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みるくせーき・れいでぃお[そのに]

☆えんにちーず -\ niche Is...-


 >god checkout feature/b-ta


 丘の上には、闇が広がっている。

 町の喧騒から遠く離れたこの場所から見える灯りは、幻想の風景。

 そして、ここにはリアルがある。


 「やあ。"いい夜だな"」


 若い女性の声。どこかで聞いたようなセリフだ。

 それは背後から聴こえた。振り向けば、ただそこに声の主があった。

 尋常なことではない。俺が感知できない存在があるはずがない。神がかり的な隠密能力だ。というか絶対に"かみ"だ。


 「そう警戒することはない。今、君に危害を加える気はない。……ああ、他の者にもね」

 「あんたは?」


 ふふ、と静かに笑う女性。若い。

 女子高生くらいだ。ちょっと好感が持てる。おじさんってちょろい。暗がりでよく見えないが、背は小っちゃい。きりりとした黒い髪が闇に溶けるよう。表情はどこか冷めていて、夜を感じさせた。

 不思議な装いをしている。羽衣のような薄い布が集まって作られた服。装飾以上の機能的な意味はなさそうな布地がふわふわと夜風に靡いていた。


 「私か。君たちが"かみ"と呼ぶものだが……この国の者ではない。あちらからやってきた」

 夜の髪のかみさまは、本州のほうを指す。この国の者ではないということは、大陸か。そもそも、かみさまに国籍なんてあるのだろうか。いや、あるのだろうな。


 「なるほど、じゃあ今は未来☆シミュレーション中か」

 「この国ではそう呼ぶのだったかな。今ここは"チェックアウト"されている。君がいた世界とは、別の(ブランチ)だ。

 私は意思を伝えに来た。

 忠告、警告、どれも少し語弊がある。各国の人間語は同じ翻訳であってもそれぞれ微妙に意味が違くていかんね。最も近い語は……そうだな、"Notification"だ」


 ノーティフィケーション。お知らせ。だが、微妙に公的な意味合いを含む。告知、通知、そのあたりが日本語の表現では近いだろうか。


 「寺島映太、未来を知るヒューマンよ。お前はこの国の滅ぶ未来を回避するため、歴史を変える。相違ないな?」

 「ああ。俺は今、そのために生きている」


 あと、女子高生と合法的にお喋りするために。若いって素晴らしい。


 「歴史というのは、神々ですら先を見通すのが難しい厄介な代物だ。お前の一挙手一挙動で歴史はゆり動き、それは世界を変えるだろう。そしてその影響を受けるのは、この国に限ったことではない。

 寺島映太、私の国は29年とはんぶんの後、お前の未来☆シミュレーションにおいてはどのようになっていたか?」

 「お隣の大陸系だよな? 確か……うちの国とは違って、栄えてたように思う。なんたって、こっちから渡りに行く人間が大勢いたくらいだ」


 そこまで言って、気が付く。

 このかみさまは、それを伝えに来たのだ。

 この国の未来を変えるのはいい。だが、それが他の国に約束されていたはずの栄華を奪ってしまうことはするな、と。


 「私が伝えたいことは分かったようだな。

 寺島映太。この"枝"において、お前の幼馴染は削除した。これは、私の意思ひとつで本来の世界に併合(マージ)させることができる。

 お前が私の国の未来を悪い方向へ移した時、この時点まで遡って、再度お前に是を問う日が来るだろう」


 俺が、このかみさまの不都合を働けばこの時間まで戻された挙句、時雨を奪うと言っている。なるほど、それは脅しというよりはこのかみさまの保険だ。


 「分かった。それでいい。ただ、俺はただの人間だ。かみさまですら予測できない歴史なんてものを相手するには器が足りない。

 だからあんたには手伝ってもらう。そっちの国にまずい影響が表れたら、俺がなんとかしにいく。だからその時は手を貸してくれ」

 「ふふ、よかろう」 


 携帯端末を見ると、なんか知らない名前のアカウントからNINEフレンド登録されていた。

 そこには幼馴染天女(なじみてんにょ)と書かれていた。まともそうだったけど、アの付く系列のかみさま感が出てきた。


 「そのデータは元の世界に併合(マージ)しておいてやろう。いつでも声をかけるといい」

 「はあ、どうも」


 ではな。きりっとした声。幼馴染天女さまは夜の闇に溶けて消えていった。


 > god checkout origin/master






☆********☆






 ただいま。

 なんか最近、世界のシステム的な部分をいっぱい見せられている気がする。

 ロード時間中に☆マーク見えるんだよな。


 「元の世界、いや"枝"か?」


 戻ってきたみたいだ。

 丘の上には、アホ二人が夜風を浴びながら手持ち花火に興じていた。かわいい女子高生と、金髪のイケメンかみさま。あっ、今ムカってきた。何ちょっと楽し気なわけ? 暇なんだったらお前が別の枝言って話してくればよかったんじゃないか?


 「あっ、えーた!」

 「よお」


 ぱたぱたと駆け寄ってくる時雨with 手持ち花火。やめろ、危ないから来るな。


 「ねえー、あんず飴いくつ買ってくれたの?」

 「そんなに持てないからな、あれ。人数分だよ」


 ほれ、と手を差し出す。

 そこには闇が乗っていた。ない。あんずみかんないじゃん。

 急速に表情が曇っていく幼馴染。あ、ムスってしてるのかわいい。

 おかしくないか? 俺、絶対買ってきたよな。



 




 「ふふ、この国はやはり面白い。

 "これ"を杏飴などと呼ぶのだからなぁ」


 違う世界の、どこか遠い夜の中で、あんず飴がかみさまのお腹の中に消えていった。

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