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「133話 三つ子 」

「ちょ、アレ登る感じ!?」

「ん~~~。ディレヴォイズがいるのはおそらく竜種にとって住みやすい場所。竜種は高く降りやすい地形を好むですから、最終的には上ることになるですね。」

上陸してすぐゲオグリオスと戦ってから早2日。

私達は砂浜から見えたトロピカルな森を抜けて、笹のような植物が密集した地帯を進んでいた。

その間に竜種には出会わず、おかしなフルーツに擬態した食人植物や素早さに特化したワニ、人間位大きい虫に遭遇した。

カナちゃんが虫に泣き叫んでたけど、フレアのハンマーでプチっと瞬殺だった。

でもあの潰された時に飛び散った虫の体液は....思い出すだけで吐き気が....うぇぇ。


目の前に広がる竹林の隙間から見える岳は雲がかかるほど高くまで伸び、あれを登らざる負えなくなることにレオは落胆のため息をついていた。

や、確かに私もあれは登りたくない....。


「レオさん、フレアさんと筋力を上げる特訓してたじゃないですか!大丈夫ですよきっと!」

「いつの間にトルっちは体力あるキャラになったわけ....?オレと一緒の体力無し組だったじゃん...。」

確かにレオはこの一カ月でフレアにみっちりしごかれ、筋肉が程よくついて来た。

でもついたのはスタミナじゃなくて瞬発的な筋肉。

おとなしくマラソンとかを重点的にしてればよかったのかね~。


「やれやれ、情けないですねぇ。男なら気合で頑張ってみろです。」

「~~~~!!カナっち!!風の魔法で体を軽くしてるっしょ!!オレにもかけてよ!!」

最近のカナちゃんはスタミナ消費を軽減できる風魔法を移動中常に展開している。

私もかけてもらったことがあるけど、ちょっとジャンプしただけでいつもの数倍は飛べるし、歩くときもふわふわして落ち着かない。

月に行ったらこんな感じなのかなって感覚。


でも戦闘中は多分足引っ張ると思う、後衛の人くらいしか戦闘中には使うことないかなぁ。


「ヤ!です!私一人にかけてるからマナ消費が少ないんです!他人にもかけたらマナがめっきめき減ってっちゃうです!」

「そんな!オレとカナっちは他人じゃないでしょ!?オレら仲間じゃああああん!!」

どたばたと追っかけっこを繰り広げながら先に進む2人、元気あるじゃん....。


「まぁ、ゆっくりでも確実に前に進みましょう。」

「だな。最悪レオは私がおぶっていくから...ゴニョゴニョ」

最悪とか言っておいてまんざらでもなさそうなフレアの顔を見てほっこりしていると、先に走っていった2人の悲鳴が聞こえた。


「カナちゃん、レオ!!」

4人で走って先へ向かうと、そこには小型の竜種が三匹、カナちゃんとレオを囲うようにして立っていた。


「お前らが人間代表か!」

「おいおい、俺達に情けねぇ声を出す奴らがか?」

「ふん、ディレヴォイズ様が手を出すまでもないな。」

土色の鱗に覆われた体、蛇のような顔立ち、鎧をまとって槍を構えるその姿はRPGゲームで定番のリザードマンのようだった。

しかしゲームでお決まりの、雑魚敵という雰囲気はなく、その顔つきと纏うマナは今までであってきた竜種に劣らないレベル。

鑑定したいけど攻撃だと思われたら嫌だし我慢しておこう。


「....ふぅ。やれやれ、私達も舐められたもんです。」

「そうだね、オレ達の力を見せてやろうか。」

3匹が私達の方に視線を移した隙を見て、3匹の元からこちら側へと走って来たカナちゃんとレオ。


「アルカナ...レオさん....。」

トルペタ君が呆れたような表情で2人の名前を呟いた。


「我らは魔族軍副隊長、ドラゴノイド族のドゥ兄弟だ!我は長男ドゥ・バリス!」

「俺は次男のドゥ・ガリスだ。」

「僕は三男のドゥ・タリス。覚えなくてもいい。」

それぞれが名乗りを上げるとともに手に構えた槍の柄をドン!と地面に突き刺す。

こうしてみると3匹の見た目の違いが解らない。

同種じゃないと気が付かない違いとかがあるのかな?槍についた装飾が多少異なる程度の違いだけしかわかんないや。


ってかコレ私達も自己紹介とかしたほうが良かったりする?

ちらりと横を見ると、皆真剣な表情で武器に手をかけている。

能天気に自己紹介のことを考えていたのは私だけみたい....。


「我はお前たちと全力で勝負がしたい!しかし我らの全力は3人揃って成立する!そこで提案だ!1対1ではなく3対3の戦いを受けてくれるだろうか!!」

ドラゴノイド族の兄弟で一番上の兄、バリスがビリビリと肌で気迫を感じる程大きな声で戦いの条件を提示する。


「全力出すまでもないだろ、バリスはクソ真面目過ぎんだよ。」

「バリス兄さん、ガリス兄さんのいう通りだ。人間相手に僕たちが本気を出すまでもない。」

人間である私達に対して対等に話す長男バリスとは違い、2人の弟は人間を見下すような発言で兄に意見した。


「お前ら、いい加減にしろ!既に竜種が何人も敗北しているのだぞ!人間の身でその域に達している相手に対して敬意を示せ!お前らも武人であろう!」

おお...思った以上に好感が持てる魔物だ...。


「....チッ。」

「...まぁ事実は事実だ。兄さんに従う。」

「すまなかった、人間達よ。...で、どうだろうか?我らの提案を受けてもらえるか?」

2人の弟を黙らせた長男バリスはこちらに向きなおってまっすぐに見つめてきた。


「どうするですか?」

「いいじゃねぇか、3人で戦ってみれば。まだ戦ってない奴は誰だったか?」

フレアの問いかけにトルペタ君とニカがスッと手を上げた。


「俺ですね。」「私も戦ってません。」

あれ?あと一人誰だっけ。

王都を出た時にべとべとしたスライムのドラゴンと戦ったのがレオ、海で海竜と戦ったのがカナちゃん、ゲオグリオスと戦ったのが私。

ってことは....。


「あ、あたしだ。アッハハハハ!忘れてたよ。よし、行くぞトルペタとルクニカ。」

「フレアさんのサポートとか...どうしよう...。」

「フレアとですか...とりあえず私が敵を引きつけますね....。」

フレアがここまで不評なのは言うまでもない、個人的な能力は高いくせに連携を取るのがとてつもなく苦手なのだ。


1か月の修行の間、私達はいろんな組合せでチーム戦も行った。

その結果、味方にフレアがいるととてつもなく戦いにくいことが判明した。


接近戦に持ち込む私とニカにとって、フレアが味方が近くにいてもお構いなしにブンブン振り回すハンマーのせいでとてつもなく動きにくかった。

中距離のトルペタ君は、矢を撃っても直感で戦うフレアが向かってくる矢に反応して撃ち落としてくる。


唯一戦いやすいと言っていたのはカナちゃんとレオ。

矢には反応して撃ち落としたフレアも、魔法は流石に打ち落とせずおとなしく避けてくれるらしい。

仮に広域魔法を使って当たったとしても、フレアは防御力もニカほどではないにしろ高いため、大きな怪我にはならない。


「どうやら提案に乗ってくれるようだな、感謝する。引き受けてくれた礼に、命までは取らないことを約束しよう。」

「おいおい!オレは手加減なんて出来ねぇぞ!?」

「殺さなきゃいいんだ。逆に言えば、殺さなきゃ何してもいい....。」

ドゥ3兄弟が低い体勢で槍を構える。


「王都直属冒険者のルクニカ・ホワイトです。」

「ジャイアント族最強のフレア・イグニスだ。」

「く、クルシュ村の木こりをやっています、トルペタ・アローです...。」

トルペタ君だけ腰を低くしてお辞儀をしてるし、名乗りも1人だけ木こりとか言ってるし、大丈夫かなぁ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:トルペタ

遂に俺が戦う番が来てしまった。

しかも緊張して木こりとか言っちゃったし....。

折角だからアルカナにいい所を見てもらいたいとか思ってたのに。


「いつでも来い!!」

「物理結界展開!ホーリー・チェーン!」

ドラゴノイドの掛け声でルクニカさんが先制攻撃を仕掛けた。

結界を展開したルクニカさんは続けて敵と自分を結びつける光の鎖のスキルで、俺やフレアさんへ攻撃が行かないように注意を引き付けた。


「ちィ!切れるか!?」

「ダメだ。物理的な鎖ではない。マナが固定できなくなるよう攻撃するしかないようだ。」

「弟たち!まずはバーニア族から攻撃するぞ!」

俺もサポートしなくちゃ、ええと...3体を同時に牽制するためには弾速の早い光の銃!


リング・オブ・エレメントへマナを送り光属性へと変え、そのまま球体のオクトエレメントボウに光属性のマナを送る。

オクトエレメントボウは球体から形を変え、持ち手のついた筒状の銃へと変化した。


頭に欠けていた、視界の倍率を変化できる遠視のゴーグルを目に装着して周囲の状況を確認する。

盾を構えて3匹の攻撃に備えるルクニカさん、フレアさんは初っ端からファイア・スピリットを使って力を溜めていた。


「そこッ!」

俺は光属性のマナで形成した銃弾を、無数に生える笹の合間を縫って3匹のドラゴニュートの顔に向けて撃った、はずだった。


「オラァ!!!」

突如、ルクニカさんとドラゴニュートの間にフレアさんの大きなハンマーが振り下ろされる。

ドォン!と大きな音を立てて地面をえぐるハンマー。


気にしていた通り、俺がルクニカさんの背後から打った銃弾は、フレアさんのハンマーに吸い込まれるように命中する。

ハンマーに当たった光のマナの塊である銃弾が、激しく発光する。


俺が撃ったことに気が付いていたのか、フレアさんはギュッと目を瞑り光を直視せずに済んだが、3匹のドラゴニュートはフレアさんの攻撃に驚き目を見開いていたため直視してしまう。


「クソっ、目くらましか!」

「一度距離を置け!!」

「....その方がよさそうだ。....何!?」

ドラゴニュートが後退しようとした瞬間、ルクニカさんが光の鎖を引っ張り3匹のドラゴニュートが転倒する。


「フレア!トルペタさん!」

ルクニカさんの合図でフレアさんは一歩下がり、火属性のマナをどんどんハンマーに込めて次の攻撃に備えた。

つまりこの場は俺が抑える必要がある。


一方で俺は咄嗟に腰にかかったバッグから鉄の球を取り出して、銃口に込めた。

ドラゴニュートの1体に銃口を向け、銃の内部で光のマナを凝縮させて一気に爆発させる。


パァン!!と大きな破裂音が鳴り響き、肩までビリビリと痺れるほどの衝撃を感じながらも次の球を込める。


「なんだ今の音は!?」

「何かが飛んできたがダメージはない。大丈夫だ。」

「この鎖、思った以上にうぜぇぞ!!タリス!!マナをよこしやがれ!!!」

ドラゴニュート達の会話を聞いて球を込めるのを止めた。

だめだ、只の鉄の球ではドラゴニュート達の鱗に傷をつけることはできない。


火属性のマナをオクトエレメントボウに送り、銃を大きな弓へと変形させたとき、それは起こった。


1匹のドラゴニュートの存在感が異様に小さくなった代わりに、残りの2匹のうち1匹の纏う雰囲気が変わる。


「ッ!?あのマナの膨れ上がりは一体何ですか!?」

ルクニカさんがその1匹のマナが増大したことを察知し、盾をさらに強く握りしめ攻撃に備えた。


「クク、バリスもタリスも黙ってみてなァ!!!」

謎の強化により視力も回復したのか、ものすごい勢いで光の鎖に向けて手に持った槍を振るう。

キィン!!と甲高い金属音と共に光の鎖が弾け飛ぶ。


俺は落ち着いて鞄から鉄のインゴットを取り出し、一本の大きな矢へと変形させた。


「鎖は壊した!さっきの光は....あのチビか!!」

「待ちなさい!!!ホーリーチェーン!」

鎖を壊し自由を手にしたドラゴニュートが俺の方に視線を合わせてきた。

先ほどまで3本だったホーリーチェーンを1本に束ね、強化したドラゴニュートを拘束しようとする。しかし....。


「オラァ!!....お前は後で相手してやるよ。」

「くっ....!」

ドラゴニュートは鎖が結ばれる前に光属性のマナごとその槍で切り刻む。


「フーーーー.....。」

このままだと俺は後数秒であのドラゴニュートに切り刻まれる運命にある。

でも俺が狙うのは存在感が薄れ、弱体化したドラゴニュート。

おそらく自身のマナを過剰に分け与えて無理やり兄弟を強化したんだと思う。


刻一刻と強化したドラゴニュートがこちらに近付いてくる。

力を溜め切ったフレアさんの存在に気が付かずに。


「おーい、チビィ...。オレの大切な弟にそんな物騒なモン向けてどうしようってんだァ?」

「....。」

こちらへゆっくりと歩いてくる姿に恐怖しながらも、俺は限界まで弦を張り詰めていく。

残りの2匹のドラゴニュートは未だに目が眩んでいるらしく、周囲を警戒しながらその場から動こうとしていない。

ルクニカさんは、光の鎖を2匹のドラゴニュートへ付け直したせいでその場から動けなくなっている。


「おい!聞こえねぇのか!!....死にてぇみたいだな...。」

ドラゴニュートは、歩きから走りに変え、木々を槍でなぎ倒しながらこちらへと向かってきた。

それでも俺は弦を引き絞り、弓全体に火属性のマナを凝縮させていく。


「オラァ!!!!!!!」

遂に攻撃範囲まで差し迫ったドラゴニュートの槍の切先が俺の目の前まで近付いてくる。

そして......。


キィイイイン!!


「何!?」

突き刺したはずの槍が俺の目の前数センチで見えない何かに当たり、その攻撃を防いだ。

確実に俺を殺せると確信していたドラゴニュートは予想外の出来事に、動きを止めた。


「ヴォルカニック・ゲイザー!!!!」

だから当然、遠くから攻撃を仕掛けるフレアさんにも反応ができない。

フレアさんが真っ赤になったハンマーを地面に叩きつけると、地面が大きく揺れた。


「なっ」

フレアさんに気が付いたときにはもう遅く、ドラゴニュートの立つ地面がビキビキとひび割れていく。

そしてそのまま地面から吹き出した溶岩に身を焦がしつつ宙へと舞った。


「スパイラル・フレア!!!<二重>ダブル!!」

赤い炎を纏った矢は補助の風属性のマナにより高速回転をしながら、弓から放たれた。

そして魔法により2本の矢となったスパイラル・フレアは地面と水平に、2匹のドラゴニュートへと吸い込まれるように飛んでいった。


「クソッ!!」「何だと!?」「させません!」

丁度視界が回復した2匹のドラゴニュートはすぐにその場から離れようとしたが、ルクニカさんが光の鎖を引っ張り妨害したことでその場から離れることができない。


「グアッ!!」

「クッ...!」

存在感の低下したドラゴニュートに命中した矢はその硬い鱗を何とか貫通させるも、鱗で威力が吸収されて腹部へと突き刺さった。

もう1匹の、おそらく長男と思われるドラゴニュートには突き刺さることはなく、鱗が焼け焦げて剥がれ落ちる程度のダメージしか与えられない。


「続けて食らいやがれええええ!!!!」

渾身の一撃を放ち、マナを大きく消費したはずのフレアさんがこちらへ走って来る。

目的は宙へと高く舞い上がったドラゴニュート。


「<重増>ヘヴィ!」

フレアさんの意図をくみ取りハンマーに向けて重量を増加させる魔法をかけた。

その時丁度、空からドラゴニュートが落ちてくる。

体に付着した溶岩が、空中で冷えてが岩となり、身動きができない状態になっていた。


「ウ、ウゴアアアア!!」

口と手が岩で拘束され、ろくに叫ぶこともできないドラゴニュートはこれから身に襲い掛かる攻撃に恐怖し、くぐもった叫び声を上げる。


「ヘヴィ・インパクトォ!!」

そして振り抜かれた重量を増したハンマーは、落ちてきたドラゴニュートにクリーンヒットする。

身についた岩は粉砕され、四肢はあらぬ方向へ曲がったドラゴニュートは、鎖で繋がれた2匹のドラゴニュートの元へと飛んでいく。


「そんな!!!」

飛んできた瀕死状態のその体を受け止めた軽傷の長男のドラゴニュートは、重症を負った2人の兄弟を見て震えた。


「ガリス....タリス.....。」


「っし、残るは後一匹だな。」

「はい....。でも、何か様子がおかしいです...。」

フレアさんの発言に頷くも、残った1匹のドラゴニュートの雰囲気が、何かおかしい。

まるで先ほどの強化されたドラゴニュートのような雰囲気。


まさか....。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

そして、耳を塞ぎたくなるような長男のドラゴニュートの大声がした時、本当の戦いが始まった。

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