「149話 長い階段の先に 」
「雑魚敵に球に液体に毒ガスに....竜って誇り高いんじゃないの~~~?なんでこんなセコい罠ばっかりな訳~!!」
唯々階段を上り続ける私とニカ。
階段の横幅ギリギリの大きさの球を避けた後にも罠はたくさんあった。
壁からぬるっとした液体が流れ出て危うく転げ落ちるような罠、自我を持たないような低級の魔物が大量に振ってくる罠、目がしみるようなガスが壁から吹き出す罠.....とても誇り高い竜種が作ったとは思えないようなものばかりだったよ。
「そうですね、竜種...というより魔族が仕掛けたとは考えにくいです。...もしかしたらこの建物はもともと別の者によって作られたのかもしれませんね。」
「なるほどねぇ~。」
誰だかわかんないけど趣味が悪いなぁ....。
「それよりもミウちゃん。外から見た高さと私達が登ってきた時間を考えるにそろそろ城に到着すると思いますが、マナの方は大丈夫ですか?」
「~~~!やっとか~~~!!マナはね~、道中罠のせいで地味に消費したからなぁ。」
頭の中でステータスと呟き、今のマナの量を確認する。
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名前:ミウシア
種族:バーニア族(半神)
職業:魔双剣士(Lv88)
HP:1720/1940
MP:6800/8830(280UP)
力:A
防御:C+
魔力:A+
早さ:S+
運:A+
称号:善意の福兎(6柱の神の祝福により効果UP)
・自分以外のHPを回復する時の回復量+100%
・誰かのために行動する時全能力+50%アップ
・アイテムボックス容量+100%
・製作、採取速度+200%
※このスキルはスキル「鑑定」の対象外となる。
※このスキルを持っていると全NPCに好意的な印象を与える。
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あれ、地味に上がってる。
雑魚敵しか倒してないのに何でだろう?
マナは案の定3割くらい消費してた。
クリエイトストーンで割と精密な設定をしすぎたのもあるのかな?
.....というかステータス確認する度に思うけど、称号「善意の福兎」って恩恵感じた事あんまり無いんだよね。
旅してる最中に色々採取したり寝床作ったりする時は他の人よりも圧倒的に早く済むんだけど....他の人を回復することが無い、というか手段が少ないのと、誰かのために行動するタイミングがあんまりない。
竜種と戦うときとか1対1だし。
「3割くらい減ってるなぁ、この後すぐにディレヴォイズと戦うとかだとちょっと心配かな。」
「...おそらく城にはまだたくさんの魔族がいるでしょう。竜種ではないものが問答無用で攻撃を仕掛けてくるかもしれませんし、7割あるならディレヴォイズと対峙する時までマナポーションは控えておきましょうか。」
「了解っ!...そろそろ気を引き締めないとね。」
今が旅の最終局面ってことは解ってるけど、ニカと2人きりで特に危険性も高くない道をずっと登ってきてたから、少し気が緩んでた。
皆が将軍クラスの竜種と戦って繋げてくれたこの道は無駄にしちゃいけない。
それにどうせすぐ私達に追い付いてくるはず。
「ミウちゃん、あれ見てください。」
「...ついに登り切ったね。」
ニカが階段の上を指差した。
そこには入り口と同様に、大きく豪華な装飾が付いた扉があった。
この扉を開けたらそこは敵の本拠地、この大きさだし絶対にこっそり開けることはできないと思う。
つまり開けたらすぐに敵が襲い掛かってくるかもしれない。
「念のためミウちゃんにシールドスキンを貼っておきますね。」
そう言って私の肩にニカの手が触れた。
触れたところから、皮膚に沿ってニカのマナが流れこんでくる。
シールドスキンとは、人間が自然に展開しているマナのバリアの上から更に重ねて付与するスキルらしい。
ニカがよく使う半球状で全体を覆うバリアよりも防御力は無いけど、皮膚の上に膜を作るような方法だからいくら動いても大丈夫な使い勝手がいい。
「ありがとう、私からも何か付与出来たらいいんだけど...もし私を守って怪我したら言ってね?ホーリー・スピリットで継続回復できるし」
「あ、あれですか....。まぁもし危なくなったらでお願いします....。」
私がそういうとニカは顔を赤くして前を向きながらもにょもにょと答える。
?なんでそんな反応をされるんだろう?
...あぁ、そういえばそうだった。ホーリースピリットのマナを分け与えて回復するとなぜか(性的な意味で)気持ちよくなっちゃうんだった。
戦闘中にそんな(・・・)状態になったら絶対に支障が出るよね。
自分にはそんな効果は無く、只ポカポカした気分になるだけなんだけど...他の人に分け与えるのが何か問題があるのかな?
「...じゃあ開きますよ?」
ニカが右手に盾を構えながら、左手を扉に当てる。
「うん、お願い。」
私も短刀を両手に持って構えた。
ギ...ギィ...ギィーーーと音を立てながら扉がゆっくりと開いた。
扉の先には王都のお城に負けないくらい立派な通路が広がっていて、ここは突き当りの用だった。
「...敵はいないみたいね。...道の先からたくさんの人が話す声がする。」
通路の先は暗闇で何も見えない、でもこの長い耳で音を確認することはできた。
大分先だけど、かすかにたくさんの人が話しているのが聞こえた。
よく聞き取れないけど、なんだか賑やかに話しているような....。
「なるほど、どうやらここはあまり注視されていないようですね。とりあえず柱に隠れながら進みましょうか。」
ニカは魔族が襲撃してきたとき片耳を切り落とされたせいで聴力が低下してるみたいだった。
ここは私がちゃんとしなくちゃ...。
「私が先に行くからついて来てね。ニカは鎧を着てるから難しいかもしれなできるだけ音をたてないように...そうだ。」
風魔法で音を遮れないかな?
魔法陣の命令文は...新しく作る魔法陣は女神のティアから貰ったサポートが効かないから自分で組み立てなきゃいけないんだっけ。
..えーっと<音を><外に><漏れないように><風で><遮りたいな><お願い>...これ何に媚びてるんだろう、この星のシステム?
なんだか空しくなるなぁ。
「サウンド・ブロック<遮断風>!」
魔法陣をニカの足元に構築して始動キーを唱える。
私達の体を風が覆う。
成功かな?
「....!....?」
「え?なんて??」
ニカが口をパクパクさせて何かを訴えているけど何も聞こえない。
もしかして話し声も遮断してる?
範囲は狭いとは言え体の周囲だから、近付けば聞こえるかな。
抱き着くようにして近付くと、ニカが驚いたような表情を浮かべる。
「...!わっ、ミウちゃん??」
「これで聞こえた。音を遮断するのは成功したっぽいけど、話すには近付かなきゃ行けないみたいね。」
「..いきなり近くに来たから驚きました。...ありがとうございます、何かあったら手で触れて呼びますね。」
「わかった、じゃあ行こうか。」
私は音をたてないように歩くことができるし、周囲の音を確認する必要があるから音を遮断する必要はない。
一方的にニカからの音が聞こえない状態で進むことになった。
少し通路を歩いていくと、壁に突き当たった。
その左右は二手に道が別れている。
ニカが振り返って私に手招きをしてくる。
どっちに進むかってことかな、さっきから聞こえてくる話し声は右側の通路の先から聞こえた。
魔族がいる方に進むのか、それとも逆か。
「どっちに行くかってことだよね?声は右からするけど、どうする?」
「...できれば余計な戦いは避けてディレヴォイズの元へ行きたいですね。ディレヴォイズは魔族の王、城で王がいる場所と言ったら最上階でしょう。ここが何階かはわかりませんが、上へ向かいたいところですね。」
「上かぁ」
今わかることから上へ向かう階段がどこにあるかはわからない、だったら人気のない方に行くべきかな。
「左に行こう。状況がわからない以上、人気のない方がいいと思うし。」
「わかりました。」
「ニカ、あれ階段じゃない??」
「そうみたいですね、周りに魔族の気配はありますか?」
人気のない方向へまっすぐ進むと、運よく階段を見つけた。
私は耳を澄まして周囲を確認したけど、階段の上からは特に音がしない。
「大丈夫っぽいよ、登ってみようか。...割と上の方まで登ることになりそうだなぁ。」
ニカから離れて階段の手すり部分から上を覗き込むと、大分上の方まで階段があることが確認できた。
二カも私の後を追って上を覗き込む。
「でもこれで一気にディレヴォイズに近付けますね。上がってしまいましょう。」
「そうだね。...?なんか向こうから複数足音が聞こえる。ニカ、階段上がって。」
ニカをグイッと押しながら階段を上る。
足音は階段からではなく、階段の更に奥の通路から聞こえた。
こっちに来ないと良いけど....。
「まさか人間がクリスタルレイクまで来るなんてなー」
「ほんとだよな。まぁ人間達も運がねぇよな。コシャル様達相手じゃ今までの魔族と比べもんにならねぇし。」
しばらく階段に身を潜めていると、2人の魔族の声が聞こえてきた。
「でもゲオグリオスって新人も倒されたんだろ?あいつ、一回手合わせしたことあるけどバケモンだったぞ?」
「どーせ人間に情でもうつったんじゃねーの?魔族として意識低かったし。」
ゲオグリオスってそういう風に思われてたんだ、そういえばゲオグリオスは無事に大陸を渡れたのかな。
「まー、人間もここまでってことだよな。人間に勝ったってことはあの大陸は俺ら魔族の縄張りになるんだろ?」
「だな。あー、ディレヴォイズ様広い縄張りくれねぇかなぁ。」
もはやコシャル・サッハ達隊長クラスの魔族が勝つこと前提で話してる。
話しぶりからして魔族の中でも下っ端っぽい。
「無理だろ、ディレヴォイズ様って俺らみたいな雑魚認知してるかもあやしくねぇか?」
「ちげぇねぇな。何前年も生きてるらしいしボケもあるんじゃね?」
上司の悪口、人間も魔族も上下関係があれば言うことは同じだね。
「ばっ、お前誰かに聞かれてたら殺されるぞ!?」
「誰もいねぇよ、上級兵までは皆食堂でお祭り騒ぎだろ?見回りしてるのは俺らだけ。あー、俺らっていつも貧乏くじ引くよなぁ。」最初に音が聞こえてきたのは食堂だったのか、そっちに行ってたら大量の魔族に見つかって間違いなく戦闘になってたな。
「確かに、ディレヴォイズ様もどうせ部屋に籠って女といいコトしてんだろうなー。」
「クソ!!何でおれらはモテないんだ!!...一度でいいからアクアリス様みたいな美竜抱きてぇなぁ。」
ディレヴォイズは部屋に籠ってる?
だとしたら本当に最上階とかにいるかもしれない、一番上まで行ったらそれっぽい豪華な扉を探してみよう。
....それにしても2人の魔族がなんだか可哀そうになってきた...。
皆が騒いでる中で2人だけ見舞り、しかも上司は高みでいい思いをしてる。
「隊長といえばシャムラリオル様いるじゃん?この前捕えた人間もうダメにしたらしいぜ?」
「マジか、数日前に捕まえた奴だよな?...あの人も良くやるよな~。何して人間で遊んだらあんな頻度で消費するんだ?食ってんのか?」
シャムラリオル....ってあの筋肉マッチョの見た目してた竜種...?
そんな危険な相手だったとは思わなかった。
皆大丈夫かな...。
「....あー、上の階も見回りすんのめんどくせぇな。」
!?やばいこっちに来る!?
「....見回りしたことにして食堂戻らねぇ?見回りしてもしなくても変わんねぇし、俺腹減ったし。」
「だなー。この城まで人間が来るはずないし、戻るか。」
な、何とかなった....。
見回りの魔族はそのまま私達が通った道を進んでいった。
ちらっと見えた後姿からして1人が背の高いゴブリン..オーガだっけ?もう1人が二足歩行で歩くサンショウウオ。
いろんな魔族がいるんだなぁ。
「ニカ、もう大丈夫みたい。見回りの魔族が話てた内容からして魔族皆食堂にいるらしいし、このまま階段上がっちゃおう?」
「わかりました。都合よく知りたかった情報が聞けて良かったですね...にしても皆食堂とは、警備が甘すぎます。こちらには好都合ですが。」
冒険者でありながら王都の城と密接な関係にあるニカにとって、そういうところが目についてしまうらしい。
廊下を歩いてる最中も、「掃除が全くできてませんね。まるで廃城のようです。」とか言ってたし、嫌でも王都と比較しちゃうんだろうね。
「まだ階段は続いていますが、このまま一番上まで登ってしまいましょう。」
「りょーかい。」
いちゲーマーとしては一階ずつ隅々まで探索してアイテムを探したくなるけど、ここはグッと抑えて上へと向かう。
...?風の音?
「ニカ、上の方から風の音がする。」
「確認しておきましょうか、ディレヴォイズを倒した後そこから脱出できるかもしれません。」
「おっけー、じゃあ上がろう....っと、そろそろ敵の気配もないし解除するね。」
マナの消費も少なくないし、ここでサウンド・ブロック<遮断風>を解除する。
解除した瞬間から、ガシャっと鎧の動く音がするようになったけど、周囲に敵の気配は無いから問題ない。
「ありがとうございました、では向かいましょうか。」
ガシャ、ガシャとニカが階段を上る度に鎧が動く音がする。
こんなに音がしてたんだ、もしこの魔法使ってなかったらさっきバレてたかもしれないな。
「開けますね。....わぁ、ミウちゃん。ちょっと見てください。」
先に階段を上り切ったニカが外へと続く扉を開け、私を呼びかけた。
ニカが扉を開けたことで階段の上から外の光が入ってきてとてもまぶしい。
いかにお城の中が薄暗かったかを思い知る。
階段を駆け足で登り、外に目を向けるニカに追い付く。
行き成り明るくなって目がなれず、すぐに外の景色を確認することはできなかった。
「まぶし....うわ、絶景だね。」
そこには中心に大きな噴水、周囲には花壇に花が彩られてとても美しい、空中庭園があった。
更にその先にはクリスタルレイクを一望できるほどの絶景。
.....てかここめっちゃ高いね!?
崖の淵にお城が立ってたくらいだし当たり前なんだけども!
「ここは庭園でしょうか?あのディレヴォイズが花をめでるとは思いませんが....。」
「?そうだね、そういうイメージないよね、魔族の王でプライドの塊の竜種だもん。」
ちょいちょいディレヴォイズを知ってるような話し方になるニカに少し疑問を覚える。
話で聞くというよりは旧知の仲のようなそんな話し方。
....聞いてみようかな。
「ねぇ、ニカはディレヴォイズと会ったことがあるの?なんか知ってる口ぶりだけど。」
「え、えっと...。」
ニカは困ったような顔で髪を触りだした。
これ聞いちゃいけないことだった?
「じ、実は....。」「ほう、その神力..貴様神の使徒か?」
ニカがそこまで言いかけると後ろから大地を響かせるような低い威厳のある声がする。
私もニカもバッと声のしたほうを向く。
「もう一方の兎はなぜか懐かしい魂をしているが、貴様は何者だ?」
そこには恐ろしいほどのマナを持った、赤髪の青年が立っていた。