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「136話 決着 」

「う..重い...。」

突然倒れてきた竹に押しつぶされ、身動きが取れない....。


さっきまでフレアの戦いを見ていた時、突然カナちゃんに頭を掴まれてガシッと強引に伏せさせられた。

その後竹が倒れてきて私達三人は竹の下敷きになった。


「二人とも~大丈夫~?」

幸い、腕力でどうにかなる程度の重さだったため、無理やり持ち上げて離れたところに投げる。

地球じゃあ考えられないんだろうなぁ。でももうこの世界になれちゃったから違和感とかないや...。


「動けないですし、杖に手が届かないです....。」

「精霊達が面白がって助けてくれないからミウシアちゃんタスケテ....。」

どうやら2人の腕力じゃあきびしかったみたい。


「待ってて、...よっ、ほっ。」

2人の声がする場所に向かって竹を1本ずつ持ち上げていく。


「頭にたんこぶができたです....。レオ、回復よろしくです。」

「ててて...せめて戦いが終わってからっしょ~。戦い終わった3人分のマナ残しとかないと...。」


「オラアアアアアア!!!!!」

「受けてみよ!!ドラゴ・ブラスト!!!」

その時、フレアとドラゴニュート3兄弟の長男バリスの雄たけびがあがる。

私達は一斉に二人の戦いに目を向けた。


バリスの手が土でできた大砲のようになっていて、その砲口からは凝縮された土属性のマナが光線となってフレアを襲う。


一方でその攻撃をハンマーで受けているフレアも、見た目がとても禍々しく変貌していた。

ファイア・スピリットで炎のような赤とオレンジのグラデーションに変色した髪は、赤黒くきらめいている。

ところどころ赤い亀裂のような色をしていて、溶岩の表面だけ冷えて固まったようだった。


フレアに何が起きているのかはわからないけど、今わかるのはバリスの攻撃をフレアが防いでいるということだ。

先ほどまでフレアを一方的に攻撃していた力の差からして、バリスの方がフレアよりも強いと予想できる。

バットでフルスイングをするように、フレアはハンマーで光線とつばぜり合いをしている。

それによって弾いた光線は四方八方へ飛び散り、大地をえぐり、触れた全てを破壊していた。


そんなバリスの渾身とも呼べる攻撃をフレアが防いでいるのは異常なことだった。


「まさか...。」

カナちゃんがカバンから取り出したルーペのような物を使ってフレアを観察し始めた。


「カナちゃん、何かわかるの?」

真剣な表情でフレアを観察するカナちゃん。

フレアはまだバリスの攻撃を真正面から受け続けていた。


「....そんな、あれを制御しているのですか!?」

「ちょちょちょ、説明してよ説明!!」

1人で驚いているけど私とレオは置いてけぼり、あのルーペは体内のマナの動きが見えるとかなのかな?


「いいですか、本来マナに属性を付与して吸収するのはとてもリスクがあるです。うまく制御できずに属性に飲み込まれてしまうと、火属性なら身が燃える、水属性なら体が液状化してしまう、土属性なら体がどんどん砂となってこぼれ落ちるです。それを当たり前のように制御している魔物は、先祖代々そういう属性を持ったものを口にしているから制御できるんです。ですから...」

「ながい!カナっち簡単に説明して!」

「簡潔にお願い!」

これじゃあカナちゃんの説明が長すぎて戦いに決着がついちゃうよ!!


「フレアが凄い!!」

「「なるほど」」

フレアは凄いらしい。


「こっ、コレを耐えるか!?....しかしこれで終わりだ!!!!」

バリスの出す光線が一気に膨れ上がり、威力が増す。

もはやフレアの姿は光線に包まれていて見えないが、光線が四方八方に飛び散っていることからまだフレアが耐えていることがわかった。


「ッラア!!!」

フレアを覆いつくすように放出される光線の側面からフレアのハンマーが飛び出る。

ハンマーの頭部分から溶岩が勢いよく噴き出し、推進力となってバリスの手に襲い掛かった。


「ッ!?」

バリスに攻撃が当たると、手に纏っていた土の鎧が砕け散り光線の放出が止まった。


「グアアア!」

フレアがそのままハンマーを振り抜くと、噴き出していた溶岩がバリスの下半身にかかり、ジュウジュウという音と共に温度の差で硬化していく。

大量のマナを出し切り、手を砕かれ、下半身に大やけどを負ったバリスは身をよじり抜け出そうとする。


「うっ...。」

先に膝をついたのはフレアだった。

ハンマーで防御していたのに、それを攻撃に転じたってことは、光線をその身で受けていたハズ。


「なにあれ...?」

しかし私が予想していた傷だらけのフレアはいなかった。

そこにいたのは体のいたるところが黒く、かさぶたのように盛り上がっているフレアだった。


フレアはハンマーを杖代わりに無理やり立ち上がり、身動きが取れなくなったバリスをまっすぐ見つめた。

バリスの顔はもはや戦いを続行するような表情はしていない。

むしろすっきりした表情をしていた。


「....私の負けだ。もう戦えぬ。」

「じゃあさっきの話、聞かせてくれよなっ!」

最後はフレアの無邪気な笑顔で締めくくり、長い戦いに決着がついた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「いっでででで!おい!剥がすなよ!!このままでいいって!」

「フレっちコレどうなってるわけ~?コレかさぶた?岩?」


「今回あまり活躍できませんでしたね....。」

「いえ!トルペタさんは活躍されてましたよ!むしろ私の方が.....。」


「この岩は溶岩でできてるですか....?硬すぎて時間がかかりますね...。」

「ヒューマン族の娘よ、すまない。」


「大丈夫ですか?」

「クソ人間の助けは要らねぇよ!!!」

「屈辱だ...。」

戦いはドラゴニュート達の敗北という結果で終わった。

あの後私達はフレアの元に向かい、傷付いたドラゴニュートを助けてあげることになった。

フレアが戦いの最中に気になる話をバリスから聞いたため、続きを聞きたいらしい。


カナちゃんは魔法でバリスを覆う石を壊し、レオはフレアの回復、私はバリスの兄弟を救助することになった。

トルペタ君とニカは私達以上にたくさんの竹の下敷きになった上に、バリスの槍から出た土魔法で拘束されて身動きができ無くなっていた。

怪我があまりないことから、緊急性は低いと判断した私達はそのまま後回しにすることに決めた。


バリスの兄弟たちは、思った以上に元気だった。

ドラゴニュートは元々自己治癒能力が高く、ほとんど傷もふさがっていて、戦闘に参加しなかったのは兄にマナを渡したことによるマナ枯渇で身動きがとれなくなっていただけだったらしい。


「おい!どこ触ってやがる!!オレの尻尾に触るな!!」

「やれやれ、人間は下劣な生き物だ。他種族の秘部をためらいもなく触れるとは。」

「尻尾ってそうなの!?」

知る必要のない無駄な知識を知りながらも、2人を両脇に抱えて皆の元へと合流した。


その後カナちゃんに拘束を解いて貰ったバリスに槍が発動し続けていた土魔法を解除して、無事皆が集合したところで、激しい戦闘のお陰で開けた竹林でドラゴニュートと一緒に野宿をすることになった。




「まずは生かしてもらったことに感謝する。お前たちにも迷惑をかけたな。」

私がアイテムボックスから出した食材で料理をしていると、焚火の近くに座っていたバリスが私達に頭を下げてきた。


「バリス!クソ人間達が勝手にやった事だろ!オレらが頭を下げる事じゃねぇ!!」

「バリス兄さん、それでは人間に借りを作った事になってしまう。僕たちが勝っても殺すつもりがなかったのなら対等なはずだ。頭を下げるのは間違っている。」

「うるさいですねこのドラゴニュート。黙らせるです?」「まぁまぁまぁまぁ!」

弟たちはやっぱり人間に対してあまりいいイメージを持ってないみたいで、頭を下げたバリスに対して批判の嵐を浴びせていた。

あとカナちゃんはトルペタ君が止めに入らなかったら氷漬けにする勢いでイライラしてた。


「...とまぁ我が弟たちは人間に対して強い敵対心がある。そこのジャイアント族の娘..。」

「フレアだ。最初に名乗っただろ?」


「すまない、フレア殿と先ほど約束していてな。今から何故お前たちが人間に敵対しているかを話をさせてもらおうと思う。」

戦闘中に話してたのはこのことかぁ、でもなんでフレアはそんな話を聞きたいと思ったんだろう。


「ッ!....約束をしたなら口は出さねぇ。」

「....そんなことを聞いてどうなるというのか...。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

では我から話をさせてもらおう。


我が弟たちがどうして人間を忌み嫌うことになったか、それは我らの親が原因なのだが....まずはドラゴニュートという種族について話そう。


我らドラゴニュートは他の竜種と同じく山岳地帯を拠点として生活している。

大人と子供では見た目に大きく差があることは知っているか?....知らないか。


成人になるとドラゴニュートは竜人と呼ばれる人に近い見た目へと変化する。

見た目は...ヒューマンの皮膚の大半が鱗で覆われ、角が生えている。


竜人化?近いがそれは別物だな。あれは他の竜種が戦闘しやすい体へと一時的に変化するものだ。

いつもは竜で一時的に人型へと変わる。それが竜人化だ。

我らは成長して人型になる。もちろん、部分的に竜化することも可能だがな。


....ドラゴニュートについては以上だ。....ん?そうだ、我らはまだ成人を迎えてはいない。


本題に入るぞ。

まずは母から、我らの母で族長の娘ドゥ・アリスはとても強く、活発的で優しい女性だった。

母アリスはどんな生き物に対しても敬意と愛を以って接していた。


一方で父のドゥ・ダグラスは典型的な竜種ともいえるプライドの高さ。

自身よりも弱いものを見下すような性格だったのだ。


ある日父は族長の娘というだけで女が族長となったことに反対し、勝負を挑んだ。

もちろん、母の圧勝であったが。


そこから自分を負かすほどの女性である母に求婚し、数年の長い月日をかけてようやく母が折れた。

そして我らが生まれたのだ。


父は厳しく、母は優しく我らに戦いというものを教えてくれた。

そのおかげで我らはどんどんと実力を伸ばしていったのだ。



....しかし、ある日母と4人で海辺に食料を探しに行った時、波打ち際に傷だらけの人間が流れ着いたことでその日々は終わった。

始めてみる人間に、我らは本能的に敵だと判断して止めを刺そうとしたのだが、母に止められた。

母は人間を抱きかかえると治療のため集落へ連れ帰ったのだ。


.....もちろん歓迎されなかった。

集落へ帰ったとたん住人達は母を責めた。

「下等生物をこの地に入れるな」「人間を助けるなんて竜種の風上にも置けない」

そんな避難の声を上げ、最後には「殺せ」の一点張り。


父は母を庇うはずもなく、冷たく一瞥すると集落から人間ともども追放すると告げた。「2度とその顔を見せるな」とまで言い放ったのだ。


当時何が正しく、何が違うかを何も理解していなかった我は父や住民が恐ろしかった。

あんなに慕っていた族長を、愛していた母を、人間を介抱したというだけでいままで築き上げていたものが一瞬で崩れ去ったことが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「......?」

「レオ?どうかした?」

「いや、何でもないよミウシアちゃん。.....どっかで聞いたことがある気が...。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


我は今でも忘れられない。

母が追放を言い渡された時の、絶望と軽蔑の目を。

母もまた、種族が違うというだけで弱者を助けることを否定したドラゴニュートを心から軽蔑したのだろう。


その後追放された母と会うことはなかった。

もう30年以上は経つだろう。


...それから父は我らに同じ道を歩ませぬように徹底的に教育を行った。

母のようになるな、人間を同じ生き物と思うな。

そういった教育をな....。


ん?....もちろん、我も最初は弟たちと同じ考えに教育されたがな、思ったのだ。

そもそも人間とは何か、人間は下等なのか?と。

少なくとも我は人間に襲われていないし、集落で何かあったわけでもない。

だから我は自分の目で見たことしか信じないのだ。


しかし弟たちはそう思わなかったようだが....。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「母さんを連れて行った人間をオレはぜってえ許さねぇ...。」

「....、僕も人間は許せない、しかし母さんが無事さえいてくれたらそれでいい....。今どこで何をしているんだ...。」

バリスの話を聞いて弟たちの当時の感情がよみがえってきたようだ。

ガリスは憎らし気に手を強く握りしめ、ダリスは宙を寂しそうな目で見つめた。


「母親ががねぇ..。今もその人間と一緒にいるかも知んねぇな。」

「その怪我をしていた人間の種族は何だったのでしょう?」

ニカの問いかけにうーんと頭を捻る3兄弟、随分と昔のことで記憶がおぼろげなのかな。


「...あのクソ人間は確か耳が頭の上についていたぜ。丁度そいつみてぇな。」

ガリスはレオを顎で指しながらそういった。

ってことはケットシー族?


そのことがわかると、レオが冷や汗をかき始める。

さっきから何を真剣に考えているんだろ?


「...ちょっと確認なんだけど、母親はケットシー族に擬態できたりする...?」

「人間が何故そんなことを聞くかは謎だが、母なら可能だ。母は土を纏い擬態するスキルを使える。」

恐る恐るレオが聞くとダリスが答えた。


レオの冷や汗は更に加速し、目の焦点が定まっていない。


「レオ、明らかに動揺してるです。どうしたですか?」

「もしや母のことを知っているのか!?教えてくれ!!」

「クソ人間!!早く答えやがれ!!!」

「人間...!やましいことが無いなら早く答えたほうが身のためだぞ...!」

レオの異変を指摘したカナちゃんに続いて、3兄弟が一気にレオに詰め寄った。

私達は顔を見合わせて首を傾げる。


「えっと...その....。」

静まり返った空気に3兄弟のごくりと唾をのむ音がとてもよく聞こえた。

何でそこまでレオが言い淀んでるのかが全く理解できない、母親をモンスターと思って倒したとか?

もしそうならここで戦闘になる可能性もある。


この後何が起きてもいいように短刀を構えたところで、耳を疑うような事実がレオの口から飛び出した。


「オレら、異母兄弟だわ.....。」

...異母、異母兄弟....。


異母兄弟!?!?


「「「「「「「「はぁ!?!?」」」」」」」」

....それは始めてドゥ3兄弟と私達の気持ちがシンクロした瞬間だった。

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