桃源郷区域へ
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
――早朝4時頃。
地下の食堂へとみんなが集まる。エインを含め作業員たち全員が席に着き「いただきます」の挨拶をして食事を始めたところにダンダバ社長が現われた。緊張する空間。
「君たちに話がある。食べ終わったら寮の入り口に来てくれ」
「……また地獄逝きにするつもり?」
ダンダバ社長にアイリーンが眉を顰めて言うと彼は「うーん」と考えるように呟いて
「ある意味凄く綺麗だけど面倒くさいところへ行ってもらいたい」
と言う。会話がかみ合っていない。何がなんだか分からないエインたちは首を傾げた。そんな彼らの様子を見ておばちゃんたちはひそひそ話を始める。それはエインたちが地獄逝きになった時のものとは違いどこか楽しそうであった。
「とにかく、ゆっくりでもいいから食事を済ませたら来てくれ」
そう言うとダンダバ社長は食堂から出て行く。ミルクボーロを舌で転がしながら。それと同時におばちゃんたちが彼らに憶測の話を嬉々とした顔でしてきた。
「あんたら、きっと大天使ミッシャエル様のおられる桃源郷区域へ派遣されるんだよ。知ってるかい? あそこの天使たちはプライドが高くて礼儀正しく勤勉。街も美しいって噂さ。あ~行ってみたいねぇ」
おばちゃんたちが話に花を咲かせている。しかし彼らには心掛かりなことがあった。「手作り工房カジ」の移転が終わる日まで冷凍コロッケ製造所に残っていなければならない。でなくては約束破りになる。
「私が行きましょう。貴方たちはここに残りなさい」
「シルヴァ様が行かれるのなら私も参ります」
シルヴァとピアズがエインたちの前に立って言った。
「……どうする、エイン?」
「えっと……」
エインが悩みながら大盛りの炒飯をレンゲですくう。みんなの皿にゲキヤスフーズのコロッケは無かった。どうやら彼らがゲキヤスフーズの冷凍コロッケ製造所を破壊したことが原因らしい。レンゲからパラパラとこぼれる炒飯。
「とにかく食べてから寮に行きな」
リンリンがそう言って食器類を片付けて食堂から出ていく。シュンシュンとランランも少し遅れて出ていった。話しながらゆっくり食べていたはずのおばちゃんたちの炒飯もしっかり量が減っている。焦ったエインたちはかき込む様に炒飯を口に運び水で流し込むと
「ごちそうさま~!」
と言ってその場を去った。食堂のおばちゃんシンシンは
「もうちょっと味わって欲しかったねぇ。今日は隠し味ににんにく入れたのに……」
と少し寂しそうに呟く。彼女は割烹着をぎゅっと締めて食器を洗い始めた。
一方、エインたちは急いで寮の入り口まで走っていたのである。食べた直後に走るのは正直きつい。寮の入り口前にはダンダバ社長の高級車が停まっていた。彼はぺろぺろキャンディを舐めながら「おいで」とでも言うかのように空いた手で手招きをする。そしてエインたちが来るとダンダバ社長はヘルグループのワンワンと話していた内容を彼らに話した。
「全員で行くわけにはいきません。私とシルヴァ様二人で伺います」
「え~、私たちも行きたい。ね、エイン」
「え?」
ピアズに続いてアイリーンが言うとエインは間抜けな顔で応える。
「じゃあ、四人で行ってきてよ。あ、タクシーは使えないからね」
ダンダバ社長の言葉に「なんでよ~」と頬を膨らますアイリーン。そんな彼女を見て「君らしい反応だ」と笑うダンダバ社長。代わりに取り出したのは陶器のような純白のホイッスルだった。
「桃源郷は時空の狭間にある特殊な区域。このホイッスルを使ったら行き来できるよ」
「へぇ、どんな音がするんだろうね♪」
エリッサが興味あり気に純白のホイッスルを見つめる。
「四人以外は離れて。巻き込まれちゃうから」
ダンダバ社長がエインに純白のホイッスルを渡して言った。エインとアイリーン、ピアズとシルヴァの四人は肩を寄せ合う。みんなはその様子を遠くで見つめていた。エインが純白のホイッスルに口をつけて息を吐く。
♪ホォ~ホケキョッ!
どこかで聴いたような鳥のさえずりの音がすると共に四人は寮の入り口から姿を消した。




