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「127話 酸っぱいドラゴン 」

王都を旅立ち港へ向かう途中、気が付けば一カ月前魔族と戦った地点まで来ていた。

魔族によって木が倒されていた所はあらかた掘り起こされて開けた場所になっていて、魔物や人間の死体があった事すらわからない状態まで復興したみたい。


その時亡くなった人間達のお墓は王都に建てられたとか。


「皆さん止まってください。」

そんなセンチメンタルな気分になってたら突如トルペタ君が東の空を見上げながら私達を止めた。

今日も晴天でポカポカと気持ちのいい陽気だなって事しか私は解らなかった。


少しの間見続けていると、空に小さな黒い影がぽつりと浮かび、だんだんと近づいてくるのが確認できた。


「....何だありゃ?もしかして魔族か?」

「ですかね。まだ人間の領地なのに...せっかちです。」

その影がだんだんと大きくなり、形が明確になってきた....んだけど、その影からしきりに何かが降り注いでいるのが見える。


「なんか落としてない?」

「ん~、まぶしくてよく見えませんねぇ。」

「ほんとだ。トルっち見える?」

レオもニカも何かが落ちていることは解ったみたいだけど、詳しくは解らなかった。

というか太陽がまぶしくてあんまりよく見えない。


「.....うわ...。これは....今回は前衛の3人の出番はなさそうです....。」

「はぁ?なんでだよ。」

トルペタ君の発言に戦いたくてうずうずしていたフレアがいらだち交じりの返答をした。

見た目だけで前衛には向いてないって言うのが解るとは、トルペタ君もなかなかやるなぁ。


「いや、だって....。ほら、見てくださいよ。そろそろ見えるんじゃないですか?」

皆揃って手を目の上に置いて太陽の光を遮りながら、東の空を見上げると、ようやく竜種の姿が見えてきた。

しかしその姿を見て一同揃って驚愕する。


「うわぁ...。」

嫌なことがあまり顔に出ないニカでさえ引きつり顔で冷や汗を垂らし。


「うわ...パス...。」

意気揚々としていたフレアでさえも戦うことを拒否し。


「あ、あんなの私も嫌です!戦いたくないです!」

カナちゃんはもちろん。


「うっわ~、あんなのとどうやって戦うわけ~?」

レオですら引いていた。


大きな翼、退化した小さな前足、大きな尻尾。これだけだと普通の竜のように聞こえるが、問題はそこじゃない。

その竜は身体全てが青色の粘液に覆われていた。

....というか粘液でできているのかもしれない。

しかも、ぼたぼたとその竜種から滴る粘液(・・)が落ちたところからは煙が上がっている。


つまりあの粘液は触れた物を溶かす強い酸性でできてるってことだ。


「確かに、アレは前衛には向かないね...どうやって戦えばいいかわかんないや....。届くかなぁ~?<鑑定>アナライズ!」


-------------------

名前:ベリトベルベリト

種族:アシッドドラゴンスライム

職業:魔族の嫌われ者

HP:22465/24100

MP:0/0

力:A+

防御:A+

魔力:-

早さ:C

運:-

-------------------


アシッドドラゴンスライムってスライムじゃん!竜種じゃないじゃん!

しかも魔族の嫌われ者って....ちょっとかわいそうだけど気持ちはわかるかも...。

近寄られたら溶けちゃうもんね。


「アシッドドラゴンスライムって種族らしいよ....体を覆ってるんじゃなくてそもそも粘度のある消化液でできてるのかも...。」

皆揃って顔から血の気が引いていく。


「いくら私の防御が高くても、鎧の隙間から消化液が入ってきたらひとたまりもなさそうですね....。誰が行きます?」

流石のニカもあれと戦う方法は思いつかなかったみたい。


「さっきトルペタ君が言ってたように、私達前衛にはちょっと無理だと思う。体が液体ならトルペタ君も不利だよね。となると....。」

皆の視線がカナちゃんとレオへと集まった。

正直相性的にはカナちゃんの方がいいと思う、だって凍らせちゃえばいいんだもんね。


「いやいやいいいいやいやです!!相性よくてもなんでもこの精神状態じゃあうまく魔法が出せませんよ!!」

頭ってそんなに早く左右に振れるんだ...そういえばカナちゃん帽子してないな。いつからだろ?


「.....わかった、オレが行くよ~。」

頭をポリポリと掻きながらいやいや立候補するレオ。


「本当ですか!!レオって優しい所あるんですね!!!見直しました!!」

「ひどくな~い?オレ、基本優しいよ~?....うっ....!」


突如、私達の嗅覚を襲う酸っぱい強烈なにおいが辺りに充満した。

その匂いと共に私達から少し離れたところにアシッドドラゴンスライムがぼったぼったと粘液を垂れ流しながら地面に降り立った。


「やば、やっぱカナっち変わってくれない?ケットシー族は鼻が良すぎるんだよ~~~...。ちょっと、カナっち?聞いてる??おーーーーい。なんでそっち向くの!?聞こえてるよね!?」

鼻を抑えて涙目になるレオに背を向けるカナちゃん。

可哀そうだけどレオ、任せた。


私達は示し合わせたかのようにレオだけを残して少し離れたところで戦いを見守ることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:レオ

「お~?お前~が~人間~の~代表~か~?」

アシッドドラゴンスライムが近寄ってきただけで匂いが一気にきつくなったのに、喋ったからさらにむわっと酸っぱい匂いで辺りが包まれる。


「そ、そうだよ~。」

これ無理じゃね?

カナっちと同じで、こんな精神状態で魔法とかうてなくな~い?


『レオは私達が守る。私が包んであげる。』

『今日はそこまでアウトな発言じゃないの。お姉ちゃん学習してるの。』

フューとフォリアの声が聞こえた後、何か温かい薄い膜のような物で体が包まれた。

そしていつものように2人の要請がオレの羽になる。


「臭わない..ありがとう、フュー、フォリア。」

『どいたま~♪』

『なの。』

これなら匂いを気にしなくても戦える、肝心の戦い方が決まってないけどね~。


「じゃあ~~いくぞ~~。ペッ」

こっちが準備する前にアシッドドラゴンスライムは口から酸を吐き出した。


「まぁ、待ってくれないよね~。フェアリー・ブレッシング!」

飛んできた酸を大げさに避けつつ自分に身体強化とマナ制御力が上昇するスキルを使う。

フレっちと一緒に体鍛えててよかったぁ...。


「よ~け~る~な~~~。」

「いや、避けるっしょ!」

アシッドドラゴンスライムは喋り方と同様に動きも遅い。

とはいっても俺よりは早いけどね~~。


「オベイロン!」

『こりゃ小僧にはきつそうじゃのぉ』

無駄口をたたきながらもオベイロンが杖の頭部分へと入っていった。

体中に湧き上がる精霊の力を感じながら考える。


オベイロンのフォール・コメットはタメが長すぎる。

落下を待ってたらオレが溶かされること間違いなし。え~どうすんだよマジで~~。


「く~ら~え~~。」

アシッドドラゴンスライムはその場で回転し、遠心力を使って尻尾を振り回してきた。

尻尾本体が当たるほど近づいてはいない。でも酸は飛んでくる。


「うひ~~~~っ」

フューとフォリアの羽で上空に飛んで何とか避けることに成功したけど、これじゃあ時間の問題じゃね~?

とりあえず攻めないと...。


空中で停止しながらアシッドドラゴンスライムの上空に魔法陣を描いて発動。

「<光の大剣>グランド・ホーリー・ソード!」

魔法陣から現れた光の大剣が精霊王の指輪の効果で2本に増え、そのままアシッドドラゴンスライムの背中を貫通し、地面へと突き刺さる。


「よしっ、止められ....」

光の大剣で地面に張り付けることに成功したと思った矢先、何事もなかったかのようにアシッドドラゴンスライムが一歩前に出る。


「俺には~きかない~~液体だから~」

「うそ~ん....。」

<光の大剣>グランド・ホーリー・ソードは魔法とはいえ物体化した光属性のマナを物理的に相手に当てる魔法。

これがだめなら<拘束茨>ソーンバインドもだめ...。


「おりて~~こい~~」

翼をこっちに向けて羽ばたくアシッドドラゴンスライム。

突風と酸の飛沫がオレに向けて飛んでくる。


「っ!<白炎>ホワイト・ファイア!」

反射的に魔法陣を目の前に作り出しホワイトファイアを2発打ち込む。

酸とは言え水分、ホワイトファイアに当たった酸は蒸発していった。


1つ目のホワイトファイアの威力は酸の飛沫によって多少弱くなったけど、2発目のホワイトファイアと合わさって1.5倍程度の大きさとなった。


「なんだ~~これ~~~。ぎゃあああああ~~~」

ホワイトファイアが当たった翼に球状の穴が開く。これだ!


「なあああんちゃって~~~~~。」

優勢かと思ったのは束の間、アシッドドラゴンスライムがボコボコと波打ち、翼に開いた穴は一瞬で回復しきってしまう。


圧倒的に火力が足りない。

<白縮炎>ホワイト・フレアを使ったとしてもあれは範囲が狭くて焼き切ることができない。

ヤバくな~い?


そもそも炎を扱うのに適しているのは火属性なわけで、光属性の炎はどこまで行ったって火属性の下位互換。

てかフレっちの高火力で一気に決めるか、カナっちの魔法で凍らせてたら一発で決着ついたんじゃないの~?


『今の炎にフェアリー・ブレッシングを使ったらどうじゃ?』

「は~?ホワイトファイアの身体能力あげてどうするっての?....待てよ。」

フェアリー・ブレッシングは体内のマナを活性化させ身体能力を一時的に上げる効果と、マナの伝達率を上げて魔法の威力を上げるスキル。

魔法にかけたらその魔法のマナを活性化させて、活性化させたマナが通りやすくなる。つまり相手に干渉しやすくなる?

更に広範囲の仲間に効果のあるスキルだから、その余波を伝達して油に火がつくように炎も広がる?


「オベイロン、パねぇ!!」

『何言っとるかわからんが早くやるんじゃ!!来るぞ!!』

「くらえ~~~」

身体を回転させて尻尾を振り回したアシッドドラゴンスライムは、勢いがついた尻尾を根本から切り離してオレに向けて飛ばしてきた。


「やばっ!!」

掛け声は抜けてるくせになんて範囲の攻撃だよパね~~~。

咄嗟にヒューとフォリアの翼で上空へと逃げると、相手も上空へ飛んでくる。

飛んで避けられたら怖いなぁ。


火力を考えるとフレアの方なんだけど、ホワイトフレアは速度が遅い、確実に当てようとすると近づかなきゃいけない。

でも拡散させた場合オレまで巻き込まれるからやっぱりホワイトファイアかな。

少しでも火力を上げるためにオベイロンのマナも込めておこう。


「オベイロン!マナを分けてくれ!」

『念には念を入れるわけじゃな。』

杖が緑色に発光し、オベイロンの濃縮されたマナがたまっていく。


「<白炎>ホワイト・ファイア!」

オベイロンのマナも使用して強化したホワイトファイアは光属性よりも精霊のマナの色が強く出て緑色になっていた。

これじゃあグリーンファイアだわ。


「また~これか~~」

火を見たアシッドドラゴンスライムはさらに上へと羽ばたき、ギリギリのところで避ける。


「その程度なら範囲内っ!!フェアリー・ブレッシング!!!」

スキルの範囲を上空へと意識し、ホワイト...いや、フェアリーファイアにスキルを上乗せした。


ボン!!という爆発音の後、ジュウウウと蒸発する音が聞こえ、緑色の光で視界が埋め尽くされた。


「アアアアアアアアアア!!!」

よく見えない視界の中で聞こえたのは、アシッドドラゴンスライムの悲鳴と地面にゴンッと何か硬いものが落ちる音。


「まぶし...おお~。綺麗な光景~。」

まぶしさを我慢して目を開けると燃えカスが円形に地面へと落ちていく綺麗な光景。

コレ夜だったらすげーきれいなんだろうなぁ。


『レオ、なんか落ちてる。』

『レオ、丸いの落ちてるの。』

「ん?」

フューとフォリアの声で思い出す。そういえば何か地面に落ちた音がしたけど....。

地上に目線を向けると黒い大きな丸い球が、しかも玉からは粘液が少しずつにじみだしてきてる。


『マズい!レオ!早く壊すんじゃ!!復活するぞ!!』

「マジ!?<光の大剣>グランド・ホーリー・ソード!!!!」

たまに向けて光の大剣を上空から突き刺すと、玉は粉々に砕け散った。

あぶね~~~~!!!!


とりあえずこれで一勝??あ、皆が茂みから出てきた。

なに、毎回こんな感じでやるの?一騎打ちってめんどくさ~~~。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

◇SIDE:竜の王の側近

「ベリトベルベリトがあっさりやられるとは.....。」

あ奴は魔法は使えない、竜人化もできない落ちこぼれ、しかし種族の性質上敵に回したら相当に厄介な筈なのに。


しかし、あの緑色の炎はなんだ?

色だけで言えば風。しかし風属性の炎が存在するわけない。

あの猫族のイケメ....ごほん。男からは妙なマナを感じた、まるで別の生き物からマナを受け取っているような....。

目に見えないということはアンデッド族.....いや、そのような邪なマナではなかった。むしろどこかディレヴォイズ様に似た気配を....まさか古代種か!?


であれば我が主に届きうる存在やもしれぬ。


このまま気配を消して情報を集めよう。

私にはそれしかできないのだから。

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