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優しさは雑巾の味

※この物語はフィクションです。

 絶対に真似しないでね!

 ――30分後。


 休憩時間になったエイン達は、こそっとクレーム処理室の扉を少し開けて魔王ディオウスの様子を窺う。彼はブツブツ泣きごとを言いながら壁に何度も頭を打ち付けていた。その間もひっきりなしに鳴り続ける4台の電話の音。相当病んでいるようである。


「しょうがない。お茶でもいれてあげましょうか」


 アイリーンが側にあったボロボロの雑巾を手にしながらニコッと笑って言った。それに加えてシャロンがある事を思いつく。お茶の中に砕いた下剤を混ぜて、シャルロットの魔法でクレーム処理室の扉を封じるというものだ。どうなるかは想像どうりである。シャロンは魔王ディオウスが個室に連れて行かれたときからこの嫌がらせを思いついていたようで、便秘気味のおばちゃんから下剤を貰っていた。


「頭がいいわね。シャーロ」


 シャルロットがシャロンの頭をなでる。無邪気な顔をして微笑む彼の姿はまるで天使のようである。ぺディシオンは、「魔王を裏切ってよかった……」と小さく呟いた。彼はもともと魔王ディオウスの配下にいた者なのである。一日一個の羊羹ようかんしか与えられなかったぺディシオンはエイン達と出会い、人生ではじめて食べた塩おにぎりに感動し、彼らの仲間になることを決意したのだ。


 作戦実行。


「ディオウス、疲れたでしょう? お茶いれたから飲みなさい」


 アイリーンが彼の作業机に雑巾の絞り汁とぺディシオンの爪で細かく砕いた下剤入りのお茶をコトッと置く。ボロッと崩れる壁。魔王ディオウスが振り向くと彼のひたいは血だらけであった。鳴り止まない電話。終わらないクレーム処理。極度のストレスの中で彼女の笑顔は彼にとって唯一の癒しである。


「我に優しくしてくれるのか……あぁ、温かい茶だ。ありがたく頂かせてもらうぞ」


「じゃあーね~♪」


 クレーム処理室の扉が閉じられた。それと同時にシャルロットが扉に封印の魔法をかける。しばらくして……


「うぉおおおお! 開けろおおおお」


 魔王ディオウスの必死な声と扉をドンドンと忙しく叩く音が聴こえてきた。アイリーンとシャロンは予想通りの反応に涙が出るほど笑っている。シャルロットは自分達で考えた作戦であるのに、「あらまぁ、お気の毒」と口に手を添えていた。封印の魔法を解くという発想は無い様だ。ぺディシオンは少しだけ魔王ディオウスに同情している。


「これが絆の力だ。思い知ったか! ディオウス!」


「あんたは何もしてないでしょ、エイン」


 そういえばそうだ、ということで彼も何か出来ることはないか考えてみた。しかし何も思いつかない。考えている間も魔王ディオウスのピンチは続いている。そこでエインは自分が騙されたように、希望から絶望を与えようと思いついた。


(全てのトイレを封印してから扉を開放しよう)


 ひそひそ話しで彼が提案するとアイリーンが、「好きだわ、そういうの」と、エインを満面の笑みで褒める。彼は顔を真っ赤にして頭に手をやった。


「開・け・ろ! 開・け・ろ!!」


 魔王ディオウスが便意と腹痛に闘っている間に彼らは全てのトイレを封印する。そしてクレーム処理室の扉を開放すると勢いよく魔王ディオウスが飛び出してきてトイレ目掛けて全速力で走っていった。全て使用不可だということも知らずに……


「……うわ、戻ってきた!」


 エインがお腹とお尻を押さえながら走って来る魔王ディオウスを指差す。彼らは魔王ディオウスから逃げるように施設内を走り回った。


「トイレを解放せよ! さもなければ、お前らも道連れだ!」


「じゃあまず謝ってよ、私たちを殺したこと。あとホント寄ってこないで!」


 アイリーンがそう言うと念仏のように「すまなかった」と連呼する魔王ディオウス。限界は近いようだ。悪戯はここまでにしてトイレを解放しなければ、自分達まで汚れてしまう。そう思ったエイン達はシャルロットに魔法を解除するように言った。


 トイレは解放された。

 魔王ディオウスの瞳は輝いていた。


 そうこうしている間にエイン達の休憩時間が終わる。彼らは各々の持ち場について何事も無かったかのように黙々と冷凍コロッケを製造していた。


(魔王、便意に敗れたり)


 エインとアイリーンは互いをチラッと見ると、ニコッと微笑む。リンリンがそんな二人を呆れた目で見ていたら、()()()()()()の情報を耳にした。今度はどのような人物なのだろうか。

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