カルチャーショックと謎の女の子
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
気がつくとエインたちは、寝殿造りの庭園の中にいる。まるで海のような池の中には七色の鱗を持つ鯉たちが優雅に水の流れを作って泳いでいた。朱色の橋を渡ったその奥には立派な松たちが手招きするかのように風も無いのに揺れている。そこを歩く天使たちはみんな和服を着ていた。ぼーっとそんな景色に見惚れているエインたちを見つけた天使たちは裾で手元を隠してひそひそ話をしている。その表情はどこかエインたちを警戒しているように見えた。このままではいけない。そう思ったエインは彼らに声をかける。
「あ、あの……はじめまして。ボク、エインといいます! ここに桔梗の花があると聞いて天上街から尋ねて参りました。えっと……そのぅ、いくつか摘ませてもらえることはできるでしょうか?」
「……」
エインの言葉は聴こえていたはずであるが天使たちはその場から離れていった。残された四人。とにかくわかったことは歓迎されていないということである。これではミッションをクリアできない。とりあえず辺りを散策することにしたエインたち。すると上空から幼い女の子の声がした。
「砂利を踏んで歩くのはマナー違反なのー石畳を歩くのー」
エインたちが見上げるとそこに天使は居らずただ淡いシャボン玉のような色が一面に広がっているだけである。不思議に思っていた彼らのもとにもう一度女の子の声が聴こえた。
「そこの茶室で待ってるのー」
声がした後二つの橋を隔てた先の立派な木造の建物がピカッと輝く。「来い」と言っているのであろうか。とにかく彼らは初めて目にする美しい光景に目移りしながら茶室らしき所へと向かった。エインが正面から入ろうとすると彼の額に向かって吹き矢が飛んでくる。麻痺効果があるのかエインは魚のように口をパクパクさせて痙攣していた。しばらくするとその効果は薄れてくる。するとまた女の子の声がした。
「武器を持って茶室に入るのはマナー違反なのーそして入り口はこっちなのー」
その後もゴタゴタしながらやっと茶室の中へ入れたエインたち。目の前に見えるのは絹のような金色の髪に緑の目をした幼い女の子の天使である。彼女は静かに茶をたてながらエインたちをチラッと見た。
「さすが天上街の天使は丈夫なのー私が吸血鬼なら死んでいるのー」
そう言うとクスクス笑う女の子。最初は意味が分からなかったが自身から漂うにんにく臭に気付いたエインたちはそれが嫌味だということに気づく。コトッと置かれる淹れたてのお茶。なぜ茶碗が一つだけしかないのか。疑問に思った彼らは尋ねた。
「回し飲みするのー知らないのー?」
それを聴いて耳が赤くなる四人。順番はエイン・アイリーン・シルヴァ・ピアズである。そんな彼らの様子を見てクスリと笑う女の子。
「大丈夫、茶室はいかがわしい所じゃないのー」
一式のルールを説明されたエインは茶碗をぎこちない手で持って茶を啜った。濃い抹茶の苦い味にエインは
(薬草みたいだ……)
と思いながら紙で茶碗の飲み口を拭いて2~3回軽くまわすとアイリーンの席にそれを置く。エインの飲んだお茶と同じ茶碗に口をつける。少し恥ずかしい。そう思いながらも彼女はピアズたちの茶が残るようにそれを啜った。そして同様にシルヴァも茶を飲む。問題は堅物のピアズだ。彼は一向に茶を飲もうとしない。
「私の淹れたお茶が飲めないのー?」
女の子は正座をしながら裾で手元を隠して口元にそれを当てて勘ぐるように言う……しばしの沈黙。その間添水のカタンという心地よい音が響いた。
「……申し訳ありません。シルヴァ様、頂きます……」
コクッと残った茶を飲み干すピアズ。彼の頬は真っ赤であった。それを見て
「りんごみたいなのー」
と小さな声で笑う女の子。流れで茶を飲んでしまったが目の前の彼女は何者なのか。エインたちが聴こうとすると
「茶室はお喋りする所じゃないのー外に出るのー」
と言って彼らを茶室から追い出す女の子。話をするには時間がかかるようである。エインたちは女の子が茶室から出てくるのを待った。




