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「141話 隊長クラスの魔族 」

アイテムボックスに野営グッズをしまい、忘れ物チェックを終えた私は、外で待つ皆の元へと小走りで走った。


「あ、ミウシアさん!片づけを任せてしまってすみません。」

「ううん!いいのいいの。アイテムボックスにしまうだけだから大丈夫だよ。」

一番に気が付いたのはトルペタ君。

私が一番最初にこの世界で会った人間で、いつも気を利かせて心配してくれる優しい男の子。

今じゃあすっかり頼れる仲間だ。


「ミウのアイテムボックスはホント便利ですよね。もうミウ無しじゃ旅したくないです。」

「でもカナちゃんも使えるじゃん?」

「ミウのとは容量に天地の差があるです!!」

ムスっと頬を膨らますカナちゃん。

カナちゃんは魔法オタクで、私と一緒に旅をすることで魔法の神髄に近づけると言っていた。

今ではこの世界の誰よりも魔法を理解していると思う。


「ミウちゃん。色々頼んでしまってすみません。助かりました。...フレア―!そろそろ行きますよー!!」

「おー!」

ニカが少し離れたところでハンマーをブンブンと振り回しているフレアを呼んた。

ニカは王都で私がナンパされている所を助けてくれてからずっと私を気に入ってくれた。

一目ぼれだったとか言ってたけど、初めて見た時から私に対して不思議な感覚を感じたとか言ってたから、ニカは私が何者なのか直感で見抜いてたのかもしれない。


「体も温まった事だし、あたしはいつでも戦えるぞ。」

腕をブンブンと振り回して意気揚々のフレア。

フレアと最初に出会ったのはダンジョンの中。

ボスの宝箱から出てきたときはびっくりしたけど、最初から何かと戦い方に対してアドバイスをくれたり、アイテムをくれたりと面倒見がよかった。

こうして旅をしていてもとても頼りになる。


「ミウシアちゃ~ん、この水晶、少しアイテムボックスに入れてくれな~い?」

「はいはい、...っと。こんなもんでいい?」

「っけー!両親へのプレゼントに仕様かと思ってさ~。」

意外と家族想いなレオ。

レオは最初私に一目ぼれしたとか何とかで、猛アタックがしばらく続いた。

私も男性としての心と女性としての心がごちゃごちゃして最初は戸惑ったけど、やっぱり恋愛対象は女性だとわかってからはきっぱりと諦めてくれた。

今では少し下ネタ交じりの話を話せる唯一の仲間、なんか高校生の同級生に対するノリで話せて気楽なんだよね。

同性としていい友達って感じかな。


私の仲間は皆心強い。

誰にだって負ける気がしない。

ディレヴォイズにだって...!



私は皆が準備万端であることを確認した後、皆に向きなおった。

「皆!ディレヴォイズのところまであと一息!頑張ろう!」


...そして束の間の休息が終わり、旅が再開する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「とはいったものの.....。」

クリスタルレイクを東に突き進み、城に向かって直進していった私達は途方に暮れていた。

巨大な湖と滝、そして崖。

この崖の上にお城があるんだけど、あんな場所に行く手段が見当もつかないのだ。

湖は崖から少し離れて流れ落ちており、崖は僅かに手前に反っているため、崖際まで歩いて行けそうだった。


「俺ちょっと周囲を偵察してます。」

「ではもしもの時のため、私もついていきますね。」

トルペタ君とニカが周囲の偵察に向かったため、残った人たちで何か手が無いか考えることになった。


「なぁ、アルカナの魔法でふわ~っと浮けねぇのか?」

「簡単に言ってくれるですね...。まぁ、この高さを一気に風で飛び上がるのはできなくはないですよ?...制御ができずに崖に当たるか飛び過ぎて地面に叩きつけられますが。」

「....だめじゃん...。」

ダメじゃんか...詰んだじゃん....。


「カナちゃん、土魔法で階段を作るとか、地面を持ち上げるとかはできないの?」

「土魔法は得意ではないので、攻撃にしか使えないです。」

速攻で否定するカナちゃん。

ま、マズい。本格的に無理な気がする。


「カナっちカナっち!氷で階段作れば~?」

「できなくはありませんが、今マナを消費した状態で魔族に勝てますかね...?」

「それな~。」

皆で上に行くとなると足場を用意していかなきゃいけないんだけど、目の前には終わりが見えない崖と滝。

気合で壁を登っていくのは無理だもんなぁ....主にレオが。


ズドッ

「ひゃあ!」

いきなり私の足元に1本の矢が飛んできた。

襲撃されたと思い、敵を警戒しようとするもよく見ると矢に何か手紙が巻き付けられていた。


「どうしたです!?」

「敵か!!!」

「ちょ、いきなり過ぎない!?」

矢を地面から抜いて、手紙を手に取る。

開いて中を確認すると、どうやらトルペタ君の手紙のようだった。


「敵じゃないよ!トルペタ君の手紙だった!....えっと...滝の裏で何かを見つけたみたい。行ってみよう!」

これが何かお城に行く手段だったらいいんだけど....。


4人で滝の裏まで歩いていくと、外側からは見えない部分の地面がレンガのような石で舗装されていた。

そして奥には開けた空間があり、ここもまた綺麗に舗装してあった。

一番奥には見上げるほどに大きく、豪華な装飾のされた大きな扉があった。


「皆さん!これ、下から城に向かう道じゃありませんか?」

「ここにライトもありますし、綺麗にされています。少なくとも今も使われていると思います。」

ニカが指さした壁にはライトが埋め込んであって、おそらく夜になると点灯する仕組みだろう。


「はー、でっけー扉だな。」

「飛ぶことのできない魔族のための入り口でしょうか...。」

フレアとカナちゃんは扉に興味津々で、警戒することなく近付いてぺたぺたと触っている。

一方でレオは少し離れたところで辺りをきょろきょろと見回していた。


「...これもしかして魔族と鉢合わせしな~い?」

「鉢合わせしてもおかしくないよね。まぁ扉から出てきても油断してるだろうし先手をうって...。」

そこまで話したところで背中にひやりとした嫌な感覚に襲われた。


「もうこんなところまで来てるとはなぁ、飛べねぇのに大したこった。」

私達は一斉に来た道の方から聞こえた声に注目し、振り返った。


「..お前はあの時のッ!」

「よう、クソ兎。こんなところで会うとはなぁ。」

2mを超える大きな巨体に光を反射しない緑の鱗、鋭い爪。

2足歩行で品質の高そうなローブを着て禍々しい杖を持つ姿には違和感があるけど、ニカの反応を見る限り間違いない、王都に襲撃してきた竜種だ。

皆は一斉に武器を取り警戒した。


「王都で戦った竜種...あなたは魔術師だったですか。」

「.....みてぇだな。」

「ニカさんが近接戦闘で苦戦していた相手が魔術師....?」

どうやら王都で素手と魔法で戦っていた時は本気ではなく、本職は杖を持って魔法で戦う魔法使いだったみたい。

確かあの時確認したステータスでは防御がSランクだったような気がする....カッチカチの後衛職とか無敵じゃん...。


「オレはコシャル・サッハ。人間共、ここを通りたいなら4人ここに残りな。」

「へっ、自分には4人がかりで丁度ってことかよ!」

フレアがコシャル・サッハの発言に食いつきながらハンマーを地面に叩きつけ、武器を構える。

その時、滝の上から何かが湖へと落ちたような、ザバァァンという大きな音が周囲に響く。


「ふぅ。やっぱり水はいいわね...。」

滝つぼの方を見ると、水の中からエメラルドとトパーズを混ぜたような美しい髪をした角の生えた女性が水着姿で姿を表した。

続けざまに私達が歩いてきた道から突風が吹き荒れる。

突風に耐え、一瞬だけ目を閉じただけなのに、気が付けば目の前には人より大きな鷹が空中で静止していた。


「こいつらが人間か?こいつらをどうすればいいんだ?」

「始末するのよん!」

何やらポンコツ臭のする大きな鷹に答えるように、地中から不気味な声が聞こえてくる。

成人男性が無理やり高い声を出すようなそんな....。


次の瞬間、舗装された床に穴が開き、何者かが飛び出してきた。

ふわりと宙に浮かび上がると、そのまま音もなくスッ...。と地面に着地した。

その容姿は筋骨隆々、毛が一本も生えていないスキンヘッドから延びる幅広の角。

おでこから延びる剣と呼んでも差支えの無いほどに鋭い角に目を奪われたせいでほかの特徴に気が付けなかった。


「おい、竜人化(それ)のまま来るなら服を着ろと言ったはずだぞ!」

「人間ちゃん達にもアタシの美しい体を見てほしいのよン♪」

な、何故ブーメランパンツ....。

多分ここにいる皆が同じ気持ちになっていたと思う。


.....ふと気が付くと4人の強力な魔族に囲まれていた。


「この威圧感...この4人の魔族が話に聞いていた隊長クラスで間違いありませんね...。」

「はい。....どうします?」

「なんだァ?ビビってんのか?トルペタァ。」

「大丈夫です、今の私達なら十分相手になるでしょう。」

「.....。」

4人が魔族の戦力を観察している中、レオだけが怯えた表情で敵を見てたのが気になったのでレオに声をかける。


「レオ、大丈夫だよ。この時のために十分私達は強くなったじゃん!」

「ミウシアちゃん.....あのマッチョの男、オレのことやたらと見つめてきてない...?敵としてというよりはなんというかこう....。」

「....え?」

レオに言われて筋骨隆々の少しオネェが入っているマッチョを観察する。

人間の先鋭と魔族の先鋭。その両者がぶつかってるこの局面で、戦い以外のことなんて....。


「~♪」

.....あ、ウィンクした。


レオの正解、あれは間違いなくレオを狙ってる。

オネェマッチョは何故かマッスルポーズでレオに熱い視線を送り続けていた。


「まさかオレの相手はアイツだったりしないっしょ!?まっ、ままま万が一負けたらオレどうなるわけ!?」

「はは....。」

レオがいるとシリアスなシーンもコミカルになるなぁ...。


「というわけだ。もう一度言おう。ここを通りたいなら4人ここに残りな。」

そんなレオの心配を他所に、コシャル・サッハの発言でシリアスな空気が戻ってくる。

ここで疑問なのは、なんでこの魔族達は6人中2人は先に行かせようとしているのか、というところなんだけど...。

挙動不審なレオは無視して4人に目配せをする。

頭を少し縦に振り、頷くニカ、トルペタ君、カナちゃん。

フレアは皆とは違い、不敵な笑みで口を開いた。


「つーことはよ、2人は先に行ってもいいって訳だな?」

「そうだ。オレらはディレヴォイズ様を御守りするためにここにいるのではない。魔族が人間に負けたという汚点を払拭するためにここにいるのだ。...オレ1人が相手をしてもいいんだが、戦いがお好きなディレヴォイズ様の怒りに触れるだろう。要は遊び相手として2人を通す。というわけだ。」

魔族の王ディレヴォイズは戦闘狂みたい。

というかコシャル・サッハは1人で私達全員を相手できると思ってるみたいでちょっと癇に障った。

皆も少し苛立っているようだ。...正確にはレオ以外。


「....ミウシアさん。先に行ってください。俺らも後からついていきます。」

「だな、ここはあたしらに任せて先に行け!っつってな!」

冷や汗を垂らしながら今まで一番覚悟を決めた顔で私にそう告げてきた。

一方でフレアは余裕そうにドヤ顔でかっこつける。

相変わらずだなぁとフッと笑みがこぼれた。


「ですね。...それにミウはまだ私達に見せてない秘策があるですよね?」

「...気付いてたんだ。わかった。じゃあここは任せるね。」

私には皆との訓練で使っていない、成功率の低いとっておきの技がある。

ディレヴォイズに対抗できるかはわからないけど、他の技よりもはるかに威力があると思う。


私が行くことはほぼほぼ確定したけど、レオとニカ、どっちが私とついてくるんだろう。

回復魔法のあるレオ?それとも防御がずば抜けてるニカ?


「...ま、まぁあいつと戦うとは限らないか....。ニカニカ、ミウシアちゃんと一緒に行って。」

いつになく真剣な表情のレオ。

もしオネェマッチョと戦うことになったらその表情も崩れるのかな。


「えっ、あっ、私が?回復魔法や妨害ができるレオさんの方が向いていませんか...?」

「この先、隊長格は現れないとはいえ、ジャングルの時みたいに低級の魔族が一度に襲い掛かってくるかもしれないじゃん?ミウシアちゃんも多数には対応しきれないかもっしょ?そしたらミウシアちゃんを守って進むことができるのは結界スキル持ちのニカニカだけだかんね~。」

確かに、多数の敵にたいして広範囲のスキルは持ち合わせていない。

ニカと一緒に戦うときのセオリーは、ニカが敵を引きつけつつ一人づつ減らしていく。

それにニカが魔族と1対1で戦うとしたら、勝敗を分けるような一撃を与えられないから、やっぱりニカが最善なのかも。


「ニカ、行こう。...皆、先に行ってるね。」

「わ、わかりました。すみません皆さん。あとはお願いいたします。」

皆なら大丈夫...と思う反面、やっぱり皆に何かが有ったらどうしようという不安も残る。

信じているし、訓練やこれまでの冒険で皆の強さは理解している。


でもこの魔族達はこれまでとは格が違う相手、せめて相性のいい組合せで戦えることを願おう。


4人を残してニカと一緒に扉の方へと向かう。

魔族達が扉に向かう私達に視線を合わせてるのがひしひしと感じた。


「ふん、クソ兎共が上に向かうか。せいぜいディレヴォイズ様を楽しませるんだな。」

そんなコシャル・サッハの発言に反応することなく私達は重く、大きな扉を開いた。

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