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彼女いない歴=年齢+29年とはんぶん[そのさん]

☆God's uniform is weak for "curry udon"


 東京湾に浮かぶ人工島、うみ区。

 東京湾アクアラインを挟んだその南に浮かぶは、神工島(じんこうとう)である神州。

 2018年4月16日。それは突如として現れた。


 本州から神州へと繋がる道はただ一つ。

 東京湾アクアラインが変異を遂げて出来上がった一本の道路、神路1号線のみ。

 風が心地よい昼下がり。神州の上空には無数のヘリコプターが気持ちよさそうに飛んでいる。


 「さすがに来るか。マスコミや、政府軍事関係。まぁ、今日のところは様子見だろうな」

 「えー、遊びに来ないかな?」

 「来てもらっても困るだろ。まだ何もおもてなしの準備ができちゃいないんだ」

 「そうですね。急いで準備を進めましょう」


 そうだ。早く進めよう。

 神州はもう完成し、建造物や各施設、インフラも整っている。今はそれら施設に大勢のかみさまが詰めて、式神に仕事を教えているようだ。


 「待った、しれっと会話に入ってくるな。あんた、かみさまか?」


 アクアラインを一望できる、神州の小高い丘地。一面に生えた芝生と、視界いっぱいの海のコントラストを満喫できる最高のロケーション。左隣には可愛い幼馴染、右隣には爽やかな顔の青年。年の頃は20前半に見える。いつからいたんだ。


 「おや、これは失敬。うっかり現界してしまったようです」

 「あーー!! トオルくんだー!」


 どうもどうもお久しぶりです、お元気そうで何よりです。などといった当り障りのない挨拶。おじさんがやろうものなら事案だが、この青年がやるとまるで映画のワンシーン。爽やかなイケメンと、美少女の組み合わせだ。ちょっと若かりし頃の自分の自信を取り戻してきていたのに、粉砕された。トオル君だかカオル君だか知らないが、他のかみさまと同じようにお面をつけていてくれ。

 見れば彼は俺達と同じ制服ではなく、真っ白なおべべを着ている。軍服を彷彿とさせるデザインのジャケットを着崩しており、ホストのように見えなくもない。装飾類は金一色で、非常にまぶしい。白と金に彩られた中に、さらにこれでもかと、長い金色の髪が映える。


 「ははは、これは手厳しい。そんなつれないことを仰らないでくださいよ。映太さん。私とあなたの仲じゃないですか」


 かみさま特有の、地の文に会話を挟んでくる超次元話術だ。というか、今日初めて会う相手に竹馬の友のような対応をされても困る。イケメンでも困る。女子高生ならまぁ、まんざらでもないのだが。


 「トオルくん、えーたからしたらアヤシイお兄さんだよ。だって会ったことないじゃん」

 「ふむ……?」


 顎に手を当てて考える"トオルくん"。風に流された長い後ろ髪。後頭部には金色のかんざしが光っていた。確かに、"人"ではない。そう思わせる凄みがあった。そんな彼は片手の平の上にぽん、ともう片手を下すと何か合点がいったように晴れやかな表情になった。


 「そうでした。映太さんとは初対面でしたね。いやぁ、失敬」などと笑いながら、すっくと立ちあがり、姿勢を正す。

 「お初にお目にかかりました。私、かみをやっておりますトオルと申します。担当は"寺島映太"。

 この道45年、"あなた"のプロフェッショナルです。

 私からすればあなたはまさに長年の友。お気軽に"トオル"とお呼びください」

 「え? 俺担当ってどういう意味?」

 「はい。そのままの意味です。私は45年の間、あなたを見守り、加護を与える。ただそれだけの日々を送っていました」

 「なんだそれ、キツくないか? ……いや、俺もキツい。見守るってなんだ? 物理的? 精神的?」

 「それはもう物理的に。ですので、あなたのことは全て知っています」

 「知っています」


 ドヤ顔で胸に手を当てるトオルと、その隣で同じポーズをしている時雨。あほのコンビだ。トオルは分かったが、お前はそこまで知らんだろ。──知ってるよ──。知ってるって? やめろ、人の地の文に入ってくるんじゃない!

 うひ、と気味悪く笑いながら俺の隣に座り直す時雨。トオルはあえて立ちっぱなしだった。風に髪をなびかせて佇む姿がキマっていて腹立たしい。


 「えーた。トオルくんはね、えーたの29年とはんぶんを見て、その様子をかみさま達に伝えてくれてたんだよ。だから、こんなに大勢のかみさま達が動いてくれてるんだ」

 「そうだったのか。どんな風に伝えてたんだ? レポート、とか?」

 「あっ、どうだったっけなぁ。忘れちゃったなぁ☆」

 「ああ、それはですね」


 言いづらそう~にしている時雨をよそに、トオルがさらっと答えた。


 「時雨さんの発案で、実況させていただいていたんですよ。全1048576パートにもおよびました」

 「へえ、そりゃ凄い。──待て、実況?」

 「はい。私、映太さんで生主(なまぬし)デビューしまして」

 

 なまぬし。生配信、つまり配信形式の動画を主な活動とする動画クリエイターの総称。母もそうだ。


 「おい、時雨」

 「なにかな、ダーリン」

 「……チッ」


 くそ、急にぐいぐい来るじゃねえか。ちょっと言及してやろうかと思ったけどそんな気も失せた。ああ、くそ、女子高生は可愛い。悔しいが可愛いのだ。そしてこの幼馴染はその頂点に立つ者なのだ。40を超えたおっさんに抗うことはできないのだ。年甲斐もなく赤面してしまった。


 「ははは」

 「笑うな。……実況の件はいいや。そのお陰でかみさま達が来てくれたんだろ。そこは感謝するよ」

 「そう言っていただけると、救われます。映太さんのそういうところが、私は好きですよ」

 「やめろ気色悪い」


 俺を見守ってくれてる存在、それはアホであっても多いほうがありがたい。実際、この二人が近くにいるのは不思議な安心感があった。


 「映太さん、今夜は神州の浮上記念日になります。"かみども"が準備を進めていますが、何か案をお出しになりますか?」


 "わたくしども"のように気軽に言っているが、非常に重い言葉だ。ヒトが発するには不敬な響きすぎて気後れする。かみどもって。


 「ああ考えてある。今から話に行くよ。……トオル、お前も来るよな」

 「もちろんですとも。これからも私はあなたと共に在ります」

 「ひゅー! ひゅー!」

 「うるっさい!」


 神州の浮上記念日。その式典の目玉は、この1アホだ。

 担ぐ神輿は、でかければでかいほどいい。幼馴染は、可愛ければ可愛いほどいい。

 "浮世離れした"という表現が似つかわしいこの最強にかわいい幼馴染は、担ぐにはぴったりなのだ。


 夕刻からが、本番。

 非日常は、夕暮れと共にやってくるものだから。

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