「110話 別れと再会 」
「さて、忘れ物はないかの?」
「うん、ばっちり!醤油も納豆も、豆腐も大量に貰ったしね!」
神社の前でたくさんの人に囲まれながら荷物をチェックする。
オウカとテツザンさん、オウカの従者さんとお世話になった団子屋のお姉さん、町で暇つぶししている時によく遊んだ女の子。
いろんな人に別れを惜しまれている。
「ねぇ、ミウちゃん...もういっちゃうの?」
「ごめんね、元気でね。これあげるから、これで同じくらいの年の子誘ってみなよ。」
街中でよく見かける、いつも1人で遊んでいる女の子。
ヨモギちゃんは人見知りで周囲に馴染めず一緒に遊ぶ友達もいなかった。
ある日私が街中で迷った時に、道案内をしてくれたのがバーニア族の女の子、ヨモギちゃんだった。
年の離れている私に対しては人見知りを発揮することなく、和気あいあいと話してくれた。
次第に仲良くなり、町に出た時はいつも遊んだり、町案内してもらったりした。
そんなヨモギちゃんには友達と遊ぶきっかけになるように独楽を5個プレゼント。
見よう見まねで作ったけど、案外再現ができた。
「わ!独楽だ!!いいの??独楽ってたかいんだよ??」
「子供がそんなこと気にしないの!それは私の手作りだよ。」
「ありがとう!大事にする!!」
ヨモギちゃんにもこれでお友達ができればいいんだけどな。
「ミウシアちゃん、良かったら団子持って行って?お仲間にも食べてもらってよ!」
お団子屋のお姉さんが大きな風呂敷をくれた。
多分相当入ってるんじゃないかな。
「ありがとう!仲間も喜ぶよ!」
私がお団子屋のお姉さんと仲良くなったのは、みたらし団子を食べに団子屋に行ったのが始まりだった。
団子と言ったらみたらし団子!と私は思ってたんだけど、この国ではみたらし団子が売られていなかった。
団子屋のお姉さんにみたらし団子のことを話してレシピを教えるとすぐに作ってくれた。
それから団子屋でもみたらし団子を出すようになり、私はレシピ代として今後団子を無料で食べられるようになった。
無料で食べられるならと私は毎日通い、次第に仲が良くなっていった。
「ミ、ミウシアさま...私達は決してあなたのことを忘れないです。」
「俺も!」「俺も!!!」「ミウシア様ー!!!!」
「あはは...。」
この人たちはテツザンさんの部下。
最初に私を捕縛しようとしてた人たち。
仲には忍者っぽい人たちもいる。
なぜか私のことを崇拝?していて、ファンクラブのような雰囲気になってる。
オウカが言うには「サクラ色の髪色のせいで神々しく見えたんじゃろ。おおよそ、世界樹の化身とでも思ってるんじゃなかろうか。」とのことだった。
この国で一番偉いオウカと対等に接していたのも相まってこんなことになっちゃった。
「ミウシア様、魔法陣ができましたので、ご都合のよろしい時にお伝えください。」
「テツザンさんも色々ありがとう。私とオウカの稽古の後にぐちゃぐちゃになったここを綺麗にしてくれてたでしょ?ほかにも、食材を神社に持ってきたりしてくれてたみたいだし。」
ほほをポリポリと掻きながら少し照れ臭そうにするテツザンさん。
「あ、いや...オウカ様の従者として当然のことをしたまでですので..。」
謙虚だなあ。
「じゃあオウカ、またね。大分先になるとは思うけど、絶対また来るから。」
「うむ、暇つぶしには慣れておるのじゃ。この機会に儂ももう少し民との距離を縮めてみるのじゃ。ミウシアがしたようにのう。」
私は元々庶民だから畏まられるのに慣れてないだけなんだけどね...。
「じゃあテツザンさん、お願いします。」
「わかりました。<王都><一人><長距離跳躍>...<転移>テレポート!!」
その瞬間、私の足元の魔法陣が強く光り、私の体を徐々に青い光が包んでいく。
やっぱり転移石と同じなんだなぁ。
「ミウシア!!じゃあの!!!」「またねー!!」「団子、食べてくださいね!」「ミウシアさまああああ!」「うおおおおおお!」
皆の姿がどんどん光で見えなくなっていく。
私は完全に見えなくなるまで手を振り続けていた。
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SIDE:アルカナ
「では、もう結界は破れてしまったのです?」
「ええ、すみません。内側から魔物達が結界を攻撃していたようで...予想よりも早く壊れてしまいました。」
ルクニカがそういうと、王たちは一様に険しい顔をした。
修行を終えた私は、半ば喧嘩別れのような別れ方でマクスウェルの家を後にしたです。
王都に帰ってきて、王に報告と成果を伝えている時にルクニカが来て結界についての報告をしました。
「ふむ、とはいえルクニカとフレアのお陰で我が国の兵力も底上げができているであろう。魔物は王城に向かってきているのだな?」
「はっ!暗黒大陸からおよそ1万もの魔物が王都に向けて進軍中とのことです!上空からは竜種が数体、地上を進軍中の魔物は多種多様、冒険者ランクBの者が1体1でなんとか勝てるような強さとなっています!」
ドワーフの王、ギアが現状を兵士に聞くも、その兵力の差は数字だけでも王都の5倍。
王都の兵力は2000.冒険者も併せても3000といったところです。
「ランクBで1体か、今の兵士たちなら一人が魔物5体を相手にしても問題はないぜ。」
「フ、フレア君。それは本当かい?」
レオの父親でもあるケットシー族の王、ティスライトが驚いたようにフレアに聞き返したです。
以前まではどの程度の兵力だったのかは解らないですが、この反応を見る限りフレアとルクニカの修練が大分効果を発揮しているようですね。
「それならば、十分に迎撃は可能ということだな?」
「地上の魔物だけならばそうなります。しかし依然王都に攻めてきた魔物や竜種に関してはAランク....いや、Sランク冒険者レベルになると思います!」
「そこでアタシらの出番って訳か。」
ヒューマンの王、リージェンの発言に対して兵士が訂正したです。
Sランクにも匹敵する魔物を相手にするとフレアが自信満々に答えていますが、果たして今の私にそこまでのちからがあるですか....?
以前負けた時からは確かに強くなっていますが、正直実感は湧かないですね。
「うーむ、じゃあ我が国の兵で地上の魔物を相手し、トルペタ、フレア、アルカナ、レオ、そしてミウシアでSランクの魔物、竜種を撃退する..といった方針でいいのかな」
「バラッドよ、その5名は本当に竜種やSランクの魔物を相手できるのか?我が国の命運を任せることはできるのか?」
ジャイアントの王オリバーがバーニアの王バラッドの発言に対して疑問を述べたです。
まあそう思われるのも当然のことではありますが。
「私の見たてでは問題ないかと。もちろん、各冒険者ギルドに依頼は出してありますので、時期に冒険者も集まるでしょう。総戦力で臨むほかないと思われます。それに、間違いなく5名と私はこの国でトップレベルの冒険者。私達以外には務まらぬものと思います。」
ルクニカの過大評価は嬉しいやら困るやらですが、やるしかないみたいですね。
今ここにいないレオとトル君は王都に向かっているとの報告がありましたが、肝心のミウからは全く音沙汰が無いです。
大丈夫ですかね?
と思った時に天井近くに青色の光が突然現れ、何かがドスンと私達と王の前に落ちてきたです。
「っっ!!!」
兵士たちと私達は一斉にその侵入者に攻撃態勢をとったです。
何者です?
「う~~~。いててて...。転移って地上にするもんじゃないの?」
何やら聞き覚えのある声、まさか!?
「ぶっ、ははははは!おいミウシア!なんて登場の仕方してるんだよ!!!」
「ミウちゃん!?」
「ミウ!?」
「脅かせおって...。」
なんと、王座の間の天井から降ってきた侵入者はミウでした。
ミウとわかって私達は攻撃態勢を止め、兵士たちも持ち場に戻ったです。
「えっ!?王様!?それにみんな!?ここは!?」
「ミウシア君...玉座の間だよ....。」
バラッドがミウにそう伝えると、ミウは数秒止まった後、急いで私達の横に来て跪いたです。
「おっ、お騒がせしました!ミウシア戻りました!!」
「「「....はぁ。」」」
真面目なリージェン、オリバー、ギアは頭に手を当ててため息をついていますが、バラッドとティスライトは笑いをこらえているようです、フレアは王の前にも関わらず大爆笑していますが。
「もうよい、とりあえず先ほど話した通りだ。ミウシアにはルクニカ、事の経緯を伝えておくのだ。魔物が我が領地に入るのはまだ先だ。戦いの準備をしておいてくれ。」
リージェンの発言でこの場は一旦解散になったです。
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SIDE:ミウシア
「笑わないでよ!!転移先があそこだとは思わないじゃん!!」
「ミウシアのあの動き...ぶはは!それに『ミウシア戻りました!』だって!ははははは!」
玉座の間から出たとたん、フレアのからかいが始まった。
ご丁寧に私の物まねなんかしちゃってさ!
「一応王の御前ですから...下手をしたら処刑手前でしたよ?」
「ほんとにね...テツザンさんにはいつか一言いってやる...。」
カナちゃんも苦笑いで私を注意した。
テツザンさんの転移はありがたいけど、なんで王座の間に直接....。
「ミウちゃん。遅かったから心配したよ。」
「ニカ~~!心配かけてごめん~~。サクラ族の里、いや、オウカ国でギリギリまで修行してたんだよ~~!」
ニカは優しい。フレアは馬鹿にして、カナちゃんは私に注意、ニカだけだよ最初に心配してくれたのは...。
「それより!あれは何です!?転移魔法です!?サクラ族の里にはそんな使い手がいるですか!?」
案の定カナちゃんの魔法オタクに火が付いた。
「そうだよ、転移魔法。...色々話も聞きたいし、一旦家に帰ろう。ニカもよかったら泊まっていってよ。」
ニカの顔がぱあああっと明るくなり、私の手をガシッと掴んた。
「い、いいの!?嬉しい!!ミウちゃんの話をたくさん聞かせてください!」
あれ?ニカの話し方、王様と話すときのしゃべり方のままじゃない?
やっぱりこっちが素なのかな?
「うん、もちろん!でもまずはさっきリージェン王が言ってた話を聞かせてよ。」
「わかりました!ではミウちゃんのお家へ行きましょう!」
目をキラキラと輝かせて歩き出すニカ。
手は離さず、つないだまま。
フレアもカナちゃんも見てるよ~~~。
「ルクニカ、話し方戻したんだな。」
「え...あっ!!....えっとミウちゃん、前の話し方のほうが良かったですか?」
フレアの一言で一瞬止まり、フレアをキッと睨んだ後、私に話し方について聞いてきた。
「えっ、えと、今の方が女の子らしくて好きかな~なんて。でも敬語じゃなくてもいいんだよ??」
「~~~~~!!わかりました!!敬語なのは癖なんです...。」
でも何で話し方を変えてたんだろう?多分こっちが素だよね。
まぁ喜んでるようだしいっか。
「やれやれ、ミウは鈍感ですね....。」
「ぷっ...くくく、普通わかるよなぁ?くく...。」
フレアとカナちゃんは鈍感とかいうけど、たぶんニカが私に興味があるんだなってことはいくら何でもわかってるよ?
でも話し方とそれ関係あるかなぁ?
わかんないや。
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SIDE:ゲオグリオス
「ちっ、まだかよ~。」
3カ月もの間、魔物....いや、今は魔族か。
魔族を封じ込めていた結界も、オレらの攻撃によって壊れた。
今、オレ達は人間達の大陸に渡るため、海亀竜たちの背に乗っている。
その兵士の量はおよそ1万。人間達の大陸にいる魔物を集めながらならさらに増えるだろう。
しかしオレはそんな雑魚の戦闘に興味はない。
以前王都を襲撃した時、戦った人間達みたいなやつと戦いてえ。
アイツらはおそらくこの3カ月で強くなってるだろう。そういうもんだろ?人間ってのは。
だから正直この人間と魔族との戦い自体に興味はねぇ。
魔族の王を名乗ってるディレヴォイズとかいうやつとは戦ってみてえが、流石に自軍の王と戦ったら動きにくくなるだろ。
あの人間達と戦うためにオレは竜種の奴らと戦って強くなった。
魔族や人間が使う言語、共通語も戦いのために覚えた。
拳で語らった相手と会話ができねぇのは面白みに欠ける。
オレはあの人間達の人となりにも興味が出てきてんだろうな。
ああ、楽しみだ。