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伝説のVtuberの息子 ~ミラクル☆時間旅行~ [そのいち]

☆うさちゃんの夜 -Prologue/Tokyo Usa-chang Night!-


 この国を滅ぼしたものは、巨大なうさちゃん怪獣だった。

 スカイツリーを片手で振り回し暴れる、ピンク色をした"破壊"そのものが東京の街でやんちゃしている。


 目に眩しいショッキング・ピンク。長い耳。冗談みたいに細い手足。丸くてふわふわな尻尾。愛らしいお目目。その全長、実に600m。人知を超えたファンシー☆モンスター。それがうさちゃん怪獣。


 この国を蹂躙し尽くすのに、怪獣は一週間も必要としなかった。

 富士樹海に突如として現れたうさちゃん怪獣は鹿児島までスプリント。一直線に西日本を潰した。

 京都タワーを手にしたうさちゃん怪獣は沖縄を海に沈め、鹿児島を焼き払った。手にしたタワーが折れる頃、四国はもう火の海だった。

 東京タワーを引き抜いて北へ向かったうさちゃん怪獣は、三日かけて北日本を更地にし、ホップ・ステップ・ジャンピング。青森・山形・埼玉県。それらは可愛らしい足跡に変わった。

 全くもって効率の悪い、お遊びコースで全国を練り歩き、生き残った道府県を全滅させたうさちゃん怪獣は最後に、東京に戻ってきた。


 そして俺は、あと三分もすればうさちゃん怪獣に踏みつぶされるであろう高層ビルの屋上にいる。

 

 「自殺、するつもりだったんだけどな……」


 この国は終わってるし、何なら本当にもう終わる。

 最後まで上手くいかない人生だ。人生って難しい。

 寺島映太(てらしまえいた)、享年推定45歳。


 ああ、友人は皆元気かな。いや、ほとんどもう死んでいたのだったか。会いたい。誰でもいいから最後に話して、人生楽しかったねスペシャル特番をやりたい。今の俺のとりとめない脳内では走馬燈なんぞ過る暇もないだろう。欲望がだだ漏れていく。ああ、ピザ食いたい、友達と卓を囲んでゲームをしたい、女子高生と話したい、代官山のカフェでジャズ・ソングでも聞きながら……


 「ああ、生きてえ」

 「延長したい?」


 馬鹿野郎、そんなわけあるか。俺はここに自殺しに来たんだ。

 うさちゃん怪獣が現れなければ俺は今頃、眼窩の下のコンクリートに潰されてスイカ・ジュースよろしくな液体になっていたはずだ。そもそも人生ってのはフリータイムだろ、閉店まで居座るも途中で帰るも俺個人が決めることであって──


 「は?」

 「だから、延長したいの?」


 俺の背には格子がある。

 その先には何がある? ビルの屋上スペースと青い空、それに制服を着た女の子。


 延長? しないよ。もう、こんな人生は"しまい"にしよう。


 「いや、もう終わりにするよ」


 そう答えると、彼女はあっけらかんとした表情で微笑んだ。なぜだかやけに、懐かしい笑顔だった。

 「そっか」と彼女は言った。

 

 「お疲れ様。じゃあこれで、29年とはんぶんの寺島☆映太未来シミュレーションを終了するね」


 待て、いい歳したオッサンの名前にファンシーな記号を入れるな。

 というか、お前は……。





☆******************☆





 「──と、こんな感じの未来が訪れるけど、どうする?」

 「はっ!?」


 咄嗟に身構える。ここはどこだ、俺は誰だ、寺島映太(45)だ。そう、俺は寺島映太。都内で私立探偵をやっている。この世知辛い世の中、真に助けを求めるどん底のやつらに手を貸してこの道20余年。裏社会では知る人ぞ知る名探偵とはこの俺のことだった。


 「まーだシミュレーション抜けしてないか。君は寺島映太(16)だよ」


 目の前には先ほどの女の子。あれ? こいつはそんな他人行儀なやつじゃなくて、俺の幼馴染だった。何が起きているのか分からないが、記憶がどうも薄く濁っている。俺は今何をしていたんだ?


 「って顔してるね」

 「人の思考に会話を差し込む超次元話術をやめろ」


 彼女は、そう。幼馴染の樋上時雨(ひのうえ しぐ)だ。ほの薄い桃色の癖っ毛が特徴の元気な女。地球人離れの端麗な容姿でありながら何故か親しみやすいその造形は、まさに宇宙的。生まれたときのボーナス・ポイントをAPP(容姿)に極振りしたであろう存在で、頭が弱いのが玉に瑕だ。まだ真新しい都立大暮高等学校のブレザー制服がよく似合っており、目立つことこの上ない。


 「で、どうだった? 未来」


 最悪だ。ああ最悪だ。思うさま星ひとつのレビューを複数アカウントで叩きつけてやりたくなるくらいに、それはもう滅茶苦茶に、最悪だった。そんな未来のラストを迎えたにかかわらず往生際悪い事この上ない。なんで俺はここにいるんだ。なんで高校制服を着ているんだ。なんで声が若いんだ。なんで女子高生の制服は可愛いんだ。なんで在学中にヒトはそれに気づけないんだ! なんで、なんで──

 そんな思いを込めた、生涯最高に苦々しい表情で返答とした。


 「オーウ」


 外国人ドキュメンタラーみたいな反応された。

 俺が疑問をひとつ「あのさ」と口にすれば彼女は「うん」と返す。寺島映太(45)が失っていた青春だった。


 「シミュレーション、って?」

 「えーたの人生、30年分お試しでやってもらったんじゃん。忘れた?」

 「忘れたよそんなの。え、てことはやっぱりここ、現実?」

 

 にへら、と小気味よく笑って、彼女がひとこと「そうだよ」と答えた。

 青い空がまぶしい今日、平成30年4月16日。

 

 「おかえり、えーた」


 俺、30年ぶりに高校生をはじめます。

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