ユンユンとの約束
※この物語はフィクションです。
絶対に真似しないでね!
ゲキヤスフーズの冷凍コロッケ製造所を散々壊しまくったエインたちは満足げに帰りのタクシーを拾って天上街へと戻る。彼らは昨日宿泊した極楽ホテルの前にある地図で「手作り工房カジ」という店を捜していた。
「あ、あの人たちフォカッチャーズじゃない!?」
視力の良いシャロンが人混みに紛れていたユンユンたちの姿を発見する。彼らは聖剣シルヴァラールを盗んでテンテンに売り払った不届き者。高額な取引をした三人にはスリをする必要など無いはずだがエインがスられた時と同じような手口でフォカッチャーズはスリを行っていた。エインたちが追いかけようとするも人混みの中を掻き分けて進むのは難しい。彼らはフォカッチャーズを見失ってしまう。
「どこへ行ってしまったのでしょう?」
シャルロットが頬に手を当て言った。彼女以外は概ね予想が付いていたのである。その場所とは……
「きっとあのスラム街だろう」
ぺディシオンが冷静に言った。獲物を得た猫が自分のテリトリーにそれらを並べるようにフォカッチャーズも天国のスラム街へ向かっていると考えられる。「手作り工房カジ」へ行く前に聖剣シルヴァラールの落とし前を付けにエインたちはユンユンたちのもとへと向かうことにした。スラム街への道はエインたちが憶えていたのでピアズたちはそのあとをついていくことにする。路地裏をしばらく歩いていると繁華街とは打って変わって薄暗い雰囲気の街並みが広がってきた。案の定フォカッチャーズの三人組はスラムのこどもたちに囲まれて獲物を見せびらかしていたのである。心なしかこどもたちの服装などが小奇麗に見えた。
「わーい! ユンユンお姉ちゃん大好き!」
「ふかふかのベッドではじめて寝たよ! 気持ちよかったー♪」
スラムのこどもたちはユンユンに向かってお礼の言葉や感謝の気持ちを述べている。エインたちはそんな彼女らを見て何が正しいのか分からなくなった。フォカッチャーズは自分たちだけでなくスラムのこどもたちの生活水準も上げている。しかしスられた方はいくらお金持ちでもショックであることには間違いない。それにどんな理由があってもアイリーンの大切な武器である聖剣シルヴァラールを盗んだ事は許しがたいことであった。そんな時である。
「大金が入ったそうじゃねぇか、オレにも分けてくれや」
「お前は……ノンノン!」
ユンユンが警戒したようにこどもたちを後ろに下がらせた。ノンノンと呼ばれた上半身裸の筋肉質のスキンヘッドの男はフォカッチャーズの三人組に近づき
「よこさねぇと痛ぇめにあうぞ」
と脅してくる。いくら脅されているのが窃盗集団といえどもこれは見過ごせない。正義感の強いエインとピアズは顔を見合わせて頷くとノンノンのもとへと向かって走る。二人の登場にフォカッチャーズの三人は驚いた様子でいた。
「何だ~てめえらは。もしかしてコイツらを庇う気か?」
「貴様に名乗るほど安い名ではない。即座に立ち去れ」
「そうだ! じゃないと痛い目みるぞぉ!」
ノンノンの質問に強気で答えるピアズとエイン。二人は武器を構え威嚇する。二対一となると不利になるのはノンノンだ。彼は「ちっ」と大きく舌打ちをしてその場を去る。様子を見ていたみんなもエインたちのもとへと駆け寄った。
「恩を着せたつもりかい……返さないよ」
ユンユンが目を伏せながら言う。スラム街ではこういった事がよくあるらしい。彼女が説明をしている間、マカロのもとにスラムのこどもたちが集まってきた。マカロは自慢の腕を使った「メリーゴーランド」で彼らの遊び相手をしている。そこにシャロンとコーリンも混ざった。その光景を微笑ましそうに見るシャルロットとエリッサ。魔王ディオウスは「怪獣ミカヅッキー」と呼ばれ小さな足で蹴られ続けている。そんな彼を見て浅く溜息をつくルンルン。アヴァロはそんな光景を静かに眺めていた。
「……思いついた!」
アイリーンがポンッと手を叩く。それは悪巧みを思いついた時の顔ではなくむしろその反対の表情をしていた。フォカッチャーズの三人はきょとんとしている。
「シャルロットの魔法でこの街を綺麗にして、新しい観光地にするのよ!」
それを聴いてユンユンたちは鼻で笑った。スリしか特技のない彼らにとって街を作ることは不可能である。そう思ったからだ。アイリーンは続けて言う。
「一億万天も持ってるなら技術者を誘致することぐらい簡単に違いないわ」
「……本気で言ってるのかい?」
ユンユンの言葉に自慢げに頷くアイリーン。彼女はドワーフのカジと話をしてスラム街に店を出してもらうことを考えていた。
「では、交渉をしに「手作り工房カジ」へ行きましょう」
シルヴァがそう言うとフォカッチャーズの三人組はアイリーンに聖剣シルヴァラールを盗んだことを謝ってきたのである。そして
「……あんたたちみたいな奴ら始めてみたよ。もし駄目だったとしても恨まないからね」
ユンユンはそう言うとスラムのこどもたちを呼んで今にも崩れ落ちそうな建物の中へと入っていった。そんな彼女たちを見てより一層何とかしてあげたいという使命感が芽生えたエインたちはスラム街を出て繁華街に出る。そして地図を頼りに「手作り工房カジ」へと向かった。




