老いても勇者……?
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――天上街へと戻ってきたエインたち。その景色を見て彼らは目を疑う。ヘヴンズフーズの冷凍コロッケ製造所は以前よりも大きな施設となり見た事もない機械たちが冷凍コロッケを作っていた。作業員も多くが入れ替わっており見かけない顔も多い。驚きに包まれている彼らを見つけたリンリンとシュンシュンはエインたちの元へとやってくる。
「その笛……もしかしてあんたたちエインたちかい!?」
リンリンが変わり果てたエインたちの姿を見てそう言った。彼らが頷くと彼女はゆっくりとエインたちを寮の食堂へと案内する。なぜ着物姿なのか。なぜ鶯を肩に乗せているのか。武器はどうしたのか。聴きたいことが山ほどあったからだ。エインたちは出されたウーロン茶をゆっくりと飲みながら事の全てを話す。
「ババアがもっとババアになるなんて傑作よねー」
「あら、貴方は下品なおばあさんになってしまいましたね。唯一の良い所がなくなってしまって残念」
ゆっくりと振り上げられるアイリーンとシルヴァの腕をシュンシュンが二人の骨が折れないように優しく掴んで止めた。これでは化け猫の喧嘩である。
「ところであなたたち、桔梗の花は?」
アイリーンとシルヴァの両手には「桔梗の花」は握られていなかった。耳が遠いのかぼーっと天井を見上げているエイン。その両手にはしっかりと青と白の「桔梗の花」がそれぞれ一輪ずつ握られている。リンリンがそれを受け取ろうとするもなかなか放してくれない。終始上の空な彼にリンリンは
「エインさーん! 手を放してー!!」
と大きく耳元で叫んだ。その様子はまるでおばちゃんがおじいちゃんを介護しているようである。ようやく伝わったのかエインは震える手で「桔梗の花」をリンリンに渡した。これで本物のヘヴンズソルトが造れるはずであるがこのままではさすがにまずい。リンリンは今の天上街は彼らが桃源郷区域へ行って120年後である事やエインたちの仲間が「スラムドパーク」に居る事も告げる。
「今ダンダバ社長を呼んでくるよ! あとは適当に対応しておいてね!」
「あっ……あんた、逃げたね!?」
シュンシュンが席を立ち食堂から出て行った。残されるリンリンとお年寄り四人。彼女は全く話さないピアズに声をかけてみる。すると彼は
「この身体ではシルヴァ様を守ることが出来ない……役目のない騎士など死んでいるのと同じだ……」
「……あんた、一度死んでる事忘れてるだろ」
そんなこんなで二時間ほどの時間が経った。食堂にコツコツと小さな足音が響く。姿を現したのはダンダバ社長であった。シュンシュンは持ち場へ戻ったらしい。リンリンの手にしている「桔梗の花」を目にすると彼はサングラスを外して懐に入れ彼女の元へ行って事情を聴く。
「しばらく見ないうちにシワシワになったね。ミッションご苦労様。君たちの仲間たちのおかげでヘヴンズフーズのコロッケが繁盛してね。これでようやく地獄も元通りになるよ」
ダンダバ社長がエインたちにそう言った。彼らはそれを疑問に思う。繁盛しているのならわざわざ本物のヘヴンズソルトを作る必要などないではないか。それになぜ「地獄」という言葉が出てきたのか。その疑問にダンダバ社長は答えた。
「本物のヘヴンズソルトには「心」を穏やかにする作用があるんだ。今の冷凍コロッケの他に、君たちが遭遇したヘルグループの社員たち専用の冷凍コロッケも製造していたんだけど、本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳がなくなってから製造がストップしていたんだ。そのせいで地獄は荒れ放題。ヘルグループの社員は「心」を天使を殺すことで満たす化け物となってしまったんだよ。本来はお説教をして再び天上街へと戻すのが彼らの仕事なのだけどね」
「……ねぇ、何て言ってるの?」
アイリーンがシルヴァに尋ねる。どうやら長すぎて内容が頭に入ってこないらしい。シルヴァはマイペースにウーロン茶を飲んでいた。エインは話すら聴いていない。老けたことにショックでいたピアズはそれどころではなかった。そんな彼らを見てダンダバ社長は「はぁ」と溜息をつく。
「とりあえず仲間たちに会わせてあげるよ。120年ぶりの再会だ。きっと喜んでくれるだろう」
そう言うとダンダバ社長はエインたちを寮の外へ誘導した。ペンギンのようによちよち歩く姿はどこか微笑ましい。ダンダバ社長は高級車に彼らを乗せて「スラムドパーク」へと向かう。今の彼らの姿を見て仲間たちはどう思うであろうか。エインは仲間の顔が思い出せないでいた。
♪ホーホケキョッ!
エインの肩に乗っていたウーの心地よい鳴き声がする。果たして彼らは元に戻るためのミッションをクリアできるのであろうか。不安な気持ちで見送るリンリンであった。




