立てば○○座れば○○歩く姿は○○の花
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
「お待たせなのー」
茶室から出てきた女の子は先ほどとは違って派手やかな紫の着物を着ている。縛っていた髪も解いていて背中まで伸びた金の髪がふわりと靡いた。周囲の景色もそうであるがこの女の子から漂う空気感も神聖なものである。只者ではない。エインたちはそう思った。
「私はピアズと申します。宜しければ貴方の名前をお教え頂けませんか」
「ミッシャエルなのー」
それを聴いて驚くエインたち。食堂でおばちゃんたちが言っていた「大天使ミッシャエル」がこんな小さな女の子だなんて……しかし思わぬ大物と出くわした彼らは自分たちがなぜ桃源郷区域にやって来たのかを説明した。そして「桔梗の花」の在りかを尋ねる。
「四季の花園に踏み入ることは許さないのー帰れなのー」
そう言うと大天使ミッシャエルはその場から風のように消え去ってしまった。なにやら視線を感じる。それは桃源郷区域の天使たちのものであった。
「どうやら簡単には入手できそうに無いですね」
「感じ悪~」
シルヴァとアイリーンが溜息を吐いて言う。
――ホーホケキョッ
エインたちの近くに栄えていた松の枝に一羽の鶯がとまっていた。鶯は首や羽をぶるぶる震わすと他の松へと飛び移る。そしてまた心地よい声で鳴いていた。その様子はまるでエインたちを導いているようである。どうせ手掛かりが無いのなら動物にでも頼ってみるか。そう思った彼らは鶯についていくことにした。
水の流れの心地よい音。苔の生えた岩の風情などを感じながら歩いているといつしか彼らは庭園から外れた柵のあるこれまた美しい花園を目にする。おそらく「桔梗の花」はこの中に在るのだろうが壊して入るわけにもいかない。柵の前で困り果てていたエインの頭上に鶯が乗っかかった。意外と食い込むと痛い爪。彼が掃うように鶯を叩くと鶯は柵の上に立ち彼らを見下ろしてひと鳴きする。そして花園の中へと入っていってしまった。
「ここに鍵穴があるようですね」
シルヴァが言うとエインは特殊スキル「ピッキング」を披露しよう……としたが
「うわああああ!!」
柵に電気が流れて感電するエイン。するとまた聞き覚えのある声がしてくる。
「郷に入れば郷に従えなのー」
次の瞬間数人の天使たちが四人を取り囲んだ。その手には着物が握られている。エインとピアズ、アイリーンとシルヴァはそれぞれ分かれた部屋に連れて行かれ無理矢理着物を着させられた。彼らは互いの華やかな姿を見て照れたように目線を逸らす。エインとピアズは黒い着物、アイリーンは桃色の着物、シルヴァは紅葉色の着物であった。彼女らの髪は結われており簪が飾られている。口には薄く紅が塗られていた。
「武器は預かっておくのー次は教養問題なのー」
大天使ミッシャエルはどこかで彼らを見ている。しかし彼女の言う事に従えば庭園の中に入れてもらえそうでもあった。ということでエインたちは教養問題とやらに挑むことにする。
「庭園に入りたいを尊敬語と謙譲語、丁寧語で答えるのー」
出された問題に安堵するピアズ。これならなんとかなりそうだ。そう思った瞬間アイリーンが
「入れ・入れろ・入れろください」
と答えてしまう。どこかからかブッブー! という不正解音が流れた。シルヴァが怒りに満ちた顔で彼女の頬をつねると悪気なさそうに手を開いて舌を出すアイリーン。
「じゃあ穴埋め問題なのー」
周囲の天使たちがわざわざご丁寧にパネルを持ってくる。そこにはこう書かれていた。
立てば○○座れば○○歩く姿は○○の花
「そこの男の人がそこの女の人に言うのー」
大天使ミッシャエルはわざとピアズを指名する。答えを知っている彼とシルヴァは恥ずかしそうな仕草をしていた。きょとんとした目でそんな彼らを見ているエインとアイリーン。
「……立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花……です」
「正解なのー」
赤面なシルヴァの頬をツンツンするアイリーン。ピンポーン! という正解音が流れると共に柵が地面に埋もれていく。入れてくれるということであろうか。いつの間にか周囲にいた天使たちはいなくなっていた。
「百歳の楽園へようこそなのー」
大天使ミッシャエルの言葉が響く。四人は「桔梗の花」を求めて柵を越え「四季の花園」へ入ってしまった。彼女の言葉が何を指すのか知りもしないで……




