「122話 ルクニカ頑張る 」
SIDE:ルクニカ
謁見の間で竜種の二人が王たちに魔族の話や今後について話している一方で、私はある種の窮地に立たされていました。
「.....。」
静まり返る客室、ベッドに横たわるミウちゃん。その横で座り込む私。
ミウちゃんは未だに何かを引きずっていて、今にも消えてしまいそうでした。
レオさんが魔族を倒した後から、それまでの憎しみに満ちた悲しい表情から、全てに後悔し自信を無くしてしまったような表情に変わり、今も尚こうして落ち込んでいます。
そんなミウちゃんを見て、1人にすると負の感情で押しつぶされてしまうのではと同じ客室で休むことにしました。
ああ、ミウちゃんがこんなにも落ち込んでいるのに2人で同じベッドの上にいる事をドギマギしてしまう私は本当にダメなバーニア族です。
何はともあれ、話を聞かないことには何もできません。
勇気を出して何か話しかけないと....。
「ニカはさ...。」
「ひゃっ...はい!」
ミウちゃんが私に背を向けて寝ながら話しかけてきたのに驚いて変な声を出してしまいました。
「自分のせいで誰かが死んじゃった事、ある?」
「....ありますよ。何度も、何人も。」
こんな職業をやっていればそんなことはいくらでもあります。
あの時こうしていれば、と何度だって後悔はしてきました。
「何なら石だって投げられたこともあります。なんで助けてくれなかったんだ!って。」
「そっか.....。」
神獣として生きていた前世では人間の心に触れることはありませんでしたが、今世では当事者として実感しました。
人間とは他者に縋る生き物なのです。
だからこそ協力し合い、美しく生きるのです。
「でも、私がそうしなかったら助けられなかった人だっています。結局のところ、どっちを選んだって誰かから恨まれちゃうんですよ。」
私が前世で竜種、ディレヴォイズの手を取って人間の敵になっていたら、人間は滅び、この世界は魔物の楽園になっていたかもしれませんね。
そうなったら魔物からは崇められ、死んでいった人間達からは恨まれていた事でしょう。
「だから前に進むしかないんです。だって止まってたら両方救えませんからね」
と、ディレヴォイズに殺され、人間の味方も魔物の味方もできずに生を終えた自分を、選択できなかった自分を笑うようにミウちゃんに向けて笑みをこぼすと、ミウちゃんは瞳を潤ませながら下を向きました。
「...ニカは強いね...。私は怖いよ....大事な人が死んじゃうかもしれないんだよ?もう魔族にこの大陸を渡してみんなで細々と生きて行こうよ....死ぬよりずっといいよ...。」
とても後ろ向きな意見をこぼすミウちゃん。
本当に怖かったんでしょうね、その大事な人の中に私も入っているんでしょうか?
「それも手かもしれませんね。でもそうやって逃げた先で全員分の食糧が安定するのはいつ頃でしょうか?それこそ、飢餓により死んでしまうものが出てきますよ?」
「....わかってるよ。あの2人が言うように竜種と一騎打ちをしていって勝てば一番いいって。でも...私は弱いよ。弱いんだよ....。」
自分が負けた事よりも、負けた結果どうなるかを考えてその責任に押しつぶされちゃっていますね。
今ミウちゃんに必要なことは自信と安らぎ?
どうしたらいいんでしょう....。
「大丈夫です、強くなればいいんですよ。戦いながらでも。ミウちゃんはもう十分強いです。あとは使い方ですよ。私と一緒に頑張りましょうよ。」
「....でも...。やっぱり自信が湧かないよ...。ニカのように前向きに考えられない。強くなれないよ。」
あと一押しって所ですね。
やっぱりあの手しかないですかね.....?
でも私にできるでしょうか....というかミウちゃんに拒まれたら終わりなんですけど...。
以前キスした時は嫌がってませんでしたし、ここは長く生きた先輩として、頑張りましょう。
「ミウちゃん」
今若い女性に人気の書き物のようにスマートに....。
「...なに?...え?え?」
私はベッドに乗り、前のめりになってミウちゃんの顔に触れる。
おどおどしているミウちゃんも可愛いですね。
「私の強さ、分けてあげるね?」
そしてミウちゃんの顎をクイッと上に上げてそのまま.....。
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SIDE:ウォルフ
「....ハッ!!!!」
「びっくりした!!!何よルニア!!!」
ミウシアと一緒にミウシアの元居た世界に行くため、眷属が一丸となってミウシアの記憶を元に色々と方法を探っている時に、いきなりルニアが大声を上げた。
全く、資料をまとめるのに忙しいんだから手を止めないでほしいのに。
「おーい、思ったんだけどよぉミウシアが住んでた地球ってのは、この宙のどこかにあんじゃねぇか?」
思わず頭が痛くなる。なんでこのバカは今更こんなことを言ってくるのかしら...。
「馬鹿ジア!!そんなのとっくの昔に知ってるわよ!!!アンタは筋トレでもしてれば!?」
そんな時に手を止めていたルニアがいきなり席を立って外に向かおうとするもんだから、首根っこ捕まえてそれを止める。
「ちょっと、ルニア?その資料まとめないと次に進めないのよ?どこ行くの?」
「話してください~~虫の知らせが、虫の知らせがぁ~~~~!ミウシア様に何かが~~!!」
普段おしとやかなお姉さんみたいな感じなのに、ほんとミウシアが絡むとポンコツになるわね....。
「どーせ私達は何もできないでしょ、見るだけなんだから。...それよりも、この研究が間に合わなかったらミウシアと離れ離れになるわよ?いいの?」
「さあウォルフさん、次はどの資料をまとめましょう?」
このポンコツ兎~~~~~!
ルニアに私とヒュムとデストラでまとめ上げた手書きの資料を渡し、ミウシアの知識を探る作業を続ける。
このサスティニアとミウシアのいた地球がどれくらい離れているかはわからないけど、確かにこの宙のどこかに存在する。
そのためには星と星を移動する手段をクリアしないといけない。
また、私達がいなくなった後、サスティニアを管理する方法も必要だ。私達がいるだけで神力によりサスティニアと宙に膜のような保護フィールドが展開される。
それをどうにかするためには、私達はきっと自身の神力のほぼすべてを残して地球に行かなければいけない。
そうなると地球に行く手段に神力を使うことが難しくなってくる。
「これは発明家の血が騒ぐわね....。」
この状況に未だかつてなくワクワクしているのは自分だけじゃない。
皆浮足立ってる。なんとしてでも成功させてミウシアをびっくりさせてやるんだから!
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SIDE:ミウシア
はい、復活しました。
というか復活させられました。
何があったかは思い出すだけで恥ずかしいので思い出さないけど、ニカのお陰で立ち直れました。
今私の横には寝息を立ててすやすやと眠っているニカがいる。
生まれたままの姿で。
うぁあああああ!恥ずかしい!!
こんなことで、いやこんなことではないけども。
こんな簡単にもやもやが晴れるとは思わなかった。
確かに、私は大きな犠牲を出した。でもそれによって王都に住む人たちは救われた。
もしかしたら両方を助ける方法があったかもしれない、でもそのことを後悔するくらいなら今後2度とこんなことが無いように今を頑張るだけだ。
そのことに気付かせてくれたニカには本当に感謝しかない。
と横を向くと幸せそうな顔でニカが寝ている。
ニカの耳は未だ片方が欠損したままだ。
傷口は綺麗にふさがり、傷の隙間には内部に続く穴が見える。
あぁ、耳なんだから当然だよね、でも雨が降ってきたら直で水が入ってきちゃうじゃん、今度覆う布みたいなの作ってあげようかな。
耳はバーニア族にとって特に重要な器官で、なんでも無自覚でマナを送って守っているらしい。
だから、耳も強化されてより細かく音を聞き分けられるんだとか。
強い衝撃に対してはマナの壁で守られるけど、優しく触るとそのまま耳に触れられる、だから気が付かないんだとか。
でもそのせいで、耳は感触に敏感で、こう、なんというか、敏感だった。
ああ~~~~も~~~。
「ん....ぅ....。」
こっちに寝返りを打ったニカ。
白と金の間のプラチナゴールドのショートヘアが日の光に当たってとてもきれいに輝いている。
まつげも眉毛も同じ色。
長いまつ毛に私と対照的な透き通るようなきめ細やかな白い肌。
「ん....みう...ちゃ...?」
窓から差し込む日の光が目に当たったからか、私が見つめていたからかわからないけど、ニカがゆっくりと目を開けて私の名前を寝起きの甘い声で呼ぶ。
「おはよ。」
「ん...。」
もぞもぞと布団の中で動いて私の胸に顔をうずめるよう抱き着いてくる。
なんて可愛い生き物なんだ...。
そしてなんて柔らかいんだ....。
「かたい....。」
「うるさいっ」
なんて失礼なんだ.....。
顔をうずめながらもぞもぞとしているニカの頭にこつんと軽く拳を当てて突っ込みを入れた。