「154話 属性付与 」
「こっちです。」「懐かしいですね、この道も....。」
ぴょんぴょんと飛ぶピョンの後を追って森を進むと、洞穴の入り口が見えてきた。
隆起した土を掘って作ったような、あまり手の込んでいないその入り口を見て、やっぱり兎は兎なのか...と改めて実感する。
オセロの隠し持っていたアイテムでディレヴォイズに対抗できることがわかった私達は、すぐに元の時代に戻らず、ピョンの家で休息をとることになった。
「なんていうか、兎的な外見のお家だね...。」
「兎的ってなんにゃ....。」
「あの、ミウちゃん....。なんとも形容しがたいのですが、これは私がまだ兎の魔物、聖獣だった時の家ですからね??まだ人間ではなかった時の家ですからね?知性があっても魔物だった時ですからね?」
ニカが必死になっている理由はすぐわかった。
洞穴のすぐ横にある木の下にコロコロした焦げ茶色の物体があった。
「....あれ「きゃああああああ!!!!ミウちゃんダメダメ見ないで!!!....ピョン!!!!ちょっと!!!!」」
ニカが目にもとまらぬ速さで私の頭を押さえて無理やり向きを変える。
「何を騒いでいるのですか?....ああ、私の糞ですか。もはや縄張りを示すためにあそこで用を足す必要はないのですが....種本来の習性というのは困ったものですね。」
「人間はそういうことしないんです!!!!」
そんなえへへ...みたいな感じで言われても
ニカ的には黒歴史のような気持ちなのかな。
ニカの前世であるピョンはまだ人間の常識を知らないただの聖獣だ。
いまピョンも言った通り、只の兎の魔物としてのなごりだと思う。
別に気にしないけど、確かに自分だったら実家に好きな人と遊びに行ったとき、親に自分の小さい時の恥ずかしいエピソードを話されるみたいなのと同じなのかもしれない。
ちょっとちがうか、話じゃなくて現物だし...。
涙目になってるニカが可愛そうだしここは話を逸らしてあげよう...。
「ここがピョンの家かぁ。おじゃましまぁ~....す?」
洞穴の中に入ると、中は思ったよりも広かった。
ワンルーム位の広さに掘られていて、170センチを超える私が普通に立っていても頭はぶつからない。
しかし中が予想外だった。
真ん中には土を固めて作ったテーブル、椅子は無し。
奥の方には落ち葉が敷き詰められた窪みが。
その近くには水が入った容器といろんな果物が敷き詰められた大きなお皿が。
そして天井には電球変わりの光る石が埋め込まれていた。
よく言って豪華な野生の動物の巣。
こういうのってもっと、人間に近い生活しててめっちゃ綺麗な家とかなんじゃないんだ...。
想像していたよりも野性味にあふれていて少しびっくりした。
あと、少し動物園みたいな匂いがする。
「な、なんていうか、割と素朴な感じの家なんだね~!」
「汚いにゃ。いたぁ!」
失礼なことをいうオセロの頭を軽くはたいた。
「すみません、この家に誰かを招いたことが無いもので...。人間は座る場所が必要なんですよね、少し待ってください。」
ピョンがそういうと、机の周りに魔法陣が浮かびモコモコッと土が盛り上がって椅子の形になった。
始動キーを使用しない魔法?今の技術にはない魔法だよね?
カナちゃんが見たら質問攻めに合うんだろうなぁ。
「私って客観的に見るとこんな酷い所に住んでたんですね...。」
肩を落として見るからに落ち込むニカ。
ニカの方をぽんぽんと叩いて作ってもらった椅子に腰かけるように促した。
「とりあえず、椅子を作ってもらったことだし座ろっか。」
「そうですね....。」
「にゃ。」
私達が椅子に座ると、ピョンもぴょんと椅子の上に飛び乗った。
かわいい。
「それでさ、さっきのヴォイドストーンだけど...どうやってディレヴォイズの体内に入れるの?」
私の発言を聞いてオセロが先ほどしまったヴォイドストーンをアイテムボックスから取り出し、机の上にコトリと置いた。
「そうにゃあ、マタタビで酔わせ「却下。」なんでにゃ....。」
竜種にマタタビは効かないからだよ.....。効かないよね?まさか効くの?
オセロの提案を食い気味で否定したあとニカとピョンの方を見た。
「口に入れたとしても、ブレスで焼き尽くされてしまう可能性もありますし、やはり傷口に埋め込む方法が一番でしょうか。」
「そんな、ヴォイドストーンをブレスで焼き尽くせるほどに強くなってしまったのですね...。」
今のディレヴォイズを知らないピョンが驚愕の声を上げた。
まぁ不意打ちでしかピョンを倒せないあの姿を見た後じゃあそういう風に思うよね。
「傷を付けること自体が難しいんだよね、私の虚属性でもヴォイドストーンを埋め込む程大きな傷は与えられないよ。」
「ディレヴォイズは今や竜の姿になっていますし、強靭な鱗にも覆われていますしね...。」
私とニカがううーんと頭を捻らせていると、ピョンが興味深そうに私達の方を見つめてきた。
「あの、虚属性とは?未来では新しい属性があるでしょうか?」
「ああ、えっとね。私が作った属性なんだけど...。」
「まさか...ミウシアさんは新たな属性を創り出せるというのですか!?」
ピョンが驚いて椅子の上に立ち上がる。
前足を上げて立ち上がるその姿は只々愛らしかった。
「光と闇を同時に...えっと、実際にやってみたほうが早いかな?ちょっと見てて。」
私は立ち上がって桜下兎遊と桜下兎走を手にし、マナを流して光属性と闇属性のマナへ変換した。
「武器にマナを流して属性を変換...どうやらその武器には特別な、神の加護のようなものが掛かっているようですね。」
ピョンが驚いてるってことは、祝福武器という概念はこの時代にはなかったのかな?
一度変換したマナを再度体内に取り込む。
その時に二つのマナを均一に、最初から一つであったかのように同一化させる。
「二つの属性の融合...考えた事がありませんでした。完璧なマナ操作ですね....。」
そして次第に私の身体が透過してくる。
「なんか体が透けてきたにゃ!?」
成功だ。
「ふぅ、これが虚属性。物理攻撃を透過して防いだり、相手のマナの保護膜を透過して攻撃できるのが特徴かな。」
「...確かに、これは新しい属性と言って間違いないでしょう。驚きました。ミウシアさんはとびぬけたマナ操作技術をお持ちなんですね。自分に対する攻撃は透過して無効化、しかし自分以外の生命体は透過して攻撃することはできないということですね。」
流石に理解が早い。
これで相手を透過できれば簡単にディレヴォイズの体内にヴォイドストーンを埋め込めるのになぁ。
というか透過できれば心臓を直接攻撃できるからヴォイドストーン要らずなんだけど。
「...攻撃、ということはその虚属性を武器に纏わせることが可能なのですよね?」
「うん、ディレヴォイズと戦った時はこんな感じで....武器に纏ったマナのさらに外側に虚属性を纏わせてたよ。」
実際に桜下兎遊に雷に変質させた光属性のマナの表面を虚属性で覆った。
「ミウちゃんがディレヴォイズに傷を負わせて、その傷にヴォイドストーンを埋め込む。これしか方法がありませんが...。」
「うん、それだと私の攻撃力が足りない。傷を負わせられてもせいぜい大したことない切り傷だよ。もっと貫通力のある、例えばトルペタ君の矢見たいなものに虚属性が付与できればいいんだけど....。」
問題は私の攻撃力。
そもそも武器の形状が大型の敵と戦うような物じゃない。
自分以外の武器に属性を付与させようとしても、祝福武器を通して作り出した属性のマナはほかの武器に付与できない。
「.....ミウシアさん、貴女は神力を自由に操れますか?」
全く浮かばない攻撃方法に頭を悩ませてると、ピョンが神力について質問してきた。
「神力?うーん...意識したこと無かったなぁ。」
神力....。
私が持つマナとは違ったもう一つの力。
この力は普段意識していない。というのも、神力は惑星サスティニアの生命力を回復させるためのものだが、どうやら私が歩いてるだけで勝手にこの星に吸収されるらしい。
というか今どれくらいこの惑星に生命力を与えられたんだろう?
終わりはいつ?
勝手にこの旅が終わりだと思ってたけど、下手したらこの旅が終わっても私は旅を続けなきゃいけなかったりする?
あぁ、ちゃんと目的の達成条件を定量的に確認しておかないから...。
「神力というのは元々星の生命力、この星にあるもの全てに微量ながら含まれているモノなんです。つまり、神力はこの星に存在するどの物質には適応します。」
「??なるほど?」
つまりピョンは何が言いたいんだろう?
「成程、神力を繋ぎ(・・)にして虚属性を付与できるかもしれないということですか。トルペタさんがヴォイドストーンを矢じりの形に加工して矢を作り、その矢に付与できれば...。」
「そんな使い方があったの?!...確かにそれなら行けるかもしれない。」
ニカがピョンの意図を読み取って私が知りたかったことを教えてくれた。
神力にそんな特性があったなんて全く知らなかった。
普段存在を意識したこと無かったもんなぁ。
「神力?ってやつを操れなきゃ意味にゃいけど大丈夫なのかにゃ?3日以上はここにいられにゃいのを忘れにゃいでほしいにゃ。」
オセロが言う通り、その方法が実現できなかったら全て意味がない。
「そうだね、...じゃあ今から1日かけてその方法を試してみる。もしそれで見込みが無ければ別の方法を考えよう。ピョン、ニカ、ついでにオセロ。協力してもらっていいかな?」
私が皆に呼び掛けると、皆は快くうなずいてくれた。
....いや、オセロだけは困った顔をしている。
「ええ、もちろん全力で助力させていただきます。助けて頂いた恩もありますしね。」
「ピョンがいる以上、私は同じ思考に至りそうな気もしますが、勿論協力しますよ!」
「オセロに何ができるかにゃあ....せめてこの時間を測る魔道具で経過時間は伝えてやってもいいにゃ。」
「ありがとう皆。オセロも、時間がかかりすぎた時に引き際を教えてほしい。」
タイムキーパーってのはどんなことにも必要だからね。
私も昔は苦労したなぁ、会社で皆時間通り会議を進行しないんだもん。
きゅるる~。
その時、突然可愛いお腹の音が周囲に響いた。
音のしたほうを向くと、下を向いて顔を赤くしているニカがいた。
「.....。」
「ご、ご飯にしよう!ご飯!!お腹すいてたら何もできないしね!!」
「では私が蓄えてる果物を持ってきますね。」
ピョンが家の隅に直で置いてある果物を取りに行った。
ちらっとニカを見ると私の方をじーっと見ている。
ははぁ、私のアイテムボックスの中にあるご飯が食べたいんだな。
確かに、果物だけじゃあちょっと物足りない。
「ピョンって果物以外も食べられるの?」
「ええ、食べられますよ。でもこの森から全く出ないのでほぼ食べたことはありませんね。」
「じゃあ食べ物は私に任せて!ピョンの大切な備蓄を私達で消費しちゃうのは申し訳ないし!」
アイテムボックスから蓄えていた食料をどんどん机の上に出した。
もう流石にコルペタさんの料理はないけど、各地で大量に仕入れておいた食料はまだある程度残っている。
ピョンに未来の味を教えてあげよう。
アイテムボックスの中にはフォレストラビットのお肉で作った料理もあるけど、流石にそれは出さなかった。
「じゅるっ、凄い美味しい匂いがするにゃ....。」
「見たこともない食べ物ばかりです....これが人間で言うところの料理ですか?知識だけはありましたが、確かに食欲をそそる匂いですね。」
「ミウちゃん....ありがとうございますッ!!早く食べましょう!!」
ニカが限界っぽいから食器を出してあげて、早々に食べることにした。
食べ終わったら神力を使いこなす修行だ!なんとか使いこなせるようにならないと!
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ご飯を食べ終わって一息ついた私達は、早速神力の操作の修行に移った。
ピョンは私が出した食べ物をとても気に入り、「もう果物だけでは満足できそうにありません...。」とまで言っていたので、調味料と野菜の種を渡してあげた。
農業する兎、ううーんかわいい。
そして修行が始まった。
「そのまま留めて...安定したらルクニカの剣を覆ってください。」
「むむ.....あぁ...。だめだ。また失敗...。」
「ミウちゃん、今のはいい感じでしたよ!」
「開始から4時間経過にゃ~」
修行の方法はこうだ。
ピョンが果物に強力な結界を貼り、ディレヴォイズの防護膜を再現する。
私の虚属性をニカの剣に纏わせて、果物を切ることができたら成功だ。
でもそれが上手くいかない。
私の神力はピョン曰く地面に向かって常に注がれているようで、その流れを意識して意図的に手の方へ向けて流したら案外簡単にできた。
問題はそれを虚属性を維持している時に行うことの難しさだった。
虚属性を維持するだけでも神経すり減るくらい集中しなきゃいけないのに...!
虚属性を保ったまま、剣を持つニカの手に触れる。
そして神力を剣に...ああ虚属性が消えた....。
「もー!!同時制御とか難しすぎるよ!!!!」
またもや失敗してその場にぺたんと座り込む。
これできる気がしないんだけど!!!
「ミウちゃん、神力を制御できてるだけ進んでると思いますよ?」
ニカの優しい言葉も今は虚しくなってくる。
急がなきゃいけないのに、絶対成功させなきゃいけないのに...。
「ミウシアさん、神力だけを剣に流すことはできますか?」
そんな時、マナと神力の動きを眺めていたピョンが私に質問してきた。
「ちょっと待って、やってみる。」
「4時間10分経過にゃ~」
「オセロさん、もう少し時間の間隔は長めでもよいのでは....。」
オセロの細かすぎる時間経過報告にニカが突っ込みを入れる。
私はそのやり取りを流しながら足から地面に絶えず流れる神力を意識し、手の方へ誘導した。
そしてニカの手に触れて、剣へと流し...込めるじゃん。
神力だけだと簡単じゃん。
「できた!」
「であれば、神力を注いだ後に虚属性を付与すればいいのではないでしょうか?....後は神力の持続時間ですね。」
ピョンの発言にはっとする。
何も同時に行わなくてもいいのか。
このままニカの剣に纏った神力がどれくらい維持できるかを確認して、それに間に合うように急いで虚属性を身にまとい、剣に付与できれば...!
「ピョン、剣の神力が消えたら教えて!」
「わかりました。」
1..2..3..4..5..6..7..8..9..10..。
ピョンからの報告は未だない。
11..12..13..14..15..16..17..18...。
「消えました。」
神力が消えるまで18秒。
後は今私が属性を纏ってない状態から虚属性を纏うまでの時間だけど....。
「オセロ!3秒カウントしてから時間はかってほしい!」
「了解にゃ~。.....3,2,1,開始にゃ!」
開始の合図と共になるべく早く体内のマナを武器に流し込み、光属性と闇属性に変換してから吸収する。
そして吸収する時に虚属性を創り出す。
....................!
「できた!オセロ、何秒!?」
「...20秒にゃ~。」
20秒....仮に神力が消えるまでに虚属性を付与出来てもディレヴォイズに攻撃を当てるまでに時間が過ぎたら意味がない。
接着剤変わりの神力が消えたら虚属性も解除されてしまうはず。
付与から着弾まで、余裕を持って5秒以上は欲しい。
ってことはあと7秒も早く虚属性を創り出す必要があるってことか。
「よし、見えてきた!!ピョンありがとう!!ピョン、ニカ、ちょっといい?虚属性を作る時のマナ制御について聞きたいことがあるんだけど....。」
「何でも聞いてください。」
「マナ制御は得意です。任せてください。」
神力と同時に作るよりはまだ希望が見えてきた。
よーし、頑張るぞ!!
「4時間15分経過にゃ~」
もうわかっててやってるでしょオセロ。
暇なのかな...。