彼女いない歴=年齢+29年とはんぶん[そのに]
☆ブレイクスルー・スキル
かみさまの奇跡を目の当たりにしたわけじゃない俺は、とりあえず"マックスでどこまでやれるか"を見極めることにした。このバカみたいな展開を100%信じ切れるほど、俺も純粋ではなかった。いや、未来シミュレーションは別だ。まだ俺が30年分の白昼夢を見ていた可能性はある。
「とりあえず、国家が持つ権力とは別の一大権力が必要だ。"かみさま"の総意なわけだから、神の意志……神意による施策。これは法律や憲法、倫理観より優先して行えなくちゃいけない。
そのために、まず金を作ろう。この中で島とか作れるかみさま、いるか?」
めちゃくちゃな注文をしてみる。
すると、かみさまの中の一人がスルスルっと手を挙げた。ちょっと体格のいい男子かみさまで、たぬきのお面をつけている。
「え、マジか。どれくらいいける?」
「この島と同じくらいのサイズであれば、すぐに作れます」
国語の音読CDみたいな声だ。かみさまは皆同じキャラクター・ボイスで降臨しているのかもしれない。
この島、つまりうみ区のことだ。
うみ区は東京が町田市と同じくらいのサイズがあり、それってつまり70k㎡くらいで、ざっくりな計算で東京ドーム1500個分くらいだ。隣では時雨が「ミケちゃん1万匹ぶんくらいのサイズ……」と呟いているが、ミケちゃんはそんなに大きくないだろ。ミケちゃんというのは、寮に住んでいる猫だ。
「え、じゃあ頼む。東京湾アクアラインを隔てた南側に」
「できました」
「はやーい☆」
きゃっきゃとはしゃぐ時雨。狸面かみさまの近くにすすすいっと寄って、何か見せてもらってる。かみさまが持っているのは、長方形の水晶板で、何かが映し出されている。
「それ、今作った島?」
「はい。自信作です」
見れば、水晶板には上空からの俯瞰風景映像のようなものが映し出されている。本当に島ができている。国産みのかみさまか何かだったのだろうか。すごいぞかみさま!
東京湾アクアラインを境界として、東京湾に二つの島が浮かんでいる。北にはうみ区、南にはかみさまの手によって作り出された──
「なかうみ区! 形かわいいね~」
「それを言うなら"しもうみ区"じゃないか? うみ区の下だし。あと、区って付けると首都の配下みたいだから目的に反するな」
すげえ不満そうに「てやんでい」と呟く時雨。
「すみませんが、名前は決まっています。その島は神州です」
「あっ……はい」
さすがに産みの親が命名権を握っていた。国直しには、いい名前かもしれない。
と、俺が納得している横で、不満そうなのが一人。「やだ!」などと駄々をこねている。可愛いが、かみさま相手に駄々こねるなよ。何が不満なんだ、由緒正しき言葉じゃないか。
「えーと、じゃあこの神州を使ってちいさな"クニ"を作ろう。そこが俺達の拠点になる。神州はレジャー・アミューズメントを推進する観光都市である一方。"かみさま"が統治する神政国家だ。
ゆくゆくは、日本の国家運営・維持にかかる費用すべてを神州の収益で出せるようにしたい」
滅茶苦茶を言ってみる。
「私達で稼いで、国にあげちゃうの? 遊ぼう?」
「遊ばないよ。これから数年、十年も経たないうちにこの国では公的な出費のために命を投げ出す人が後を絶たなくなる。生きることや稼ぐことに、お金がかからない国にするための金だ」
「ほほーう。さすがに45歳は言うことが違うね。ナイスミド~ル」
「やめろ」
かみさま達のうち何人かが、手を挙げる。「はいそこー」と、時雨が勝手に指名していく。発言を聞き、かわいらしいメモ帳に書き込んでいく。「今日のごはんはカレー」。全然関係ないメモを取るな。
「神州の建築物は私が」
「労働力となる式神の確保は私が」
「祭事の企画運営は私が」
意欲あるかみさまが多い。さすがに国の行く末を憂いていたからか、熱意がすごい。単に今まで暇してただけかもしれないけど。
「よし、じゃあ今すぐやってくれ!」
これだけ無茶を通せる力があるなら、確実に未来は変えられる。
ざっくりなプランではなく、もっと綿密に作戦を練る必要がありそうだ。
俺が次の手を考える前に、かみさま達の「できました」の声。この国と違って、フットワークが軽い。最高だ。
こんなにわくわくする現国の授業ははじめてだった。
チャイムが鳴る前に、"神州"を見に行こう。