「116話 なるべく簡潔に 」
「かかってこねぇならこっちから行くぜェ?」
小柄になっても尚存在感を放つ、鋭く尖った黒い爪でフレアに切りかかろうとしたところで私は影の中から右手に持つ桜下兎遊を投げつけた。
桜下兎遊は爪により弾かれて高く宙に舞う。
影を潜って移動してきた私は落ちてくる桜下兎遊を受け止めフレアと竜人の間に武器を構え立ちふさがった。
「疲労している相手と戦っても手ごたえないんじゃない?」
「あァ?」
「ミウシア!」
フレアが私の名前を呼んだ瞬間、目の前の竜人がニヤリと笑う。
「へぇ....お前がミウシアか。こりゃ一石二鳥だなぁ!」
「一石二鳥?」
思わず眉を顰めて反応してしまう。
「ヴァリス!何かおかしいぞその兎人族!!!」
「あァ?ビビってんのか??老いたなニルゲ!!!」
私がおかしい?失礼な!
...もしかしたら竜種にもオウカと同じように神力が見える...?
もしそうだとしてもヴァリスの言葉からして見える個体と見えない個体がいるのかもしれない。
というか、もしかしてまた私を神の生贄にして力を求める類の話??
となると、魔族が侵略するのって私のせい.....なの.....?
「はぁ.....。」
「な、なんでそこで呆れたようなため息が出てくんだよ....。」
事情を知らない竜人は全く意味が解らないといった表情になっていた。
だって、ねぇ?私を生贄にするって話、本当は真逆ですよーって言っても絶対に信じないだろうし....。
「私を生贄にするために人間を虐殺しようとしているの?」
「ちっげーよ、そんな力が無くてもディレヴォイズ様は人間を滅ぼせンだよ。おめーを生贄にすれば強くなれるっつー話は二の次だ。お前はオマケだオ・マ・ケ。...なんでおめーが知ってんだ?よくわかんねーけど殺さない程度に痛めつけてやるよ。」
お、おまけ.....。
でも私のせいで人間が危機にさらされているわけではなくてよかった。
「あぁ、良かった。教えてくれてありがとう。連れていかれるつもりはないから精一杯抵抗させてもらうよっ!」
闇/水の戦闘スタイルは基本的に闇討ちだった。
でも闇には影に潜る以外も引力と斥力を操る力が、水にはマナ操作を高めて魔法の威力が上昇する力がある。
接近戦でも工夫と状況次第じゃあ光/火と同じくらい強力になると思う。
先に攻撃を仕掛けたのは私、竜人が先ほどのヴァリアと呼ばれていた竜と同じくらいの速さかそれ以上の速さだとしても、私の方が早く動ける。
竜人に向かって走りながら右手にもつ桜下兎遊に引力を、左手にもつ桜下兎走に斥力を纏わせた。
「ッオラ!!!」
竜人の振りかざした手刀似合わせて引力を纏った桜下兎遊で上から下に向けて切りかかる。
「!?」
直撃はしなかったものの、引力により引っ張られた竜人は頭からがくんと地面を向き体勢を崩した。
そのまま体を横に回転させ、斥力を纏った桜下兎走に遠心力と全体重を乗せて竜燐で覆われた背中を切りつける。
「ガッ....ハッ....。」
ただでさえ斥力の力で当たったものが後ろに跳ね返るのに、それに遠心力と渾身の一撃が合わさりものすごい勢いで竜人は地面に叩きつけられた。
「<水生成>ウォータークリエイト。」
地面に叩きつけられた衝撃で呼吸すらままならない竜人の口元に水を生成し、口を塞ぐ。
普段なら水を飲んでしまえばどうってことのない魔法だ。
でも今は空っぽになった肺にどうにか酸素を入れようと必死なのだ。
そんな時に口元を水で覆われたら.....。
「ガボッ...ゲホッ....ゴボッ...............。」
苦痛の表情の後、動かなくなったのを確認しウォータークリエイトで生成した水の空中固定を解除する。
バシャリと水は地面に落ち、周囲に沈黙が走った。
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SIDE:トルペタ
「レオさん、早くしてください!!間に合わなかったら皆死んでしまうんですよ!」
「わかっ、てる、けどっ....ごほっ...。」
レオさんがここまで体力ないとは思わなかった....。
オレはよろよろと歩いているレオさんを待つために足を止めた。
先ほど地面が揺れるほどの大きな音が聞こえた、おそらくフレアさんとミウシアさんが戦っているんだと思う。
もしかしたら苦戦しているかもしれない。
早くいかないと.....!!
いけないのに....っ!!!!
「ちょ、トルっち....早い....。<治癒光>ヒールライト!....少しマシになった....?よし急ぐよ~ん!トルっち~!!」
「最初っから使ってくださいよ!!!!!!」
回復魔法で体力が回復したレオさんと再び走り出して木がなぎ倒されている場所までたどり着いた。
「....コレはどういう状況なんでしょう...?」
「さぁ...?」
「だから、私は戦闘向きではないの!ニルゲが行きなさいよ!!!」
「トゥリプスが行けばいいだろう!俺は後衛型だ!それに...わかるだろう!!あれはただものじゃない、化け物だ!!!!」
そこにはミウシアさんたちそっちのけで紫色と青色の大きな竜二匹が言い合いをしていた。
周囲も酷いありさまだ。
地面には大きなクレーター、周囲には飛び散った肉片。
横たわって動かない大きな竜が1匹、竜の鱗を持つ人間がミウシアさんの前で横たわっている。
...あれは敵なのか?
「あ、2人とも....。」
「レオ~回復してくれ~。」
困惑気味にこちらに歩いてくるミウシアさんの後ろからフレアさんがハンマーを杖にして歩いてくる。
「おっけ~フレっち、<治癒光>ヒールライト!」
「ミウシアさん、フレアさん...コレはどういう状況なんですか...?」
「え~....っとね....。」
ミウシアさんが言うには、まず初手で不意打ちをして黄色い竜を倒し、フレアさんが赤い竜を一撃で倒したらしい。
しかし相当大きい竜種を一撃で倒せるほどに強力なスキルを使って自身もダメージを追ってしまったフレアさんの代わりに、もう一匹の赤い竜と戦ったのが問題となった。
竜人化という技?で人型まで小さくなって強化された赤い竜をミウシアさんは手際よく、そして淡々とたおしてしまった。
それを見ていたのこりの竜が慌てふためき、口論を始めたのだという。
「竜が引くほどの倒し方って....ミウシアさん一体どういう倒し方をしたんですか....。」
「あはは....。」
「ちょっ、フレっち....。」
まぁ結果的に無駄な戦いが避けられたのは良かったと思う。
現に今も竜2匹が口論をしているがもはや敵意は感じない。
「そもそも!!私はディレヴォイズ様の考え方には不満があったのです!!人間を滅ぼしてしまったら美しい服も、美味しい食べ物だって食べれないじゃないですか!!!!」
「それを俺に言うな!!!俺だって、人間の書物や人間の遊戯無くしては生きていけんわ!!!!」
敵意どころか一押ししたら味方に引き込めるのでは??
「あの、もしかして....。って、フレアさんどうしたんですか?」
「な、なんでもねぇよ!!!それで、何なんだよ!!!」
フレアさんが顔を真っ赤にしてるから聞いただけなのに...凄い怒られた。
「いや、あの二匹の竜、思ったよりも同族の仲間意識が低くて人間に悪印象を抱いてなさそうですので、説得したら一緒に戦ってくれるのでは?」
「っじゃ~オレが話してくるわ~。」
俺の言葉を最後まで聞く前にレオさんが竜の元へ歩み寄っていく。
すれ違いざまに見えた横顔が少し赤かったけど、気のせいかな?
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SIDE:レオ
フレっちなんか可愛くね???
いや、正直オレのこと好きってのは解ってたけど、フレっちみたいなピュアッピュアな女の子俺にはもったいなすぎるし気が付かないふりしてたんだけどさ。
マナ切れのフレっちにマナを分けるときに「こ、こうしたほうがマナが早く流れ込むらしいぜ....?」とか言って正面から抱き着いてこられたらさぁ?無理くね?
そんなん男の子的には無理くね?しかも自分であざといこと言ってるってわかってて、恥ずかしさを我慢しての発言。
は~もうむり、結婚しよ。
.....っと、今は竜の説得?だっけ?
「ちょいとそこのお二人さん?」
「だから!!...?なんでしょう?...あらあらあらあらあらお綺麗な殿方ね、どうなさったの?」
「トゥリプス...お前人間もイケるのか...。」
美しい流線型のフォルムの青く透き通った竜が色っぽい艶やかな声で返答してくれる。
おっとぉ?声だけでも相当にエロいぞ?
「はは、どうも~。そちらに敵意が無いようであれば一時休戦として、少しお話をしません~?」
「....そうね、あんなものを見せられたもうおしまいだわ。勝ち目がありませんもの。」
「む...まぁそうだな...。この姿だと話がしにくいか。どれ、ちょっと待ってくれ。」
そこまで言うと2匹の竜はマナの光により人間に近い見た目に変化した。
2匹とも体の半分ばかりは鱗に覆われているとはいえ、見た目はほぼほぼ人間。
すっげー、こんなこともできるのか。
紫の竜は紫交じりの白髪が混じった切れ長の目をした老人に。
青い竜は美しく青色にきらめくロングヘアーに、こめかみ辺りから後ろに向けて二本の角が生えている。
ちなみにめっちゃ美人で胸がやばいでかい。
「トゥリプス...貴重なマナをそんな服に使ったのか...?」
「ふふん、素敵でしょう?以前気まぐれで助けた人間から貰ったのよ。」
老人の方は大事なところや体の半分が鱗に覆われているだけで、服は着ていない。
でも女性の方は人間と間違うような青い綺麗なドレスを着てる。
やべー、滅茶苦茶美人だわ....。
トルっちには刺激が強いんじゃね?
「じゃ、じゃあ仲間のとこに案内しますわ~。」
「うぅ...怖いわ....。」
「粗相をするなよトゥリプス...気合を入れるんだ....。」
まさか魔物の中でもトップクラスに強い竜種が寝返りそうとはね~。
この二人が特殊なのかどうなのかわっかんないわー。
でもなんで二人とも怯えてんの?
ま、とりあえず争わなくて済むならそれが一番だわ。
敵も味方も、死なないに越したことはないっしょ。