「159話 時間稼ぎ 」
「チッ!」
シャドウ・ドラゴン一族が出した黒い空間により、ディレヴォイズの攻撃を防ぐできた。
しかも、その攻撃を黒い空間からそのままディレヴォイズに向けて射出する反撃付きだった。
ディレヴォイズも思いがけない攻撃により、崩れ落ちた空中庭園の上空から、崖側へと大きく避けた。
「フレアは...大丈夫そうですね。目立った外傷はありません。」
「よかった...レオさん、この方たちは一体...?」
トルペタ君がレオに向けて質問をする。
レオは精霊を失ったショックで見るからに意気消沈しているが、ヴァイシェについて説明を始めた。
「シャドウドラゴン。ディレヴォイズの側近としてオレらを影から監視していたらしい。」
「監視....?私達のそばにずっといたってこと?いつから?」
監視という言葉に驚き、ついヴァイシェに質問を投げかける。
「えっと...ミウシアさんたちが王都にいるときから...です。...ああ!もちろん監視していたのは私だけですよ!」
ディレヴォイズに対して凛とした態度で話していたヴァイシェは、私が質問をするとモジモジしながら答えてくれた。
なんかイメージと違ってちょっとかわいい。
「ディレヴォイズに私達の行動が筒抜けだったということですか....。全く気が付かなかったです。」
カナちゃんが頭に手を当てて首を振る。
そう言われてみると、私達が王都にいた時からの行動すべてを把握されていたということになる。
...それにしては私の戦闘スタイルとかを把握していないように見えたけど...。
「いえ、ディレヴォイズ様...ディレヴォイ...ズには全て話していません。私も少々思う所があったので...。」
ヴァイシェが言いにくそうにディレヴォイズの敬称を取って話す。
思うところというと....やっぱりドゥ3兄弟と話した時の事なのかな、それか私達の旅を見て思ったか....。
「何はともあれ、私達の味方をしてくれて感謝致します。この後も協力してくれるのでしょうか?」
「はい。私達一族は影を使います。直接的な攻撃はできませんが、先ほどのように攻撃を影へ移すことができますので、皆さんの弾避け程度にはなるかと。」
「ほぅ、それは助かるのぅ。儂はもう...戦えそうにないわい。」
「オウカっち、ごめん。精霊....がいない今、そこまでの怪我を治癒できるほどの魔法は発動できそうにないんだ...。」
レオが悲しげな顔でオウカに謝罪する。
さっきのディレヴォイズの攻撃でレオは精霊を失った。
でもそんな簡単に精霊が死ぬんだろうか?
「レオよ、安心するがよい。精霊は生きておるぞ?...いや、精霊は幽体のようなものだからその表現はちとおかしいか。」
「マジ!?」
俯いた顔を上げてオウカに詰め寄るレオ。
「う、うむ。あの攻撃は人と精霊を繋ぐ物を一時的に遮断するものじゃ。しばらくしたら元に戻るじゃろ。」
「よかっ...た....。」
「...話はあとです。ディレヴォイズが戻ってきたですよ。」
カナちゃんが指を指した方向を見ると、ディレヴォイズがはるか上空よりこちらを見下ろしていた。
どうやら戦いは最終局面まで来ているらしい。
「ミウ、トル君。私にディレヴォイズを仕留める策があるです。ルクニカ、1人で時間を稼ぐことはできるですか?」
レオとフレアが戦えない今、私とトルペタ君以外に戦えるのはニカだけだ。
しかし相手が飛んでいる以上、ニカはまともに戦うことはできないはず。
そんなことはカナちゃんも重々承知だ。
それがわかった上で、無茶だとわかった上でカナちゃんはニカに頼んでいる。
裏を返せばそれほどに自信のある策なんだろう。
「....わかりました。何とかしましょう。ですが長くは持ちませんよ?」
「そこは気合で持たせてください。」
「ふふ、言うようになりましたね。わかりました。このルクニカ・ホワイト。この剣と盾に誓って時間を稼ぎましょう。」
ニカが剣と盾を体の前で軽く掲げる。
その礼式ぶった仕草はとても格好良かった。
「ルクニカさん、我らが貴女の翼になりましょう。」
どこからともなく現れた2人のタイプの違う美女がコウモリ程の大きさの黒い竜へと姿を変えた。
そしてニカの背中に止まると、コウモリは大きな黒い翼へと変わる。
「では、皆さんご武運を。」
ニカの声が少し震えている。
よく見れば手も少し震えていた。
いつも冷静なニカでも、死ぬかもしれない戦いを前に恐怖を感じているんだろうか。あ
ここで私が心配しても、余計に緊張してしまうだろう。
ニカが地面から飛び立ったその時、私は緊張をほぐすためニカに口止めされていたことをあえて口にした。
「頑張れ!ルクニカ・ホワイトミルク!!」
「っっっ!!!ミウちゃん!!!!後で覚えておいてください!!!!!!!!」
それは本人と私と幼馴染のフレアにしか知られていない、酪農農家を実家に持つニカの本名。
恥ずかしいから絶対に口外しないでと告げられていた本名。
離れていくニカがものすごい勢いでこちらを振り向き、見たことの無い怒りの表情で私に怒鳴りつける。
でもこれで緊張は少し溶けた...かな?
「「「ミルク...?」」」「まぁ私は知っていましたけどね。鑑定をしましたから。ふふ。」
トルペタ君とレオ、そしてヴァイシェが首を傾げている中、カナちゃんだけがニヤリと笑みをこぼしていた。
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SIDE:ルクニカ
まさかミウちゃんがこんな場面、こんな状況であんなことを言うなんて思わなかった。
..とはいえ、あの発言で緊張が少し溶けたのも事実。
感謝はしますが全部終わったらお仕置きが必要ですね。
「ふふ...。」
「ルクニカさん、近づいてきました。私達はルクニカさんの体の動きに合わせて動きますので、ご自由に戦ってください。」
「ご検討を祈ります。」
「助かります。少しの間ですが、この命預けます。お二人に雷属性のマナを流しても平気でしょうか?」
「「問題ないかと。」」
2人のシャドウドラゴンが背から話しかけてきました。
身体の動きに合わせてくれるとは、普段からこのようなことをしているのでしょうか?
シャドウドラゴン一族はとても優秀なのですね。
程なくして、ディレヴォイズが爪を煌めかせ、角にマナを集めながらゆっくりとこちらに向かってきます。
「その翼、シャドウドラゴンか。...よもやみっともなく我に負けた貴様が1人で来るとは、舐められたものだ。」
「...先ほどまでと同じだと思わないでください。」
剣と盾にマナを流し、光属性へと変える。
そして雷属性へと性質を変化させ、全身にいきわたらせるました。
「「っ...。」」
シャドウドラゴンがわずかに声を漏らします、雷属性のマナを流したせいでしょう。
「貴様もドライアドの元に送ってやろう!!!ディボロカース!!」
ディレヴォイズが手から黒い刃を飛ばしながら、爪を私に向け手を突き出してきました。
私はその全ての刃に対して(・・・・・・・・・・)斜めに結界を展開し、軌道を逸らします。
「「「「シャドウ・ゲート」」」」
軌道が逸れた刃はシャドウドラゴン達が影の中へと退避させてくれます。
続けて盾の表面に無数の結界を小さな棘状に張り巡らせ、ディレヴォイズの手を盾に滑らせるようにして受けました。
ガリガリガリと鱗と結界がこすれ合う音が上がります。
この程度で鱗を突破できるとは思ってはいませんでしたが、やはり竜種の上位種ともなると想像以上の硬さですね。
私は腕を盾で弾いた隙をついて、雷を纏わせた剣でディレヴォイズの脇腹へと切りかかりました。
しかしキィン!!と高い音を立てるだけで、私の攻撃はその高密度な鱗によって止められてしまいました。
マナによる保護膜が無くてもこの防御力、私ではダメージを与えられそうにありません。
「カアアア....アア!!!」
「ッ!!!」
ディレヴォイズはそのまま腕と脇で私の剣を挟み、大きく息を吸い込み始めました。
剣を引こうとしても全く動かない、この至近距離でブレスを吐かれては間違いなく助からないでしょう。
「はぁっ!!」
私は剣を手放し、ディレヴォイズの頭部を囲うようにして結界を展開しました....が。
「....。」
しかし。その溜めた力は吐き出されることなく、私の結界を警戒したのかディレヴォイズはすんでのところで口を閉じ、溜めたマナを体内へ吸収しました。
「ククク....我の攻撃を利用しないとダメージを与えられないようだ...な!」
「ッ!」
剣を固定されたまま放たれた強力な蹴りをとっさに盾で防いだせいで、するりと剣が手から離れてしまいます。
更に衝撃で少し後ろに飛ばされましたが、幸い、翼となったシャドウドラゴン達のお陰で空中で何とか停止することができました。
「こんなもの、持っていてもどうせ我に傷を付けられないのであろう?」
奪った剣を握ってそう告げた後、ディレヴォイズはスッとその手を放し、私の剣は崖の下へと落ちて行きました。
...攻撃手段が一つ減りましたが、もとより私の目的はディレヴォイズの時間稼ぎ。
盾を失わなかっただけよしとしましょう...。
「悔しいですが、その通りです。...ですが...。」
身体の重心を後ろに向けると、背に生えた翼がバサリとはためき、後方へと移動します。
「合図をしたらこの場に留まったまま翼を思い切りディレヴォイズに向けて羽ばたかせてください。」
「「承知しました。」」
私は雷属性のマナを翼へと集めて無数の羽を創り出しました。
それにより黒い翼が白い翼へと変化します。
シャドウドラゴンが声を上げていないということは、雷のマナに慣れてきたのでしょうか。
「こういう戦い方もできます!!!」
身体を前方へと動かすと、それに合わせたように背に生えた翼が大きくはためき、翼を覆っていた無数の羽がディレヴォイズを囲うように広範囲に舞い散ります。
「これは、ッ。電気か!」
ディレヴォイズが指先で近くの羽を触ると、バチッという音がこちらまで聞こえてきました。
今まで剣と盾に割いていたマナを全て羽に使用しているので、一つ一つは小さくとも並みの魔物なら痺れて動けなくなってしまうでしょう。
「しかしこの程度、大したこと無いわ!!!フレア....」
「ッ!させません!!!」
ディレヴォイズが魔法を放つより前に、周囲に舞い散る羽ごと覆うほど広範囲の結界を展開します。
「チッ!またこの結界か!!」
先ほど使用しようとしていたのは羽を散らすため、おそらくは風を用いた魔法。
その風のせいで結界内の羽が自分の方に舞う可能性を恐れて発動を止めたのでしょう。
そして次は結界を破壊するための高威力の魔法を発動させるはずです。
であれば、その前に羽をディレヴォイズにあてる必要があります。
「このような結界....!」
「縮みなさい!!!」
ディレヴォイズが攻撃に移る前に私は結界にマナを繋ぎ、結界に指令を出します。
「何っ!?ぐっ...!ぐあっ!コレは...クッ、縮んで...!」
ディレヴォイズの身体に次々と羽が被弾していきます。
それもそのはず、ディレヴォイズと雷を纏った羽を覆う結界は、私の指示に答えるように見る見るうちに縮んでいっていますから。
「はぁっ!!!」
私の中にあるマナのほぼすべてを結界に流し込むと、結界は一瞬でディレヴォイズの体のサイズまで縮みました。
そして結界内の全ての羽がディレヴォイズに集まり...。
「ぐぁぁぁあああああっっっ!!!」
雷が落ちたかのようなすさまじい音と共に、結界はまるで太陽のように白く輝きました。
「はぁ...はぁ...これで少しは...。」
あれだけの電撃を食らえば一時的とはいえ動きを封じることができるでしょう。
しかしもう結界を維持するマナが....。
「ッ!!」
結界が消えた瞬間、嫌な気配を感じた私は咄嗟に盾を構えました。
その直後、全身に強い衝撃を受けて後方へと弾き飛ばされました。
「カハッ....。」
「ルクニカ様、きます!」
突然の衝撃で盾を構える腕に力が入らなかったせいか、盾が体に当たり衝撃を緩和できませんでした。
手と体に激痛が走る中、シャドウドラゴンが翼を動かして私に迫りくる攻撃を回避してくれます。
しかしその回避行動さえも今の私には激痛。
一体何が!?
「貴様ァ!!人間の分際で!!我に傷を!!!」
目の前には怒りで竜人化を解いた、大きな黒い竜。
ディレヴォイズが私に牙を向けていました。
「....竜人化を解いたのですか...。」
「貴様ら人間はこの手で殺す!!!」
...ミウちゃん、そろそろ限界です....。