カジの夢とスラム街の未来たち
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
「あそこかなぁ?」
エインたちはポップな外観をしているそこそこ大きめな雑貨店を見つける。人だかりが出来ているので看板を見るのに苦労した。そこには「手作り工房カジ」とたて看板に手書きで記されている。エインたちは長い行列に並びやっと入店した。
「いらっしゃい……おっ?」
茶褐色の肌に大きな手。ふさふさに伸びたあごもとの白い髭が特徴の背の低い男がエインたちを見るや否や気軽に挨拶をしてくる。そして魔王ディオウスの姿を見ると彼につばを吐いて「てやんでぃ!」と吐きすてた。どうやらドワーフのカジは彼らのことを憶えていてくれたようである。エインたちはここに来た理由を話した。
「スラムか……金の話は別にいいが、客が来るかって問題があらぁ。オレには夢があってねぇ。天国中にオレの技術を広めてぇんだ。だが天国の奴らにぁ志ってもんが微塵もねぇ。ものづくりの楽しさを知らないでいる奴らばかりでぃ」
それを聴いたエインは何でも珍しがるスラムのこどもたちの話をする。もし仮に彼らが手に職をつける事ができればドワーフのカジの夢もスラム街復興の約束も果たせるのではないか。そう思ったのだ。興味を持ったのかドワーフのカジはスラム街へ行ってみたいと言ってくる。彼はそこがどれほど寂れているのか知らない。そもそも貧困層や輩たちが多く住む街で店を出しても大丈夫なのであろうか。
「オレはテメェで見たモノしか信じねぇ。とにかく連れてけ」
「でも店は……」
エインが心配そうに尋ねると「でぇじょうぶだ!」と店の中にいる客にドワーフのカジは「臨時休業でぃ!」と大きな声で言った。少し不満そうに店外へ出て行く天使たち。店の中はエインたちだけになってしまった。ドワーフのカジが店のシャッターを閉める。そして彼らは再びユンユンたちのいるスラム街へと向かった。
「……こりゃあひでぇなぁ」
ボロボロの壁や謎の文字が沢山落書きされた歪んだ道に目を覆うドワーフのカジ。改めて見ると酷い有様である。シャルロットは特殊スキル「術式修繕」でそれらを時間をかけてもとあった姿に直していった。
「姉さん大丈夫?」
「ええ。でもだいぶ魔力を消費してしまいましたわ」
斜めに歪んでいた建物の入り口からフォカッチャーズやスラムのこどもたちが出てくる。彼らはキョロキョロしながら綺麗になったスラム街を不思議そうに眺めていた。
「あの子達がそうです」
ピアズがドワーフのカジに語りかける。好奇心旺盛なこどもたちなら「ものづくり」の楽しさに目覚めてくれるかもしれない。それにこの外観なら悪い輩も居り辛いであろうとエインたちは考えた。大きなマカロの存在に気付くとスラムのこどもたちは一斉に駆け出してくる。どうやら彼はこどもに好かれやすいようだ。
「ねぇ、ちっちゃいおじちゃんの持ってるそれなぁに?」
一人の男の子がドワーフのカジの持っていた小型の金槌を見て言う。その瞳は輝いていた。意外な言葉に気を良くしたのか彼は金槌を男の子に渡し
「使い方はいくらでもあらぁ! 重ぇだろ?」
と言って笑う。金槌の正しい使い方を知らない男の子はそれをブンブン振り回して楽しそうに遊んでいた。金槌は運悪くその場に居た魔王ディオウスの一番大事なところにヒットする。大声をあげて痛がる彼を見て大笑いするスラムのこどもたち。
「気に入った! ここに移転してやらぁ!」
「本当に良いのかい?」
ユンユンたちが申し訳なさそうに尋ねた。すると彼は
「良い者のところにゃ良い奴が来る。良い物のところにゃ良い客が来るってもんだ」
と腕を組んで持論を展開する。それを聴いたフォカッチャーズの三人は感嘆の声をあげた。
「ありがとうでやす!」
「感謝してるでやんすー!!」
タンタンとホンホンが大粒の涙を流して袖を濡らす。
「移転したらヘヴンズフーズまで連絡してきてよ。僕たちそこで待ってるから!」
コーリンが言うとフォカッチャーズの三人組は頷いて「ありがとう」とみんなに深々と頭を下げて言った。エインたちは一度冷凍コロッケ製造所へ戻ることにする。スラムのこどもたちが見送るのを背に彼らは綺麗になったスラム街から繁華街に出てヘヴンズフーズの冷凍コロッケ製造所へと戻った。ダンダバ社長の言っていた本物のヘヴンズソルトの製造方法を記した手帳を届けるために。




