優秀な仲間たち
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
とりあえずスラム街がどうなっているのかを見に来た一行。シャルロットの特殊スキル「術式修繕」で街自体は大分綺麗になっているが閑散としている。その中央に「手作り工房カジ」という手作り感満載の質素な建物があった。そこにはトントンと工作しているスラムのこどもたちの姿がある。
「ボーッとしてたらスられちまうよ」
いつの間にかフォカッチャーズの三人組に背後を取られていた一行。さすが元窃盗集団だ。彼女たちなりの挨拶を済ませると話は手紙の内容に移る。マカロを見つけたこどもたちは一目散に彼のところへ寄っていき「メリーゴーランド」を要求してきた。一行の存在に気付いたドワーフのカジもフォカッチャーズたちと混ざりお互いにアイデアを捻り出す。
「街の壁や地面に色を塗るとかどうだ」
「うん、いい。それなら僕の特殊スキル「夢の空間」が役に立つよ♪」
ぺディシオンの提案を聴いたコーリンが手に持っていた本を開いてなにやら詠唱を始めた。それが終わると本の中から精霊や聖獣などが一斉に飛び出してきてまるで夢でしか見たことのない色を街全体に施していく。大きな白馬や孔雀の紋章なども浮かび上がってきた。このスキルは相手をその空間に誘い魅了し時間を忘れさせるという効果を持つ。
「……きれい」
「でしょ、シャーロ君」
「……うん……」
認めたくないがこの空間にいるとなんだかワクワクしてきたシャロンは自慢げなコーリンの言葉を受け入れた。しかし天上街から少し離れた所にある「スラムドパーク」に誰が気付いてくれるだろうか。こんなに素晴らしい空間であるのに彼ら以外居ないのは寂しい。
「宣伝のためにビラを作ったんだけど、これが全然効果なくてね……」
山済みのビラを運んでくるユンユン。そこには「手作り工房カジ」が移転したことを宣伝する内容がびっしり書かれている。それにしても字が汚い。内容も何が言いたいのかわからない。これではゴミ箱の量が増えるばかりだ。
「シャーロ、あなたの特殊スキル「思い知れ矢」を使ってみてはどうかしら?」
「いい考えだね。姉さん!」
シャルロットが言うとシャロンは矢にビラを一枚括りつけてそれを弓の弦につがえて上空に高く射る。すると天から黄色い光が雨のように降り注ぎ「スラムドパーク」を明るく照らした。急に現われた光に釣られて天使たちが
「何事だ」
と言いながらやってくる。このスキルは離れた複数の獲物を引き寄せ仲間たちに攻撃させる時に使うのであるがこういう使い方もできるのだ。天使が来ればこっちの物。ぺディシオンは余ったビラを爪で切り裂き紙吹雪を作って飛ばしている。エリッサは得意のダンスでその場を盛り上げていた。マカロはスラムのこどもたちと楽しそうに遊んでいる。フォカッチャーズの三人組は変装をして「手作り工房カジ」の売り子をしていた。そこに響く二胡の雅な音。
「ディオウスは何かしないの?」
シャロンとコーリンが何もしようとしない魔王ディオウスをジトッと睨む。このままではまずい。そう思った彼は自身の持っている特殊スキル「洗脳」を使って近づいてきた数人の天使たちに「手作り工房カジ」の広報をするようにと命令した。そんなこんなで「スラムドパーク」作戦は成功したのである。そこに一人の気の弱そうな天使が現われた。一行が威勢よく呼び込みをすると彼は土下座をして
「オイラを雇ってくだせぇ!」
と言ってきたのである。目には涙を浮かべていた。服装もボロボロである。事情を聴いてみるとエインたちと一緒に壊したゲキヤスフーズが倒産したのと同時に、そこのコロッケを販売していた屋台も潰れたのだそうだ。これは責任が重い。そこで彼らはダンダバ社長の言葉を思い出す。彼は「コロッケ屋さんも作って欲しい」と言っていた。
「あの……ヘヴンズフーズでよろしければ契約を結んで屋台を出しませんか?」
「良いんです、手に職さえあれば……! オイラにはコロッケしかありやせん!」
シャルロットの手を掴む彼の名前を尋ねるシャロン。
「ゲンゲンです。よろしくお願いします」
「ゲンゲンさーん手を離してー」
名前を知るや否やシャルロットに近づきゲンゲンの手を叩くシャロン。とりあえずこれで「スラムドパーク」の基礎は出来そうである。エインたちが帰ってきた時にはどんな街になっているか楽しみだ。




