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「126話 旅立ちの日 」

「ふぁ~~....。」

眠い目をこすって大きく背伸びとあくびをする。

もう筋肉痛は起こさない程度には基礎の筋肉はついた。

まぁマナによる身体強化が大きいからほどほどにしかつかないんだけどねぇ。


今日はついに旅立ちの日。


この一か月間、長く苦しい訓練に耐え抜いた私達はお互いの戦い方やスキル、魔法について指摘し合ってより強くなれた....と思う。多分。


部屋の窓を開けてアイテムボックスから出したキセルに葉っぱと中和剤を詰めて火をつける。


「スー.....ふ~~~ぅ。」

今日もいい天気、部屋から見えるバーニア地区特有の緑が広がる景色を見ながら一服。最高だねぇ~。


今日からついに最後の旅が始まる。そう思うと感慨深くなって、この一カ月のことを思い返してみた。


まず、肝心の王が書いた手紙。

ニムゲとトゥリプスは無事にディレヴォイズに届けたようだった。

案の定、ディレヴォイズ並びに竜種達は挑発に乗ってブチ切れて、なんとしてでも自分が倒してやるって意気込んでたみたい。

もしかしたら切れたディレヴォイズと真っ先に戦うことになるかもって思ってたけど、案外冷静で、手下に負けるような相手なら自分が相手をするまでもない相手だ。と魔王みたいなことを言ってたそうな。


何はともあれ条約は結ぶことができた。そうなれば後は私達が強くなるだけ。


とはいうものの、この一カ月の内、毎日行われる派手な訓練は王都に住む人たちの娯楽になってしまった。

まぁ、私とフレアのせいなんだけど。

ある日フレアと私が酒場でお酒を飲んでいい感じに酔っていた時、酒場にいた兵士や冒険者から「強くなるために訓練の見学させてほしい」と相談があった。

酔っぱらってた私達は二つ返事で酔ったまま夜遅くに王城を訪ねて、一番緩そうなレオの父親であるティスライト王に許可を貰った。


次の日、酔った勢いで失礼なことをしてしまったことに対して、朝早くからフレアと謝罪に向かうと、ティスライト王は何も気にしてなかった。

それどころかすでに王都中に私達の訓練を自由に見学していいとの知らせも出していた。


そしてその日から私達の訓練は毎日整理券が発行されるほどに人気娯楽になっていた。

私達が訓練を終えた時に王城の門の前で出待ちをするファンや、試合の勝敗を賭け事にして楽しむものまで出てくる始末。


まぁそれのお陰で私達の知名度と好感度は爆上がり、最終的には私達皆にファンクラブができるほどまでになったとか。



そんなこともあったけど、なんだかんだで王達のバックアップのお陰で訓練をする場所に困らなかったし、王城の大きなお風呂も使わせてもらったし、いい環境で強くなれたと思う。


あ、でも食べ物だけは文句を言わせてほしい。

だって、マナが増える~とか力が強くなる~とか胡散臭い効果の薬草とか果物とか、よくわかんない虫とかのゲテモノばっかり食べさせられたから。

カナちゃんとニカは特に嫌がって、最初の内は半泣きで嗚咽交じりで食べてたから、私も無理して食べる気になった。

まぁあんまり効果なかったんだけどね。


眷属達とはあんまり連絡を取ってない、っていうのも、眷属達が何やら忙しそうで皆で何かを作ってる?研究してる?んだって。

なんか私には内緒とか言ってた。少し寂しい。


ニカとはその後....うん、誠実?なお付き合いをしてる。

皆の前ではいちゃつかなかったけど、2人きりの時は普通に恋人同士程度にはいちゃついた。

でもこの旅が終わったらもう会えなくなることはとうとう伝えられなかった。

レオしか知らないんだよね、私がこの旅が終わったらいなくなること。


いつか皆に言わないといけないんだけど、こういうのって苦手でなかなか言い出せそうにない。

きっと最後まで言い出せないんだろうなぁ。


「ふ~~.....。よし、行こう。」

手に持っていたキセルをポイっとアイテムボックスに投げ込み、家の外に出た。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:リージェン

「なんだ~?リージェン緊張してんのか?」

「う、うるさい。そもそも国民がこうして集まることが稀ではないか。」

ティスライトめ、すぐに私をからかってくる。

もう45歳にもなるというのに、コイツは未だに学生の時のノリだ。

....まぁそれが今はありがたいのだが...。


今日はアルカナ達の出発の日。

魔族が攻めてくるという恐怖心を国民から払拭するために、明確な安心感を与える方法を考えた。

それには大々的に魔族を倒す存在であるアルカナ達の存在を国民たちに知らしめる必要があった。


そう考えるとミウシアとフレアが酔っていたとはいえ訓練場を国民たちにも開放してくれと頼んできたのはとても都合がよかった。

ティスライトが何も考えず『ただ面白そうだったから』という理由で許可したのには少々呆れたがな。


というわけで6人の勇者という希望の存在は、国民たちに知れ渡ることとなり、当初より予定していた旅立ちのパレード...つまり今日を迎えたわけなのだが。


「まさかここまでとはな...。」

王城のテラスか外を眺めると、城から正門まで道は当然のように国民で埋め尽くされ、さらには正門から王都の東門までの道のりまでもが国民であふれかえっている。


それに加えて私達が王位を継承した時よりも熱気が凄い。

まぁ元々は私達も平民やただの貴族だったからな。そこまで知られていなかったのだろう。

まぁこれが人望というものか。


「リージェン、そろそろ国民に挨拶したらどうだい?もう待ちわびているようだよ。」

「ガハハ!リージェンではなくフレア達を待ちわびているのであろう!!」

「もう儂らの仕事は終わっておる。あとはリージェンに任せて待つのみよ。」

「カンパーイ!」

バラッドが急かし、オリバーが私を煽る。

ギアとティスライトは酒を飲む。


何故私が代表して演説をしなければならないのだ...!

酒を飲むなアホ共!!


「リージェン王。そろそろ宜しくお願い致します。」

「あ、ああ....。」

遂には兵士にまで急かされてしまった。

泣く泣く私はテラスへ出て国民へ告げた。


「よくぞ集まってくれた、王都サスティニアの民達よ!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:ミウシア

「頑張れー!!」「サスティニアを救ってくれ~!!!」「魔族なんてぶっ飛ばしてやれー!!」


豪華な装飾が付いた馬に乗り、王都の人たちが並ぶ道をかっぽかっぽとゆっくり進んでいく。

左右両側から歓声と激励の言葉が飛び交う。

パレードってこんな気持ちなんだ....訓練でいろんな人に注目されるのは慣れたけど、これはまた話が違うなぁ。

...にしても手と表情筋が疲れてきたなぁ、パレードの主役は皆こんなことしてるの?


「ねぇトルペタ君。これ、ずっと笑ってなきゃいけないの?」

「アルカナはいつも通りの顔してますし、無理しなくてもいいんじゃないですか?」

あ、ほんとだ。カナちゃんこういう時は笑顔じゃないと....。

他の皆は...あれ、案外余裕そう。というかいつも通りのテンションだ。


「ミウシアちゃん達ー!頑張れよー!!これでも食べてくれ!」

「肉屋のおっちゃん!ありがと!」

肉屋のおっちゃんが中身がぎゅうぎゅうに詰まった袋を私に投げてきた。きっとお肉かな、普通にうれしい。


私のファンはおじさんが多い。主に飲食店を経営しているおじさんが。

だってこの一カ月、お世辞にも美味しいと言えないご飯ばっかりだったんだもん!


「トルペタちゃん、旅の途中風邪ひかないようにね!暖かくして寝るんだよ!」

「は、はい...。気を付けます...。」

トルペタ君はマダムからの指示が熱い。ドワーフ族ならではの体の小ささ、本人の真面目な性格、戦ってるときの一生懸命さに母性本能が擽られるとかなんとか。


「あっアルカナ殿...ずっと応援してるよ....ふひっ...。」

「気持ち悪いです。話しかけないでください。」

「フヒーーーーーーーーーーッ」

カナちゃんはオタクっぽい研究者たちというコアな層からちょっと引くぐらい指示されてる。

そのツンツンとした言動が刺さるらしいけど、この世界にもああいう人がいるんだねぇ....。


「フレアの姉御!!!魔族の奴らなんてひねりつぶしてやってくだせぇ!!」

「おう!!酒用意して待っとけ!」

フレアはむさい感じの男性冒険者からの支持が...というよりあれは舎弟?的なノリなのかな?

飾らないフレアの性格がいいみたい。フレアって性格とか言動がちょっと山賊っぽいもんね。


「キャーー!ルクニカさまーーーーー!!」

「ハハ....。」

「レオ様!こっち向いて!!」

「はいよ~♪」

ニカとレオは貴族から庶民まで、幅広い層の若い女性から凄い人気だ。

バーニア族の女性じゃなくてもニカのかっこよさが刺さった女性たちはとても多い。

フレアと訓練をしている時に、フレアが砕いた石が観客に当たりそうになったところを、かっこよく盾で防いだのがきっかけだった。

本人はきゃーきゃー言われるたびにどう反応して困ってるみたいだけどね。


レオはその見た目で若い女性を虜にしている。

特に理由もない、ただただ顔がいいからね...。

そういえばニカのファンとレオのファンは対立関係にあるみたいで、どっちの方がかっこいいかよく言い争ってる姿を目撃する。

ちなみに、レオがデレデレしてることにフレアはちょっと、いや大分嫉妬している。


「むむむ。」

ほら今も。早く告白すればいいのに。


東門の前に着いた私達は馬から降りて王都の外へでた。

今回の旅、馬に乗っていく意味はさほどない。

というのも、旅の途中で次々と一騎打ちを仕掛けられることが予想できるため、馬が怯えて逃げ出してしまうかもしれないからだ。


門の両側からゴトゴトという音が聞こえるとともに、門が閉まっていく。


門が閉まり切っても尚、王都からは歓声が聞こえていた。

ここまで期待されているからにはその思いに絶対応えたい。


私達が負ければ王都に住む人々はここから離れなければならない。

そんなことは絶対にさせない。


「よし、行こう。」

「はい!」「です!」「おう!」「っけ~♪」「行きましょう!」


そしてサスティニアでの最後の旅が始まった。

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