命名「スラムドパーク」
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――エインたちが桃源郷区域に派遣されてから約3年。冷凍コロッケ製造所に一通の手紙が届いたのである。差出人の名前がない事に不信感を抱いたダンダバ社長はエインたちを除いた作業員全員をロッカールームに呼び手紙の内容をその場で読んだ。
「手作り工房カジ、移転完了しました。しかし客が全くやってきません。何かいい方法はないでしょうか……」
それはフォカッチャーズたちからの手紙だったのである。現在エインたちが不在なので魔王ディオウスがみんなの先頭に立って案を集めようとするが……
「ねぇ! 長期休暇を貰って客引きしようよー!」
「良いね。派手にいこうじゃないか♪」
シャロンとエリッサが言い出すと他の者もそれぞれの持ち味を活かした客引きの方法を考え始めた。何がなんだか分からないといったダンダバ社長に一連の説明をするルンルン。魔王ディオウスは同情したおばちゃんたちから飴ちゃんを貰ってポロポロと泣いている。
「それにしてもさ、ピアズたち帰って来るの遅くない? もう3年だよ。花を摘んで帰って来るだけなのにこんなに時間かかる? もしかして僕たちほったらかして遊んでるんじゃないのー」
コーリンが冗談交じりに言うとダンダバ社長は
「少なくとも百歳は帰って来ないよ」
サラッとそう言った。
「百歳!?」
全員が驚いたような顔をする。ダンダバ社長はここで始めて桃源郷区域についての話をした。そこは時空の狭間に存在する幻の区域。そこへ行ったエインたち四人の時間と天上街に残った仲間たちとの時間は異なり、特に「桔梗の花」が在る「四季の花園」……基「百歳の楽園」は時間の進みが速くあっという間に百年が経過してしまうのだとか。
「どこかのお話のように姿形は代わってしまうのですか?」
シャルロットが心配そうに尋ねるとダンダバ社長は
「そうだね。おじいさんおばあさんになって帰って来るよ」
と言う。魔王ディオウス以外の仲間たちは全員抗議した。
「大丈夫。大天使ミッシャエルの気分次第で元に戻るよ。お詫びに無期限休暇をあげるから、ダンダバパスを使ってお店を繁盛させてよ。このダンダバ率いるヘヴンズフーズがスラム街復興を全面的に協力しよう」
「……こんな時、アイリーンがいれば「何を偉そうにっ!」って怒るんだろうなぁ」
「はは、言いそう言いそう」
「コーリン君、冗談で言ったんじゃないんだけど」
「あー……ごめん。シャーロ君」
シャロンとコーリンの気まずい空気を感じ取ったのかシャルロットは二人の頭を交互に撫でて宥める。彼女にも言いたいことはあったが行ってしまったからには仕方が無い。今の彼らにはエインたちと大天使ミッシャエルとやらを信じるしかなかった。
「……メリーゴーランド、俺は好きだ。スラムのこども達が言っていた。遊園地に行ってみたいと。その夢を叶える事を俺はやりたい」
マカロが沈黙を破る。
「じゃあ、まずは名前を決めない? 名前も無い地区なんて誰も近寄らないよ」
コーリンがマカロの話に乗った。エインたちが自分達に出来る事をしているのであれば残された者たちも出来る事をしなければ。それに困っている人たちを放って置けないのはエインやピアズと同じである。そんな彼らに惹かれて仲間になったのだから。
「スラム街だった所を遊園地のようにしたいのなら、スラムドパークなんてどうだ?」
ぺディシオンが提案をしたところ全員が賛成する。
「それでいいーディオウス!」
シャロンが気まぐれで魔王ディオウスに声をかけると彼は「……うん、なんでもいい」と滝のような涙を流して喜んでいた。
「近くにコロッケ屋さんも作ってくれると嬉しいよ。勿論ヘヴンズフーズのものを使ってね」
そう言うとダンダバ社長は一番財布の管理がしっかりしていそうなアヴァロに「ダンダバパス」を託すとロッカールームから出て行く。アヴァロは「ダンダバパス」を内ポケットに入れてある歌を詠った。
「みなの想い ひとつになるよう願う 我が心」
心地よいハープの音色が響く。演奏に合わせてエリッサがダンスを踊った。発動する特殊スキル「エール」。お互いを鼓舞しあう仲間たち。その音色や想いはエインたちにも届いているであろうか。




