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「147話 フレアの戦い 前編 」

SIDE:フレア

アルカナがコシャル・サッハと戦闘を開始した後、アタシとアクアリスなんちゃらとかいう水着姿のねーちゃんは湖へと移動した。

アクアリスは水魔法が得意みたいで水を纏いながらすい~っと滝に突っ込んで行った。

アタシは滝の裏側をぐるっと回って湖の報へと移動した。


走って向かう最中、滝の裏からはドゴーン!とかバコーン!とかド派手な音がしてくる

血の気が多いんだな、コシャルってやつは...もしかしたらアルカナのほうがあばれてるのかもしれねぇけど。


滝の反対側まで走ってくると、湖に何かがぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。

アクアリアスだ。

何だコイツ....戦う気ねぇのか?


「おい!水着のねーちゃん!戦うのか、戦わねぇのかどっちなんだよ!」

少しイライラしながら怒鳴ると、アクアリアスはそのまま水に浮かびながら体を起こした。

...水に浮かんでるんじゃなくて、水の上に乗ってんのか?ちょっとうらやましいな...。


「んん~....。ごめんなさいね。貴女があまりにも遅いものだから、少し休ませてもらったの。ふわぁ...あぁ。」

なんかふわふわした奴だな...。マイペースというかなんというか。

背伸びをしてあくびまでして、これから戦おうって気が全くしない。

ってかなんでこいつは水着なんだよ。


「わりーな、こちとら走ってきたもんでね。」

悪態をつきながらもアクアリスを観察する。

女のアタシでもつい見とれてしまいそうになるほどに美しい見た目。

青と緑の宝石を溶かして混ぜたようなキラキラと輝く髪の毛、透き通るような肌と美しい竜の鱗。

同じ冒険者の知り合いの男どもが見たら、魔族でもいいからお近づきになりたいって思うだろうな。


「にしても貴女、なかなかいいマナをしているわね。力強く、生命力に満ち溢れてる。」

「そ、そうかよ。」

突然褒められたのに面食らってうまく返せなかった。

アタシはマナを見ることは苦手だけど、ミウシアやアルカナがいつだったか言ってたな。

相手のマナを見ると大体どんな奴かわかるって。


「まぁいいわぁ、戦いましょうか。...ちょっと待ってなさい。」

アクアリスは水面から立ち上がって、キラキラと鱗に光を反射させながらアタシの元へと歩いてきた。

なんつーか、神々しさすら感じるほどに綺麗だ。竜種ってのは色々と派手なんだな。


「ほら、来たわよ。攻撃してきなさいな。」

「んな無防備な相手に攻撃できっかよ!早く構えろ!」

戦闘の構えも取らず、ただその場に立つだけのアクアリス。


「そんな心配してくれなくてもアナタはかすり傷一つ付けられないわよぉ。ほら、攻撃してみなさいな。」

「....後で泣いても....知らねぇぞ!」

ソウル・スピリットを使わずに素の力だけでハンマーをアクアリスの腹部に向けて思いっきり振り抜く。

攻撃が当たったと思ったその時、ガキイイイイイイイイインと金属同士がぶつかるような音と共に、ハンマーを握る手にすさまじい衝撃を感じる。


「ってぇ!!!!!!!!!」

手の痺れに我慢ができず、ついハンマーをその場に落とした。

何だコイツの硬さは!?


「やっぱり、人間じゃあその程度よね.....。はぁ。」

あれだけの質量の武器を食らっても尚微動だにせず涼しい顔でため息をつくアクアリス。

やっぱり魔族相手に遠慮なんかいらなかった、全力でやってやるよ。


アタシは落としたハンマーを拾い、再度ぎゅっと握りしめた。


「なんかダメージを期待してたみてぇな言い方だな?」

ファイア・スピリットを発動させ、ハンマーに火属性のマナを凝縮させる。

銀色だったハンマーの頭部分がみるみる内に赤く変化していく。


「あら、あらあらあらあら?さっきまでとは比べ物にならないマナの輝きだわ....。」

先ほどまで気怠そうな顔をしていたアクアリスは本気を出したアタシを見て一気に笑顔に...いや、恍惚とした笑みへと変わった。

息も荒くなり、顔が紅潮していく。

何か狂気的なものを感じるんだが....。


「いいわ、いらっしゃい。もしかしたら傷くらいはつけられるかもしれないわよぉ?」

両手を広げてハンマーを待つアクアリスは、もはや愛しい恋人を迎えるかのようにしか見えない。

しかも一向に攻撃をしてくる気配も全くない。


期待に応えるため、アタシは限界まで力を溜めることにした。

ハンマーへと火属性のマナを送るときに今までないくらい、マナを圧縮する。

こんな事、実戦じゃ出来ねぇと思ってたが、攻撃してこないならこれほど相性のいい敵はいねぇな。

アタシに不利な水属性の魔物が相手なら、不利を吹き飛ばすほどの高火力を叩き込む!!!


「まだ高まるの....!?驚いたわ。マナの濃度だけで言ったらコシャル君と同じくらいよぉ?」

まだ、まだだ。

一度圧縮したマナを体に戻し、さらに圧縮してハンマーへと送り込む。

体内の火属性のマナが足りなくなり、徐々に髪の毛も元の色に戻りだす。


「ちょっと...待って待って、そろそろいいんじゃない....?」

身体中を溶岩が駆け回っているんじゃないかってくらい体内で火属性のマナが暴れる。

....まだ、まだいける。


「ダメダメダメ!流石にそれは無理よ!!」

アタシとハンマーを行き来して凝縮しきった火属性のマナを、ハンマーの頭部分に覆うように纏わせる。

キィィィィンと甲高い音が辺りに響き渡る。これは凝縮されたマナからしてんのか?

ここまでやったことは無かったからよくわからねぇが、アクアリスの慌てっぷりからして相当ヤバいみてぇだ。

そこまで慌てんなら避けちまえばいいのに、竜種はプライドが高いから一度言ったことは撤回しないってか?


ハンマーを構え、大きく振りかぶる。

...このスキルの名前は...そうだな....。


「ジュエルウォータースケイル!!!!」

その瞬間、アクアリスの腕の鱗が数枚アタシとアクアリスの手の前までやってきて停止する。

その鱗を繋ぐように水が展開し盾が出来上がった。


「初めて構えたな??....ノヴァ・ストライク!!!!」

足で大地を踏みしめ、腰を使ってハンマーを振り抜く。


「う、嘘!........キャアアアア!」

ハンマーがアクアリスの盾に当たった瞬間、ジュウウと水が蒸発する音と共に前方に向けて大きな衝撃破が発生した。


先ほどと違い、今度は有効打を受けたアクアリスは湖へと飛んでいく。


「ぐっ、マナが足りねぇ....。」

ガクッと膝をついて頭痛とふら付きに堪える。

たしかアルカナから貰ったマナポーションがあったな...これだ。


腰についた鞄から小瓶を取りだし、中に入った青色の液体を口に流し込む。


「うぇっ、まっず!」

主成分となる魔力苔独特の青臭さ、その他薬剤の匂いが混ざってものすごい匂いが口内に漂う。

これ気付け薬にもなりそうだな...。

とはいっても効果はものすごく、空気中のマナを肌からどんどん吸収していくのを感じる。

6割くらいは回復できたか?....そう考えるとすげぇなこれ。


それより、湖に飛んでいったアクアリスにはちゃんとダメージが入ったのか?

...流石にアタシの渾身の一撃を食らって平然とはしてねぇだろうが、


「あは、あはははははは!貴女いいわね!!!」

その時、湖からゆっくりと、水を纏いながらアクアリスが飛んできた。


しかし目立った外傷は無く、腹部を覆っていた鱗が何枚か剥がれ落ちてる程度だった。


「マジかよ...。」

「私を傷付けたのはディレヴォイズ様だけだったのよ!?ほんと、まさかこんなに力を持った人間がいるなんて思ってもみなかったわぁ!」

両腕で自分を抱きしめるように、恍惚とした笑みを浮かべるアクアリス。

少なくともディレヴォイズの攻撃はアタシの渾身の一撃程度はあるってことか。

それがマナを込めた一撃なのか、只の攻撃なのかで大きく変わってくるな....。


「んだよ、ほぼ傷なんてねーじゃねぇか。」

「そんなこと無いわよ?貴女の攻撃でお腹の中がぐちゃぐちゃになったもの。.....でもごめんなさいね、私は水を吸収すればどんな傷も治っちゃうの。身体も私のマナを含んだ水で覆われてさっきみたいな攻撃じゃないと弾いてしまうわ?」

「マジかよ....。」

なんだそれ...水で防御と回復ができるとか滅茶苦茶不利じゃねぇか。

火属性で最大火力を出しても倒しきれなかったんだったら.....。


「アレをやるしかねぇな....。」

「アレ?まだ奥の手があるのかしら?でもボーナスタイムはもう終わり。もしあれ以上の攻撃が来たら流石に耐えられそうにないもの。久しぶりのまともな戦闘。楽しませてもらうわよ?」

そう告げるとアクアリスは髪の毛を掴んでするっと抜いた。

....?

抜いたはずなのに髪の毛は減ってない。

手に持った髪の毛は意志を持つかのように絡まり合い、宝石のような輝きを放つ1本の鞭となった。

....そういえばコイツは竜の姿で戦ったりはしないのか?

角が生えてて竜種であることは解るが、なんともやりずれぇなぁ。


「その綺麗な髪の毛があんたの武器ってことかよ?」

「あら、綺麗だなんて嬉しいわ。貴女はそのままでいいのかしら?さっきみたいには待たないけど、少しなら待ってあげるわよ?」

こりゃ好都合。

アタシもまだあのスピリットは使いこなせてないから少しばかり時間がかかる。


「じゃあお言葉に甘えて。」

半分ほど回復したマナをハンマーに流し込む。

だけどこれまでのソウル・スピリットとは意識を変える。

参考にしたのはアルカナとミウシアだ。

アルカナは水と火属性を使って氷を生み出した。

最初は意味がわかんなかったが、アルカナ曰く火属性は正確に言うと「熱」属性らしい。

用は熱するだけじゃなくて冷やすこともできる。


一方でミウシアはルクニカに光属性から雷を生み出す方法を教わった。

ミウシア曰く属性の性質を変えるのはイメージだという。


アタシはハンマーに流すマナに凍えるような冷気をイメージした。

そしてそのマナを再度体内へと吸収する。


「貴女、今度は何をするの?....あら?徐々に髪の色が青白く....。」

手が、足が頭が体が。

全身が冷たくなるが感覚はある。

プロミネンスドラゴンと戦った時と同じだ。

今なら火口にだって入れるな。


「アイス・スピリット。さっきまでとは違うだろ?」

手に持っているハンマーをスッと振ると、キラキラと氷の粒が舞う。


「....貴女って予想以上に器用なのね。」

アクアリスの頬をつつつと一筋の汗が伝っていくのが見えた。

焦ってるな。


「この状態で水なんかに触れたらどうなるだろうな?」

「さぁ?かき氷でもできるんじゃないかしらぁ?」

アタシもアクアリスも相手の出方を警戒して手を出さない。


だったらこっちから仕掛けるまでだ。


「じゃあ作ってやるよ」

ハンマーの頭部分が下になるようにドンッと地面に突き立てる。


「お前でな。」

アタシは一歩踏み出しながら地面をえぐるようにハンマーを振り抜いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:アルカナ

「トル君!お仕事お疲れ様ですっ!」

「カナ、いつもありがとう。」

ここはクルシュ村、お義母様のコルペタさんが顔を利かせて村の職人さんに作ってもらった大きなお家。

私の愛する夫であるトル君は今日も依頼された弓を作って忙しそうにしているです。

そんな夫を支えるのも妻である私の仕事です。


「はい、出来立てのクルシュパン。砂糖多めのあまあまクルシュパンですっ!」

「モグモグ....うん、美味しい。...でもマナが多量含まれている気がするんだけど...。」

トル君がジト目でこっちを見つめてくるです。

そんな顔もまた可愛いんですけど...魔法で手を抜いたのがばれたですね。


「もう敵はいないんだから、カナもいい加減魔法から少しは離れなよ。」

「...うぅ。ですけど.....。」

ディレヴォイズを倒してから早5年。

すっかり魔物がいなくなったこの世界で私達は英雄となったです。

でも魔物がいない世界に強力な力を持った英雄は必要ない。

私とトル君はクルシュ村で静かに暮らす道を選んだです。

レオはフレアと結婚し王都の新たな王となり、ミウとルクニカは王都のバーニア地区で二人で暮らしているです。


「はぁ、皆で冒険してるときは楽しかったです....強い敵と戦って、いろんな魔法を考えて、沢山笑って泣いて....。」

椅子に座ってため息交じりでそんなことを言っていると、トル君は立ち上がって私のことをぎゅっと抱きしめてきました。


「と、トル君?」

「カナは俺と2人きりじゃつまらないのか?」

トル君が耳元で悲しそうにささやいてくるです。


「い、いや、そういうことじゃないですけど....。ひゃわ!」

チュッと頬にキスをされ、つい声がもれました。恥ずかしいです。


「じゃあ3人ならもっと楽しい?」

「えっ、それって....。でも子供は私達にはできないです....。」

他種族同士では子供ができないはずですが....。


「何言ってんだよ?他種族じゃあるまいし。」

「?...トル君こそ何言って....!?」

そういえばいつもよりも視線が低いです、手も小さいし目線もトル君と一緒....!?


「え!?なんでです!?ドワーフ!?」

「何当たり前のこと言ってんだよ、俺だってミウシアさんだって、レオさんもフレアさんもルクニカさんも、俺ら皆同じドワーフ族の勇者だろ?」

「そんな、おかしいです!ありえないです!!」

「どうした?熱でもあるのか?...俺ら6族のドワーフが団結してディレヴォイズに立ち向かったんじゃないか。ほら。」

トル君が指を指した先には大きな一つの絵が額縁に入れて飾られていたです。

そこには大きなドラゴンの死体を後ろにして、6人のドワーフが並んでいました。

あれはトル君と...?

他の5人は誰かに似てるような...。


まさか....?


「えええええええええ!あれが私達ですか!?!?」

「本当にどうしちゃったんだ、...クルシュパンにマナでも使いすぎたんじゃないのか?」

あの絵のトル君の横にいるのは私ですか!?

何か少し小さい頃の私みたいです...でもなんでドワーフなのにミウとルクニカとレオの頭の上には耳が生えてるです?

ってことはあの小さいのにでっかいハンマー持ってるのが...フレア!?

ぷぷ、かわいらしい見た目ですね...。


「じゃなくて!!!おかしいです絶対!!」

「おかしいのはカナだろ!!何訳の分からないこと言ってるんだよ!!」


「トル君、私を騙すために宮廷画家に頼んであんな絵を描いてもらうなんて!そんなに手の込んだことをして何が目的ですか!!」

「騙す?!....なんでそんなこと言うんだ?カナ、しっかりしてくれよ...。」

え、私がおかしいです!?えぇ、絶対にトル君おかしいです、なんでそんな嘘つくです....?


頭が痛くなってきたです....というか、そもそもディレヴォイズと戦った記憶が無いです。

たしか私はクリスタルレイクで魔族の城まで行って....それからコシャル・サッハと先頭になって....それから....。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:????

「うーん....うーん....です..おかし....です...。」

「....お菓子?ここまでの深手を負っておいて菓子を所望するとはのぉ....。」

見たところ外傷は深そうじゃ。

この娘自身の回復力にかけるしかなさそうじゃの。


「ちと苦いぞ...。」

儂は娘の口に秘伝の激苦治癒薬を流しこんだ。

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