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「121話 大きな犠牲 」

「ミウちゃん、大丈夫ですか?私達は報告しに王城へ向かいますが...。」

片耳を無くしたニカが有ろうことか自分よりも軽傷の私を心配して手を差し伸べてくる。

私は無力だ、ろくに仇も取れず、けが人を増やしてしまう。

力をつけたことによる自信が招いた結果と言っても過言じゃない。

どこか楽観的に考えてた...。


「ミウちゃん...?」

耳が片方なくてもニカは相変わらず綺麗だ。

ショートカットの金髪が血に濡れてところどころ赤黒く変色している。

そんな傷をうけていても、私を心配して手を差し伸べてくれる。


.....敵わないや....。


「ごめん、私なんて大した傷じゃないのに大げさだったね。....王城に行こう。」

「....。」

無理して口角を上げてニカに笑いかけるも、あまりのぎこちなさにニカが余計心配したような表情になった。


はぁ、自分が本当に嫌になる。


「ニカニカ、まだ耳痛む?オレにもうちょっと回復力があればよかったんだけど...。」

「いいえ、気にしないでください。幸い綺麗に切られましたからね。それに、不幸中の幸いですよ。もう少し下だったら死んでいましたし。」

レオもどこか私には話しかけにくいようで私にはあまり話しかけてこない。

私も回復魔法をかけてもらったが、全身にまんべんなくいたぶるように軽い切り傷を受けていただけだったので、完全に治すことができた。


「じゃあオレ、トルっち達と合流してから王城に向かうから、2人は報告よろしく~!」

こんな時でも明るいレオを見て怖くなる。

周りには兵士たちや冒険者の死体が広がっている。

そんな所でそんなテンションで話せるのはどういう神経を持っていればできるんだろうか。


もしかしたらこの世界の人にとってはそっちの反応が普通なのかもしれない。


現に生き残った兵士や冒険者達は全体の1割程度だけど、皆悲しみこそすれ、魔族から王都や家族を守れたという喜びの方が勝っているようで、生き残った人たちを見ると故人たちを思いながら笑顔で泣いている人が多かった。


ニカと並んで王城へ入る。

その後ろに生き残った人たちが付いてくる。これはいわゆる凱旋的な奴なんだろうか。


「あり、ありがとう....。」

「旦那、旦那は!無事なんですか....旦那は...。」

「本当に!本当にありがとう!!!」

「助かったぜー!!!!!」


王都に入ると魔族からの襲撃に怯えていた王都の住人たちから祝福や、家族の安否についての声が上がる。


「お礼なんて...!」

言われるほどのことはしていない。

何なら罵声を浴びせられた方が良かった。


「ミウちゃん、確かに犠牲は多かったです。でも私達がいなかったら王都は滅んでいたんですよ?」

「......。」

そんな簡単に割り切れるわけ、ない。


王都までの道のりは、とても辛いものだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:ルクニカ

ミウちゃんは人が死ぬのに慣れていない。

この世界では常に魔物との争いがあります。ならば当然、死とも隣り合わせ。

冒険者という職業はこの世界で決して人気なものではありません。

しかし、冒険者が少なければ暗黒大陸からあふれ出てくる魔物を食い止められず、人間は滅んでしまいます。


だから他の職業に比べてお金や名声が得られやすい。

兵士だって冒険者ほどではないにしろ、増えすぎた魔物の討伐を任せられることだってあります。

しかし近年では冒険者を目指すものが増えているために兵士の出番が少ない。


結果、兵士が育たなくなっていたのですが....。


そんなこの世界では人が死ぬことはよくあることです。

だから人々は同じ種という縛りがありながらも子を成し、対向しているのです。


ミウちゃんはそのことをあまり理解していないようで、戦いを楽しんで死と結びつけていません。

いつかこうなるとは思いましたが....。


私と並んで歩いているミウちゃんは俯いて暗い表情をしています。


元気で優しいミウちゃんのこんな辛い顔、見たくない。


どうやったら元気を出してもらえるだろう。

どうやったらミウちゃんを支えてあげられるだろう。


...とりあえず、報告が終わっても1人にしちゃだめですね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:ミウシア


「魔族は退けたものの、軍や冒険者はほぼ壊滅...か。」

報告を受けたヒューマン族の王、リージェンは静かに呟いた。


「王都に待機していた残りの兵も救援に向かって1割程度が...。」

ニカの発言でハッと気が付く。

今王都の戦力は全部で半分以下まで減ってしまっている。

魔族の残り戦力がどの程度かはわからないけど、今回の進軍が全てってことはないと思う。


絶望的だ。


「ちょっと待ってくれ!」

皆が絶望の顔を浮かべる中、謁見の間にフレアの声が響いた。


「この二人が伝える事があるらしい。」

そこにいたのはニルゲとトゥリプス。

2人とも竜人化をしたままだった。


「お初お目にかかる、人間の王たちよ。私は竜種のニルゲ。」

「トゥリプスです。」

膝をついて王たちに頭を下げるニルゲとトゥリプス。

王たちは皆が一様に口を開けて驚いている。


「まっ、魔族か!おい、此処をどこだと思っている!!つまみ出せ!!」

口を開いたのはジャイアントの王、オリバー。

顔に血管が浮かぶほどに声を荒げるが、2人は頭を下げたまま動かない。


「オリバー王、この2人は信用できるぜ。王都に侵略しようとしていた魔族以外の勢力を鎮圧してくれたからな。」

「む..しかし魔族は魔族だろうが!!」

フレアの言葉はオリバーの意思を曲げることができなかった。

しかし他の王は意外に肯定的な表情をしている。


「まぁ、話だけでも聞いてみよう。私達にはもう後がないのだから。」

「...竜種はプライドが高いと聞く。そんな奴らが頭を下げているってことは、何か訳でもあるのだろうて。」

リージェンとギアは藁にもすがりたい思いでオリバーを窘めた。


「美人に悪い奴は....けっこーいるけど、まぁ話だけでも聞いてみようよ。」

「うん、それがいいね。」

ティスライトの意見になってない意見はともかく、ティスライトもバラッドも特に危険視していないようだった。

そんな自分以外の王たちの肯定的な意見を聞いて、オリバーは大きくため息をついて椅子にドカッと座った。


「わかった...して竜族よ、どのような意見があるのだ。不審な行動をしたら即刻切り捨てるぞ。」

ビリビリと威圧感を放ちながら2人に疑問を投げかけた。

そんな威圧感を受けても平然と顔を上げる2人。


「まず、私達は人間に友好的です。私は人間の知識、横にいるトゥリプスは人間の文化を好ましく思っております。」

「魔族の王、ディレヴォイズさ...ディレヴォイズは人間を完全に滅ぼそうと考えています。であれば私達が魔族に着く理由はもはやありません。」


「続けろ。」

オリバーは鋭い眼光で顎に手を置いて続きを促した。


「今の魔族は所詮寄せ集めの魔物の集い、ディレヴォイズの力でまとめ上げています。」

「陸から攻めてきた魔族は下級の魔物。とはいえ魔族のほとんどが下級の魔物で構成されているため、今魔族はほぼ竜種のみと言っても過言ではありません。」


「それは朗報だ。...とはいえその竜種達が厄介なんだよね?」

ティスライトのいうことはもっともだ。

私達が戦った竜種が竜種の中でもどの程度の強さかはわからないけど、とても兵士が太刀打ちできるとは考えられない。

私達でもやっとだと思う。


「ええ、ですから私達を使い、魔族...いえ、ディレヴォイズに提案を致しましょう。」

「彼の性格と竜種の習性を利用するのです。」

竜種の習性...プライドが高いという以外に何かあるってこと?


「それはつまりどういうことだ?説明しろ。」

オリバーが相変わらず高圧的な態度をとっているが、2人は気にしていないようだ。


「竜種にとって戦いこそが生きる意味、自身の力を示すため一騎打ちを好みます。...私達は違いますが、残っている竜種は皆が一様に戦闘狂と言っても過言ではないでしょう。」

「加えてプライドも高いです。そしてディレヴォイズはそんな竜種のトップ。特にその傾向が強く出ています。....だからこう持ち掛けるのです。『この戦い、一騎打ちで決着をつけよう』と。さらに煽り文句でもつけておけば間違いなく食いつきますし、その間手出しはしてこないでしょう。」


「一騎打ち....。」

沈黙に包まれる玉座の間。

私達に発言権は無いからニカも私もフレアもただ話を聞くことしかできない。

王たちも二人の発言を受けて真剣な表情で悩みだした。


一騎打ちってことは人間側のトップと魔族側のトップが戦うってことだよね、私は間違いなく無理だ。

もう自信なんて持てないし、強くもない。

火力面を考えるとフレアになるのかな。


「それはつまり、ディレヴォイズと一騎打ちをするということか?」

「いえ、それだとほかの竜種が黙っていません。全ての竜種と一騎打ちをし、打ち倒すのです。」

「なっ...。」

堂々と答えるトゥリプスに絶句するオリバー。

他の王たちもその答えには驚きの余り言葉が出なかった。


「そ、それならどちらが負けても被害は最小限にすむね....でもそんなことは可能なのかい?向こうが受けるという保証もないし、それに君たちが私達におとなしく協力してくれる保証もない。」

「....確かに信じられないでしょう。」「ならば私達も誠意をお見せいたします。」

ティスライトのその言葉で2人は立ち上がり、ニルゲは左腕を、トゥリプスは二本の角を握りしめて勢いよく引き抜いた。


「「「「ッ!?」」」」

「ばっ、バカな!!!」

「「「!?」」」

その行動に王も私達も唖然とした。

2人を一番疑っていたオリバーが声を上げて立ち上がった。


ニルゲは腕から、トゥリプスは頭から青色の血液をぼたぼたと垂らす、


「私の腕は毒薬に、少量なら薬に。」

「私の角は武器に。」

「「どうぞお使いください。」」

「なっ、なぜそこまでできる!?ええい!もうわかった!!!信じるから救護班を呼べ!!」

「レオが治療室にいる!あたしが連れてくるよ!」

フレアがどたどたと走ってレオを呼びに行くのを見届けて、リージェンが2人に近付いた。


「お二人とも、顔を上げてくれ。....なぜ竜種がプライドを捨てて人のためにそこまでできる?」

「自分のためです、償い....ともいえるでしょうか?私達はかつて人を守る神獣と呼ばれていました。しかしディレヴォイズによって私達は屈服させられ、直接ではないにしろ人間達を殺してしまっています。」

「もともと私達は陰で人間達の文化に憔悴していました。そこに現れたのです。ディレヴォイズをも打ち倒せる可能性に満ちた人間が....。」

ちらりと私の方を見るニルゲとトゥリプス。


え、私?

もしかして神力のせい?

神力って戦闘能力には関係ないのに??


「....ミウシアがそうだというのか?」

皆私に注目する、やめてほしい。

私にそんな力なんてない、自惚れで大きな被害を起こしてしまった私には。


皆の視線を感じて思わず顔を下げる。

目頭が熱くなっていくのを感じる、どうして私なんかがここまで持ち上げられるんだろう。


「....まぁそのことはこの後聞こう。ミウシア、ルクニカは客室で休んでくれ。君たちの活躍に対する報酬は全てが終わってから与えよう。」


「わかりました。...ミウちゃん、行こう?」

ニカが私の手を取って優しく引いてくれる。

気を使わせていることが尚更苦しかった。

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