「113話 開戦 」
お久しぶりです、鰐梨です。
GW終わっちゃいましたね...。
仕事が忙しく、更新頻度は落ちていますが、ゆっくりでも確実に進めています!
これからもよろしくおねがいします!
「ミウシア殿!ルクニカ様!いらっしゃいますか!!!」
どんどんどんどんと家の扉が叩く音で目が覚める。
「ん~~~~!」「なんだぁ...?」
昨日皆でお互いの技を披露し合ってそのまま騒いで地面で寝てしまっていたらしく、体がバキバキと音を立てる。
起きたのは私とフレアだけ、皆すやすや床やテーブルで寝ている。
フレアが扉に近かったため、立ち上がってのそのそと扉を開けてくれた。
「あんだよ~。」
扉を開けて壁に寄りかかりながら寝ぼけ眼をこするフレア。
「よかった!いらっしゃいました...酒臭っ!!...失礼しました、フレア殿。魔族軍の侵攻が思ったより早く、この大陸に地上部隊が上陸したそうです!すぐに王都東門にお集まりください!」
魔族が!?寝てる場合じゃない。皆を起こさないと!
「まぞく....魔族か!やべぇ、皆!起きろ!」
「なんです!?」「うあああみみがああ」「ひゃっ!」「うわっ」
キーーーーーーーーーンと耳鳴りが聞こえるほどの声量で叫んだフレアの声で皆跳ね起きる。
私はもう起きてたのに、無駄に耳が痛くなっただけだ。
「...っ!...!....だから急いで支度するぞ!!」
耳が痛くて途中聞こえなかったけど多分皆に魔族のことを伝えたんだと思う。
私は頭を押さえながら立ち上がった。
「フレアの声で魔族倒せるんじゃない...?いてて....。」
「頭に響くです....。レオ、直してください.....。」
「<治癒光:拡散>サークル・ライト!二日酔いにもきくよ~♪」
レオの魔法で頭痛がすーっと消えていく。
「レオさん、ありがとうございます。すぐに向かいましょう!」
昨日までのふにゃっとしたニカはどこへやら、いつも通りのキリッとしたニカが戻ってきた。
こうして私達は戦場へと向かった。
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東門に行くと、そこには白銀の甲冑を着込んだ大量の兵士が東の港への道に並んでいた。
門周辺には多くの冒険者もいる。
おそらく数百人...中には冒険者もいる。
その中から兵士が一人こちらに気が付き、がしゃがしゃと走ってやってきた。
「ルクニカ様!お待ちしておりました!」
「遅れてすみません、魔族の方はどうですか?」
「偵察隊からの連絡で、陸から200空から10。陸の魔物は私達でもなんとかなるとは思いますが、空からの魔物は陸の魔物とは違うルートできています。しかも竜種とのことで、私達ではとても....。」
ニカが私達のほうをちらりと一瞬見る。
「陸は私と王都兵、冒険者で何とかしましょう。空の敵はミウちゃ...ミウシアさん達に任せます。」
ニカの守りは鉄壁、最終防衛ラインを任せるのに賛成。
でも空の魔物ってどうやって戦えばいいんだろう?飛べないし...。
「陸の魔物の種類は何です?」
カナちゃんが一歩前に出て兵士に問いただした。
「陸からはゴブリンエリート、アイアンリザード、フォレストウルフといった低ランクの魔物ではありますが、数が多いもので...。」
「ふむ....ルクニカ、兵と冒険者にはこの後来る本隊までなるべく消耗を抑えて欲しいです。なので私がある程度数を減らしましょう。魔物の密集具合にもよりますが、おそらく半分以上は削れるでしょう。ほかの人たちには打ち漏らしを頼みたいです。」
半分は100匹だよね、いくら強くなって、相手が低ランクだとしても無理があるんじゃないかな。
頭を捻らせていると、私の心配を他所にニカは頭を縦に振った。
「わかりました、ではミウシアさん、フレア、トルペタさん、レオさんで竜種の相手をお願いします。」
「任せるです!」
ドンと胸を叩くカナちゃん。
兵士は頷くと、集まっている兵と冒険者にこれからの動きについて伝えに行った。
ニカも「では、気を付けてください。」と言って兵士についていってしまった。
残された私達は他の兵に竜種が向かっている場所について聞いた。
陸からは港からそのまま道なりに王都へ向かっていて、竜種は5体ほどでここから南側上空から向かってきているようだ。
「カナちゃん、ちょっと。」
私は兵士たちの方に向かおうとしたカナちゃんを呼び留めた。
「なんです?」
「ねぇ、カナちゃん本当に一人で大丈夫なの?マナ消費しすぎちゃって倒れたりしない?」
「平気です。それに人がいては私の魔法は全力でぶつけられない、むしろ好都合だと思いませんか?」
カナちゃんが核心を持って平気だと言ってることを、カナちゃんの目をみて私は理解した。
今まで5人でやってきたから過剰に心配してるだけかもしれない。
突如、肩にズシッと体重を感じ、赤毛がふわふわと私の顔にかかった。
「まぁいいじゃねえか。それだけ自信があるってことは自分の力量を把握してるってことだろ?それにあたしらでも竜種10匹くらいどうにかなんだろ。1人3体倒せばいいんだろ?らっくしょう!あたしが全部仕留めちまってもいいんだがな!」
フレアなら本当にやりかねないなぁ。
「わかった、カナちゃん気を付けてね。」
「もう、子供じゃないんですから大丈夫です。ミウこそ、気を抜かないでくださいよ?」
「そうだ、アルカナ。渡したいものがある。」
そんな発言にモジモジしながらチラッとトルペタ君を見るカナちゃん。
トルペタ君はなに渡すつもりだろう?
「も、もももしかして告白か?」コソコソ
「まさかプロポーズもワンチャン~?」コソコソ
レオとひそひそ話で盛り上がっているフレアの息が荒くなり、顔も赤くなってる。
レオと近づいてるからなのか、目の前で繰り広げられるラブコメに照れているのか....。
と、そんな二人を余所にトルペタ君がついにカバンから何かを取り出す。
「これ、マナが回復するポーション。ブライト師匠から貰ったんだ。危なくなったら飲めよ。」
「あ...ありがとうです...。で、では行くです。トル君も気を付けるですよ!」
青い液体の入った瓶を貰ったカナちゃんは顔を赤くしながら受け取り、大事そうにぎゅっと抱えて走っていった。
「ほら、やっぱりトルっちは期待を裏切らないってことよ~。」
「な~んだ。ちょっと見たかったのによ~。」
「二人には二人のペースがあるんだよ。これからに期待だね...。」
トルペタ君がバシッと男を決めるときが来るのかな。
もし2人が種族の差を乗り越えて付き合ったら...カナちゃんはヒューマン族だからどんどん大きくなる、トルペタ君は小さいまま。
...犯罪臭が...。でも異種族婚が当たり前になればそういった事も普通になるんだろうなぁ。
全部終わったら異種族同士で子供ができるように宇宙神に頼んでみよう。そんなことが可能かわかんないけど。
「....?なんで二人は呆れた顔をしてるんですか...?」
フレアとレオが顔を見合わせて大きくため息をつく。
「「はぁ~~~~。」」
「フレっち、カナっちが我慢できなくなって告白する方に1万Nia。」
「じゃああたしもアルカナが告白するに1万Nia。」
「私もカナちゃんが告白するに1万Nia。」
「なんて話してるんですか!!!さっさと行きますよ!!!!」
ぷりぷり怒りながらトルペタ君が竜種が向かってきているという南へと足を進めた。
その顔はゆでだこのように染まってる。
「少しは緊張がほぐれたか~?」
フレアが後ろで手を組みながらにししっと笑うのを見て、今のはトルペタ君の緊張をほぐすためにわざとやったのかな?
とも思ったけど多分普通に面白がってるだけだねきっと。
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SIDE:アルカナ
港への道を隊の戦闘の馬車に乗って進むこと数時間、迎撃をする目的地に着いたです。
予想では今から1時間もしないうちに数百メートル先に魔物の軍勢が見えるとのことでした。
「止まれー!!」
兵士長の掛け声で一斉に止まると、斥候部隊が一斉に相手戦力の範囲を確認に行ったです。
「アルカナ殿、準備をお願いいたします。魔法を放った後に私達も出ますので放つときは合図を。」
「わかったです。」
正直、ここにいる大勢の兵も冒険者も私の力を疑っているようでした。
世界で唯一のSランク冒険者のルクニカ、それに王からの推薦が無ければ私を認めずこの場に立つことさえできなかったでしょう。
少しでも数が減るならまぁいいか、という期待をしていない雰囲気がひしひしと伝わってきます。
ならば、今持てる全ての魔法を持って、全力でお見舞いしてやるだけです。
数分で斥候が戻ってきて、魔物が攻めてきている範囲を教えてくれたです。
「魔物達の種類はゴブリンエリート、アイアンリザード、フォレストウルフといった、出発前に伝えた時からは変わりありませんが、規模が増大しています!その数、二倍の400体です!!」
「なっ、それは本当か!?....アルカナ殿、できるだけでよいので、なるべく数を減らしてください。兵は200、冒険者は50もいませんので、アルカナ殿次第で勝敗が変わるかもしれません...。」
ゴブリンエリートは大体Cランクもあれば一人で倒せる魔物ですが、それは1対1の話で、フォレストウルフのようなす早い魔物や、アイアンリザードのような防御力が高く、すぐに対処できない魔物も同時に相手をするとなると難易度は跳ね上がります。
それに加えて、今回の兵や冒険者はCランク相当の者しかいない、この後の本体を想定して実力のある者を後にしているですかね。
にしても400....物足りない(・・・・・)ですね。
問題は範囲だけですが.....。
「あの、魔物はどのような陣形で近付いてきているですか?」
「はっ、どうやら魔物は踏み鳴らされた街道だけでなく、森の中からも進行しているようです!図にすると...。」
そう言って斥候の人は地図を取り出して魔物の位置を書き記していったです。
森の中からは小回りが利く足の速いフォレストウルフ、街道からはゴブリンエリート、その後ろからアイアンリザードの大群が向かっているとのことでした。
他にもランクの低い魔物を引き連れていて、街道の進行方向に対して横は約200メートル。縦は500メートル以上。
速度はなるべくばらけないようにしているらしく、意外にも遅い。
であればあの魔法ですね。
「ここら辺に村や人はいないです?」
「ええ、村はないですし、人影もありませんでした。」
「では離れていてください、準備を始めるです。」
本当に大丈夫かぁ?といった心配そうな疑った目でこちらを見てくる兵士。
少しは隠そうとしてくれませんかね...。
私は馬車だからピョンと降りて、氷晶の杖を構えてリング・オブ・エレメントにマナを流し、そして吸収しました。
「アルカナ殿の髪の毛がさらに青く....!?」
「なんだありゃあ?」
兵士と冒険者達のどよめきを聞きながらアクア・スピリットを発動。
アクア・スピリットでマナ操作精度を底上げするです。
更に水晶の杖の効果で遠距離で魔法陣を生成。
範囲は200メートル....いけ...そうですね。
「あんなにでかい魔法陣を制御した....!?」
「こんなの...ルクニカ様だって無理だぞ!?」
「マナが濃くなっていくのを感じます....!!」
私もここまでの規模の魔法は初めてです。
属性は火・水・風の3属性複合。
更に命令文は詩人の歌う詩ほどの量となる。
ですが不思議と不安はなく、成功を確信している私がいました。
きっとマクスウェルの厳しい..無駄に厳しい日々のせいでしょう...。
命令文はミウ式なので口には出したくありませんが、かっこいい始動キーは考えてあるです。
出した魔法陣の上に新たな魔法陣を描き、始動キーで繋げる。その上に、その上に、と重ねていくです。
「魔法陣と魔法陣が繋がる....!?」
「いったいこれは何なんだ!?おい、魔術師のオッサン!あれは何なんだ!?」
「い、いや...こんなものは見たことが無い...。発動できるはずもない......なのになぜ安定しているんだ...?」
最後の魔法陣を命令文でつなぎ、準備完了。あとは始動キーを唱えるだけです。
私は杖を持つ手を前に出し、魔法陣へと自身のマナを限界まで注ぎ込んだ。
「宙を覆いし<暗雲よ>、我が呼びかけに答え正しき者に<恵みの雨>を!」
風で周囲の雲を呼び寄せる命令文、集まった雲に雨を降らせる命令文により、空を泳ぐ雲が魔法陣を覆うように一か所に集まり、雨が降り出した。
「これは...まさか魔法で雨を創り出したのか?」
「アルカナ殿は何故雨を...?」
マナ消費量を抑えるために自然を利用する。
そんなマクスウェルの教えのお陰で魔法で一から事象を起こすよりも、大幅にマナを抑えることができたです。
悔しいけど流石です。
「悪しき者には<災いを>!」
突如、雨が降り止んだ。
「雨が止んだ...?」
「いや、空中で止まってる!!!」
降り注ぐ雨を固定する力場を無数に創り出す命令文により、複数空にたまった雨は、空を埋め尽くすほどの水球へと変わっていく。
「<氷の矢>となりて、<悪しき者へ>と<降り注げ>!」
空に浮かんだ無数の水球を槍状に変形させ、全て凍りつかせる命令文により、パキパキパキと、氷にひびが入るような音が無数に鳴り響き、水球は氷の矢へと形を変えた。
それに加え属性のマナを持つ私以外の生命体、つまり魔物に向かって落ちる用に対象を固定する術式、固定している力場を捻じ曲げて、弓を射るように氷の矢に強い反発力を発生させる命令文を唱える。
「ディザスターレイン<災いの雨>!!!」
最後の始動キーを唱えると、全ての氷の矢にかけられた力場が解放される。
ピュピュピュン!という風切り音と共にすさまじい勢いで降り注ぐ氷の矢が降り注いだ。
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SIDE:兵士長
今目の前で広がる光景と、かすかに地面が揺れるほどの衝撃を感じながら私は思った。
アルカナ殿の放った魔法は、一般の魔法使いが用いる『魔法』ではなかった。
云わば『天災』。これは台風や地震のような自然災害だ。
先ほどまで天に無数に浮かんでいた氷の矢....いや、『槍』は、私達の頭上から魔物達の軍勢に向かってすさまじい勢いで飛んでいった。
ドドドドド、とあの質量の槍が地響きを起こすほどのレベルで降り注だということは、フォレストウルフやゴブリンエリート、アイアンリザード程度の魔物ではひとたまりもないだろう。
現に、見渡しの良い街道のはるか先に見えていた魔物の群れは、氷の槍に埋もれてしまった。
......これは、まさか全滅させたのか?
と思った矢先、先に見える氷の槍から無数の影が飛び出した。
「フォレストウルフか!?」
素早いフォレストウルフの中には、あの天災から生き延びた者もいたらしい。
もしかしたら自分たちの出番はなくなったかと思っていたが、どうやら無用の心配だったようだ。
後ろに控える兵士や冒険者たち...はいまだ唖然としているが、フォレストウルフに気が付いたもの達はすでに戦闘態勢に入っていた。
「とつげ.....!!」
「<爆発>バースト!!!!!」
兵たちに突撃命令を出そうとした瞬間、アルカナ殿の声と共に辺りの空気をビリビリと震わすほどの勢いで氷の槍が爆発し、こちらに向かってくるフォレストウルフたちが血を噴き出して倒れる。
「は、はは......。」
この威力は....この状況は一体何なんだ...。
魔法使いとは....ルクニカ様が認めたアルカナ殿は、一体何者なんだ....?
もはや魔物が襲ってくる気配などなく、通常であれば喜ぶべきタイミングなのだろう。
しかし私は魔物の大群を一つの魔法で蹂躙した魔法の恐ろしさに、そんな魔法を放った後も顔色一つ変えないアルカナ殿に畏怖の念を抱いていた。
おそらく、この場にいる誰もが同じ気持ちなのだろう。
予想通り、周りの兵から歓声が上がることはなく、静まり返っていた。