こ、混浴ですか!?
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
「長く見ないうちに老けたなぁ、テメェら」
ドワーフのカジはエインたちをまじまじと見る。アイリーンは不服そうに腕を組んで「心は16歳よ!」と答えた。それを聞いて爆笑するドワーフのカジ。老いてもどことなく面影がある彼女がどこか可笑しかったのである。仲間たちも120年ぶりの再会を嬉しく思っていた。しかし今の姿のままでは困る。仲間たちはエインたちが元に戻るアイテムが無いかドワーフのカジに尋ねた。
「さすがに時間を戻すこたぁできねぇよ」
「……ですわよね」
♪ホーホケキョッ!
みんなが途方に暮れていた時ウーがあるアイテムを見てひと鳴きする。それはスラムのこどもが作っていたオウムの玩具であった。器用なもので羽の質感や色彩などが細かく再現されている。さらにカラクリ式人形でねじを回せばしばらくの時間空を舞っていた。それを見たアイリーンとシルヴァはこの玩具をウーの友達にできないかと考える。その旨をスラムのこどもたちに尋ねると快くそれをアイリーンに渡してくれた。
♪ホーホケキョッ! ホケキョッ!
ウーは楽しそうにアイリーンの掌に飛び乗るとオウムの玩具に羽をこすりつけホケキョホケキョと鳴いている。アイリーンとシルヴァは事情を説明して再び桃源郷区域へと戻る事を告げた。大天使ミッシャエルに元の姿に戻してもらうためである。
「エイン……エイン! エーイーンッ!!」
アイリーンが耳元で呼びかけるとエインはゆっくり純白のホイッスルを取り出した。
「みなさん、私たちから離れてください」
シルヴァの言葉の通りその場からみんなが離れる。四人は背中を寄せ合いエインが純白のホイッスルを吹いた。ウーの鳴き声に似ている音が鳴ったかと思えば彼らは再び桃源郷区域に立っている。エインたちの目の前には大天使ミッシャエルがいた。
「約束は果たしました。私達を元の姿に戻してください」
シルヴァが言うと大天使ミッシャエルは少し意地悪そうな顔をして「いいのよー♪」と笑みを浮かべる。四人が案内されたのは「混浴」の露天風呂であった。
「そのお風呂に浸かると元に戻るのー、ごゆっくりー」
周囲の天使たちはニヤニヤしながらお風呂のルールを彼らに教える。エインはボーッとしたまま説明を聞いていたが三人は「とんでもない!」と渡されたバスタオルを床にぺちゃんと放り投げた。老いても恥はある。ピアズにいたっては
「騎士がシルヴァ様の素肌を見るなど……出来ません」
の一点張りであった。その言葉を聴いて大天使ミッシャエルは
「なら一人ずつ入ればいいだけなのにー」
と言う。確かにその通りだ。とりあえず「混浴」という見世物は免れたようである。それぞれ着物を剥ぎ取られて一人ずつ入浴した。深く刻まれていたしわやシミ等も元に戻っていく。脱衣所には本来の彼らの装備品が置かれていた。
「あー、気持ちよかったね」
「何を呑気に。お前がボケている間大変だったんだぞ」
エインとピアズが会話していると二人を呼ぶ声がしてくる。アイリーンとシルヴァだ。彼らは急いで装備品を身につけると脱衣所を出て彼女らと合流した。そこには若返った以前の姿のアイリーンとシルヴァがいる。お互いの姿を確認すると安心したようにホッと胸をなでおろす三人。エインは一人ぼやっとした顔でそんな彼らを不思議そうに見ていた。
「あなたたち面白いのー桔梗の花が欲しかったらまた来るのー」
「嫌よ。しわくちゃになるなんて」
「ウーが摘んでくるから老けないのー今日からあなたたちは御得意様なのー」
アイリーンの悪態をマイペースにかわす大天使ミッシャエル。どうやら今日からエインたちは「桔梗の花」が自由に入手できるようになったらしい。これでヘヴンズソルトの量産が可能になる。
「ありがとうございます。じゃあボクたちは一度天上街へと戻ります」
♪ホーホケキョッ!
エインが純白のホイッスルを吹くと同時にウーが見送りをするかのように鳴いた。四人はスラムドパークの「手作り工房カジ」の元へと戻っている。仲間たちはエインたちの姿を見ると安心したように120年分の話をし始めた。フォカッチャーズは服役を経て現在ボランティア団体を作っているのだとか。




