「160話 最後の一撃 」
「時間がありませんので、簡単に伝えるです。先ほどミウがトル君の矢に何かを付与して他人の武器に属性を付与していましたが、それをトル君の矢にもう一度かけてください。」
ニカがディレヴォイズの相手をしに行った直後、カナちゃんは私とトルペタ君に作戦を伝えてくれた。
「わかった。カナちゃんが属性を付与するってことだよね?」
「です。でもこれには膨大なマナを消費するですから...レオ、私にマナを分けてください。」
精霊との繋がりを一時的に切られたレオに告げる。
レオは今精霊の力を借りることができない、だから力に慣れないと思って暗い顔をしていたけど、カナちゃんにそう言われて表情が明るくなった。
「おっけ~。」
レオがカナちゃんの背中に手を置いて、目を閉じた。
「カナちゃん、私が矢に付与する力...神力は18秒しか持たないんだ。だからカナちゃんが準備できるギリギリまで待つから指示を出してくれないかな。」
「神力....!!わかりました。....でも、この戦いが終わった色々聞かせてもらうですよ!いいですね!」
「ちょっ、カナっち動かないで~!」
カナちゃんが急に立ち上がって私をビシッと指差してくる。
マナを分け与えてる最中のレオが急に立ち上がったカナちゃんの肩を抑え、無理やり座らせた。
カナちゃんの魔法オタクっぷりは出会った時ほどじゃないけど、やっぱり健在だった。
「いいですか、私が今から唱えるのは全ての属性を同時発動する古の魔法。レオから貰ったマナと私の持つマナを全て使用してようやく発動できる大技です。」
「....つまり、俺が矢を外したら「トルペタ君。」」
カナちゃんの発言にトルペタ君が青ざめた顔で自分の手を見つめながら弱音を漏らした。
その発言に割り込んだ。
「大丈夫だよ、トルペタ君なら。」
「そうそう~。さっきも何とかなったし~。」
「もし外しても、ミウが何とかしてくれるですよ。」
2人ともそれ励ましになってる?
「...トルペタ。ビビってんのか?」
ふと後ろから聞き覚えのある声がした。
「フレアさん!?」
「気が付いたですか!」「...フレっち。」「フレア....。」
振り返ると未だ横になったまま、体を起こしたフレアがトルペタ君を真っすぐと見つめていた。
そして右腕を見て、ぼそりと呟く。
「....軽いな。」
「フレっち、その....腕....。治せなくてごめん。」
フレアの右腕があった場所を見て、回復魔法で治せなかったことをレオが悔やむ。
「気にすんなって!アタシは元から腕位捨てる覚悟だった!...トルペタ。お前が矢を当てたお陰でこうしてディレヴォイズと戦えてんだ。お前は今まで通りうちゃあいい。それに一度あることは二度あるって言うだろ?」
「.....『二度あることは三度ある』って言いたいです?使い方も文章も全部間違えてますが....フレアの言う通り、いつも通りに打ってください。」
「ディボロカース!!」
「「「「「シャドウ・ゲート」」」」」
私達が会話をしている間にも、ニカとシャドウドラゴン達がディレヴォイズと激しい戦闘を繰り広げている。
「ッ!!わかりました、いつも通り当ててみてます!!アルカナ、ミウシアさん、準備をお願いします!」
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SIDE:トルペタ
フレアさんに活を入れてもらった俺は、ポーチから一本の矢を取り出した。
親方から貰ったオリハルコンを元に、矢じりを物質の最小単位まで鋭く加工したものだ。
矢がまっすぐに飛ぶように矢の後方についた羽は、ほんのりと赤く、血に染まっていた。
この羽は、クルシュ村に帰った時に母さんから貰った矢に使われていた羽。
これは父さんと相打ちになったフォレストウルフに刺さっていた矢に使われていたものらしい。
「父さん、力を貸してください。」
オクトエレメントボウに火属性を流して大きな弓へと変える。
この弓は一番力の強い弓、今思うと無意識のうちに俺の家に飾られた、父さんが作った弓をイメージしていたのかもしれない。
あの弓ほどの大きさは無いものの、多分あれに匹敵する程の力は持っていると思う。
俺は父さんの形見を素材に作った矢を、父さんの弓を意識して作った弓につがえた。
「<火>、<水>、<土>、<風>、<光>、<闇>よ。この世を形成する全ての属性よ...。」
俺が準備をしてすぐに、アルカナが俺の後ろで詠唱を始める。
俺の矢の上に初めて見る属性の記号を主軸とした魔法陣が描かれていった。
これが全属性を表す記号なのか?
それは記号と呼ぶには複雑すぎていて、文字と呼ぶには規則性のかけらもない。
俺にはとても理解ができないものだった。
「凄い....。」
俺の耳元でミウシアさんが漏らした声がした。
それもそのはず、アルカナが描く魔法陣から命令文が立体的に浮かび上がり、魔法陣の上空に幾層にも魔法陣が積み重なる。
「我がマナを糧とし、<原初>の力を現したまえ。....ミウ。」
「うん。」
ミウシアさんが俺の手に触れる。
マナとは違う、温かく心地よい力が俺の手を伝って矢へと流れ込む。
これがミウシアさんたちが神力と呼ぶ力だったなんて、さっきは思わなかった。
神力とは一体何なんだろう、文字通りであれば....神の力。
そんな力を何故ミウシアさんが使いこなせるのか....いや、何故なのかはうすうす気が付いている。
「<浄化>の光にて、<触れる物全て>を消失させよ!!!....トル君!!!」
俺はアルカナの合図を聞いて、今出せる全ての力を以ってこの弦を引いた。
ギリギリギリと、引き絞る弦から音がなる。
ディレヴォイズは竜人化をといて、巨大な竜の姿に変わっていた。
この矢がディレヴォイズに届くように強く、いや、ディレヴォイズを貫いても尚飛び続けるようにようにもっと強く。
ディレヴォイズはこちらに気が付いたのか、ルクニカさんとの戦いの最中だと言うのに翼を広げて更に上空へと飛び立とうとする。
そんなことさせない!!届け...!
「届け!!!!!」
「<古の光矢>エンシェント・ホーリーアロー!!!」
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SIDE:ミウシア
「<浄化>の光にて、<触れる物全て>を消失させよ!!!....トル君!!!」
カナちゃんがトルペタ君に指示した時、ふとディレヴォイズの動きが目に入った。
その体を巨大な竜の姿へと変えたディレヴォイズは私達が準備していたことに気が付いたのか、その翼を広げて上空へと飛び去ろうとしている。
このままじゃあ避けられる、と思った矢先にトルペタ君の矢を引き絞る手からフッと力が抜ける。
「届け!!!!!」
「<古の光矢>エンシェント・ホーリーアロー!!!」
駄目だ、間に合わない。
「<加速>ヘイスト!!!!!」
決断するよりも早く、私はその魔法を口にしていた。
一時的に自分の動きを加速する魔法。
いや、動きだけじゃない。
この魔法は、思考も加速する。
私は放たれた矢よりも早く、その場から飛び出した。
加速する世界の中、ゆっくりと動く矢を横目で見る。
カナちゃんの始動キーと共に放たれた矢は、神々しい光を纏っていた。
矢は音速の壁を越えた時に出ると言われているソニックブームのような光の輪を纏っていた。
しかし、その光から属性のマナを感じなかった。
完全なる無の光。そんな印象が浮かぶ。
この光は全てを消失させるんだろうか、もしそうならディレヴォイズと言えどひとたまりもないんだろうなぁ。
そんなことを想いながら矢を横切って上空へと飛び立つ。
...ふとおもった。何も考えずに飛び出した私は足場のことを考えていない。
ディレヴォイズまで残り半分くらいの所まできて、重力に逆らって飛び上がった私の体が徐々に落ちだした。
.....と思った時、右足が地面についた(・・・・・・・・・)
上を見上げるとニカがこちらに手を伸ばし、口を開けている。
私が飛び出したのに気が付いて結界を貼ってくれたようだ。
「これで...!!!」
私は強く結界を踏み、更に前方へと飛び上がった。
「行って!!!!」
ニカがすれ違いざまに私に向かって叫ぶ。
私はそれに応えるように、ニカの方をポンと叩いてディレヴォイズの元へと進んだ。
「なッ!!!」
一瞬で自分の元まで飛んできた私を見て驚愕するディレヴォイズ。
私は桜下兎走にマナを流して闇属性へと変換させた。
最後の技は攻撃ではなく、サポート。
この世界のケリはこの世界の住人がつけるのがふさわしい。
どうせ私はこの世界の人間じゃない、いや、人間ですらない。
背後まで飛びあがった私は、桜下兎走を両手に持ち、ディレヴォイズの背中に向けて突き刺した。
「!?」
突き刺さった短刀は、まるでブラックホールのように周囲のものを全て引き寄せる。
ディレヴォイズの巨大な左翼も、右翼も、そして私も。
「貴様!!!何のつもりだ!!??」
「逃がさない!!」
両翼にマナを流して飛んでいるディレヴォイズが両翼の制御を失いゆっくりとその高度を落としていく。
「避けて!!!」
「ミウ!!!!!」「ミウシアちゃん!!!」「ミウシア!!!!」「ミウシアさん!!!!」「ミウ!!!!」
皆の声がかすかに聞こえる。
でも私が避けたらディレヴォイズはきっと上空へと逃げる。
そんなことをしたらもう二度と勝つことができない。
「そろそろケリを付けようよ、魔族と人間の戦いに。」
「馬鹿な、あれはマズい、あのマナは危うい!!やめろ、やめろオオオオオ!!!!!!」
―――――――――そして、放たれた矢がディレヴォイズとミウシアを貫いた。-