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「104話 桜下兎走と桜下兎遊」

人に擬態し襲い掛かってきた魔物を捕食する、食魔(しょくま)植物フォレストマン、今日のノルマは残る所この魔物のみ。

その見た目は後ろから見るとスキンヘッドの男にしか見えないが、よくよく観察すると肌は木でできていて、正面から見るとのっぺらぼうで魔物であることは一目瞭然。


手に馴染んできた世界樹の短剣を両手に逆手に持って構え、近寄る。

フォレストマンは地面に倒れこんで魔物が襲ってくるのを待っているためその場を動かずにじっとしていた。

安易に近づくとフォレストマンが張り巡らせた木の根によって拘束され、生きながらに養分となり果ててしまう。


近くに落ちていた石をフォレストマンの足元に投げて木の根の罠を起動する。

石が地面に触れた瞬間、根っこが地面を盛り上げて露出する。

フォレストマンは罠に獲物が引っかかったことに嬉々として起き上がる....が、獲物が見当たらず周囲をきょろきょろと見回している。


フォレストマンの背後から忍び寄り、魔核のある胸元に向かって両手に持った世界樹の短剣を同時に突き当てる(・・・・・)

しかし速度と力が足りなかったのか、世界樹の短剣の効果による衝撃ダメージが足りず、フォレストマンを大きくのけぞらせるだけだった。


「硬い個体ッ!」

私はフォレストマンが体勢を立て直す前に一気に懐に踏み込んだ。

呪いさえ切れていたら一瞬で詰められていた間合いも、今では相手に体制を立て直す隙すら与えてしまう程度には遅かった。


起き上がったフォレストマンは右手の形状を変え、硬質化する。

まるで義手が一振りの剣に変わったかのような見た目へと変わったフォレストマンは右手を振りかぶって私に切りかかった。


その右手は剣状となり硬質化もしているためもはや剣と化している。

私は襲い掛かる剣の軌道を目で追い、左手の短剣でその軌道を上へと受け流す。


胴体ががら空きになったところに右手の短剣で切りかかった。

先ほどと同じ場所に寸分狂わず当てたためビキビキッという音を立てて表面の木が剥がれ落ち、魔核が露出する。


ここで一気に叩かず、一度バックステップで距離を取った。

その瞬間、私が今までいた場所の地面が隆起し、先端が鋭く尖った木の根が突き上げられる。


もし今バックステップをしていなければ間違いなく串刺しだったね。


これはオウカに教わった戦闘時の考え方、止めを刺せそうなときほど一歩引いて考えよ。

とはいえこの考え方は相手の立場になって考えれば考えれば当たり前のこと、絶体絶命になれば誰だってもがく。

そうなればその状況を変えるような一手を撃ってくるのは至極当然のことだよね。


必殺とも呼べる技をまんまと外したフォレストマンはやけになったのか、その根をさらに伸ばして私めがけて飛ばしてくる。


この短剣に刃が付いてたら切り落とすだけなんだけど、残念ながら打撃しかできないんだよね。

不規則な動きで私めがけてとんでくる木の根を紙一重でよけながら、露出した魔核に向かって短剣を投擲した。


短剣が魔核に当たった瞬間、魔核は音を立てて砕け散った。

フォレストマンは糸が切れたようにその場にドサリと倒れこみ、勝敗が決した。


「ふぅ、これでノルマクリアっと。」

倒れたフォレストマンをアイテムボックスに収納し、オウカの国へ帰還した。


オウカの町を走って駆け抜ける。

これも修行で、全速力で走ることで今の速度を体に覚えさせる必要があるらしい。

呪いが解けた時、本来の速さに戻ったらおそらく普通の速さがどのくらいか理解できずに速さに頼ってしまうから、とのことだった。


「よぉ!ミウシアちゃん!今日も修行かい?」

「酒屋のおっちゃんこんちは!!」


「みうしあちゃーん、これ食べな~!!」

「団子屋のお姉さんありがとう!」


「ミウちゃん屋根の上にミケが逃げちゃった~!」

「任せて!」

団子屋のお姉さんに貰った団子を口に頬張って女の子が指さしたほうの建物をぴょんぴょんと登り、屋根の上で降りられなくなっていたペットとして定番の無害な魔物、フォレストキャットを抱きかかえて屋根から飛び降りる。


飛び降りながら着地する場所に魔法陣を描き、発動させる。


「<上昇気流>アップドラフト!」

着地する瞬間、下から上にめがけて強い風が巻き起こり、着地の衝撃を緩和してくれる。

片手でミケを抱え、片手で袴を抑えて着地した。


「はい、捕まえたよ。」

「ミウちゃんありがとう~~!」

女の子に抱きかかえられたミケはな~~と情けない声で私に何かを訴えかける。


「みけ~。自分で降りられないなら登らないの~!」

ミケの鼻をツンツンと触るとあくびで返された。

のんきな猫ちゃんだなぁ。


「じゃあ、もう行くね!」

「うん!ありがとう!ミウちゃんまたね!」

女の子に別れの挨拶を済ませて再び町の中心部、御神木に寄り添うように立つオウカの居る神社へと向かった。


この国に来て早1か月間ちょい、後数日でニカとの約束の日になる。

修行もそろそろ大詰め、レベルもついに祝福装備が二個装備できるであろう所まで来た。


-------------------

名前:ミウシア

種族:バーニア族(半神)

職業:短剣士(Lv82)

HP:1674/1940(1130UP)

MP:8220/8250(1268UP)

力:A(2段階UP)

防御:C+ (3段階UP)

魔力:A+(2段階UP)

早さ:D (呪)

運:A+

称号:善意の福兎(6柱の神の祝福により効果UP)

  ・自分以外のHPを回復する時の回復量+100%

  ・誰かのために行動する時全能力+50%アップ

  ・アイテムボックス容量+100%

  ・製作、採取速度+200%

   ※このスキルはスキル「鑑定」の対象外となる。

   ※このスキルを持っていると全NPCに好意的な印象を与える。

-------------------


仲でも特に伸びたのは防御力とHP。

これは今まで速さに頼り攻撃を食らったり、走りこんで体力をつけたりしなかったのが原因みたい。

力についても、筋トレを毎日したり、力の入れ方をオウカに教わったりして地道に上げて行った。

魔力はマナを魔法に使うのではなく、スキルをよりスムーズに出せるようになるため、祝福武器が無い状態で体内のマナを手に、足に、素早く集められるように修行を行っていたらどんどん上がっていった。


オウカが言うには私は神の遣いとして神力を持っているから、マナの吸収率が極めて高く、周囲にいる人にまで影響を及ぼすからレベルや能力値が人よりも格段に上がりやすいみたい。

ゲーム風に言うと「パッシブスキル:経験値10倍」みたいな感じかな。


強くなった実感がどんどん湧いてくることが嬉しくてひょいひょいっと数段飛ばしで階段を上がる。


「おわっ!」

階段の折り返し地点で大柄なジャイアントの男性テツザンさんとぶつかりそうになり、ひょいっと避ける。


「...ミウシアさん危ないですよ!周りも気にしてください!!」

「テツザンさんごめん!」

何を隠そうこのテツザンさん、最初に私を捕まえようとした集団のリーダーであり、転移魔法の使い手らしい。

剣術人並み、魔法は転移魔法だけ突出して才能があるけど後はからっきし。

何でも、テツザンさんの家系が代々転移魔法を一子相伝しているらしい。

大きな体なのに魔法タイプなんてね~。


神社につき、オウカがいつもくつろいでいる縁側へと向かう。

この縁側、神社が木の側面に立っているため、オウカの国の建物のはるか上に位置する。つまり空中に浮かんでいるような場所なのだ。

下手すれば転落してしまうであろう縁側で足をぶらぶらさせて茶菓子を食べるのがオウカの安らぎの時間。

私がレベル上げに森へ行っている間はそこでまったりしているか、私の剣を作っているかのどちらか。


オウカはマナ操作とハンマーで鍛冶を行うらしい。

マナを金属に流し込み加工する技術を昔、ドワーフ族の旅人に教わったみたい。


「オウカ~ただいま~!」

「おー!おかえりなのじゃ~!」

オウカは縁側から足を出してぶらぶらして果実酒の水割りを凍らせたアイスキャンディーを舐めていた。

あれ美味しいんだよね、すぐ酔っちゃうけど。


「フォレストマンここに置いとくね~。」

畳の上にどさっとフォレストマンの死体を置いた。

ただの木だから汚くないし、オウカがいつも「その辺に放っておいてくれ~」って言うんだもん。


「そうじゃ、ミウシア。その机の上の風呂敷を開けてみるといい。」

その風呂敷さっきからちょっと気になってた。

机の上には赤い高そうな風呂敷に何かが包まれている。


シュルシュルと風呂敷を結んでいる紐を解くと、一般的な刀の半分程度のサイズをした、いわゆる小太刀が二本並んでいた。

持ち手には滑り止めの茶色とピンクの布が交互に巻かれている。

(つば)には桜の花を模した木がはめられている。

鞘は両方とも漆で黒く光っている。飛び兎と同じような枝垂桜が彫られているが、枝垂桜の下で跳ね回っている兎も彫られていた。

よく見ると2本の小太刀で柄が違う。


一方の小太刀には兎が二匹いてじゃれ合っている。

もう一方の小太刀には一匹の兎が走り回っていた。


「鞘から抜いてみるのじゃ。」

手に取ったのは二匹の兎がじゃれ合ってる柄の小太刀。

手に取ってわかるずっしりとした重量感、それでいてそこまで重くもない丁度良い塩梅。

しゃぐしゃぐアイスキャンディーを噛みながら話す緊張感の無いオウカに呆れながらも恐る恐る小太刀を手に取り鞘から抜く。


刀身は黒ベースで青く透き通った部分木の年輪のように模様を描いていた。

黒い粘土に青いガラスを練りこんでいるような美しい見た目になっている。


「綺麗じゃろ~。何しろ儂の一部を使っておるからの!」

「え!?一部!?...アナライズ<鑑定>!!」


-------------------

名称:桜下兎遊(小太刀)

品質:S+

祝福:可能

武器性能:攻撃力+150

構成素材:古樹鹿の蒼晶角、黒錬鉄、世界樹の神木、金剛布、漆、チェラリの染色剤

説明:神獣オウカの濃縮されたマナを含んだ水晶角と黒錬鉄から作り出された小太刀。

補足:・黒錬鉄の成長能力と引き換えに装備者のマナ操作効率を大きく上げる。

   ・装備者が金剛布を触れている間、装備者の筋力+10。

-------------------


ホントに角を素材に使ってる...!

オウカを改めてみてみると、角の枝分かれしている部分がいつもよりも少なく見えた。


ってことは...。


もう一つの小太刀も鞘から抜いて刀身を確認すると、先ほどと似たような木の年輪のような模様になっていた。

しかしこちらは先ほどと違い、青ではなく赤黒い色に透き通っている。


「アナライズ<鑑定>!!」


-------------------

名称:桜下兎走(小太刀)

品質:S+

祝福:可能

武器性能:攻撃力+150

構成素材:古樹鹿の紅晶角、黒錬鉄、世界樹の神木、金剛布、漆、チェラリの染色剤

説明:神獣オウカの濃縮されたマナを含んだ水晶角と黒錬鉄から作り出された小太刀。

補足:・黒錬鉄の成長能力と引き換えに装備者のマナ操作効率を大きく上げる。

   ・装備者が金剛布を触れている間、装備者の筋力+10。

-------------------


「凄い....オウカは平気なの?その、角が少し折れても。」

「ん~?また数百年したら枝分かれしてくるしのう。せっかくの初弟子じゃ、師匠からの贈り物をありがたく受け取るんじゃな~。」

そんな師匠さんは縁側に寝っ転がり、お酒の入ったアイスキャンディーをペロペロと舐めていた。

あ、こぼした。


「とにかく、すっごい嬉しい!ありがとう!..ところでこの二つの小太刀の名前、なんて読むの?」

「その青い模様の入った刀身の、2匹の兎が遊んでいるのが桜下兎遊(おうかうゆう)、そっちの赤い模様の入った刀身の、1匹の兎が走っているのが桜下兎走(おうかうそう)。意味は言わんでもわかるじゃろーて」

自信満々でにやりと笑うオウカ。

これやっぱり私のことなんだ、確かに世界樹という名のサクラの木の下で遊んだり、走ったりしたけど。


桜下兎遊と桜下兎走を逆手に持って構える。

思ったよりも軽いのはオウカの角を使っているからなのかな?

持ち手をぎゅっと握ると、いつもよりもはるかに力が入るのを感じる。これが金剛布の効果?


「ちなみにじゃが、今まで陰陽樹で光と闇の2属性を担って負ったがの、儂の蒼晶角は光と水、紅晶角は闇と火の属性を持っておるから祝福武器にしたときは4属性まで使えるようになるんじゃ。どうじゃ!凄いじゃろ!!!」

「4属性!?」

改めて2本の小太刀の刀身を見つめると、確かに明るい青と暗い赤の水晶だ。

流石神獣.....。


小太刀を風呂敷の上に置き、オウカが寝そべっている近くにストンと座り込む。


「オウカぁ~~~~~!!ありがとぉ~~~~~!!」

オウカの髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でながら感謝を伝えると、オウカの顔がにへ~っと蕩けた。


「うへ、へへへ。じゃ、ろ~!!...み、みうしあ...ちょ....もういいのじゃ~~じゅうぶんじゃて~~~みうしあぁ~~~」

そう言われようと、私は白銀の髪の毛をもふもふもふもふと撫で繰り回しまくる。

だってオウカ嫌がってる顔してないもん。


その後も5分くらい撫でまわし続けた。


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