「115話 竜種との戦闘 」
フレアにこれから戦う竜種について、説明してもらうことになった。
こういうのはいつもカナちゃんに教えてもらってたからなんか新鮮だなぁ。
「簡潔に話すぞ。まず竜種ってのはリザード系の上位種だ。体がでかくなって飛べるようになったってだけわかってりゃそれでいい。だがそれ以外にも決定的な違いがある。」
「「決定的な違い?」」
「ブレス、とかっしょ~。」
レオの答えに頷くフレア。
「レオの言った通り、上位種になると体の内部さえも進化する。竜種の場合は種によって様々な『武器』を生成する臓器ができる。火竜の場合は着火性のある燃料のような物を生成する油袋、毒竜なら毒袋、といった感じだな。いずれにしてもその臓器から排出する際に頭を上に向けて臓器から内容物を絞り出す動作をする。それにさえ気にしてりゃ普通の魔物と変わらないな。」
「なるほど...。」
モーションを見て避けるとかゲームみたいな感じだけどちゃんと意味があるんだなぁ。
と関心していると、トルペタ君が南の空の方を向いて目を細める。
「....来ました!竜種です!数は...5体です!レオさん、準備を!フレアさん、ミウシアさんは魔法が対象に当たったらすぐに向かってください!」
「おっけ~!」
「了解!」
「おう!」
トルペタ君はカバンから青みがかった金属を取り出し、5本の矢を生成した。
あれは...確かミスリルかな?マナの伝導率が高いから、レオの魔法を纏わせるにはちょうどいいのかも。
「<拘束茨:遅延>ディレイ・ソーンバインド!!」
レオがトルペタ君の作った矢に向かって魔法を唱えると、5本の矢の周りに魔法の蔦が巻き付いた。
そのままマナを送り続け、魔法が発動しないように抑え込むレオと、竜種に当たるよう狙いを定めるトルペタ君。
「20秒後に撃ちます!」
いっぺんに5本打つの!?
ただでさえ空を飛んでいる竜種の、しかも翼を狙って打ち抜くのは相当難しいはずなのに、それを同時に...?
でもトルペタ君の顔は真剣だ、ここで取り逃がして1匹でも王都にたどりついてしまったら王都に被害が出てしまうだろう。
ここでやらなきゃダメなんだ。
「わかった、フレア!ソウル・スピリットを!」
「おう!!!」
フレアの髪の毛が燃え盛る炎のごとき赤とだいだい色のグラデーションへと変わる。
私も、火力特化の光/炎のソウル...いや、ダブル・ソウル・スピリット?名前はカナちゃんに決めてもらおう。
右手に光、左手に火属性のマナを通わせてダブル・ソウル・スピリット(仮)を発動させる。
「これも持ってって~!精霊王よ、我らに祝福を!フェアリー・ブレッシング!」
レオが披露した新スキルによって、マナの流れが効率よく、さらに体が軽くなる。
マナ・ペネトレーションとマナ・アクティビティの複合スキルみたいな感じかな?
「ありがと!」
「体が軽くなったな!」
南を確認すると複数の飛んでいる何かが確認できた。
おそらく竜種だろう。
「フレア、先に降りてて!」
「任せろ!」
光属性も吸収している私はフレアよりもはるかに足が速い、そのためフレアにはおおよその方角に動き始めておいてもらい、後から撃ち落とした場所を確認して私がフレアに追い付く作戦だ。
改めて南を見ると、先の方に見える竜種たちがみるみる内に大きくなっていくことから、とても速い速度で飛んできていることが分かった。
「3...2...1....ッ!」
竜種はまだこちらに気が付いていない、と思う。
このままいくとこの岩場から少し東にずれたところを通り過ぎようとしていた竜種に向かってトルペタ君が矢を放った。
5本の矢は小さな弓からは考えられないような速さで飛んでいき、通り過ぎようとしていた竜種達の翼を1匹残さず全て貫いた。
そして着弾時に発動したソーンバインドが翼に対になった翼にも絡みつき、制御を失った竜種達が叫びだす。
「ぐっ!なんだ!?」
「翼がやられたわ!!!」
「何!?クソ人間!?」
「クソがあああああ!!!!」
「ゴアアアアアア!!!!」
翼を拘束された5匹の竜種は森の中へと落ちていく。
場所を確認し岩場を駆け下りた。
強化された脚力のお陰でわずか数秒でフレアに追い付く。
速度を落とし、フレアと会話ができる用並走した。
「ミウシア!先に行け!場所は解った!」
「了解っ!」
地面に落ちた時の音で大体の場所を把握できたらしいので、私は先に行くことにした。
落ちたばかりで混乱している今がチャンスだ、一気に仕留めてしまった方がいいだろう。
そうこうしている間に木が薙ぎ倒されている地形が見えてきた。
鱗に覆われた数メートルはあろうかと思われる竜種が5匹、地面にうずくまっていた。
5匹とも種類が同じかと思いきや、ちらほらと見た目が異なる竜種がいた。
典型的なドラゴンと呼ばれる見た目の赤い竜が2匹、紫色の蛇に翼の生えたような竜が1匹、透き通るような青色の鱗を持ったつるっとした見た目の竜種が1匹、そしてほかの竜種よりも一回り大きく人間の体以上の大きさのねじれた角を頭に持つ黄色い竜が1匹。
鑑定を行う暇はないため、瞬時に敵の戦力を察知して黄色い竜が最も強敵だと予想を付け、攻撃対象とした。
一気に決めないときっと甚大な被害を生むことになる、今できる最高火力を叩き込む!
今だ落下時のダメージを受けて起き上がれない黄色い竜の背後に回り込みながら両手に持つ短刀に火/光の復属性のマナを流し込む。
このスキルは内部破壊、一見地味だけど隙があれば必殺のスキル。
短刀の切先から全てを通ける...レントゲンのX線のような光線が出るようなイメージ。
二つの光線が重なった部分を焼き切る、当たれば確実に命を奪えるはず。
細かいことはわからないし、実際は間違っているかもしれないけど、大体イメージで何とかなる。
そんな『システム』でこの世界のスキルはできている。
黄色い竜の近くまでたどりつき、一気に地面を蹴り上げて大きな頭に着地した。
もちろん頭に重みを感じた竜は私に気が付く、しかし黄色い竜は私の速度に対応しきれなかった。
竜が私を振り下ろすよりも早く、分厚い鱗に覆われた頭の中枢、脳がある場所で光線が交わるように斜め45度の角度から両手に握った短刀を突き刺す。
....正確には突き刺さることはなかった。
キィン!と金属同士がぶつかったような音を立てて鱗に止められた。
「あ....?」
しかし光線だけはしっかりと打ち抜いていたらしく、黄色い竜は一言だけ言葉を漏らした後、そのまま地に倒れこみ動かなくなった。
その巨体が倒れたことにより地面が揺れて他の竜たちが異変を察知した。
咄嗟に近くの茂みに隠れて息をひそめた。
「!?クドルが倒れたぞ!周囲を警戒しろ!」
「誰だァアアアア!!!!!」
「クソ人間がァアアアア!!!」
「ヴァリア!ヴァリス!落ち着いて!ここは人間の領地よ!」
思ったよりも頭が回るようで、即座に立ち上がって周囲を警戒し始める。
幸い、まだバレていない。
より隠密効果を上げるために火/光のダブル・ソウル・スピリットから闇/水へと変える。
先ほどの闇討ちで消費したMPはほんのわずか。
角度やタイミングが完璧じゃないと効果を発揮しないピーキーな技だからこその消費MPだ。
スッと影へ溶け込み、機会を伺うことにした。
もう一匹くらいは倒しておきたかったけど....しょうがない。
「どこ行ったァ....?クドルのバカをヤったくらいでいい気になんなよォ...?」
赤い竜がグルルルと喉を鳴らして威嚇をしながら周囲をうろつく。
黄色い竜はクドルって言うのか、やっぱり知能はさすが上位種だなぁ。
鑑定をしたいけど今声を出すことはできない、警戒中の竜種達に気が付かれちゃうと思うし。
「おいヴァリア、ウチらでこの周囲一帯を燃やしちまえばいいんじゃねぇか?」
「確かになァ」
この一帯を!?やばい、流石に竜のブレスは後から来るレオとトルペタ君は耐えられない!
「やれやれ、お前たちも少しは頭を使ったらどうだ.....?この森に他の魔物がいたらどうする。我らは何のために人間を殲滅する?そこを間違えるなよ?」
「....チッ!」
「ニルゲは頭がかてーんだよ。魔物がいようが人間を殺せるなら必要な犠牲だろーが。」
その時紫色の竜...蛇竜って呼ぼうかな。
蛇竜が二匹を止めに入った。蛇竜は知性が高そう、それに同族に対する仲間意識もあるようだ。
そう考えると私達とはまた別の正義に基づいて人間を滅ぼそうとしているのかもしれない。
こういうのやりずらいなぁ。
ひとまずブレスによる森焼却は免れそうだ。
「では私が周囲を探ってみましょう...。」
今度は青い竜が索敵魔法??
影からマナを発しているのがばれたら一気に攻撃を畳みかけられるかもしれない。
ここは今のうちに特攻するべき....?
私がそう迷っている間にも青い竜が索敵を始めようと....している時だった。
「おいおい、トカゲ風情が魔法たぁ、笑わせてくれるなぁ。魔物なら魔物らしく頭空っぽで突進してくりゃいいんだよ。」
フ、フレア!?
後から走ってきたフレアが私の反対側から竜4匹の前にたった1人で姿を現した。
髪の毛はゴウゴウと燃え盛る火のようにところどころが逆立ち、体からは赤色のマナがあふれ出ている。
「あ~~~?お前、今なんつったァ?」
「下等生物のクソ猿が誇り高き竜にトカゲだぁ?」
「....死にたいようですね。」
「索敵するまでもありませんでしたね。」
4匹が一斉にフレアの方を向き、赤色の竜2匹は今にも飛び掛かりそうだ。
「ハッ、トカゲはトカゲだろーが。来いよ。皮はいであたしの防具にしてやるよ。」
「...ヴァリス、俺にやらせろ。こいつは殺す。なるべく生かしながら殺す。」
「あんたが死んだらウチの番な~。ま、出番が来ることはないんだろうけど。」
2匹の赤い竜の内、一匹の竜がフレアに向かって四本の脚でゆっくりと動き出した。
フレアは先ほどのあおり口調から一転して真剣な顔つきで武器を構える。
でも今は私が出るべきではない。
もちろん、フレアでも流石に4対同時はキツイ。でも1対1なら勝てるだろう。
今竜種達は完全に舐め切っている。間違いなく1対1で戦おうとする。
フレアには時間を稼いでもらってトルペタ君とレオが合流したら一体を倒す。
その後は乱戦になるとは思うけど一気に畳みかければいい。
3対4なら勝機はあると思うし。
「おうクソ人間。てめぇの名は。」
「フレアだ。クソトカゲ。」
その瞬間、赤い竜は一気に間合いを詰めて私の腕よりも大きな3本の爪をフレアに叩きつけた。
「俺の名前はヴァリア、偉大なるディレヴォイズ様に仕えるフレアドラゴンだ。クソ劣等猿人間がフレアドラゴンの名の一部を名乗るな。」
クソ劣等猿人間...中学生みたいな悪口....。
フレアはヴァリアの攻撃をハンマーで受け止める。
ヴァリアの攻撃は周囲の地面がへこむほどの衝撃だったため、流石のフレアも顔が歪んだ。
「あたしの名を使った種族やめてくれよッ!脳筋クソトカゲ種のヴァリアなんてどうだッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
にやりと笑って煽り返すフレアに対してブチ切れたヴァリアが両手で叩きつけ、尻尾を振り回し、火のブレスを放つ。
「あらら、ヴァリアったら本当に単純ね。」
「そう言ってやるなトゥリプス。人間如きにあそこまで言われたんだ。頭に血が上るのも当然だろう。」
「ヴァリアがやられたらウチの番だからな、ニルゲもトゥリプスも手ェ出すんじゃねェぞ。」
私の近くにいた3匹の竜の会話を聞く限り、仲間がやられても一匹づつ戦うようだ。
一騎打ちで戦うのが竜の誇り的な奴なのかな?
そんな中、怒りをあらわにして直線的になったヴァリアの攻撃をハンマーで綺麗にいなしながら、最後のブレスに向かってハンマーを振り抜いて受け止めるフレア。
ヴァリアが吐き出した火のブレスは、フレアのハンマーに触れて勢いが弱まった。
その時にフレアの口元がわずか動き、何かを呟いたことは解ったが、残ったブレスで口元が良く見えず内容までは解らなかった。
「クソがクソがクソが!!!!!殺す!!!!」
「へっ、こっちはダメージなんて受けてねーぞ?ブレスは効いたけどな。」
あれ?プロミネンスドラゴンを倒したって言ってたから、ファイア・スピリットの時は火が利かないのかと思ったけどそんなことないのかな?
「じゃあコレ(ブレス)で決めてやるよ!!!!溶けやがれ!!!!!!」
ヴァリアが頭を上げて大きく息を吸った。
今が攻撃チャンスなんじゃないかとおもってフレアを見ると、攻撃を仕掛けるのではなくブレスを真っ向から受けようとしていた。
その顔から笑みをこぼして。
「ガアアアア!!!」
ヴァリアの叫び声と共に、凝縮された火のブレスが熱線となってフレアに着弾する。
「ッ!!!」
すんでのところで直撃は免れ、ハンマーのヘッド部分で受け止める。
そんなことしたらハンマーが溶けちゃうよ!!!
火のブレスを受けたフレアの周囲は煙で何も見えなくなった。
しかし煙の中からすさまじいマナの濃度を持つ何かを感じた。
「!!!ヴァリア!!警戒なさい!!!」
トゥリプスの警告は頭に血が上ったヴァリアに届かない。
自身のブレスによほどの自信があったのか、ブレスを吐ききった後勝利を確信してゆっくりと煙に近付く。
「せっかくだしこんがりと焼けたお前を食べてやるよ。溶けちまってるだろうがな!!!!」
突如、煙の中から無傷のフレアが現れる。
その手に持つハンマーのヘッド部分はすさまじい濃度のマナと熱で白く輝きを放っていた。
殺したと思った相手が無傷で敵意を向けて現れる。
そんな予想外の出来事にヴァリアの思考は一瞬停止した。
「お前が馬鹿で助かったよ。.....プロミネンス・インパクト!!!!!」
フレアが全体重を乗せてヴァリアの脳天にハンマーを叩きこんだ瞬間、辺りは光に包まれて何も見えなくなる。
光よりも遅れて大気がビリビリと揺れるほどの爆発音と振動が響き渡る。
影の中にいたから鼓膜が破れることはなかったけど、コレ私が影に居て、影の中では音が伝わりにくいことをわかっててやってるんだよね?
絶対後で問い詰めてやる。
と脳内で難癖をつけていると、次第に視界が回復してくる。
「...!!なんて威力なの...!?」
「信じられん、これほどの力を持つ人間がいるとは...。」
「へっ、ヴァリアの奴だっせーな。」
目の前には物怖じしない3匹の竜と、大きなクレーター。
それにもはや原型をとどめていない、ヴァリアだったモノ(・・・・・・・・・)が周囲に散らばっていた。
「ふぅ....。次は、どのトカゲだ?」
クレーターの中心部に立っていたフレアが肩で息をしてハンマーを杖代わりによたよたと立ち上がった。
「なんだ、もうふらふらじゃねーか。このまま戦っても詰まんねーしウチが手加減して相手してやるよ。」
ヴァリアと似た見た目をした竜の体をマナの光が纏ったと思うと、その光は徐々に小さくなっていき次第に人のサイズ程へと変わった。
人化...?、でもオウカが教えてくれた人化は進化の過程で人の見た目を選択した結果だった。こういう風に自由に見た目を変える者じゃなかったんだけど....。
「これは竜人化、人はサルやら猫やら兎やらクソみてぇな奴らの成れの果てだが、こっちは竜だ。格がちげーだろ?」
竜人化と呼ばれる方法によって人型まで小さくなった赤い竜の見た目は、目分量で体の80%程度が赤いうろこでおおわれていた。
真っ赤な長いぼさぼさの髪の毛には2本の角、牙が八重歯のようになっていて、まるで小柄なフレアのようだった。
本人は手加減と言っていたけど、影の中から見ていても肌がひりつくようなこの感覚。
どう考えてもパワーアップしてるよね、体力を消耗しているフレアには少し分が悪い。
そろそろ頃合いかな。