサスティニアの魔物に乗り移っていた事....。
まさか地球に帰ってもどたばたとした毎日が続くとは思ってもなかったけど、今更だよね。
だってこの非日常こそが、私の日常なんだから。
---------完----------
エピローグに続きます。