最強勇者一行が現われた!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
「なんであんたたちまでついて来るんだい!」
「好奇心って、誰にでもあるでしょ?」
アイリーンが言うとエイン達はこくこくと頷く。新しい従業員の情報を小耳に挟んだ彼らは新入りのいるロッカールームまで足を運んだ。するとそこには、生真面目そうな騎士と、ひらひらしたドレスに黄金の冠を被った王女らしき女性、厚めの辞書のような書物を携えたあどけなさの残る少年、まるでどこかのカーニバルにでも出場するのかというような衣装の女性、ポンチョを身に纏った小太りの中年男性が周囲を見回しながら混乱している。
「シルヴァ様、怪我は御座いませんか」
「ええ、大丈夫よピアズ。でもここはどこかしら。ディオウスを倒したは良いものの、崩れるダンジョンから抜け出せずに死んでしまったはず……」
シルヴァと呼ばれた女性にエイン達は驚いた。それはアイリーンに聖剣シルヴァラールを授けた正真正銘の王女だったからである。彼らの存在に気づいたのか、シルヴァはエイン達に近づくと、
「貴方達は何をなさっているのですか。その服装は民族衣装かしら?」
と尋ねてきた。エイン達を警戒するようにピアズがシルヴァの横に立つ。
「ねぇ、エリッサ。さっきからガタゴトいってるのなーに? 気になるんですけど」
「コーリン。ちょっとは落ち着きな。今王女とピアズが調べてくれてるだろ?」
周囲をキョロキョロしながら興味津々な顔をして言うコーリンという少年。口調や仕草に同じような空気を感じた彼を見てシャロンはこれからの自分の立ち位置に危機感を感じた。エインはエリッサと呼ばれたセクシーな女性に鼻の下を伸ばしていたところをアイリーンに引っ叩かれる。見かねたリンリンがシルヴァ達にひとしきり説明をした。
「私は良いのですが、シルヴァ様にそのような労働は……」
「楽しそうだわ。ピアズ、コーリン、エリッサ、それにアヴァロも。一緒にコロッケというものを作りましょう」
シルヴァは両手を合わせて眼を輝かせながら言う。
「名も知らぬコロッケ。第二の人生に私は花を咲かせてみせよう」
アヴァロと呼ばれた中年男性は突然小さなハープを具現化させ謎の歌を詠い出した。すると彼の周囲に虹色の花がポンポンッと出現しては霧の様に消えてった。顔には出さないがおそらく喜んでいるのであろう。エイン達が彼らにレベルを尋ねると、全員999であると答えた。ピアズは騎士。シルヴァは人形師。コーリンは召喚士。エリッサはセクシー・ダンサー。アヴァロは吟遊詩人といったパーティらしい。あっちの世界では世界最強のパーティと呼ばれていたが、決定的な弱点がある。それは地図が読めないことであった。彼らがここまで強くなったのも世界中を迷いに迷いまくって数多の魔物を倒してきたからである。それを聞いてアイリーンは馬鹿にしたように
「さすが世間知らずの王女様。一度来た道を覚えられずに死んじゃうなんて間抜けね」
とケラケラ笑った。
「貴様! シルヴァ様になんて口を……!」
「いいわ、ピアズ。最強の武器、聖剣シルヴァラールを授けてもディオウスを倒せなかった者達の言うことなど聞き流せばよいのです」
ピリッとした空気が流れた。それを壊したのがリンリンである。
「さぁ、早く作業着に着替えな! 天国では、上も下もないよ! 美味しい冷凍コロッケを作ること。それがあんたたちの役目なんだから!」
睨み合いは終わり、最強勇者一行はそれぞれ作業着を着て、命じられた持ち場に着いた。
「波瀾が起こりそうだな……」
ぺディシオンが溜息をつきながら芽取り作業室に戻っていく。
「なんだか賑やかになったわね、シャーロ」
「……そうだね。姉さん……」
呑気にシャロンに語りかけるシャルロット。しかし彼の心の中にはコーリンに対する敵対心が渦巻いていた。天国で一番可愛がられる存在にならなければ。そういう気持ちだったのである。
「私たちも持ち場に戻りましょ、エイン」
「うん。そうだね」
その頃魔王ディオウスはトイレットペーパーの紙が切れている事に気づき、絶望の中にいた。