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「148話 フレアの戦い 後編 」

SIDE:フレア

「なぜです!?ジュエルウォータースケイルが!?」

負の火属性、冷属性で極限まで温度を下げた石の礫がアクアリスに遅いかかる。

やっぱり、あの防御力はマナを含んだ水のお陰ってわけか。


火と水じゃあ相性は最悪だと思ってたが、逆だったみてぇだな。


追撃を入れるため、ぶっ壊した地面に向かって駆け出した。


「っ!食らいなさい!!!」

アクアリスの手に持つ鞭がしなって空を叩く。

鞭の先端からキラキラと輝く水が飛び散り、無数の針となってこちらに飛んできた。


「それも水だろうが!」

軽くハンマーを振るって冷気の風で凍らせてから再度ハンマーで氷を砕く。

しかし完全に砕くことはできず、カンカン!と音を立てて弾くだけだった。


とはいえ、アクアリスとアタシの間に障害は無くなった。

そのまま足を止めずに駆け抜け、ハンマーにマナを集める。


「食らいやが....ッ!?」

止めを決めようと思った矢先、体の至る箇所に激痛が走る。

痛みで体に力が入らなかったアタシは攻撃を止め、無理な体勢でその場から飛びのいた。


「ぐっ...。」

痛みの正体は何だ?

体を確認しても特に目立った外傷は無い。


「ふふ...痛いかしら?」

ゆっくりと近づくアクアリス。

先ほどまでの焦りは一切感じない、余裕の笑みで歩いてきた。


「テメェ、アタシに何をした。」

ズキン、ズキンと感じる痛みに耐えながら立ち上がり、ハンマーを構える。

痛みを感じるのは腕、足の力を入れる箇所が特に多い。

これじゃあまともに攻撃ができない。


「そんな素直に答えると思った?...でも貴女は私を追い詰めることができたから特別に教えてあげるわ。...この鞭はね、私のこの自慢の宝石でできた髪が元になっているの。そしてさっきの攻撃は水と髪の毛を飛ばした。.....ここまで言えばわかるかしら?」

宝石でできた髪...!クソ、だから砕けなかったのか!


腕を良く見てみると、キラキラとした糸のような物が体に食い込んでいるのを確認できた。


「いっ!!?」

その糸を掴むと、掴もうとした手が皮の手袋ごと刃物で切り裂かれたように傷がつく。


「気が付いたみたいねぇ?掴もうとしても無駄よ?この髪の毛は名匠の作る剣の刃先よりも細いの。言わば剣を素手で掴むような物よ?」

この髪の毛を抜くことはできねぇみたいだ。

そもそも、一本一本抜いてる時間は無いんだけどな。


..抜けないなら我慢しながら戦えばいい。


「....ッ!オラアアアアア!!」

力を入れるたびに針を刺すような痛みがあたしの全身を襲う。

それでもハンマーを振ることはできた。


アタシが動けないと思って油断しているアクアリスに向けて攻撃を仕掛ける。


「ジュエルシールド」

ハンマーが目の前に近付いてきてもアクアリスは焦ること無く、鞭を宙へ投げた。

宙に投げられた鞭はほどけて髪の毛へと戻り、円状に形を変えて絡まり合った。


「そんな力の抜けた攻撃じゃあ壊せないわよ?」

宝石の盾となった髪の毛であたしの攻撃を難なく受け止めたアクアリス。


そのまま何度かハンマーを振り回し、攻撃を重ねるが全く効果が無い。


只の水の盾なら壊せたかもしれねぇが、竜種の体の一部となりゃ話は別だ。

こんな力が入らない状態じゃあ傷一つ付けられねぇ。

それに攻撃するだけで激痛が走る。


だからと言って攻撃の手を休める気はない。


「...はぁ。結局貴女も勝負にならなかったわね、もういいわ。」

盾でアタシの攻撃を防ぎながら落胆した表情を見せたアクアリスがすっ..と手を上げた。


「カウンターニードル」

「ぐあっ!!」

次の瞬間、盾からキラキラとしたものがアタシに向かって飛んでくる。

奴の髪の毛だ、継続する痛みに加えて顔にも激痛が走った。


「もうまともに戦えないでしょう?...もっと派手な技で戦いたかったのだけれど、今回も無理みたいだわ。」

上から下まで、至る所に激痛が走る。

まともに体を動かせずについに攻撃の手を止めてしまった。


痛みがもどかしい。せめて痛みを緩和できれば....。

痛みを緩和....?

その手があったか!


体内の冷属性のマナを体の内側ではなく外側に移動させる。

痛みを感じる場所には特に多めに。


「??...肌寒くなってきたわね...。」

アクアリスが腕をさすって体を暖め始める。

アタシのマナが周囲の空気も冷やしてるみてぇだな。


徐々に痛みが鈍くなってくるのを感じた。

身体を動かすとまだ多少は痛みがあるが、これくらいなら問題ない。


「あぁあああ!」

再びハンマーを構えてアクアリスへの攻撃を再開した。

しかし、今度は体が冷えて感覚が鈍くなったことで体を動かしにくくなる。


「あら?痛みはもう平気なの?...でもさっき以上に勢いが無いわね。体を冷やして痛覚を鈍くしているのかしら?」

「だったらっ、何だってんだよ!」

盾への攻撃の合間に地面を叩いて砕いた石をアクアリスに向けて打ち込むも、全て避けもせず正面から受けている。

水を混ぜて防御していた時は効いたのに、自前の鱗だけの防御方法に切り替えたってことか?

これじゃあいくら攻撃しても意味が無い....。


「体を冷やしてしまったら逆に動きにくくなってしまうわよ?頭の方はあまりよくないみたいね。」

アクアリスが手を振り上げて横に払うと盾も連動して動き出す。

アタシの攻撃に合わせて盾を動かしてきたせいでハンマーが弾かれ大きくのけぞってしまった。


「バッシュ」

盾がそのままアタシの腹部に命中し、後ろへ大きく吹き飛ばされてしまった。

幸い、髪の毛を射出されなかったため吹き飛ばされただけで済んだ。

幸い...じゃねぇな。手加減されてんだ。


身体を冷やさないと痛みで動けない、体を冷やすと動きが鈍る。

水での防御が無くなった今、高火力を出すために火属性のマナを高温にしないと相手にダメージを与えられない。

でも高温にしたら痛みで動けない。


真逆のことを同時にやらないと勝ち目がないってことか?

こういう器用なことを考えるのはアルカナ辺りに任せてたせいで全くいい案が浮かばない。


馬鹿なアタシはただがむしゃらに戦うだけだ。

....だったらがむしゃらに熱しながら冷やせばいいか。


身体の表面に冷属性のマナを固定しながら体の中心部を熱する。


「いっ...つ...。」

動きが戻ってきたと同時に痛みも再び感じ始める。

痛みを抑えるために再度冷やす...。


「くそ....。」

身体を動かすと、やっぱり動きが鈍い。

もう一度熱すると痛みが戻る。


「どうしろってんだよ!!!」

冷、熱、冷、熱...。

そりゃ無理だ、右見ながら左見ろなんて言われても無理なのと同じ事だし。


「ジュエル・カッター!」

そうこうしてるうちにアクアリスの方からアタシに向けて大量の水が放たれた。

嫌な予感がして横に避けると、アタシがいた場所に大量の鱗が投げナイフのように刺さった。


「あら?よく避けれたわね。」

...?そういや痛みが無くなってる。

腕をよく見てみも、キラキラと光っていた髪の毛の針の痕跡はない。


何でだ?

....もしかして、熱して冷ましてを繰り返してたからか?


「最後まで諦めなきゃ何とかなるもんだな....。」

アクアリスはアタシが冷属性の間は水を鱗に纏わないはず、油断させるために冷属性で近付いて瞬時に火に切り換える。

これならダメージを与えられるはず...幸い切り換えるのはさっき散々やったからコツは掴んだ。


「クソぉぉぉ!」

油断させるためにも冷属性でがむしゃらに攻撃をしているフリをする。


「もうこれ以上は時間の無駄ですね、中々楽しめましたよ。」

アクアリスは盾で防御するまでもないと判断したのか盾を髪の毛へと変え、自分の頭に戻した。


「せめて最後は私の出せる最強の技で葬ってあげましょう。」

都合のいいことに隙を見せた。

だがまだだ、技を出す直前までアタシは無様にも効果のない攻撃をし続けているのを演じ続ける。


「おらああああああ!!」

身体の温度が低下して動きの鈍ったアタシの攻撃をその身に受けながらも、アクアリスは攻撃準備を行う。

額から延びる一本の美しい宝石のような角が、淡い青色だったのにどんどんと深い青色へと変わっていく。


「食らいなさい―――――」

アクアリスが角に意識を向けたその時、アタシは瞬時に体内のマナを全て熱く燃え滾らせる。

と同時に、ハンマーへ火属性のマナを大量に流し込み、地面へと叩きつける。


「ヴォルカニック・ゲイザー!!」

「ッ!?」

ハンマーを通して地中に送り込んだ火属性のマナは、大地を溶かしながら地中へと沈んでいく。


「なっ、貴女、その状態でも動けるの!?痛みでまともに動けないはずよ!?」

アクアリスは警戒して攻撃を中断し一歩下がった。

だけどもう遅い。


アクアリスが下がった先の地面が次第に赤く、膨れ上がり....そして。


「きゃああああああああ!?!?」

地面から溶岩が噴き出した。

アタシは間髪入れず体内のマナを冷属性へ変えて地面をえぐりながらハンマーを振るった。

冷え切った石の礫が溶岩へ当たり、瞬時に冷え固められていく。

流石にこれで戦闘不能になるレベルのダメージは与えられない。


「クッ、この!」

固まった溶岩から顔と手と足だけが出ているアクアリスに向けて、アタシは踏み込みながらハンマーを振るう。

急激に熱した体に、凍えたハンマーの一撃。

多分痛いだけじゃあ済まないよなぁ?


「アタシの勝ちなッ!」

「やっ、やめ....!」

冷え固まった溶岩ごとアクアリスの腹部にハンマーを叩き込むと、ギィィィン!!!という音と共にアクアリスは半分に砕けた。



「.....あ~~~~。疲れた。マナがもうからっからだ。」

ストン、とその場に座り込んで空を眺める。


「...私の負けね。」

「うぉわっ!!!!」

半分に砕けたアクアリスが突然喋り出して心臓が跳ね上がる。

何だよ!幽霊的な!?そういう感じの奴か!?


....ちがう、半分になっても普通に喋ってやがる。


「...竜種ってのは体を半分にされても生きてんのか!?」

「私が特別なのよ。私は通称ジュエルドラゴン、正式な種族名はジュエルスライムドラゴン。竜種だけどスライムの特性を持つの。半分にされたくらいじゃ死なないわ。....と言っても、これじゃあまともに戦えないでしょうけど。」

そういうと、アクアリスの体がぐにゃぁっと軟体化し、溶岩の檻から抜け出してアタシの前にべちゃっと落ちてくる。

アタシは構えようとしたけど、再度人型になったアクアリスを見てその気が失せた。


「もう、こんな姿を人間に見られるなんて屈辱よ...。コシャル君達にだって見せたことないのだけれど....。」

だってトルペタよりも小さいただのガキになってるんだから。


「ぷっ...はははは!お前可愛くなったなぁ!!それじゃあ戦うのは無理だろうな!」

「くっ...!負けた手前言い返せないわ...!!」

そういえばなんでスライムなのに竜人化できるんだ?そもそも竜種なのか?スライムなのか?


「なぁ、お前ってスライムなのか?それとも竜種なのか?なんで人型なんだ?」

「竜種よ。スライムの特性を取り込んだ竜種。スライムと宝石が大好きでずっと食べてたらこうなったの。特性はスライムだから痛みも感じないしある程度軟化もできるのよ。竜種の姿をしていないのは常に竜人化しているから。竜の姿よりもデストラ様に近いこの美しい姿が好きなの。」

ふふんと胸を張るが、今の見た目はチビだ。

アタシは座りながらチビアクアリスの頭をポンポンと叩いた。


「ちょっとやめなさいよッ!...貴女これからどうするの?あの兎女を追うの?」

「ちっとも怖くねぇな!...あ~お前に勝ったことだしすぐにでも後を追いたかったんだが、マナが足んねぇんだよなぁ。」

そう答えると、チビアクアリスがぽてぽてと自分の砕かれた下半身の所に向かっていった。

下半身に触れると先ほどと同じように下半身も軟体化し、するするっと地面にべちゃりと落ちた。

吸収するのか?と思ったが、下半身だったものが次第に半球状のスライムへと変化した。


アクアリスは小さくなった自分と同じくらいの大きさのそのスライムを一生懸命アタシの元へと持ってくる。


「はい、コレ。」

「.....それが何だよ。」

「いいから食べなさいよ。」

「はぁ!?」

アタシに!?自分の体を食べさせようってのか!?


「はぁ!?じゃないわよ。これでも貴女のことを認めているの。この私の身体は高純度のマナでできているの。食べたら体内のマナ何て全快どころかおつりが来るのよ?」

だからといって、なんか抵抗があるんだよなぁ....。

人型の生き物を食べるとか...なんか越えちゃいけない一線のような気が済んだよな....。


「この誇り高き竜種である私が、殺さずに生かされて尚かつ恩を返さないなんてありえないのだけれど!!?いいから食べなさい!!!」

「あーもーわかったよ!!!」

スライムを受け取ると、ところどころに砂利が付着して少し汚い。


「....え...このまま食うのか?」

「当たり前でしょう?....私の高貴な体を分け与えたのだからもっと喜んだらどうなのかしら?」

「ヤッター」

アタシは無言で立ち上がり、湖へ向かった。

.....砂利を落とすために。


ちなみに、アクアリスの体は果物のジュースのような味がして中々イケた。

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