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常夜の森の魔女~ネルケと救済の子守歌  作者: 宵宮祀花
【一幕】常夜の森の魔女

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【四場】常夜の森に咲く白百合

 常夜の森に入ってはいけない。暗闇の森には魔女がいて、迷い込んできた人間を食べてしまうから。そんなお伽噺が王都では一般的で、国の認定錬金術師でも奥まで行かないと言われている。

 エヴァルトで生まれ育ったネルケは、その話を初めて聞いたとき、森に興味を持った。エヴァルトでは、森は迷いやすいから導石を持たずに入ってはいけないと言われてはいたものの、入ること自体を禁じるお話は存在しなかったためだ。場所が違うだけでこれほど様相を変える森の、真実の姿はどんなものなのだろうと、ずっと思っていた。

 そうはいっても、街の人間が実際に森に入ったことはそれほど多くない。あの森にあるものといえば錬金術に使うような鉱石か薬草ばかりで、取り扱いには専門知識を要する。一般市民が下手に触れれば良くて怪我、最悪その場で森の養分になりかねないためだ。

 十五になったとき、母親から聞かされた森に住む魔女の話。それが、常夜の森に暮らす何でも直す魔女のお話だった。魔力が豊富な森には、様々な鉱石が発生する。常に魔素が満ちているため、精霊も街中で見る小鳥のように当たり前に飛び回っているという。

 そんな、幻想的な森に初めて足を踏み入れたとき、ネルケはとても綺麗だけれどとても寂しい場所だと感じた。自分が賑やかで華やかな街で生まれ育ったから余計にそう感じるだけかも知れないが、無音の暗闇は独りでいるにはあまりにも寂しかった。


「えっと……次はこれを混ぜて、それから型に流し入れる、と」


 レシピを見ながら生地を混ぜ、焼き型にゆっくりと流し入れていく。母と共に焼いた、ネルケの好きな焼き菓子だ。深い緋色の果実を練り込んだ焼き菓子は、焼く前の段階だととても毒々しい赤色をしている。


「これをかまどに入れて、あとは待つだけ……」


 部屋に戻りかけて、以前共に焼いたときに母が言っていた言葉を思い出した。焼き菓子だけでなくお菓子作りは慎重に、最後の瞬間まで目を離さず、レシピから逸れないことが大切だ、と。


「……突然火加減が変わるとは思えないけど、でも、万一火事にでもなったら大変だし、本だけ取ってきたら傍にいよう」


 一度部屋に戻り、本棚から暇潰し用の物語を取ってくると、竈の前に座り込んだ。鉄の扉が閉じているとはいえ、炎の傍なので暖炉のように暖かい。物語を半ばまで読み進めたところで、竈の中から香ばしい匂いが漂ってきていることに気付いた。


「あっ……! やっちゃった……端っこ焦げてる……」


 複数作って並べたうちの、端に置いたものが僅かに黒く焦げていた。食べられないほど絶望的に焦がしたわけではないが、焦げの部分は取り除いたほうが良さそうだ。

 少しだけ落ち込みつつ、焦げた端を切り落として一つ味見をしてみる。味は問題ない。ただ、微かに香ばしすぎる匂いがするだけで、苦みもない。


「これなら大丈夫、かな……」


 母と作ったときほど上手くはいかなかったが、それでもお茶のお供にしても問題ないと思える出来にはなった。冷ますあいだに使った器具を片付け、綺麗になったところで箱に焼き菓子を全て詰めた。


「用がないのに行っちゃだめとは言ってたけど、絶対二度と行くなとは言われなかったんだから、いいよね」


 誰に言い訳をするでもなくそう呟くと、ネルケはカップケーキを包んだ箱を下げ、手に導石とランプをしっかり握って、常夜の森を訪れた。

 森の中は相変わらず暗く、道幅も狭い。ランプと導石がなければ近付こうとも思わない場所であることは確かだ。時折、エヴァルトに住む認定錬金術師が訪れているという話を耳にするが、特別な理由がない限り街の人間が近付かないのも頷ける雰囲気をしている。幽鬼の噂も、もしかしたら森を飛び回る精霊の光を見間違えたのかも知れない。不思議なものを目にしてもおかしくない雰囲気であることに変わりはないのだから。

 それでもネルケは、またこの場所を訪れた。森の奥に独りでいるリーリエに会うため。彼女にお礼をするため。

 前回通った道を慎重に進んでいく。途中、荊に覆われた泉の傍を通ったとき、水の中でなにかがきらりと光ったように見えた。だがその正体を確かめるには絡み合う荊を抜けて近付かないといけないため、気になりながらも横目で見つつ通り抜けるしかなかった。


「あった……!」


 前回来たときと変わらない、赤い屋根の可愛らしい建物がネルケの前に現れた。階段を登り、扉をノックする。暫く待って中から扉が開かれると、あのときと変わらない純白の少女が顔を覗かせた。


「ネルケ……? 今日はどうしたのですか?」

「急にごめんね。こないだのお礼がしたくて」

「え……でも、報酬ならちゃんともらって……」

「ううん、そうじゃなくて」


 ネルケが答えると、前回と同様に奥から声がかかった。エルレフリートも変わらずこのアトリエにいるようだ。


「……ごめんなさい。どうぞ、入って」

「ありがと!」


 中に入ると、記憶と殆ど変わりない部屋がネルケを出迎えた。そしてリーリエもまた、あの日と変わらない姿をしている。純白の、飾り気のないワンピース姿。右のこめかみに白い花飾り。真っ白で装飾が一切ついていない靴。唯一瞳の薄水色だけが彼女の色彩で、まるでキャンバスに描かれた線画のように、色鮮やかな風景から浮いている。


「あのね、この前オルゴール直したときに金貨で払ったでしょ? でも、考えたら素材に出来るっていってもそれくらいしか使い道ないし、街での金貨ほどの価値はないかもって思って……でも鉱石とか薬草はここのほうがたくさんあるし、なんかお礼に出来るものはないかなって考えて、それで、ケーキ焼いてきたんだ」


 ずいっと差し出された箱を、リーリエの大きな瞳が見つめる。

 ネルケの言葉通り、箱の中からは微かに焼き菓子の香りが漂ってきている。


「好みがわかんなかったから、あたしの好きなローズベリーのカップケーキなんだけど、どうだろ……?」


 リーリエが怖ず怖ずと受け取ると、ネルケはエルレフリートに薦められた椅子に座って箱を開ける様子を見守った。お礼と言いつつ結局自分の好きなものになってしまったのは申し訳なかったが、もし受け入れられなかったら次は好みを聞けばいい。そう思いつつもどこか緊張した様子でいるネルケに、リーリエは控えめに微笑んで見せた。


「ありがとう、ネルケ」

「! ううん、少しでもあたしの気持ちが届いたなら良かったよ」


 二人で笑い合っていると、奥からワゴンを押してエルレフリートが現れた。ワゴンにはティーセットが乗っており、ネルケには街でも見かけるような紅茶を、リーリエには白い花が水面に浮いた色の濃い紅茶を出した。


「あたしのと違うね。それは?」

「これは、花茶といって、魔力補給のためのお茶です」

「へえ、そんなのがあるんだ」


 どちらも香りの良いお茶だが、リーリエのほうからは甘い花蜜の香りも混ざって漂ってくる。ネルケの焼いたケーキは端が僅かに焦げていたが失敗というほどではなく、生地に練り込まれたローズベリーの香りが冷めた状態でもほのかに香っている。

 この深い緋色の果実は交易品で、エヴァルトでは貴重な部類に入る。香りが良く、味はベリー類の中でも甘さと酸味のバランスが良い。なによりそのままケーキの飾りに出来る可愛らしい見た目をしている。ヴォルフラート女王のロザリアが愛したことからその名がついたと言われており、この国を象徴する果実でもあるものだ。


「ローズベリーって料理するときちょっと赤がキツくて見た目が怖いから、小さいときは凄く苦手だったんだよね」

「そんなに凄いのですか……?」

「うん。防水加工されてない木で出来た調理器具は使っちゃダメって言われるくらいに。暫く取れないし、黒ずんで見た目が悪くなっちゃうからね」

「知りませんでした……わたし、この果実は初めて見たので」

「え、そうなの?」


 小さく頷くリーリエに、ネルケは外の見えない窓を一瞥して森の様子を思い浮かべた。ローズベリーは広大な土地と一定以上の日照が必要という話を思い出し、言われてみればこの森では採取出来そうにないな、と納得した。


「食べてみて。気に入ってくれるといいんだけど」

「はい……それじゃあ、頂きますね」

「うん」


 緊張した様子で一口。それからもう一口囓って、やがて細い喉を通った。表情はあまり変わらないが、どうやら気に入ったらしく、黙々と食べ進めている。

 リーリエが小さな口で齧り付く様子を見て、ネルケは微笑ましい気持ちになった。もし自分に妹がいたらこんな感じなのだろうかと過ぎって、ふと。


「あのさ、リリィっていくつくらいなの? あたしよりは年下、だよね……?」


 ネルケが訊ねると、リーリエは眉を下げて困ったような表情になり首を振った。


「覚えてないのです。外にいた頃も、誕生日を知る機会なんてありませんでしたから」

「……っ、ごめん……」

「いえ……」


 反射的に謝ってから、ネルケは頭の中で様々な想像を巡らせた。外にいた頃、と言っていたということは、やはりここで生まれ育ったわけではないのだ。そして森へと追われる以前から、リーリエはあまり良い扱いをされていなかったように感じられた。

 ネルケの誕生日には街中の人がお祝いの言葉をかけてくれて、たくさんのプレゼントで部屋が溢れかえるのが当たり前だった。そしてネルケの友人も同様に、家族や周りの人に祝われている者ばかりだ。


「リリィは、街に帰りたいとは思わないの?」


 食べる手を止め、ナフキンで指と口元を拭うと、リーリエは寂しそうな笑みを見せつつ頷いた。


「……ええ。わたしはここで、エルとふたりで静かに暮らすほうが性に合っているので、今更外に未練はありません。……ただ、姉妹のように育った子がいまどうしているのか、知ることが出来たらと思うことはあります」

「へえ、仲のいい子がいたんだね。なんていうの?」

「イーリスといいます。彼女は、魔女として死ぬか教会に忠誠を誓うかの選択を迫られ、教会に忠誠を誓い、その証に聖女の刻印を刻まれたそうです」

「聖女の、って……」


 そこから先は、言葉にすることが出来なかった。ネルケが知識として知っている聖女の刻印とは、男を知らない少女に刻む永遠の純潔を約束させる焼き印のことだ。更に刻印を刻まれた少女は、その瞬間から成長という概念から切り離されてしまう。月の印が降りていない、清らかな少女にのみ与えられる祝福であると教会は言っているが、人間としても女としても最低限約束されるべき尊厳の一切をむしり取られた、呪いでしかないものだ。

 言葉にならない様子のネルケに、リーリエは苦しそうな表情で零した。


「ええ……だからこそわたしは、街に帰りたくないのです。彼女を見捨てて森へと逃げたわたしの罪を、直視する勇気がないのです……」


 その深い悲しみが胸に染み込むようなその声は、ネルケの耳にいつまでも残り続けた。姉妹のように育った相手を教会に残して、自分一人が森の奥とはいえ従者と静かに生きている。そうするしかなかったとわかっていても、自分でも赦せないのだろう。


「リリィ……見捨てたなんてことないよ。お互いに生き残る道を選んだだけでしょ?」


 優しくネルケが言うと、リーリエは眩しそうに目を細めてネルケを見つめた。

 どこまでも真っ直ぐな彼女の言葉は、周りに肯定されて育った人間特有の、嫌みのない明るさを持っている。


「ありがとう……ネルケは、大切に愛されて育ったのですね」

「うん。そうだね……きっとあたしは、恵まれてるんだと思う」


 町一番の屋敷で生まれ育ち、なに不自由なく両親に愛されて育った。食べるものも服も潤沢にある。綺麗な街で、当たり前のように家族や友人に囲まれて暮らしている。それが当たり前ではない人がいるということは、本で読む知識でしかなかった。

 街には孤児院があるが、彼らも極貧で常に餓えているということはない。寄付で経営をしている以上贅沢は出来ないにしても、子供たちは祝祭を兄弟と祝うこともあるし、街に出て清掃のお手伝いをしてパンやお菓子をもらっているのを見たことがある。

 ネルケの目に映る世界は常に明るく鮮やかで、日の光が差していた。


「実は、あたしには親が決めた婚約者がいてね。そういうの、特に理由もなくやだなって思ってて……相手は別に嫌なやつでも何でもないのにさ、ただ親同士が決めたってだけでそう思ってたの」

「どうしてですか……?」


 嫌な相手でもないのに嫌だと思う理由がわからずに訊ねたリーリエに、ネルケは「凄く馬鹿みたいな理由だけど」と前置きして話し聞かせた。


「流行りの物語でね、貴族の女性が、親が決めた婚約者と結婚するのが嫌で、平民の男の人と恋に落ちて駆け落ちするっていうのがあったの。それを見て、あたしはあんなふうに運命的な出会いをして愛し合うのが素敵な恋なんだって思い込んでたんだ」


 空のカップを両手で包み、白い陶器の肌に婚約者の顔を投影しながら話す。

 ジークリンデ家のお嬢様として扱われることが何故かとても嫌だった頃、彼だけはただ一人の少女として扱ってくれた。いま思えば、彼もまた王家の跡取り候補として常に清く正しく民の手本としてあるよう強いられていたのだ。だからこそいままでネルケの思いを尊重して接してくれていた事実に、今更になって気付いた。


「普通に出会って恋したりしたかった、なんてさ。別に親が決めた相手とだって、好きになったらそれが恋なのに……あたし、恵まれすぎて全然自覚してなかった」


 顔を上げると、王家の花―――アイシクルリリーのような純白の少女と目が合う。雪の夜にだけ咲く白い花。純潔を表わし、花嫁が身につける花でもあるそれは、彼女にとても似合う気がした。

 そう思ったら、口から想いが言葉になって零れ出ていた。


「リリィは凄く綺麗だよね」

「え……」


 心底驚いた表情で、リーリエはネルケを見つめた。なにを言っているかわからないと、彼女の表情全てが物語っている。


「リリィが街にいたら、あんまり綺麗で声かけるの躊躇っちゃってたかも」

「そんなこと……」


 照れているわけでも、謙遜しているわけでもない、本心からの呟きが漏れた。ネルケは世辞のつもりで言ったわけではないのだが、リーリエはそう受け取ったようで、困惑から納得の表情になった。


「あたし、思ってないことは言わないよ?」

「……ありがとう」


 困ったような、泣きそうな笑顔で言われ、ネルケは重ねて嘘じゃないと言おうとした。けれどこれ以上言い募っても困らせるだけだと思い、口を噤んだ。もっと幼い頃だったら相手の反応に拘らず心のままに行動していただろうが、十七にもなれば少しは遠慮というものも身についてくる。

 リーリエのような大人しい子との付き合いが殆どないネルケにとって、距離の取り方は人慣れしていない動物を相手にしているような難しさがある。


「そうだ。リリィは魔法で直すって言ってたけど、魔法ってどんなふうに使うの?」

「え……えぇと……」

「もしかして企業秘密?」

「いえ、そういうわけでは……」


 暫く逡巡してから、リーリエは言葉を選ぶようにして話し始めた。


「わたしの魔法は、詩で起動するのです」

「詩? って、あの詩? 子守歌とかそういう感じの……」


 一つ頷き、小さく息を吸うと、リーリエは詩の一節を奏でて見せた。透明でどこまでも澄んだ声はネルケの心を震わせ、言葉のみならず呼吸をも忘れさせた。話しているときの囁くような声音から、声量の出ない子だとばかり思っていたが、リーリエの声はネルケの張りのある元気な声とは種類が違うだけで、遠く深く、どこまでも染み込んでいくような声だった。


「こんなふうに、魔力を詩に込めて、直したいものに響かせるのです」

「すごい……! リリィの魔法って、凄く綺麗なんだね」


 リーリエは首を小さく振って「エルがいないと、なにも出来ないので……」と呟いた。銀刃の従者はなにも言わず、リーリエの傍に佇んでいる。ネルケも、そんなことはないと言おうとしたが、未熟であることは彼女自身が一番よくわかっているのに、下手な慰めは逆効果かも知れないと喉まで出かかった言葉を紅茶で押し戻した。


「おや」


 ふと、エルレフリートが部屋の隅に立てかけてある時計に目をやった。ネルケもそれにつられて時計を見るが、読めない文字で書かれており、針の数も違えば、何故か文字盤が白と黒の二色に色分けされているという不思議なものだったため、情報を読み取ることが出来なかった。


「間もなく日が暮れます。森を出る頃には、街の露店も閉まるでしょう」

「えっ、もうそんな時間? ごめんね、長居しちゃって」

「いえ……」


 立ち上がり、スカートを整えて一礼すると、ネルケは玄関へ向かった。そして扉の前で一度振り返ると手を振って微笑み、


「じゃあ、またね」


 と言って出て行った。

 駆け去っていく足音を聞きながら、リーリエは独り俯く。ネルケは「また」と言った。その言葉の意味もわからないほど人を知らないわけではない。彼女はきっと、また訊ねてくるだろう。街を追われた、魔女の元へ。


「お嬢様」


 哀しみを映した表情で扉を見つめるリーリエの肩を、エルレフリートの両手が支える。鋏であるはずの手は、いまは小さな主人を支えるために人の手を模している。


「エル……わたしは、どうすれば良かったのかしら……?」

「誰かが街で彼女を止めてくれれば良いのですが」

「もし、本当に次が来てしまったら、わたしは……」


 ついに言えなかった言葉を胸の内に蟠らせたまま、リーリエはエルレフリートの大きな手に縋った。


「ただいま!」


 ランプを手に帰宅したネルケを、母は呆れたように微笑んで出迎えた。それだけで特に咎められることはなかったが、ネルケは少しだけ落ち込んだ。やはり母は、あの森へ行くことを良しとしていない。


「ごめんなさい。どうしてもお礼がしたかったの」

「そう……喜んでもらえたのかしら」

「うん、リリィは凄くいい子だよ。出来るなら皆に紹介したいくらい」


 そういったとき、母の表情が哀しそうな色を帯びた。ネルケは慌てて「大丈夫、そんなことしないよ」と言い、逃げるように自室へと駆け込んだ。


「あの噂を教えてくれたのはお母様だし、お母様が魔女嫌いとは思えないんだよね……」


 オルゴールを手に取り、胸の上で鳴らす。


「でも、じゃあなんでなんだろ……」


 部屋に入り、ベッドに寝転がりながらひとり呟く。

 そっと目を閉じて思い浮かぶのは、リーリエの控えめな笑み。それから、なにもかもを諦めたような哀しげな表情。

 姉妹のような存在を教会に残してきてしまったと言っていた。きっと叶うなら会いたいはずだ。聖女と祭り上げられているからといって、身の安全が保証されるわけではないのだから。


「あんなにいい子なのに、なんでなのかな……」


 いつか、彼女の心からの笑顔が見られるようにと、故郷の音色に願いを込めた。

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