プロローグ
「この店もハズレか」
そう言って俺は、ラーメン店を後にする。
スマホをズボンのポケットから取り出し
歩きながら操作する。
「星は…これは、1だな」
食ログに、感想を打ち込みながら歩き続ける。
汗がポタポタと、スマホに滴り落ちるがそれを苛々しながらも服の裾でガシガシと拭く。
「ったく。最近のラーメン店はこんなのしかないのか?」
町で走る車のエンジン音でさえもイライラしてくる。猛暑日と言うことも相まってイライラが止まらない。あまりの苛立ちに足元にある石ころを蹴り飛ばす。
俺の楽しみは、食事だ。その食事が不味ければ当然苛立つし不機嫌にもなる。
「もう昼休憩、終わりかよ」
スマホの画面は1時を映し出していた。
ちょうど、打ち終わった食ログの感想を見返しながら歩き出す。
ながらスマホはいけないと分かっているが、これも楽しみなんだと自分に言い聞かせる。
「危ない!」
何が危ないものか、
危ないのは給料日前の俺の財布の中だよ。
なんて呑気なことを考えていたら。
ドォン!と衝撃が体に響いた。
何が起こったか分からないが、取り敢えずは身体中が痛い。しかも、生半可な痛みでは無い。
「だれか!救急車!」
「大丈夫か!?」
遠くで声が聞こえる。
猛暑日のはずなのに体が寒くて震えてきた。
雨なんて降っていないはずなのに、体が濡れてる。
よく見ると、赤黒い液体が俺の体から溢れ出ていた。
「お…れ…死ぬの…か?」
もっと食べたい料理もあったし。まだ行きたい店もあるのになぁ。
死ぬ直前にもこんな事を考えている俺の人生ってなんだったんだろうなぁ。
不意に笑えてきた。
生まれ変わったら、もっと体重なんて気にせずに食べたいものを食べまくろう。ていうか、次なんてあるのかな。
そこで、目の前が真っ暗になった。
「お…い!起き…ろ!」
誰かが呼んでいる。待って、あともう少しだけ寝かせて
「起きろって言ってんだよ!」
その声と同時に俺の横腹に衝撃が走った。
転々と俺の体が転がった。
「いてぇ!?」
「ようやく目が覚めたようだな?和食 蓮」
そりゃ、蹴られたら誰だって目が覚めるだろ。
それより…
「なんで、俺の名前を知っている?」
初対面の女性に名前を呼ばれた経験なんて
病院の看護師からぐらいしか無い。
「そりゃ、この紙に書いてあるからだな」
そういうと、女性は一枚の紙を取り出した。
「和食 蓮26歳
会社員
趣味・食事
死因・事故死」
「と書いてあるな。」
やっぱり俺は、死んだのか。
なら…。
「なら、なぜ俺は生きている?」
そう実際問題、意識はあるし痛みだって感じる。
「生きていると言うのは少し違うな
正確には生かしてるんだ。」
生かしてる?どういことだ?
「これから、お前には違う世界に行ってもらう」
違う世界?それは?
「異世界転生ってやつか…」
「 ほぅ、知ってるのか」
そりゃ、漫画やアニメで最近見かけるからな。
「なぜ俺が異世界に行かなきゃならないんだ?」
「私は神の秘書を務めているのだが、どうも最近時間を持 て余しているようでな」
「俺は、暇つぶしに呼ばれたと?」
「そうなるな」
悪びれる表情も無く彼女はそう言い放った。
「ふざけるな!」
俺は、激怒した。暇つぶしに付き合うために
俺は殺されたのだと思うと無性に腹が立った。
「なら、本当に死ぬか?」
は?こいつ何言って…
「さっきも言った通り、お前は生かされてるんだ。
殺すも生かすも神次第。」
俺は、怒りを通り越してもはや呆れていた。
項垂れていた俺を見ながら彼女は、俺にこういった。
「その代わりと言ってはなんだが、お前にスキルをやる」
「スキル?」
その時、頭の中で声が聞こえた。
スキル:暴飲暴食を手に入れました。
スキル:医食同源を手に入れました。
「これが俺のスキル?」
暴飲暴食は、分かる気がするが医食同源とはなんだ?
ちゃんと、勉強すれば良かったと今になって思う。
「じゃあな、せいぜい楽しませてくれよ。和食 連」
彼女は、微笑みながらそう言った。
そこでまた、意識が遠のいていく。
夢であってほしいと願いながら。
俺は、そっと目を閉じた。