「152話 神獣 」
151話を間違えて連投してました、すみません...。
「...本当にオウカなの?」
「何を言ってるんじゃ?....ああ、ミウシアにはこの姿を見せた事はなかったのう。待っておれ。」
ボフン!!と煙が大きな鹿を包む。
「ぐぇっ!」「きゃあ!?」「うわぁ!!」「いてっ!」「にゃっ!!」
そして同時に5つの悲鳴が聞こえた。
「あ、すまんすまん、お主らを乗せておったの忘れてたのじゃ。」
煙が晴れるとそこには巫女服を着た白髪麿眉の幼女が立っていた。
「た、確かにオウカだ...。」
「オウカさん、お元気そうで何よりです。」
??ニカはあった事...もしかして前世での知り合いだったのかな?同じ神獣だったみたいだし。
「...お主は誰じゃ?..どちらにせよ話は後じゃ!!!主らも戦え!<転送障壁>ツクヨミ!!」
オウカは乗せていた5人に向けて魔法を唱えた。
....5人?
「つつつ、ようミウシア!ルクニカ!二人ともボロボロじゃねぇか!」
「遅くなったです。何とか間に合ってホッとしました。」
「遅れてすみませんでした!」
「ミウシアちゃんもニカニカも怪我してんね~。<治癒光:拡散>サークル・ライト!!」
皆の元気そうな姿をみて思わず涙が目に溜まる。
よかった、皆無事魔族に勝ったんだ。
「いたいにゃあ....。」
....でもなんで、二足歩行の大きな長毛種の猫が...オセロがここにいるんだろう。
レオの回復魔法で体がスッと楽になる。
マナも少し戻ったお陰で体が満足に動かせる状態まで回復した。
「このマナは....貴様!!!オウカか!!!!!」
「久しいのう、ディレヴォイズ。お主まだこの地に縛られておるのか、もはや呪いじゃなぁ?」
オウカとディレヴォイズはやっぱり知り合いのようだ。
縛られているというのはなんだろう。
「その呪いもその生まれ変わりを殺し、魂を消し去ってしまえば無くなる。」
「生まれ変わり....?お主、まさか森の賢人...ピョンなのか!?じゃから儂のことを知っているような口ぶりを...!なんとまぁ不思議な因果もあったものじゃなぁ....。」
「本当に、そうですね。私もミウちゃんからオウカさんの名前が出た時はビックリしましたよ。」
オウカが優しい目でニカを見つめる。
きっとこの2人は仲が良かったんだろうなぁ。
「クク...クハハハハ!!!今日はいい日だ!!!人間を屠るだけでなく!過去の因縁も!呪いも!全てここで終いにできる!!!」
ディレヴォイズが地面をドン!!と踏みしめ高らかに吠える。
「ミウシアの友人よ!儂の魔法で奴の攻撃は防げるはずじゃ!!ぬしらで相手をせい!!!」
「最後の戦いは皆でってか?ようやく連携の修行役に立ちそうだなぁ?お前ら!!」
フレアがハンマーを握ってディレヴォイズの前に立った。
一瞬で髪の毛が青色に変化する。
あれはアイス・スピリット、だったかな。
火属性の性質を変化させた冷属性を纏ってるとかなんとか。
....にしてもソウル・スピリットになるまでの時間が早すぎる、何かコツを掴んだのかも。
「連携とか言って、フレアに私達が合わせていただけじゃないです?<多水球>マルチプル・ウォーターボール!」
「ま、まぁ....フレアさんは周りを気にせず戦ってるのが一番強いからいいんじゃないか?」
呆れた表情でフレアに突っ込みを入れるカナちゃんと、それを諫めるトルペタ君。
カナちゃんの周りに15..いや..20個の凝縮された水球が現れる。
トルペタ君の持つ弓は私が設計した闇属性の形状へと変化した。
火力よりもサポートに回るらしい。
「回復の必要が無いってことは、精霊魔法を存分に使えるってことだよね~?フュー!フォリア!オベイロン!」
『最後の戦い~~??』『男の見せどころなの。』『エンシェント・ドワーフの力見せてやるわい。』
レオが精霊の力を借りて背に翼を生やし、杖が緑色に光る。
例えづらいような不思議な音がするのは多分レオの精霊が喋っているからだろう。
私も精霊の声を聴いてみたかった。
「ふん、オウカ如きの魔法で防げる攻撃など我がすると思うか?なめられたものだな!」
そして、フレア、カナちゃん、トルペタ君、レオとディレヴォイズの戦いが始まった。
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「皆さんが戦っているのに、こうしてみているだけでいいのでしょうか....。」
「でもほら、見てみなよ。今は私達が行ったほうが足手まといになるよ。」
一方で私達はマナも枯渇し、体力も低下しているため戦いにはすぐ参加しなかった。
前衛のフレアが真っ先にディレヴォイズの爪攻撃を受けてたけど、オウカの魔法の効力で無事のようだ。
<転送障壁>ツクヨミって言ってたっけ、攻撃をどこかに転送する魔法なのかな。
「ピョン....今はニカ?じゃったな。ミウシアもこっちへ来い。ぬしらにはやってもらうことがある。」
私達が皆の戦いを見ていると、オウカから呼び声がかかる。その近くにはオセロがいた。
疲労困憊の身体を無理やり起こしながらオウカとオセロの元へ向かう。
「オウカ、改めて来てくれてありがとうね。....でもなんでオセロがいるの?」
「知らないのにゃ、クリスタルレイクでお店を開いてたらそこのオウカさんがオセロを無理やり背に乗せてきて...。」
オセロは時間と場所を自由に行き来できる変わった猫の商人、だからどこにいてもおかしくはないんだけど、クリスタルレイクで商売をしても誰も来ないと思うんだけど...。
「オセロさんというのですね。私はルクニカ。よろしくお願いいたします。」
「これはどうも丁寧に、オセロはオセロって言うにゃ。」
向こうではディレヴォイズと皆が戦いを繰り広げているのに、ニカとオセロは律義にお辞儀をしている。
なにこのミスマッチ感.....。
「ニカは相変わらずマイペースじゃな....。オセロはある目的のために連れてきたのじゃ。ミウシアはオセロがどういう力を持っているか知っているじゃろ?」
「うん、確か時間や場所に関係なく移動する力を持ってるんだったよね。」
「時間と場所...それは凄い力ですね....。」
ニカが驚いて口を手で覆うのを見てオセロは自慢げに胸を張る。
「ふふん!オセロは凄いのにゃ。」
「まず、儂らに置かれてる現状についてじゃ。ミウシアの仲間は現状、儂の魔法で何とか攻撃を食らわずになっておる。しかしディレヴォイズにダメージは与えられん。それは今まで戦ってきたミウシア、そして奴の力の正体を把握しているニカは理解できるな?」
「うん。」「..はい。」
フレアがハンマーでガンガン攻撃しまくっているが、ディレヴォイズは避けようともせずその身で受けている。
他の皆も魔法や矢を駆使して最大限の火力を出しているようだが、ダメージは与えられていなさそうだ。
「奴は森の賢人の、ピョンの尽きることの無いマナの力でその身を防御しておる。このままでは時間稼ぎにしかならないじゃろ。.....そこでオセロの出番というわけじゃ。」
「!?オセロは戦う力なんて持ってないにゃ!?そんなこと言われてもどうもできないにゃ!!」
自分が戦いに参加させられると思ったのか、オセロはわたわたと焦りだす。
「....まさか。」
ニカが何かに気が付いたように声を上げる。
それをみてオウカはニヤリと笑った。
「そう、過去に行きディレヴォイズが力を手にするのを止める....つまり、ピョンを守るのじゃ。」
「!?」「私を....?」「にゃ!?」
オセロの力で過去を変える!?
....そんなに簡単なことなんだろうか、地球に居た頃によくタイムトラベルものの作品を読んでいた私からすると、過去を変えるのは現在にどんな影響があるかわからないハズ。
ある作品では過去を変えても現在は変わらず、変えた過去から世界が分岐する。
...その場合現在のディレヴォイズの力は無くならないし、違う世界に分岐するだけだ。
そして、ある作品では過去を変えて、現実もその影響を受けていた。
...その場合は現在のディレヴォイズの力は無くなり、そもそもこの戦い自体、魔族自体がなくなる可能性もある。
そしてピョンの生まれ変わりでもあるニカは...生まれなくなる。
「...過去を変えたら、どうなるの?ニカの前世であるピョンを助けたら、ニカは生まれないことにならない?」
そんなこと、絶対にできない。
「いいえ、そこから私が救われた世界が生まれ、今の時間とはまた違う時の流れが生まれるはずです。」
「その通りにゃ。今この時間を観測している以上、現在のこの時間に起きていることが変わることは無いのにゃ。」
「...じゃあ過去に戻っても無駄なんじゃないの?」
ニカがいなくなるという最悪の事態は逃れられそうだけど、ディレヴォイズを弱体化させることはできない。
この事態は何も変わらないと思うんだけど....。
「うむ、お主の言う通りじゃ。じゃからのう、ピョンを助けた後その報酬にその力の一部を分けてもらうのじゃ。」
「....確かに、それなら可能ですね。仮にもミウちゃんはディレヴォイズにダメージを与えましたし、もう少しマナの総量で近付くことができれば対抗できると思います。」
「なるほど...。」
ディレヴォイズの力の一端を手に入れることができれば、今よりも勝てる可能性が見えてくる。
「その説得はピョン自身、つまりニカが行うのじゃ。自分自身を説得することなんて容易じゃろ?」
「ええ、まぁ...。」
ニカが自信なさげに頷く。
「ちょっと待つにゃ!!」
ある程度話がまとまってきたところでオセロが話に割って入ってきた。
「オセロは協力するなんて言ってにゃいにゃ!!大体、人を連れて時間を移動したことなんてにゃいし、それに必要なマナはどうするにゃ!?」
「それも考えておる」
オウカは早口でまくし立てるオセロを手で制し、自身の角に手をかけた。
「....むっ!....ほれ、これで足りるじゃろ?」
ぽきっと根元から追ってその水晶の角をオセロに渡す。
「こ、これは....。確かにこれなら...可能にゃ。」
「オ、オウカ?大丈夫なの??」
オウカの水晶の角は何前年もかけて成長した、オウカのマナの結晶体。
その一部でも強力な武器となるほどに力が秘められているのにそれを根元から....。
「大丈夫ではないがの、ほかならぬお主らの危機じゃ。ここで体を張らずして何になる。」
私に向けてニカッと歯を見せ笑いながら胸をどんどんと叩く。
男前すぎるよオウカ.....。
「オウカさん、ありがとうございます....。必ず説得して見せます。」
「うむ、全てが終わったらゆっくり話すとしよう。募る話だらけじゃろうて。....さ、時間に余裕があるわけでは無いぞ、サクッと澄ましてくるのじゃ。」
「わかった。オセロお願い。」
「本当にいくにゃ?失敗しても文句はいわにゃいでほしいのにゃ。」
オセロが目の前にアイテムボックスのような黒いゲートを展開し、オウカの角をポイっと中へ投げる。
ゲートが数度光り輝き、深い紺色へと変わる。
「じゃあニカさんが先に入って、戻りたい場所を強く願うのにゃ。そしたら勝手にその時代に飛べるはずにゃ。それでミウシアさんはニカさんと手を繋いで、反対の手をオセロと繋いで....。」
ちょいちょいとニカを手招くオセロ。
....ここに入るのは少し勇気がいりそうだなぁ。
「は、はい。願うだけでいいんですか?」
恐る恐る手をゲートに入れ、問題ないことを確認するとゲートの中へと足を入れ進み始めた。
「そうにゃ~。普段は行き先なんて気にしにゃいからやったことはにゃいけど。」
「えっ」「うそでしょ!?」
ゲートに足を踏み入れたニカは、そのまま全身をゲートに吸い込まれる。
手を繋いでいた私もつられてゲートの中に。
時代を指定したことが無いという、オセロの不穏な言葉を最後に私達は過去へと遡った。
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遡ること数時間前
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SIDE:オウカ
「じゃああなたがあのミウの言っていたオウカさんです?」
「うむ、その通りじゃ。」
事の始まりは里の者から聞いた噂話じゃった。
なんでも、魔族の頭はあのディレヴォイズだというではないか。
そやつが儂の知るディレヴォイズであれば、ミウシアに勝てる見込みはない。
ミウシアのお陰で里の者とも親密になった。
ならばその恩を、親友の危機に駆け付けずしてなにが親友じゃ。
気付けば儂は、テツザンにオウカの国を任せ駆け出していた。
そしてたどりついた水晶平原にある魔族の根城。
その崖の下の滝裏にてアルカナを見つけた。
ミウシアの仲間だと知った儂は、残りの仲間を回収すべく、聖獣の姿でアルカナを背に乗せ、水晶平原を駆け抜けていた。
「オウカさんが来てくれて本当に助かったです...。」
「その割には幸せそうに寝てたがの~?どんな夢を見てたんじゃ?」
「なっななないしょですっ!!」
若いのぅ。
この慌てようは男関係じゃろうて...。
「あっ、あれは....トル君!?!?」
アルカナが指さす方向には血に濡れたドワーフ族が地面に倒れておった。
儂はすぐさま駆け寄って人間の姿になり、儂特性の回復薬をドワーフの口に流し込んだ。
「.....!?げほっ!!に、苦い!!!!!」
やはり世界樹から樹液から作った薬はよく聞くのう...。
とっておきではあったが使う機会もなかったことじゃし、まぁよかろうて。
「トル君!?ああよかった、どこか痛い所はありませんか!?」
「あ、ああ...。さっきまではあったけどもうすっかり...傷も塞がってる!?その方は...?」
「話は後じゃ!乗れぃ!」
儂は再度聖獣へと姿を変え、唖然としているドワーフ族を角に引っ掛け背中に乗せた。
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「じゃああなたがあのオウカさん....高価な回復薬、使っていただきありがとうございます....お代は必ずお支払致しますので....。」
「ああ~、よいよい。どうせこのまま使わずに腐らせておったわい。...してアルカナよ、仲間の残りは何人じゃ?」
「レオとフレアの2人です。レオはケットシー族の男性、フレアはジャイアント族の女性です。」
アルカナはヒューマン、トルペタはドワーフ、それにケットシーとジャイアント.....ミウシアはバーニア。
全種類揃っておるなぁ。
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「いや~ほんと危なかったぜ~。アルカナのくれたマナポーションが無かったら終わってたぜ。」
「フレアさん、一緒にいた女の子は本当に連れてこなくてよかったんですか?」
「...?ああ、アイツはあれだ。アクアリス。アタシに負けて力もなくなったんだ。放っておいて平気だろ。」
「「魔族だったんです(か)!?」」
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「レオはやけにピンピンしてるですね....。」
「いや~はは、話し合いで終わったというか....。」
「無事ならそれでいいじゃねぇか。レオが無事で安心したぜ....。」
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無事に全てのミウシアの仲間を回収した。
しかしこのままではディレヴォイズを倒すための戦力が足りない。
どうにかして奴の力を裂かねば....。
思考を巡らせながら城へと向かっていると、途中で懐かしくも不思議なマナの流れを感じた。
そのマナの方へ足を運ぶと....やはりおった。
神出鬼没の時空猫、オセロ。
儂が国を成す時の手助けとなった聖書、『江戸時代のまちづくり』と儂の黒髪を交換したきりじゃったな。
「そこの時空猫!!説明は後でする!!儂の背に乗れい!!」
「ひっっ!!その声はオウカさん!?絶対にこの黒髪は返さにゃいからにゃあ!!まだ貰ったばかりにゃ!!!」
この時空猫と会ったのは実に数百年前、しかし時空を渡る奴にとって時間は意味をなさぬ。
時空、つまり過去に戻ることが可能じゃ。
上手くいけばディレヴォイズを倒す鍵になりうるじゃろ。
逃げようとするオセロの服へと角をひっかけ、儂は城へと向かった。
そしてたどりついた城の真下の滝。
遥か上に見える城から禍々しいマナを感じた。
あれはディレヴォイズのマナで間違いないじゃろう。
ということは....。
「...いかん、既に戦いが始まっておる!!時間が無い、つかまっておれ!!!」
儂は今まで抑えていた聖獣の姿を解放し本来の大きさへと変えた。
「うわっ」「でけぇ!!!!」「なんです!?」「パネェ!!」「もうなんなのにゃああああああ!!!」
「崖を登るのじゃ!!皆の者は戦闘の準備をしておれ!すぐにつく!!」
鹿である儂にこの程度の崖なんぞただの緩やかな坂でしかない。
崖のわずかな凹凸に足を引っかけながら駆け上がった。
「説明がたりにゃいにゃああああああああああああああ」