「永遠の愛の誓い」
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
エインたちが冷凍コロッケ製造所へ帰ってきた頃にはもう日が沈みまん丸の月が顔を出している。それを見たぺディシオンは必然的に特殊スキル「遠吠え」を発動させた。それはスリープ状態の者を目覚めさせるという効果を持つがはっきり言って迷惑である。エインたちがそんな彼の口を塞ぎながら寮の入り口に向かうとリンリンとシュンシュン、ランランが寝巻きの姿で微笑みながら立っていた。
「おかえり。ほら、ワンコロ。金柑のど飴」
リンリンが金柑のど飴をぺディシオンの口にポイッと一粒入れる。すると彼は何事もなかったかのようにいつも通りクールに振る舞った。
「みんな起きちゃいましたよ」
ランランが言うと寮の中から眠っていた冷凍コロッケ製造所の作業員たちがわらわらと出てくる。それを見て申し訳なさそうに頭を下げるエインたち。暗闇の中から一台の車が彼らの元へ向かってくる音がした。月明かりに照らされたそれは真っ赤なキャンディのような光沢のあるダンダバ社長の高級車である。ダンダバ社長は車から降りて
「結構使ってくれたね……それで、ミッションは?」
エインがダンダバ社長に本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳を渡すと彼は月光を頼りに早速それを開いた。そして首を傾げる。
「塩化ナトリウム・グルタミン酸・昆布エキス……永遠の愛の誓い?」
ダンダバ社長は三つの成分の配合は共に現在使っているものと同じであると言っていた。最後の「永遠の愛の誓い」とは一体何なのか。彼は深く悩んでいる。
「あなたたちの熱い愛の告白だったりしてね!」
「えぇっ!?」
「なっ……!」
シュンシュンの言葉にエインとピアズがほぼ同時に反応した。恥ずかしそうにするアイリーンとシルヴァ。彼らは互いに視線を合わせては目線を逸らす。どこかぎこちない。みんなはニヤニヤしながらその光景を見ていた。
「この際だから告白しちゃいなよ、エインー」
「そうだよ、もう身分差なんて天国にはないんだからさ!」
シャロンとコーリンが交互に言う。公開告白。エインとピアズにとってそれは喉から心臓や内臓全てが出てきそうなぐらいに緊張するものであった。アイリーンとシルヴァも心臓がバクバクしているのを自分でも確認できるぐらいの状態である。
エインが深呼吸した。そして重い口を開きかけた瞬間……
――ハックショーンッ!!
鼻に埃が入った魔王ディオウスが壮大なくしゃみをした。興ざめである。告白のムードが壊れたエインとアイリーンは目が合うとクスクスと恥ずかしそうに笑った。ピアズとシルヴァは心の中で
(今回はディオウスが役に立った)
と思い胸を撫で下ろす。
「さぁ、明日の作業に備えて今日はもう寝るよ! あんたらの部屋はそのままにしてるから。こどもはとっとと寝な!」
「お母さんは私と同じ部屋よ」
リンリンとランランがそう言うと冷凍コロッケ製造所の作業員たちは寮の中へと入っていった。エインたちはそれぞれの部屋に入ってお風呂や歯磨きなどを済ませる。そして休日に起こった様々な事を話し合っていた。明日からまた冷凍コロッケ製造所での作業が始まる。話したい事は沢山あったがとにかく今は眠る事にしたエインたち。
一方、社長室でヘルグループのワンワン社長と密談していたダンダバ社長は「永遠の愛の誓い」について話していた。
「お前の所の先代の社長は隠語が好きだったからな。おそらくそのままの意味ではないだろう」
「うーん、永遠の愛ねぇ……さっぱりだよ」
ダンダバ社長は懐から花の模様が施されたぺろぺろキャンディの袋を取り出し何気なくそれを見つめている。すると彼は突然思いついたように
「花言葉……」
と呟き携帯電話で「永遠の愛」と検索した。すると「桔梗の花」がヒットする。
「永遠の愛の誓い、って事は桔梗の花が二輪必要って事か?」
「多分ね。でもこの花は桃源郷区域にしか咲かない珍しいものだから……」
「奴らに頼むか?」
「うーん……受けてくれるかなぁ」
そんな会話がなされていることなど知りもしないエインたちはぐっすりと眠っていた。地獄の次は桃源郷という区域へ派遣されそうになるエインたち。果たして目覚めた彼らは「桔梗の花を摘んで帰る」というミッションを受け入れるのか。




