「124話 火力特化vs万能型 」
月明り....月?月なのかなアレ。なんか緑色だけど。
月っぽい明かりと家の光に照らされて、2人は対峙する。
ここは森の中でもひときわ開けた土地。
模擬戦を行うのにはもってこい。
まぁ模擬戦と言っても二人とも全力で戦うっぽいけど。
「骨の2本や3本や10本や50本は覚悟しておくんだなぁ!」
「頭は狙わないでおきますね。」
いつになくやる気な2人、フレアの中でトルペタ君に負けるなんてことは考えた事もないんだろうなぁ。
フレアはどうもトルペタ君を弱く見積もってる節がある。
とはいえ、私も1対1では勝てると思ってるわけだから、人のことは言えないんだけど。
「フレっち、あれじゃあ悪役じゃね~?」
「フフ、トル君を甘く見てる馬鹿は一度痛い目に会うと良いdeath....。」
「この勝負、どちらがかってもおかしくありませんよ。トルペタさんはとても強くなっています....異様なほどに。」
私にはニカが何を見てそう思ったかがわからなかった。
客観的に見たらフレアの能力の方が上のはず...ちょっとステータス見てみよう。
「<広域鑑定>エリア・アナライズ!」
以前カナちゃんが使っていた範囲型対象選択の鑑定を2人に向けて放つ。
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名前:フレア・イグニス
種族:ジャイアント族
職業:デストロイヤー(Lv82)
HP:8420/8420(60UP)
MP:8138/8138(81UP)
腕力:S+
防御:S
魔力:C
早さ:B
運:A+
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名前:トルペタ・アロー
種族:ドワーフ族
職業:魔弓士(Lv77)
HP:890/890(110UP)
MP:7762/7762(220UP)
腕力:A-(3段階UP)
防御:D-
魔力:S-(1段階UP)
早さ:B+(3段階UP)
運:A
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「トルペタ君、凄い強くなってる...竜種を狩ったわけでもないのにどうして?」
竜種を狩ったフレアの上昇具合が低いのは、このレベル帯ではおかしくないこと。
高レベルになればなるほどマナの吸収率が悪くなる。
でもトルペタ君は竜種を狩っていないのに、フレアよりもレベルが低いとはいえ高レベルなのにこの上昇率、流石に上がりすぎだよね。
何か理由があるのかな。
そんな時腕を組みながら考え事をしていたニカがふと言葉を漏らした。
「...まさか...?」
「?ニカ、何かわかったの?」
少し考えたのち、隻耳が軽く揺れる程度に頭を横に振った。
「いえ、なんでもありません。.....フレアさんが動きましたよ!」
フレアとトルペタ君の方を向くと、フレアはすでに髪の毛が燃え上がるような赤色へと変わっていた。
初手からファイア・スピリットを発動する程に速攻でけりをつけるらしい。
一方トルペタ君は銃を手にしたまま動かない。
「オラァ!」
一気に間合いを詰めてハンマーを振り下ろしたフレア、そのハンマーに向かってトルペタ君は銃を構えながら軽くジャンプした。
何でここでジャンプ!?自らハンマーに辺りに行ったら...!
と思った矢先にパァン!という小さな破裂音と共に辺りが光りに包まれる。
「まぶし!」「きゃっ」「なんです!?」「うわあ!」
2人の戦いを見逃さないように凝視していた私達は揃いも揃って突然の発光に目をやられる。
「っそが!!きたねぇぞ!」
「真っ向から戦っても勝ち目ないですからね。」
それはフレアも同じだったようで、私達動揺に怯んでいるらしい。
でもトルペタ君の声が離れたところからするのは何でだろう。
もしかして距離を取るために銃を撃った反動を使って後ろに飛んだ?近くまで引き付けて目くらましと同時に距離を...凄い。
とか思ってる間に目が慣れてきて少しずつトルペタ君とフレアが見えてくる。
どうやら数メートルは後方に飛んだみたい。
フレアはまだ目が見えないらしく、目を抑えながらハンマーを振り回していた。
「ライトニング・ショット!」
雷属性!トルペタ君も性質を変化させることができるようになったんだ!
「私とミウちゃんだけのスキルだったのに...。」
ニカのしょんぼりとした発言を聞きながらトルペタ君が放ったスキルを観察する。
銃口からバチバチと音を立てながら、雷の球体がゆっくりとフレアに飛んでいった。
でも滅茶苦茶に遅い。
トルペタ君は自然な動作で武器の形を超小型のボウガンへと変えていく。
あのボウガンは確か風属性?だったかな。
矢じりが丸くなった金属製の小さな矢を1本、2本、5本とセットしていき、最終的に込められた矢は8本。
「マルチプル・スパイラルアロー!」
それをふわりふわりとフレアに向かって飛んでいく雷の球に向かって同時に打ち込んだ。
雷の球は凄い回転数で放たれた複数の矢によって散らされ....いや、吸収された!?
電気を含んだ8本の矢はそのままフレアへと向かって行った。
「っらあ!!」
しかしフレアのハンマーによってあっけなく全てを散らされてしまう。
散らされた8本の矢はそのまま地面に落ちると思いきや、空中で向きを変えフレアを囲うように地面へと落下する。
まっすぐトルペタ君を見ていたフレアはそれに気が付かなかったみたい。
明らかに不自然な落ち方をしたってことは、きっと何か攻撃につながるんだと思う。
「んだよこんなもんか?」
トルペタ君の攻撃がもう終わったと思ったフレアはハンマーを肩に担ぎ挑発する。
そんな挑発を無視して今度はボウガンを大きな弓へと変えるトルペタ君。
フレアの特異な火属性の弓にしたのは多分威力をメインに考えたからかな?
「フレアさん、今日は勝たせてもらいます。」
矢を作るために鉄?らしきインゴットを2つ出して一つの大きな矢を作っていく。
流石のフレアもトルペタ君が決め(・・)に来ているのを理解して走り出そうとするフレア、でもフレアが走りだすことはなかった。
「なんっ..だこ..れ...ッ!」
フレアの足元へと落ちた矢同士が雷属性のマナでつながり、フレアの周囲を覆う。
そのまま地面に膝をつき体を動かそうにも、痺れて動くことができない。
「ライトニング・フィールドとでも言っておきましょうか。さすがのフレアさんでも1分は動けないと思います。」
ロングソードほどの大きさで、殺傷能力を下げるために矢じりを銃弾のようにした大きな矢を、トルペタ君の身の丈もある大きな弓で力いっぱい引き絞る。
「ぐっ.....ああああああ!!!!!!」
痺れる体を力まかせに動かそうとするフレア。
驚くことにトルペタ君が1分は動けないと考えていたその技を10数秒で立ち上がるまでに至った。
「っ!さすっ、が!フレアさん...っ!」
今持てる全ての力を振り絞って弓の弦を引くトルペタ君の表情は、グローブ越しでもなお手に食い込むワイヤーの痛みに耐えて、苦痛の表情を浮かべていた。
「あああああああっ!!うらああああああ!!!」
気合で足を一歩前に踏み込み、電気を流していた矢ごと地面を砕くフレア。
そこから一気に跳躍し、トルペタ君の頭上から体の体重を全て乗っけたハンマーをトルペタ君の脳天へふりおろ.....ヤバくない?
留めないとヤバくない?
あ、まにあわ.....。
「そこまでです!」
ガキィイイイン!ゴイイイイイイン!!!
突如二つの大きな音が辺りに鳴り響く。
思わず耳と目をふさいじゃった、何が起こったの!?
すぐさま2人の方を見ると、両手で持った盾でフレアのハンマーを受け止め、背中に展開した六角形の鱗で形成された障壁でトルペタ君の矢を受け止めたニカが二人の間に入っていた。
「フレア、トルペタさんが大けがを負うところでしたよ!トルペタさん、フレアに風穴を開けるつもりですか!?」
あのままニカが留めなかったらトルペタ君はミンチに、フレアにはトンネルができていたらしい。
「~~~~~っ!..はぁ、..わるい、トルペタ。過小評価しすぎてた。あんたは強い。」
「いえ、こちらこそ...。俺じゃあこれが精いっぱいですので...。」
2人ともやりすぎた事を反省しているようだ。
相手の防御力を考えて戦わないと、いくらレオが回復してくれるとはいえ、治らない傷を与えちゃうこともある。
だからと言って武器を変えることもできない、だってスキル使うためには必須だもんね。
というか2人の攻撃を1人で受け止めるニカってヤバすぎない?
「ル、ルクニカには全力で攻撃しても平気そうですね....。」
「だ、だね~~~。つか俺らでダメージ与えられんの...?」
「はは.....。」
カナちゃんとレオと一緒に苦笑いしかできなかった...。
「次は私とミウちゃんですよ~~!!」
「はは.....。」
勝てる気しないんだけど.....。
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SIDE:シーア
「シーア!何か使えそうな知識があったら言って!」
「は~い~。」
ミウちゃんの星、地球についていく計画を実現させるためにみーんな忙しそう。
ヒュー兄はサスティニアの文献で神力について調べてて
ルー姉は皆が疲れてお腹がすいたときようにご飯を作ってて
ウォルちゃんとトラちゃんは地球まで行く方法と私達がいなくなった後のサスティニアの管理について調べてて
ジアおじちゃんはそんなウォルちゃんが作った試作の発明品作りを手伝ってる。
そんでシーアはミウちゃんの知識を覗いて何か使えるものが無いか調べてるのであった~。
目を閉じて頭の中に本を思い浮かべて、その本をパラパラってめくるとミウちゃんの知識が色々書いてあるんだよね~。
前にTRPG作った時もここから色々参考にしたんだ、懐かしいなぁ。
シーアはその中から娯楽に関する知識を中心に調べてるんだけど、地球にはたっくさん娯楽があるみたい。
早くいってみたいにゃ~。
「ぶいあーる...?....ふんふん....。あー。前にウォルちゃんが作った奴みたいな感じかぁ。」
あの時は楽しかったなぁ、皆で魔物になったんだよね。
「うにゃ?」
....もしかして、そんな感じで地球に行ける?
でも地球には魔物はいないし、シーア達を信仰してる人なんていないしなぁ。
それにちゃんとした体で行きたい...。
「うう~。」
「どうしたの?」
シーアが唸ってるとウォルちゃんが気にして話しかけてくれた。
「えっとね~、まえにウォルちゃんのつくった『乗っ取りヘルメット』みたいな感じで地球にいけないかなって思ったんだけど~。」「んん~、無理ね。魔物に乗り移れたのはデストラの眷属って言うパスで繋がっていたからなの。.......ちょっとまって。」
ばっさりと否定されたと思ったら突然ウォルちゃんが目を閉じて集中し始めた。
ウォルちゃんもミウちゃんの知識をみてるのかにゃ~?
「....いけるわ!そうよ、なんで思いつかなかったのかしら。逆よ逆!!地球とこの神界に残した皆の神力を繋げて遠隔操作すればいいのよ!そのためには管理用のAIを作って.....。お手柄ね!シーア!」
ウォルちゃんが立ち上がってガッツポーズをしたと思ったら、シーアの頭をぐりぐりと撫でてくれた。
難しいことはよくわかんにゃいけど、ためになったならよかったにゃ~~ごろごろごろ。