呼び込みディオウスの苦悩
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
120年経っても天上街の街並みはあまり変わっていない。エインたちが宿泊した事のある極楽ホテルも当時と同じ場所で営業している。ただ違うのは極楽ホテルの前にある看板に「スラムドパーク」という新たな地域が加わっていた事である。ダンダバ社長が高級車を駐車場に停めて「スラムドパーク」が出来た経緯を説明した。そんな時手持ち看板を持って呼び込みをしていた魔王ディオウスがエインたちを発見する。彼は四人がエインたちだとは知らずダンダバ社長が連れてきたお客さんだと思い彼らを呼び込もうと近づいてきた。
「時を忘れる夢の空間に揚げたてコロッケのいい香り。手作り工房カジの不思議なアイテムはどうですか~?」
「なんかへらへらしてて気持ち悪い!」
アイリーンが簪を外して魔王ディオウスの額にプスリと突き刺す。彼女がそれを引き抜くとピューッと勢いよく噴出す真っ赤な血。彼は額を押さえながら怯えた顔をした。
「その……桃色ばあさん。これも仕事なので……」
手持ち看板で顔を半分だけ隠して言う魔王ディオウス。彼は着物のことをコスプレだと思ったのか若干笑い気味で四人を見やる。いい歳をして……とでも言うかのように。それが伝わったのかシルヴァは目尻にしわを寄せてニコッと笑い
「お久しぶりですね、ディオウス。相変わらず空気が読めないのですか?」
と言った。歳をとってもどこか品のある雰囲気を感じ取った魔王ディオウスは彼女が王女シルヴァであることに気付く。
「じゃあこの桃色ばあさんは……」
「アイリーンよ。呼び込みしてるなら私たちをスラムドパークへ案内しなさい」
魔王ディオウスの言葉を遮るように言うアイリーン。彼女はさりげなく彼の足を草履で踏んでいた。どうやら「桃色ばあさん」という言い方が気に喰わないらしい。というよりも魔王ディオウスに馬鹿にされたことに腹が立っているようである。とはいってもお年寄りの攻撃。正直言って痛くも痒くも無かった。そんな様子をエインはじーっと鶯のウーと一緒に何も考えずに見ている。ピアズは未だにショックから立ち直れないでボソボソと自虐的な事を言い続けていた。
「ディオウス。とにかく彼らを無事にスラムドパークへ連れてってあげてくれ。それじゃ!」
ダンダバ社長はそう言うと駐車場から高級車を出してヘヴンズフーズの冷凍コロッケ製造所の方へと走っていく。アイリーンとシルヴァは当時とあまり変わらない口調で思考もハッキリしていた。問題はエインとピアズである。エインは耳が遠くなり中途半端に認知症になっていた。ピアズは重度のうつ状態である。魔王ディオウスは爪が鋭い。無理やり連れて行こうとすると皮が剥がれる可能性があった。
♪ホーホケキョッ!
ウーが何か言いたげにひと鳴きする。その鳴き声はエインにも聴こえたのか彼はやっと目の前の魔王ディオウスに気付いた。そして
「コロッケ作らなきゃ」
と唐突に言い出す。
「エイン。今から私たちはスラムドパークに行くのよ」
「スライムパーク?」
「ス・ラ・ム・ド!」
アイリーンとエインのやり取りを見ていた魔王ディオウスは
(ちっともその場から動いてくれない……)
と嘆きの涙を流していた。それでもなんとか人混みの中を掻き分けながら誰一人はぐれさせること無く「スラムドパーク」へと誘導していく魔王ディオウス。伊達に120年も呼び込みをしてきたわけではない。実際は場違いなので「追い出された」だけなのであるが……
いろんな人の楽しそうな声が聴こえてくる。繁華街は比較的大人が多かったが今度は反対にこどものキャッキャという甲高い声が多く聴こえてくるようになった。そしてやっと辿り着いた「スラムドパーク」。そこは幻想的で一瞬にして彼らの心を夢の空間へと誘う。「手作り工房カジ」は色彩豊かな外壁の大きなお店になっていた。その横には「ヘヴンズコロッケ・ゲン」という屋台が置かれている。そこから風に乗って出来立てのコロッケの香りが漂ってきた。辺りを見回してみるとコロッケだけでなくギョーザ、シュウマイ、から揚げ等の屋台もありまるでお祭り会場のようになっている。そこでせっせと働いている仲間たちの姿を見てアイリーンが走ろうとした瞬間……
――グキッ!
足を挫いてしまった。天使なのですぐに治るがそれを見て笑いが堪えられなくなった魔王ディオウスはガッハッハ! と大きく笑ってしまう。その声を聴いて仲間たちが彼の元へと近づいてきた。そしてエインたちを見ると不思議そうに
「この人たち誰ー?」
と尋ねるシャロン。魔王ディオウスが事情を話すと仲間たちは驚いた顔で四人を見る。
♪ホーホケキョッ!
沈黙の時間。周囲のガヤガヤとした音が消えてしまうような感覚を味わっている彼らはとにかくエインたちが元の姿に戻るアイテムが無いかドワーフのカジに尋ねる事にした。果たしてそのような都合の良いアイテムがあるのであろうか?




