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「134話 ドラゴニュート 」

少し不良っぽい口調の次男ドゥ・ガリスをフレアのハンマーで、クールな口調の三男ドゥ・タリスをトルペタ君の矢で戦闘不能にしたときそれは起こった。


「ミウ!マナが!」

「うん、2人分のマナがドゥ・バリスに集まってるね。」

「ちょっとまずいんじゃない~?」

フレアに吹き飛ばされた次男のドゥ・ガリスから、弟から吸収した分のマナと自分のマナがあふれ出す。


しかしそれは魔物を倒した時に死体からあふれ出すマナとは違い、体を密着させて他者にマナを分け与える行為と似ていた。

次男のドゥ・ガリスに三男のドゥ・タリスがマナを分け与えた時と同じことが起きている。


つまり、2匹分のマナを、長男であるドゥ・バリスが受け取ったのだ。


「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

ビリビリと大気が揺れるほどの大声で叫ぶその姿から、戦う前の理性的な姿は想像できなかった。

正真正銘の魔物。

人の敵であり、人を襲う魔物。


おそらく弟たちは死んでいない。けど瀕死であることには変わりない。

意識を失うその前に長男であるバリスに力を全て託したのだった。


ゆっくりと立ち上がったバリスの体からは自然のマナが遠ざかっていくほどの、近寄りがたい威圧感が漂っている。

肌の色は土色から光沢を帯びた金色に。

距離が離れていてよく見えないけど、口が半開きになっていることから呼吸も荒くなっているだろうことがわかった。

フレアのハンマーによる衝撃で吹き飛んできた次男ガリス、矢が腹部に刺さった三男タリスを地面に優しく寝かせると、次の瞬間叫び声と共にニカへと襲い掛かった。


「砕けろ!!!!」

「そんな!!....ッ!!」

振り抜かれた槍は光の鎖を断ち切り、更に今までどんなに攻撃を受けても傷一つつかなかったニカの盾に突き刺さる。

驚いた、ニカの守りが突破するなんて最強の魔族、ディレヴォイズ位かと思ってた。

決闘中に鑑定を行うことはできないけど、多分腕力は最高ランクのS++。


つまり、ニカ以外が攻撃を一撃でも食らったら、それだけで瀕死になる可能性がある。


「ディザスター・アロー!」

トルペタ君から放たれた矢は周囲の竹をかまいたちで切り刻みながら、バリスへと飛んでいく。

その矢を追うようにしてフレアもニカの元へと向かった。


「はぁッ!!」

しかしトルペタ君の渾身の一矢をバリスは槍の切先で(・・・・・)受け止めた。

空しく地面へと落ちる矢は矢じり部分が潰れているように見えた。


「オラァ!!!」

「ぬん!!!」

バリスの元へとたどり着いたフレアは大きくジャンプして、全体重が乗った渾身の一撃をバリスへと叩きつけた。

槍を横にして両手でフレアの攻撃を受け止めるバリス。


「あの攻撃を真正面から受け止めるなんて....。」

「ありえないですね....。」

「どうやったら攻撃が通るわけ~?」

自慢の攻撃を受け止められたフレアはバリスの槍を使ってハンマーを起点に、そのまま筋力だけでバリスの背後へと一回転した。



「フレイム・ハンマー!!!」「ライトニング・スピリット!」

空中でくるっと回ったフレアは、いつの間にか火を纏っていたハンマーをバリスの背中へと叩き込む。

それと同時に、ニカは光属性のマナを雷属性へと変質させて体内に吸収し、盾に雷を纏わせてバリスの反撃に備えた。


予想外のフレアの二発目の攻撃に、バリスは反応できないだろうと思っていた私は、期待を裏切られることになる。


バリスへと打ち込まれフレアのフレイム・ハンマーは、宙を切った。

体制を崩したフレアが背中から地面に叩きつけられる。


「卑怯とは言うまいな!!」

その力強い声は宙から聞こえてきた。


「おいおい、マジかよ....!」

「これは予想外ですね..。」

倒れたまま上を見上げているフレアが驚愕の声を出す。


つまり...。


「と、飛ぶのかぁ....。」

バリスは自分の体長ほど大きく、向こう側が透けるほど薄い翼で空を飛んでいた。

さっきまで生えていなかったのに、一瞬で生えてきた?いやいやまさか...。


「あの翼から強いマナを感じるです。おそらくマナを多く保有させ、人間でいうスキルのような原理で飛んでいるですね。あれだけ薄い翼ですから、背に収納してしまえば翼が生えていることすらわからないでしょう...。でもあの薄さ、長い時間飛べるとは思えません。制限時間付きの奥の手といったところでしょう。」

「虫っぽいよね~。」

レオの言う通り、よく見ると虫っぽさもある翼..羽だなぁ。


にしてもカナちゃんレベルで空気中のマナが見えるとそこまで予想できるんだ...。

予備知識が豊富って言うのもあると思うけども。


「トルペタ!!翼を狙え!!軽い攻撃でいい!」

「はいっ!」

起き上がったフレアは空中にいるバリスに対する攻撃手段がないことを理解すると、トルペタ君へ指示を出した。


「ホーリーチェーン!!....だめです、届きません!」

ニカが光の鎖を出しても微動だにせず、翼をはためかせて空中で静止しているバリス。


そこにトルペタ君が5本の矢を放つも、槍で払い落されてしまう。

すかさず次の矢を構えようとしたとき、バリスが動き出した。


「ドワーフ族の者よ!眠っていてもらうぞ!!」

槍の石突部分を前に構えて、矢と同じくらいのスピードでトルペタ君へと一直線に空を駆けるバリス。

避けられないと悟ったトルペタ君は、弓を闇属性の型に変化させて手甲でダメージを軽減しようと試みた。


「...!カハッ....!!」

「と、トル君!!!!」

腹部へと鋭い突きを食らい数メートル弾き飛ばされたトルペタ君は、竹に当たってそのまま動かなくなる。

攻撃を受ける直前に何か喋っていたようだったけど、この距離では聞こえなかった。


動かなくなったトルペタ君に外傷はなく、吐血していないことから内臓への致命的なダメージはなさそう。

殺さないとは言ってたけど、あれじゃあ骨が何本か折れていてもおかしくない。

すぐにでも助けに行きたいところだけど、私達は耐えるしかなかった。


「へっ、きやがれ!!あたしに今の攻撃が通用すると思うな!」

ハンマーに火属性のマナを込め、反撃の機会を伺うフレア。


遠距離攻撃をあまり持ち合わせていないフレアとバリスの相性は悪い。


先ほど次男のガリスを追い詰めた遠距離攻撃のヴォルカニック・ゲイザーは、地面から溶岩を噴出させるスキル。

空中にいて、しかも素早いバリスに命中させることができないと判断し、宙にいるバリスが攻撃するために接近してくる時を待って直接攻撃するようだ。


「サンド・スピア!」

しかしあからさまに反撃を企てるフレアを警戒してバリスは近づかず、手に持っている槍を背に固定すると、空中に複数の砂の槍を創り出して次々にフレアへと投擲した。


「ッ!スロー・リフレクト!」

咄嗟にニカが物理遠距離攻撃反射のスキルを盾に使い、フレアを庇うようにして全ての槍を受け止めた。

盾に当たった瞬間、無数の槍が逆再生のようにバリスの元へと飛んでいく。


「フッ....フハハ!やるではないか!やはり近付かねば攻撃は通りそうにないな!」

バリスは跳ね返ってくることがわかっていたように戻ってきた槍を紙一重で避け、その中の二つの槍を手でつかんだ。

そして2本の槍を器用に回転させながら、ニカとフレアに向かって飛んでくる。


空中で静止していたバリスが戦法を変えた。

投擲したところでニカに防がれてしまうと判断して、フレアの反撃を避けつつニカの守りの隙をついて攻撃を与えるつもりなのかな。

「!!」「何!?」

バリスがニカとフレアの射程に入るギリギリのところで急停止し、2本の槍の真ん中部分をもって両手を前に出した。

攻撃が来ると身構えていたフレアとニカは目を見開き、バリスの突拍子もない攻撃に対応しようとした。


しかし目を見開いた瞬間、バリスは手で器用に砂の槍を高速回転させ2人に向けて砂煙を起こす。


「あッ!」「クソッ!」

タイミング悪く目に砂が入って目を覆う2人。


地面の土は少し湿っているため、風が起きても砂煙は舞わないはずなのに....。


「おそらくですが、砂で作った槍を少しづつ砂に戻してるです。ほら、最初よりも短くなってるですよ。」

「....ほんとだ。」

「ちょっとまずいんじゃない?」

カナちゃんのいう通り、バリスの持つ槍は最初よりも小さくなっていた。

このままだと無防備になってるニカとフレアが危ない!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:フレア

クソ!目をやられた!!

このままじゃあアイツの攻撃を防げねぇ!


ルクニカの奴もこの砂煙で目をやられてるだし、こうなったら感覚に頼るしかねぇのか...?


「サークル・シールド!」

ルクニカの声の後、体に当たる砂や風の無くなった。

サークル・シールドってのは確か...半球状の結界..。


「フレア、よく聞いてください。私に策があります。目が回復したらこの結界を解くので、できるだけドラゴニュートの下に付いていてください。」

「あ、ああ。大丈夫なんだろうな?」

目の中に入った異物に反応して、涙がぽろぽろと零れ落ちる。

ルクニカの発言に反応しながら目をこすり、ようやく当たりの状況を確認できるようになった。


あたしとニカの周りを囲うように半透明の壁が砂煙から身を守ってくれている。

横に立つルクニカの目は赤く充血していて、目に涙をためていてた。


「ええ。先ほどドラゴニュートが近付いてきたときにあることに気が付きました...が、今は時間がありませんので説明は省きます。」

理由を聞けないのが少しだけ引っかかる。が、コイツが判断を間違えたことはない。

ルクニカがそういうならそうすれば勝てるんだろう。

バカなあたしは信じるしかねぇんだ。


「いつでもいいぜ。」

「行きますよ!..解除!」

ルクニカの結界が解かれた瞬間、砂煙が私達を再度襲った。

あたしはドラゴニュートの側面に回り込み、攻撃を仕掛ける。


「オラァ!!」

「遅い!!」

ハンマーを振り下ろそうとしたとき、ドラゴニュートはさっきよりも小さくなった砂の槍を後退しながらあたしに向かって投げてきた。


今は避けるよりも攻撃したほうがいい、このまま食らってでもハンマーを叩き込む!


....っつーか投げる!!!


あたしは腕と足を切り裂かれる痛みに耐えながら、ハンマーを思いっきりドラゴニュートに向かって投げた。


「なんだと!?....グアッ!」

ドラゴニュートは急いで背中の槍で防いだが、そんな体勢であたしのハンマーを受けられる訳が無い。

ハンマーを受けたドラゴニュートはそのままハンマーと一緒に竹にぶつかった。

竹はめきめきと音を立てながらゆっくりと倒れる。

防いだとはいえダメージを食らったドラゴニュートは...んだよ、また余裕そうに空中から見下ろしやがって。

ピンピンしてんじゃねーか。


「まさかあのように大きな槌を軽々投げるとは、恐れ入ったぞジャイアント族の娘よ。」

ダメージが有ろうとなかろうと、あたしのやるべきことは『あいつに近付く』ことだ。

サークル・シールドドラゴニュートが何か言ってるのを聞き流しながら、あたしは全速力で近付いた。


ハンマーはアイツの目の前に落ちて、アイツは空中にいる。

さらに上空に逃げる前に一気に近付いて、ルクニカの作戦を進めねーと。

あたしは距離を詰めるために一歩踏み出した。


「...しかし武器を失った状態でも、我に近付こうとするのは無謀が過ぎるぞ。」

そういうとドラゴニュートは空中から武器を持たないあたしに向けて槍を構える。

いつでも攻撃ができるとでも言わんばかりの気迫。

もしトルペタにしたときと同じように突進されたら、あたしの速度じゃ避けられねぇ。


せめて致命傷を免れるために軌道をずらすくらいしかねぇか?


どうせ距離を置いてもアイツの射程範囲。

だったらルクニカの作戦にかけるしかねぇだろ。


「殺しはしない。しかし多少の苦痛は覚悟してもらおう!!!」


あたしはドラゴニュートに狙われていることを考えず、ハンマーの元へ向かって行った。

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