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「150話 突然の遭遇 」

「なんとか言ったらどうだ?」

その青年は皮膚のほとんどが黒色の鱗に覆われ、頭からは後ろに向かって2本の角が生えていた。

身体からあふれ出るマナからは威圧感や恐怖、憎しみ、怒り等様々な負の感情をいっぺんに突きつけられているような感覚にさえ陥る。

間違いなく竜種それも今までとは比べるまでもなく格が違う強さ。


「ディレヴォイズ...!」

「そうだ神の使徒よ。我が魔族の王にしてただ1人の龍種、ディレヴォイズだ。」

私とニカが武器を構えると、ディレヴォイズはこちらを一瞥し、はぁ、とため息を漏らした。


「野蛮な奴らだ。我は今対話を望んでいる、武器を降ろしたらどうだ?」

「信じられると思いますか?貴方は油断させておいて後ろから襲い掛かるのがお得意でしょう?」

...?ニカが竜種の性格と真逆なことを言い出した。

竜種って言うのはそういう卑怯な行動が嫌いなんじゃないの?


「我が?後ろから?....クッハハハハ!目を瞑っていても殺せる相手を何故そのような方法で殺さなければいけな.....。」

高笑いをしていたかと思えば急に黙ってニカを見つめるディレヴォイズ。


「そうか、わかった。わかったぞ!!貴様森の賢人だな!?姿形が変わってもその魂の色は間違いない!であればそのようなことを考えても不思議ではないな!!」

森の賢人?魂の色?ニカが?

確かにバーニア族は森に住むらしいけど、ニカは実家が農家だよね?


「ニカ...?」

「黙っていてごめんなさい。私は前世でディレヴォイズに殺されています。....何千年も前に。」

何千年....?


「なんだ、そこの神の使徒は初耳といった様子だぞ?...我が話してやろう。こ奴は我がまだ力を持つ前、この世界で一番のマナを持つ聖獣としてこの世界の均衡を保っていたのだ。」

「...聖獣?というかニカは前世の記憶をもっているの?」

「ええ。そうです。私の前世はエンシェントユグドラシルラビット、.....魔物です。」

私から顔を逸らせて静かに呟くニカ。

....でもなんで後ろめたい顔をしているんだろう?魔物だろうとニカはニカだし、前世の記憶を持つというのは私も似たようなものだ。

なんなら私は元々男だし、こっちのほうが爆弾なきもするけど....。


「それで、前世では不意を打たれたってこと?」

「はい。魔物達で手を組んで人間を滅ぼそうと言われたので断ったのですが、その時は竜種のことをよく知らなくて...。私はもともと戦闘が得意ではない魔物でした。攻撃をされる前に常に結界を張り巡らせているような臆病な魔物だったのです。...当時の私は話せばどんな生き物でも分かり合えると思っていましたので、そこを突かれて....。」

...それで世界一のマナを持つほどの聖獣であるニカが不意を打たれたって事か。


「ククク、貴様らは知らないであろうから教えてやろう。本来竜種というのは力に貪欲、相手を殺してマナを吸収するためにはどんな手段も選ばないような種族なのだ。...しかしそれでは扱いにくい、だから我が力で同種をねじ伏せ、竜種の思想を変え、従えた。」

「つまり今の竜種の考え方は、ディレヴォイズが都合のいいように作り替えたもの...?」

「そうだったのですね....。」

ディレヴォイズだけがその思想を持つとしたら、今までどれほどの魔物や人間を襲ってマナを吸収したのだろうか。


そこで私はふと気になってしまう。ディレヴォイズのステータスを。


「.....<鑑定>アナライズ」

「む?解析の魔法か。好きなだけ試すがいい。そして力の差に絶望せよ。」


-------------------

名前:ディレヴォイズ

種族:エンシェントフレアドラゴン

職業:竜神王

HP:947561/947561

MP:∞/∞

力:S+

防御:S+

魔力:◆

早さ:A+

運:-

称号:魔を統べし者

  ・マナが尽きない

  ・マナを使用した攻撃を無効化

-------------------

有り得ない。

なにこのステータスは....。

MPは無限。

魔力は鑑定では測れない。

一番低くてもA+、それ以外は最高ランクのS+。


「.....だめだ。絶対に勝てない。能力値は速さだけA+、他は全てS+。魔力、速さは鑑定じゃあ測れない。....しかもマナは尽きない...。」

「....私の力を取り込んでいるというわけですね....。あれはドライアドから譲り受けた力。ドライアドを裏切った貴方がその力をものにするなんて....。」

ニカも昔は魔力に限りが無かったってことかな....。

ってことはHPと力、防御、早さはディレヴォイズ自身の強さ。


「ドライアド、あいつらは美味かったしいい抱き心地だったが...すぐに壊れるのが難点だったな。クハハハ」

まるで食料や玩具としてしか見ていない、といった口ぶりで語るディレヴォイズに向けてニカが駆け出した。


「貴様ああああああああああ!!!!!」

普段声を荒げないニカが我を忘れて切りかかる。

私もそれに合わせて火と光のソウル・スピリットを発動して、ディレヴォイズの背後に回り込む。

もう1体1のルールは無駄だ、1人じゃ絶対に勝ち目はない。


狙うは鱗の少ない首、二振りの小刀を構えて刃を突き立てる。


「知らないであろう?抱きながら腹を裂いてドライアドの核にかぶりつくと、キュッと締まって一気に快感が押し寄せてくるのだぞ。核は美味いし快楽は満たせる。さらにマナも跳ね上がる、最高の玩具だったぞ。」

「ああああああ!!!!」

「ッ!」

しかしディレヴォイズは全く動かずにそれを受けた。

ニカの攻撃ももちろんノーガードで受けるディレヴォイズ。


結果は全くの無傷。

鱗が無い部分を狙ったはずなのに、刃はその浅黒い皮膚で止まっていた。


...防御がS+でもさすがに皮膚にダメージを与えることはできるはずなのに。

もしかして、マナが無限ということは皮膚を覆うマナの防御膜も尽きない....?



つまり....無敵(・・)




「そういえば彼の有名な森の賢人様にはドライアドの親友がいたな?確か名前は...。」

「シルティにも手を出したというのか?!?!!?!」

ニカが雷属性でソウル・スピリットを展開する。

雷の翼が背に伸び、まるでニカの怒りを表すようにバチバチと激しい音を周囲に響かせた。

以前みた光の翼とは性質が全然違う、攻撃的なものだった。



「シルティ、あのドライアドはいつまでも『何故賢人様を殺した』と喚いていたぞ。」

「ッ!」

私は日の光を凝縮させた短刀を首元の鱗へ向けて突き立てる。

しかし、ダメージは無い....と思いきや、鱗の表面にほんのわずかばかり傷を付けていた。


一方で雷の翼を羽ばたかせながら飛び上がったニカはほぼすべてのマナを剣に注ぎ込む。

これから来る攻撃に備え、私はディレヴォイズから距離を置く。

ニカの攻撃力は低いとはいえ、雷による攻撃はたとえ堅牢な守りだとしても生きている以上、効果はあるはず。


そしてニカは頭上から雷の如く剣を突き立てる。

------大きな雷落ちたかのようなすさまじい爆音の後、周囲は光に包まれた。


「まぁ....。」

雷による光が収まると、目の前にはディレヴォイズが無傷でたっていた。

その顔はニタァと竜種とは思えないほどの下衆な表情。


「煩かったから拘束してゴブリン共にくれてやったがな。」

「そんな.....。」

その言葉と、無傷な姿を見てニカがガクッと地面に崩れ落ちる。


「ニカ!!」

私はディレヴォイズからの反撃を想定し、ニカの元へ駆け寄った。


.....しかしディレヴォイズからの反撃はない。


「ク、クッハハハハハ!!!確かにここまで来ただけのことはあるな!隊長クラスでは今の怒涛の攻撃で傷を負っていたはずだ!」

額に手を当ててオーバーリアクション気味に笑いだしたディレヴォイズ。

今の攻撃が自分の中の最高の一撃ではない、....けどあれでダメージを与えられないなら何をしても無駄。


それに、対象を切る攻撃じゃあマナの防御膜に守られてしまう。

攻撃を通すならたぶん、打撃だと思う。


でも私の攻撃手段に打撃はほとんどない。

あってもせいぜい蹴るくらいだけど、あの硬さじゃあ足が駄目になる。


....相性が良かったのはフレアだった。


「勝手に攻撃してきて勝手に絶望されてはつまらん。我をもっと楽しませろ。....それに2人掛かりとは条約違反ではないか?」

ふとニカの方を見ると、親友だったドライアドが無残な殺され方をしたのがよっぽど答えたのか、「ごめんなさい」と呟きながら顔を覆って泣いていた。


私がやらなきゃ、このままじゃあ二人とも殺される。

せめてみんながここに辿り着くまで時間を稼がないと。

それに、惚れた女性が泣いてるんだから私が、俺が守らないと。


「ニカ、ここで待ってて。」

「すみません....すみません....。」

ニカを置いて一歩前に出る。


ディレヴォイズが私達をはるかに見下しているのは解ってる。

実際、力量ははるかに下だ。


「そっちは攻撃してこなくていいわけ??」

だったらこう言っても絶対に攻撃をしてこない。

必要なのは飽きさせないことだ。

この手の強者は飽きたら躊躇なく相手を殺す。


「我が攻撃したらそれで終わってしまうだろう。それとも終わらせたのか?」

「まさか、こんなところで死にたくないからね。」

攻撃を与えられそうな手段が全くない訳じゃない。


私自身、その手段がどういう効果なのかよくわかっていないから出し惜しんでいた。

でもここまで来たら、少しの可能性に望みを託すしかない。


「奥の手見せてあげるよ。暇つぶしにはなるんじゃないかな。」

「ほぅ、ならば足掻き尽して見せよ。場合によっては攻撃してやらんこともない。」

どこまで傲慢なんだか.....。


「....ふぅ。」

体内の火と光属性のマナを、桜下兎遊と桜下兎走を通して属性だけ排出しスピリット状態を解除する。

アイテムボックスからカナちゃん作成のマナポーションを取り出して口に一気に流し込んだ。


「うぇ!」

「カハハ!それが奥の手では無かろうな!」

「うっさい!」

カナちゃんのマナポーションマズ過ぎない!?

小学校にあった苔まみれの池の匂いがするんだけど!


...格好がつかないなぁもう。



気を取り直して、光水の属性を持つ桜下兎遊にマナを流して光属性のマナに変換。

更に闇火の属性を持つ桜下兎走にマナを流して闇属性のマナに変換した。


-------------------------------------------------------------------------

以前オウカの元で修行をしていた時は光と闇を同時に体内で循環させるのに、混ざり合わないように発動するよう意識をして失敗した。

光と闇が白と黒だとすると、灰色にならないように。

そういう風にオウカに教わった。


実際に失敗して混ざってしまった時は維持ができなくてすぐに解除してしまった。


でもその灰色こそが成功なんじゃないかと私は思った。

そう考えたのは私自身の境遇と重ねて考えた時だった。


....私は以前男だった、でも今は女性。

男女の精神が交じり合ったのが今の私だ。

性格を2つに分けたわけじゃない、融合した存在が私。


ダブル・ソウル・スピリットは完全に2つの属性を分けてそれぞれの属性から力を引き出してる。


じゃあ交じり合ったら失敗?

そんな訳ない。

交じり合ったらどちらの属性でもない、新しい属性が生まれるだけだ。

-------------------------------------------------------------------------


光と闇属性を、武器から吸収して2つの属性を混ぜ合わせる。

かき混ぜるイメージではなく、マナの粒子を均等に結合させるイメージ。

体内の全てのマナを変換し、結合させる。

最初から結合していたように、元あるべき状態に戻すかのように....。


「...まだか。流石に退屈になってきたぞ。」

あまり時間をかけてディレヴォイズに攻撃されたら意味が無い。

けど、焦ったら成功しない。


体内で結合していくマナは、光と闇のマナから本質を変え全く別の属性へと変化していく。

光であって、光でない。

闇であって、闇でない。

表裏一体の属性の性質を同時に持つ矛盾。


「....飽いた。無駄な足掻きであったな。」

「ミ、ミウちゃん、避けてください!!!!」

ディレヴォイズがこぶしを握り、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

私は焦ること無く、丁寧に、丁寧にマナの操作を続ける。



「ミ、ミウちゃん...防御を....マナが....。にげて....逃げて!!!!」

ディレヴォイズが目前まで迫ってくるが、私はその場を動かない。


「死ね。」

----------その言葉と同時に、私の腹部をディレヴォイズの拳が貫いた。

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