ばいばい、ディオウス!
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――早朝4時。
エインたちは大量の冷凍コロッケが入った袋を持ったシュンシュンを連れて地獄の入り口である魔方陣の前に立っている。ダンダバ社長は彼らの作戦を聴いてから高級車で社長室へと向かって走っていった。
「それではよろしいでしょうか、シュンシュンさん」
「ああ、任せるよ」
シャルロットが「ミニマル」の魔法をシュンシュンにかける。彼女の持っている冷凍コロッケも魔昌球体の中に収まった。それをアヴァロが懐に入れる。これで戦闘状態になってもシュンシュンを危険に晒すことは無い。エインたちはお互い顔を見合わせて魔方陣の中へと入っていった。
やはり地獄は赤い霧が邪魔で見通しが悪い。いつどこから魔物が現われるか分からないという緊張の中で慎重に行動するエインたち。早速出現したのは耳の無いダウダウだったのである。耳が無いということは魔王ディオウスの特殊スキル「洗脳」は通じない。そう思いみんなが逃げることを選択したが魔王ディオウスは
「我は腐っても魔王。特殊スキル「洗脳」は目を合わせるだけでも効果はある。退くな。我を信じよ」
どこか自慢げにそう言った。幸い耳が聴こえていないダウダウは魔王ディオウスが何を言っているのか理解していない。エインたちは胡散臭いと思いながらも彼を信じる事にする。駄目なら逃げるだけだ。ダウダウはアイリーンの元へ向かって勢いよく足音を立てて走ってきた。そして武器を彼女に振り下ろす。それをエインが素早く双剣をクロスさせて受け止めた。どちらかというとエインが押されている。
「ボクの力じゃこいつは倒せない……! ピアズ、助けて!!」
「……仕方が無い」
カシャラカシャラと音を立てながらダウダウに近づき剣で一刀両断するピアズ。二つに分かれた身体をシルヴァが拘束して再生するまで待った。
「さぁ、俺はもっともっと強くなったぞ! 勝負だ!!」
(ダウダウよ。我達の僕になれ)
魔王ディオウスの特殊スキル「洗脳」はダウダウの瞳を通じて効果を発揮したようである。攻撃的であった彼は急に大人しくなりシルヴァの拘束糸に繋がれながらある方向を目指して歩いていった。
しばらく歩いていると以前のルンルンのように心を失った天使たちの姿も見受けられる。そんな先にあったのが赤い霧に似つかわしくない光沢のある高いビルであった。
「ディオウス様。ここがヘルグループ本社でございます」
「ご苦労。貴様はここで待っていろ」
久々に魔王らしいことができて喜びを感じている魔王ディオウス。そんな彼を置いてヘルグループ本社へと入っていったエインたち。中にはワンワン社長の肖像画が沢山飾られている。魔物一匹見当たらない。とにかくエレベーターを使って最上階へと向かった。だいたい偉い人は高いところにいる。そんなものではないか。その勘は当たっていた。エレベーターの扉が開くと沢山のモニターのある部屋が見える。そこにはワンワン社長が「待っていた」と言うような顔で立っていたのである。
「モニターがあるのなら迎えに来たらいいじゃない!」
アイリーンが文句をいうとワンワン社長は「すまん」とだけ謝り冷凍コロッケを要求してきた。ここに来るまでに約二時間弱は経っている。早く冷凍しなくては冷凍コロッケの味や効果が落ちてしまうからだ。シャルロットは「ミニマル」の魔法を解除しシュンシュンと彼女の持っている冷凍コロッケを等身大に戻す。少しだけ溶けかかっていたがまだカチコチのままであった。
「大丈夫かい」
エリッサが首をバキバキ鳴らしているシュンシュンに尋ねる。長時間大量の冷凍コロッケを持っていたのだから疲れるのは当然だ。しかし彼女は
「元気と陽気だけが取り得の私に何言ってんの! 大丈夫よ!」
と腕を組んで大きな声で笑う。とにかくこれで冷凍コロッケを渡すことはできた。あとはヘヴンズフーズとヘルグループ間での冷凍コロッケ取引契約書にサインをしてもらうだけである。
「そこで一つ頼みがあるんだが」
ワンワン社長は一つの提案をした。それは魔王ディオウスをヘルグループの社員にして欲しいというものである。
「どうぞどうぞ」
魔王ディオウス以外全員がそう応えた。かなりのショックを感じた彼であるが地獄は魔王ディオウスにとっては住みよい所でもある。誰にも適材適所はあるものだ。彼はそれを受け入れたのである。その時モニターにダンダバ社長が映った。エインは「桔梗の花」が安定して仕入れられることも説明してダンダバ社長に見守られながらワンワン社長に取引契約書へサインをしてもらった。
「ばいばーいディオウス♪」
そう言いながらワンワン社長の笛の音で天国へと戻るエインたち。残された魔王ディオウス。実は彼には大きな役目があるのだがそれはエインたちが天国に帰ってしばらくしてから分かる事になるだろう。一先ず魔王ディオウスとはここでお別れだ。誰も悲しんでいないが……




