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「131話 リベンジ 」

「ここでいいだろ、始めるか?」

船の近くの見晴らしのいい波打ち際、私が一度ぼろ負けにした相手である熊の魔物のゲオグリオスと対峙する。

少し離れたところに5人の仲間、私のリベンジマッチの見届け人。


「いいよ、....今度は勝つから。」

2本の短刀を帯に刺さった鞘から抜いて構えを取って光と火のマナを短刀から吸収する。


「ほう...見た目だけじゃねぇな?マナから魔物と似たマナを感じる。ちなみにオレは火属性だ。」

私の髪の毛の色が変わった事よりも、マナの変化に注目したゲオグリオス。

以前オウカが属性と魔物の皮膚、毛の色は密接な関係だと聞いていたため火属性であることの予想は大体ついていた。


「見たらわかるよ。赤いじゃん。」

「魔物の特性にも理解があるっつーわけか。じゃあこんなのはどうだ?」

ゲオグリオスが手を上げたとたん、空から大きな棍棒が落ちてきた。

とてつもなく重そうな金属製の棍棒を片手で受け止めると、ゲオグリオスの足が少しだけ砂に埋もれる。


どれだけ重いんだろう、それよりも何故空から棍棒が....?


「これぁオレの新しい相棒、神羅万象撲殺丸だ。」

「ダサぁ.....。」

名前がダサい。

このネーミングセンス、「Race Of Ancient Online」の妙に馴れ馴れしい王国最強兵士のジョージを思い出す。

彼の持っていた大剣も天上天下唯我独尊ブレードとかいうダッサダサな名前だったなぁ。


しかし侮れない、この『神羅万象撲殺丸』ダサいんだけど、多分フレアのハンマーといい勝負の性能を持った武器だろう。

持ち手から徐々に幅広になっていくタイプのスタイリッシュな棍棒、先端部分には棘が等間隔に並んでいる。

そして3メートルはあるゲオグリオスの体と同じくらいの大きさ。

あたったら一発でアウトだと思う。


「だ、ださくねぇだろうが!!...あとな、これだけじゃねぇんだ。オレにもできる(・・・)んだよ。」

ゲオグリオスが棍棒を握りしめると棍棒が妖しく紫色に発光した。


「まさか....。」

みるみるうちに体毛が赤色から赤と紫色交じりへ変わっていく。


「この棍棒には闇竜の真核が使われてんだよ、どうだ?ミウシアの力と似てねぇか?」

間違いなくオウカと同じ力、復属性の魔物化。

ゲオグリオスは神獣.....ではないと思う。

神獣だとしたら私の纏う神力に対して何かしらの反応があるし。

ただの魔物なのに竜種に匹敵する力を持ってるなんて...。


自信がなくなっていく自分に腹が立って歯を強く噛みしめた。

私は勝つしかない、強くなった自分を信じて...!


ゲオグリオスの問いかけに答えず、光属性のマナで強化された体を最大限に発揮させ高速で走り出す。

おおよそゲオグリオスには何も見えていないはず、硬い毛皮で覆われているなら柔らかい鼻部分に攻撃を入れる!!


走り出すと周りの気配がゆっくりと、スローモーションで動き出す。

思考さえも加速している私は反応速度もずば抜けて上昇している。そんな攻撃を躱せるはずがない!!!


先ほどと変わらない恰好のゲオグリオスの鼻目掛けて逆手に持った桜下兎遊で切りつけ......たはずだった。


カァン!


「っと、とんでもねぇ速さだな。」

私の持てるトップスピードで切りかかった、間違いなく当たるはずだった。

なのにそんな高速で切りかかる私の攻撃を見切って棍棒で受け止めた!?


いや、そんなはずないただの偶然だ。


「あああああ!!」

限界を超え、さらにスピードを上げた攻撃で何度も何度もいろんな方角からゲオグリオスに攻撃し続ける。

太もも、脇腹、背中、首、手、顔。...次々と棍棒で防がれる。


何かおかしい、ゲオグリオスは自分で考えて攻撃を防いでるわけでは無く、勝手に棍棒が反応しているように見える。


「ッ!」

これ以上攻撃しても無駄と考え、雷属性のマナを飛ばすスキル、『飛雷』で攻撃しつつその場から離脱する。


「おわっ、あぶねぇ。」

最後の攻撃だけ短刀で切りつけるよりも速度が遅いこともあって、ゲオグリオスは身をのけぞらせて避けた。

単純な物理攻撃は棍棒で防がれて、魔法よりの攻撃は防ぎきれないということ?


「..やっぱりな。オレはお前が強くなるって信じてたぜ?だからこうして反応しきれない攻撃を防ぐ方法を身に着けたって訳だ。」

「ふぅ、...手の内をさらしちゃっていいの?」

息を整えてゲオグリオスの余裕ぶった発言に返答をする。

相手は以前としてその場から動いていない。まだ攻撃を仕掛けてきていない。


「わかってんだろ?だったら言っても言わなくても無駄だろ。それに、これだけじゃねぇし、なっ!!」

話し終えるとともに棍棒を下から上に振り上げる。

砂に先端が埋もれていた状態でそんな攻撃をするもんだから、ゲオグリオスと私の間に大量の砂が巻き上がる。


ゲオグリオスの属性は火と闇。闇は隠密行動に優れるため姿を隠し、死角から重い一撃を繰り出す可能性が高い。

私は左右、上空を中心に警戒する。


しかし読みは外れた。


「ラァ!!!」

砂煙の中、ゲオグリオスは真正面から現れて棍棒をふりおろす。

予想を外した私はすぐに思考を高速化させてその棍棒の軌道を読んだ。


上から下に向けたたたきつけ、体を半身横にずらせば避けられる!


左足を一歩ずらしてわざと横に体を傾けて攻撃を躱そうとしたとき、棍棒の軌道がガクンと向きを変えて私に襲い掛かった。

咄嗟に右足を突きだして棍棒と同じ方向へ飛んでダメージを軽減させる。


「うぁっ....!!」

同じ方向へ飛ぶことは成功した、しかし右腕にかすっただけでもかろうじて短刀が握れる程度の激痛が走った。

無理な避け方をしたため着地に失敗してそのまま砂の上に倒れこむ。


ゲオグリオスがその機を逃すはずもなく、攻撃が躱された直後にその場から飛び上がり、私に向けて全体重を乗せて棍棒を振り下ろそうとしている。


「ッ!」

咄嗟に桜下兎遊に光属性のマナを込めながらゲオグリオスの頭上に向けて投げつける。

投げた桜下兎遊からはマナでできた光の軌跡が空中に描かれている。


「降参すれば外してやるぞ!!!!」

目下に迫ったゲオグリオスが棍棒を構えながら叫ぶ、しかし私は答えずに目を閉じて光属性のマナによる右腕の回復に集中した。


「そうか。」

応えようとしない私を見て、悲しそうな顔でゲオグリオスは棍棒を振り下ろした。




「何!?」

全体重のかかった棍棒は私がいたはず(・・・・・・)の場所に振り下ろされ、地面を大きくえぐった。

そんな光景を空中で見ながら私は桜下兎遊と桜下兎走を光のマナで繋ぎ、火のマナで覆う。


「せぇいッ!」

両手で持った光炎の槍に光のマナを込めながら、ゲオグリオスに向けて全身を使って投擲した。


「ぐあっ!」

棍棒を思い切り叩きつけた後で隙だらけだったゲオグリオスは、高速で向かってくる光炎の槍を避けられずにその肩に受けてしまう。


肩に刺さった槍に向けて頭突きをくらわそうとするゲオグリオス、さっきと同様短刀の場所に私が瞬間移動すると思っているのかな。


投擲の反動で距離を取って着地し、手から伸びる光のマナの軌跡を伸縮させると、ゲオグリオスに刺さっているはずの光炎の槍が私の手元へと一瞬で戻ってくる。


「どっちもありってわけか...。」

「まぁね」

光属性のマナで自分と武器を繋いで、武器を自分の元に移動させたり、自分を武器の元へ移動させる技。

これは訓練でレオに拘束された時に思いついたものだった。


「腕も治ってやがんな。もう手加減はできないぜ?」

「手加減してくれなんて頼んだ覚えはないよ!」

行動の読み合いが始まり、私もゲオグリオスもにらみ合ったまま動かない。


仮に空いた距離を詰めようと、ゲオグリオスがこちらに走ってきたとしても、速さは私に分があるため用意に避けられると思う。


避けるだけであれば。


攻撃をするとなると話は別だ。


3mはある棍棒を軽々振り回すことができる以上、間合いがとても取りにくい。

極端に近づくか、射程距離よりも離れる必要があると思う。

近付いて短刀で攻撃したところで、マナを使ったスキルや魔法でないと棍棒の謎のオートガードによって弾かれる。


リスクが無いのは離れてスキルや魔法を使用する戦法。

私に強力な魔法は使えない。


以前竜種と戦った時のように下級魔法を工夫して相手を困惑させることは可能だ。

でも万が一うまくいかなかった場合はそこで棍棒に潰されて終わり。

それなら高火力なスキルで遠距離から圧倒したほうがいい、下級魔法は使ったとしてもサポート程度かな。


「なあ。お前...ミウシアは何者なんだ?」

「......へっ?..な、何者ってどういうこと?」

戦いの最中、しかもお互いの行動を読み合っている時にゲオグリオスが突然話しかけてきたせいで一瞬話しかけられていることに気が付かなかった。

何者ってどういうことだろう。


「いやな、ミウシアからはなんかあたたけぇものを感じるんだわ。あのお方と同じような...。」

うーん、と首を傾げて上を向く姿は隙だらけ。

そんででっかい熊さんが首を傾げてる光景が不覚にもかわいくて、モフモフしたくなっちゃう自分がいる。


でもここで攻撃するなんて野暮なことはしないよ。

普通に戦って勝ちたいしね。


「あのお方って、ディレヴォイズ?え、竜族の王ってそんな温かい人柄...竜柄?なの?」

もっとプライドが高くて他者を見下しているようなイメージがあったけど、魔族同士には違うのかも。


「オレは別に奴に忠誠なんぞ誓ってねぇぞ。つええ奴と戦えそうだから魔族に肩入れしてるだけだしな。あのお方ってのは.....いや、今は戦いが先だな。すまん、再開しよう。」

「う、うん...。」

なんだかすっごいもやもやする。

ディレヴォイズ以外に従ってる存在がいるってことだよね。

魔物だからやっぱり魔物の神であるデストラ?

いや、でもあったことがあるみたいな言い方してたし違うか...。


...今は戦いに集中しよう。


ゲオグリオスとの距離は10メートルはある。

私の手には光炎の槍。

空中からの安定しない投擲でも分厚い毛皮に突き刺すことはできた。


地面の砂を砂ジャリと踏みしめて足場を確認、滑らないように歩幅を小さく一気に駆け抜ける!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:ゲオグリオス

強くなるとは思っていたけど、まさかここまでとはな。

神羅万象撲殺丸に纏わせている闇竜の真核を媒体にした闇属性のマナ。

金属に反応して向かってくる武器に辺りに行くスキルが無きゃ最初の猛攻で体中切り傷だらけになっていただろう。


会話をして休憩をしなきゃ肩の痛みを紛らわすことだって敵なかった。


こんなギリギリの戦いができるなんてやっぱりお前は他と違う(・・・・)


この戦いに、この巡りあわせに感謝しますジア(・・・)


等と脳内で神に感謝をしていると、対面にいるミウシアの姿が消え、キラリと何かが光った。


「ぐあ、ああああああ....。」

次の瞬間、腹部に燃えるような激しい激痛を感じる。

何が起きた!?オレはミウシアから一瞬でも目を離さなかった。


腹部に感じる痛みを必死で堪えながら神羅万象撲殺丸を自分の周囲に振り回した。

ブォンと風を切る音が空しく響く、ミウシアは今近くにいない。


腹を片手で押さえながら踏ん張って2本の足で立つ。

背中に液体が流れ落ちる嫌な感覚から、腹の傷が貫通していることに気が付いた。


「どう?降参する?」

不意に横から聞こえたのはミウシアの声。

声のする方を向くと光り輝く槍を持ったミウシアが余裕そうな表情で立っていた。


これは使いたくなかったんだが、仕方がねぇな。

オレは首元の毛皮に埋め込んでおいた青く輝く丸薬を渋々取り出した。

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