「137話 側室 」
「おいクソ人間!!!どういうことだよ!!!!!」
「ちょっと待ってよ~~~~、オレも混乱してんだって~~~。」
ガリスがレオの胸倉を掴んで前後に揺さぶる。
レオがこのドラゴニュートと異母兄弟?
「ガリス、今は落ち着いて話を聞け。」
「....チッ、早く話せよ。」
バリスの一声でレオの胸倉を掴んでいたガリスはゆっくりと離した。
「....はぁ...。レオさん、そういうことですか..。ティスライト王が隠していたってことですね?」
ニカが何かに気が付きため息を漏らす。
つまり、ティスライト王の何人目かの妻ってことか....。
「多分そう....。父さん、ティスライト王の二番目の妻、アリス母さんのことだと思う。見た目はケットシー族だったんだけど、耳を触らせてくれなかったし土魔法が得意だったし、いつになっても若いままだし、しかも父さんとの出会いは傷付いた父さんを助けたとか言ってたし...。」
「いや、確定じゃないですか。」
それだけ一致してたらもう確定だと思う。
というかただでさえ人間が嫌いなのに、母と離れ離れになった元凶の息子だなんてわかったら、ガリスとタリスはレオに襲い掛かるんじゃないの....?
そう思って二人の方を見ると、震えながらつぶやきだした。
「母さん....母さんに会えるのか?」
「....場所さえわかれば後は....ッ!!」
突如立ち上がった2人は翼を広げ、飛び立とうとする。
恨みより母親に会えることの方が勝っていたのか、レオに襲い掛かることはなかった。
「ガリス!タリス!!待て!!!」
飛び立った二人の足をとっさに掴み、一気に地面に引きずり下ろすバリス。
「ぐぇ!」
「うぐっ!」
「お前らが人間の領地に向かったところで敵とみなされるだけであろうが!もはや母は王妃なのだぞ!」
顔から地面に叩きつけられたけど大丈夫かな...ドラゴニュートは回復が早いって言ってたし大丈夫か....。
「ん?レオが合わせてやればいいんじゃねーか?」
「どうやって魔物と王妃を合わせるかはわかんないけど...父さんを脅せば行けるかぁ~。」
それでいいのか王子様....。
「!!お願いできるか!レオよ!」
「クソ、人間に頼ることになるのかよ...!」
「それしかないならしょうがない。...僕が兄かぁ...。」
三男のドゥ・タリスだけレオに対する警戒心や憎しみといった感情が無くなってるのは気がするのは気のせい...?
何はともあれ、レオはドラゴニュートを母親に会わせることを約束した。
まずはディレヴォイズを倒さないことにはどうしようもないんだけどね。
ドラゴニュート達は一族の長として私達人間の味方をするわけにはいかないと、仲間になることを断ってきたけど、魔族の主力竜種の情報を教えてくれた。
・アクアリス・:ジュエルドラゴン。宝石のように美しい青い鱗に覆われた防御がずば抜けて高い蛇竜、マナによる攻撃を得意とするんだって。属性は水。
・ピュクドリア・トラメプス:トルネードホーク。鷹の魔物で竜種と同等の強さを持っていて、その飛ぶ姿は早すぎて誰も見た事がないらしい。属性は風。
・シャムラリオル・スパーダ:ブレードドラゴン。角が鋭く尖っていて剣よりも硬いらしい。ダリス達は勝ったことがないって。属性は土。
・コシャル・サッハ:エンシェントドラゴン。魔族軍の隊長でディレヴォイズに一番近い男だとか。属性は火。
この4体以外は「我らを倒した実力があれば問題なく倒せる」とバリスが言っていた。
ってことはバリスよりも強い敵を相手にしなきゃいけないの...?
相性を考えて少しでも有利に戦わないと勝てそうにないなぁ...。
必要な情報を私達に伝えると、ドゥ3兄弟は私達の船の方へと飛び去って行った。
今ドラゴニュートの集落に戻ったら敵前逃亡と勘違いされるからって言ってた。
だからって船の中で待ってるってどういうことなの....。
残された私達はその場で一泊し、明日からまた旅を再開することになった。
雲もないし、星も綺麗だからみんなで外で雑魚寝することに。
「ところでティスライト王って何人奥さんがいるです?」
「...私は5人を過ぎてから数えるのを止めました。あんな破廉恥な王は王とは呼べません!」
「ルクニカは一夫多妻否定派だよなぁ、というか男が嫌いなのか?」
「レオさんもそうなるんでしょうか...。」
「なんねーよ!!オレは全ての愛を1人の女性に注ぎ込んでっから!」
「注ぎ終わったら次行くってことだよね~?」
満天の星空の下で、私達の笑い声が響く。
こうしてると普通の友達と行くキャンプなのになぁ。
使命とか背負わずにゆるーく旅がしたかったよ....。
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SIDE:ウォルフ
「これで.....。」
あたしがスイッチを押すと、ドン!と神界に地震が起きるほどに大きな力が動き出す。
「どう!?ルニア、動作してる!?」
「はい、問題ないです。」
手をオイルだらけにして、手ぬぐいで汗をぬぐうルニアは普段のイメージとはかけ離れていた。
まるであたしの生前の世界の職人たちのような見た目だ。
綺麗な長いエメラルドグリーンの髪をゴムで縛って止め、ところどころ茶色く汚れたタンクトップにオーバーオール。
あたしの服を調整したものだったけど、胸がき....き....き.....きつすぎてタンクトップは一から作った。
「チッ」
「?ウォルフちゃん?動かすのは成功したのに何で怒った顔をしているのですか...?」
「ルー姉、ウォルちゃんはうらやましがってるだけだよ?それよりも!今までと違う動きしてるけどこれって....!」
ルニアとは違い、すんなりあたしのおさがりを着れたシーアが発明品を指差した。
煙突から立ち込める青色の煙、これは転移石と同じ現象...。
ということは...!
「げほっ!ウォルフ!この煙は間違いなく転移石と同じであるな!」
「でもよぉ、347回目も煙だけでて壊れたじゃねぇか。」
「それは違うぞジア、347回目の時は煙の色がもっと薄かった。」
デストラ達男組はミウシアの記憶を元に改良したポケットが沢山ついてるジーンズとラフなTシャツを着ている。
あたしのおさがりなんて入るわけないし。
予想していた成功に限りなく近い現象が起きた『星間転移装置:試作82型』の380回目の実験。
あたしは恐る恐る『星間転移装置:試作82型』の扉を開けた。
「...なにこれ...?中に何か入ってるけど...飲み物?材質は紙と....プラスチック!!...でも神力を感じるわ。地球じゃないわね.....。」
『星間転移装置:試作82型』の中に入っていたのは紙でできたコップにプラスチックの蓋がされていて、筒状の細い棒が刺さっているもの。
ミウシアの知識からするとこれは地球にあるプラスチックという人工材質には間違いない、でも神力を感じるってことは少なくとも地球ではないってことになるわよね。
「ちげぇなら次行こうぜ次!座標が間違ってんだよ、もっかい図り直すぞ!.....ヒュムが。」
「私か...まぁジアに期待はしていないがな...。」
馬鹿ジアに計算なんて無理だもの、完全に人手...神手要因ね。
取り合えず、ようやく人工物の転移に成功したわ。
この調子で地球の座標さえ割り出せれば後は転送の実験。
それもうまくいったら生き物を転移させて、装置の規模を大きくしたら完成ね。
「ミウシア様が恋しいですぅ~。間に合わせるためとはいえ、神界の時間の流れをゆっくりにしてしかもミウシア様との通信も禁止は耐えられません~~....。」
「ルー姉、ここで頑張れば地球でミウちゃんとずっと一緒にいられるんだよ!もーちょっとかんばろ!!」
「はい...。」
....あれじゃあどっちが姉だかわからないわね。
「にしても....。」
失敗とはいえこの紙のコップは一体どこにあったものなの?
中には...茶色く透き通った液体が入ってるわね。
薬に甘ったるさが混ざったような臭い、ポコポコと泡が湧き出てきてる...きっと毒ね。
「なんですかそれ?...見たことの無い液体ですね。」
「あっ!ウォルちゃんのそれ頂戴!!!いい匂い!!」
「えっ、ちょっとまちなさ...!!」
ごくごくごくと一気に飲み干すシーア。
「馬鹿ねあんたは!!!得体のしれないものを飲むなんて!!」
神にも聞く毒だったらどうするの!?この子は本当にアホだわ!!!
急いでシーアの手から紙コップを奪って中身を確認すると、もう一滴も液体はは言ってなかった。
「げぇふ.....おいしーーーーーーーーー!!!!なにこれ!!!!もっと!!」
「シーアちゃん....?体の方は大丈夫ですか....???」
「?...なんともないよ?これもっと無いの?」
このお気楽猫女ぁ...。
「ウォルフ、次はこの座標で....ん?どうかしたのか?」
「いや、考えるだけ無駄だったから何でもないわ....。次はこれね、じゃあ男神勢は燃料の補充をお願い。」
あと何回かかっても、何とか地球を探り当てて見せるわ。
こんな退屈な神界でくすぶってるより、ミウシアと...この家族たちと地球で暮らしたほうが何百倍もきっと楽しいもの。
「次やるわよ!!!!」
ヒュムに渡された座標のデータを握りしめて、あたしは『星間転移装置:試作82型』に座標を入力しに向かった。
......にしてもあの飲み物は何だったのかしら....。
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「あーーーーーーー!!!!宇宙神さま私のコーラ飲みましたねーーーーー!?」
「なんで僕がティアみたいなことしなきゃいけないんだよ!知らないよ!知らずに丸ごと食べちゃったんじゃないの?」
「な訳ありません!!!....う~~~~わ~た~し~の~コーラ~~~~!!!!!!」